颯HAYATE★我儘のべる

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雨が止まない 20



今日、このメープルホテルで結婚式がおこなわれる。

残念ながら・・・俺と牧野が結婚するわけじゃない。

結婚するのは、鷹野財閥の後継者となった鷹野煬介と大河原財閥令嬢、大河原滋。

つまり颯介の弟と俺の元妻であり元・・・親友。

鷹野家も大河原家もホテルを持っているのに、わざわざ道明寺のホテルで結婚する。

それは―――鷹野煬介の配慮でもあった。

元妻が元夫のホテルで結婚する。 嫌味とも取れるが、円満離婚したからこそ、とも思える。

おそらく、滋の気持ちも考えたのだろう。

立ち直った滋は自分のしたことを後悔し、俺や牧野に謝罪した。

俺は謝罪してもらう立場にはないが、その謝罪を受け入れ、俺も滋に謝罪した。

やっと俺も滋もお互いを冷静に見ることができるようになったのだと思う。

俺も滋も悪くない――――そして、俺も滋も悪いのだ。

結婚式は大財閥同士ということで盛大なものだった。

面識もないのに、自殺未遂をした滋を叱り飛ばし、立ち直らせた男。

やっぱり鷹野の男には敵わない・・・そう思った。






俺と牧野は適度にいい関係を保っている。

総二郎やあきらに言わせると「友達以上、恋人未満」らしい。

今、牧野は鷹野家の親族席に座っている。 俺はもちろん友人席。

この距離は短いようで・・・まだまだ遠い。

牧野の隣には1歳になった颯希(さつき)が可愛いピンクのドレスを着て座っている。

なんと言ってもまだ1歳を越えたばかり、おとなしく座っていられない。

俺や総二郎、あきら、類は暇さえあれば牧野の家を訪れている。

そのおかげで颯希も俺たちには懐いている。

席から振り返って、俺たちの姿を見つけた颯希は満面の笑みで何か言いながら手を振っている。

「あ~つぅちゃ、つぅちゃ。」

司という名前を呼ぶことのできない颯希は俺のことを「つぅちゃ」と呼ぶ。

いや、自分で「司」か「司ちゃん」とでも言っているつもりなのだろう。

総二郎は「しょ~」、あきらは「あ~た」、類は「う~」だし、人間の言葉ではない。

俺たちは顔を見合わせて、小さく手を振った。 すると、退屈していたのかイスを降りて俺たちの元へ来ようとしている。

慌てて牧野が立ち上がったが、タイミングが悪すぎだろ?

今、まさに二人は誓いのキスをしようとしていた・・・

「颯希! あぶないでしょ。 勝手に動いちゃダメよ!」

みんなが新郎新婦に注目し、静まりかえる式場の中に、場違いな女の大声。

総二郎は他人のふりで顔を背け、あきらは頭を抱え込む。

類は肩を揺らして笑っていた。 俺はといえば・・・立ち上がって、手を広げて待っていた。

颯希がゆっくりと俺に向かって歩いてくるのだから。





おぼつかない足取りで必死に俺に近づいてくる颯希はとても愛らしく、先ほどまで何事かと見ていた人も微笑みながら俺たちを見ていた。

母親である牧野だけが、あわてて抱えあげようとしていたが、それを義父である鷹野泉一が肩に手を置き、止めた。

「せっかく歩こうとしているんだ、歩かせてやりなさい。

ここは全然危なくないし、彼も随分と気をつけているようだよ。」

自分でも『これが俺なのか?』と疑いたくなるが、歩み寄ってくる子供に腕を広げ、

その子がこけたり、ぶつかったりしないように周りに細心の注意をはらい、待っているのだ。

人に言われたからではなく、自分の意思でそうしたいと思っているのだから、本当に信じられない。

1年前、俺は鷹野煬介に「アイツが愛しているものは、自分も愛せる自信がある」と豪語した。

だが、それがすべて本当ではないことには俺も煬介も気がついていた。

俺はアイツが愛した鷹野颯介を尊敬しているが、愛してはいない。

そういう面の感情で言えば、颯介に抱いている思いは嫉妬しかない。

だが、颯希は・・・無条件で愛せる存在なのだ。

この俺が牧野以外の女、家族以外の女を愛しているんだぞ。 まったく信じられない。

でも、なんだか少し誇らしかった。

まあ、まだ女ではなく、女の子とも言えないような・・・気もするが。

なにせ、下半身はオムツで膨れた身体だからな。 

ピンクのドレスからはみ出して見えるオムツまで可愛いと思ってしまう俺は異常かもしれない。

「さつき、頑張れ」

無意識に声に出して応援していた。 颯希の後ろには、いざというときは支えようと牧野がくっついている。

結婚式の途中だというのに、本来は主役であるはずの新郎新婦でさえ、必死で歩く子供に見入っていた。

「つうちゃ」

もう少し、もう少し・・・

「―――つうちゃ」

倒れこむかのように、俺の腕に入り込んできた颯希を抱きとめた。

「よし、よくできたな。偉いぞ、颯希」

「うん、颯希はすごいね」

類やあきら、総二郎もかわるがわる褒め称える。 

颯希はみんなの愛情を一身に受けて、笑顔で俺を見ている。

子供をこんなに可愛い、そして愛したのは初めてだった。





結婚式はくだけた形式のチャペル婚だったので、颯希のハプニングもたいしたことではなかった。

日本では通常、式は親族以外はあまり出席しないが、

屋内とはいえ、チャペルということもあり、二人の友人や会社関係の人間も大勢出席し、式がそのまま披露宴へと移行した。

披露宴でもやはり、牧野は親族席だし、俺は友人席で一緒にいるのは、悪友どもだ。

だが、このくだけた式では席の移動も自由だ。

実際に自分の席に大人しく座っているものなどいない。

俺は・・・このチャンスを逃すまいと、席を立った。

「おっ・・・司、やっと行動するのか?」

あきらの茶化すような声。

「―――司にしては長い沈黙だったな」

総二郎。

「そうだね、この1年、コイツ誰って感じだったね。 

司とは思えない我慢強さだったと思うよ。 実際・・・本当に司?」

類・・・相変わらず、嫌な奴だ。

だが、確かにこの1年俺は俺らしくなかったと思う。

成長し、大人になったと言えば聞こえはいいが、逃げていたとも言える気がした。

この1年、牧野とは普通に付き合ってきた。

友人として、そして友人を越えた存在としても。

だが、どうしても恋人としての一歩は踏み出せなかった。

俺も牧野もお互いに遠慮があるのだと思う。 俺たちはお互いに過去に縛られているのかもしれない。

それでも、生涯隣にいてほしいと思う女は牧野しかいない。

それなら―――俺たちは前に進まなければならない。

どっちかが、新たな一歩を踏み出さなくては・・・



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