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9月10日。
夏休みを過ぎて、宿題も提出し、
焼けた肌のヒリヒリも、落ち着いてきたかな、、、という
そんな日に、私は突然、引越しすることになった。
大人なってしまえば、引越しなんて大したことないし、
逆に新しい環境になって、心機一転という感じかもしれないが、
義務教育の真っ只中にいる子供にとっては、
学校が変わるということは、
天地がひっくり返るほどの出来事なのである。
今まで使ってきた教科書はすべて捨てることになり、
制服も、靴も、カバンも、体操服も、、、
全部、捨てるしかない。
干渉に浸る時間もなく、引越しが始まった。
今回の引越しは、今までと違ってすごく急だし、
一番、貧乏な時期であることぐらいは、私にもよくわかった。
新しい家をまだ見たこともない母が言う。
「今度の家は、小さいねんで!
あんたも、必要なもの以外は全部捨てて行きや!
しょーもないもん、持って行ったら入らんで。
さっさとしなさい、時間ないねんから。」
まだ、心の準備も何も出来ていない私に、
時間は無常にも迫っていて、
思い出のものまで、どんどん捨てられる。
親にとって、ごみにしか見えなくても、
私には、かけがえのない物であったりする。
しかし、時間のない今、それを議論している暇もない。
私は、引越しの用意をしながら、
未来に明るい何かが待っているような気はしなかった。
夜逃げではないけど、なんだかそれに近い気がする。
大阪にいられない事情が出来たのだろうか。。。
引越し屋さんが来た。
今までの引越しで一番小さいバンだった。
それと、父のシロアリで使っている軽トラ。
私は、不安で不安で胸がつぶれそうだった。
軽トラの助手席に、母が乗り、
私は、業者のバンの前に3人で座った。
いくらバンでも、前に3人は狭く、
業者の人は迷惑そうだった。
私は無言で、バンに揺られた。
車は走り、大阪の街から、
窓の景色は、どんどん建物が消えてゆく。
普段は、あまり畑は見ることもなかったのに、
あちこちで畑が見える。
しまいには、畑ばかりになり、
田舎街へと進んでいるのがわかった。
小さな路地を入った棟続きのアパートの前で
父の軽トラが止まった。
路地は狭く、2台の車が止めるスペースもない。
車を降りると、急に鶏のけたたましい泣き声が耳を突く。
2階建てのいわゆる「長屋」という感じだろうか。
向かい合って、4戸づつ家がある。
一番手前が、どうやら私の家らしい。
父が、鍵をガチャガチャ開けている。
駐車場はどこにもない。
早く引っ越し作業をしなければ、近所の人が
表に出られない。
想像以上の家に、私の不安はますます広がった。
街でも目を引く、4LDKの白い大きなマンションから一転、
築20年は過ぎているアパート。
14歳の鈍い私にも、
父がここを選ばなければならなかった
理由を察するに余りあった。
あのいいかっこしいの父がここを選んだのだから。
私は、一目散に自分の部屋になるであろう部屋を見に行った。
中は、窓を開けてなかったからか、
夏のようにムッとしており、
土壁のなんともいえない匂いが立ち込めている。
壁に少しでも当たると、パラパラっと土が下に落ちる。
窓を開けたが、すぐ前に向かいの人の窓があり、
びっくりして窓をほとんど閉めた。
でも、運良く向かいの家は空き家のようだった。
一番かわいそうだったのは、犬達だった。
走り回れる大きな庭から、
1メートルもない狭い洗濯置き場に閉じ込められることに。
そこは、裏の鶏の養鶏場とくっついており、
一日中、何千羽という鶏の鳴き声が響いている。
もちろん、反対側の私の部屋にもずっと聴こえてくる。
何千羽もいるから、泣き声というより、
それは、怒号に似ている。
「ゴーーーー」
鶏だとはっきりわかるのは、夜中の3時ごろ、
一番静かなはずの時に、
何を勘違いしてか、一匹、
「コーケコッコ~~~~~!!!」
と泣いた時だけである。
それ以外は一日中、家中を怒号が包む。
そんな中でもただ一つ、
私の部屋の窓から見える夕焼けが、心を打った。
マンションからは、到底見えない山の後ろに
消えていく夕焼け。
日が落ちる毎に、山は暗くなり、後ろの空との
コントラストがはっきりしてくる。
その山は、二上山と呼ばれ、
頂が、2連になっているので余計に綺麗だ。
後から聞いた話では、それはそれぞれ雄岳雌岳と呼ばれ、
遠く昔、大津皇子が疑いをかけられ、この山で
自害した時に読んだ歌が、万葉集に綴られているそうだ。
まさに、そんな歴史にぴったりの
あまりに美しい夕景に、寂しい自分の心の内を
重ねていたのである。
中途半端な時期での転校、
小さな家と、父の仕事と、
両親の不仲、、、
いろんな事を考えながら、いつまでも夕焼けを眺めた。
つづく。。。
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