サトゥの死ぬまでシネマ。

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第8話。

「第8話 ランニング・ロウ・テンション」
全ての授業が終わり(これまた午後の授業の数学で矢野先生の『恋のトライアングルの法則』という爆笑トークが炸裂したが、これまたここで書くほどのことじゃあ、ない)俺は自転車置き場へと向かった。自分の自転車をみると驚愕した。サドル部分にまたもやカマキリがいた。まさか同じヤツではないとは思うが、やはりこれは何かのメタファーなのか。
「ちょっと!」
その声に振りかえるとそこにはノリコがいた。
「出たな。カマキリ女」これだ。カマキリちゃんはこのことを予知していたのだ。メスのカマキリがオスを食らうように。俺もこの女子に食われちまうに違いない。
いや、違う意味で食われるならそれもいいか。
「ハァ?何言ってんの?」
ノリコはプロレスラー風女ピン芸人並みのツッコミで切り返してきた。イカンイカン。妄想族になっていた。いつもの自分に戻らなければ。
「いやいや、こっつ側の話でゴワスよ。で、なんだい?珍しいじゃないかい。君から俺に声かけるなんてさ」
「何を企んでるわけ?」
「えっ何の話だ?」
「とぼけないでよ、カツマタ君が罰ゲームであの娘と付き合うってのは何かウラがあるんでしょう?」
「何を言ってるんだい?ジェニファー。アレは人生ゲームのビリの罰ゲームだよ。ルーレットの針がお前を指していたら、クニオはお前にコクってたんだぜ。まあ、お前さんは断るだろうけど」
「ねえ、マーティ」彼女は不気味に微笑んだ。つうか、知ってんじゃん。バック・トゥ・ザ・フューチャー。しかし、俺は彼女とつきあいはじめた頃、熱く語って薦めたのを思い出した。もしかして観てくれていたのか。イカン。また妄想族だ。
「ウチの弟が人生ゲーム持ってんのよねえ」
嫌な予感がした。カマキリちゃん。俺はほんとに食われちまうのかい?
「あのルーレットって矢印があるんじゃなくて、針が固定されていて数字を回すんじゃなかった?」
やっぱり。イタイとこ突かれた。これは実は前の晩にケイタから電話で聞いて知った問題だった。俺がこの計画を思いついたきっかけとなった漫画「ガンツ」は人生ゲームに似た架空のゲームを使っていたのだ。ケイタは他のゲームにしようと提案したが、すんなり告白の相手を野ザルにするには、この方法が手っ取り早いと思ったし、そんなに細かいとこまで気にするやつはいないだろうという読みがあったからそのままでいくことにした。しかし、ここに気にするヤツがいた。カマキリ女だ。ここまでくると、ノリコの顔がカマキリに見えてきた。こうやって人は迷信やらジンクスを信じてしまうのだろう。今思えばシャーペンを倒してその先にいた女の子でもよかったわけだ。クソッ。とはいえ、昨日のうちから、そのいいわけは考えていた。
「ああ、そういうことね。数字の1を向いた女の子にコクるって指示したのよ。つうか、そんな細かいとこまで言われるとは思わなかったから、思わず『ルーレットの針』ってさっきは表現したのよ」俺は、さっきの会話の間違いを思いだしていた。クソッ。さっきの会話でこのいいわけをすりゃあよかったんだ。漫画の影響が強過ぎた。
「ふうん」
彼女はまだ疑った感じの眼差しを俺に向けていた。
「まあ、私には関係ないことだけどね」
「ノリコ!帰るぞ!」その時、校門のところで一人の男子生徒がこちらに向かって叫んだ。
「わかった!ちょっと待ってて」
「誰?つきあってんの?」距離があるとはいえ2人の雰囲気は恋人同士のものだったが、なんとなく俺は聞いてみた。
「ウン。3年のオンミョウジ先輩。L4の一人よ」
「L4?ずいぶん変った間取りだな。キッチンがないなんて」
「何言ってんの?Leaf4の略でL4。我が風鈴倶流須高校のお金持ち4人組。あんた知らないの?有名よ」
おいおい。作者は「花より男子」までパクるつもりか。次はNANAあたりをパクるに違いない。俺はオンミョウジ先輩の登場が今後L4との全面対決という構図への伏線ではないことを祈った。そしてようやく俺達の高校名がここで明かされた。ちなみに「ふうりんぐるす」と読む。
「そっか。じゃあ、彼は童貞じゃなかったわけだ?それともまだ、調査してない?
それとも・・・」
いつもの感じでおちゃらけて言ったが、彼女の様子が変なので話すのを止めた。彼女はうつむいている。泣いているのか?まさか、別れたときでさえ泣かなかった彼女が?まあ、あの時は俺がフられたからそれはあり得ないかもしれないけど。
「あんたホントバカね」彼女はうつむいたまま、震える声で言った。
「あんたを嫌いになったのはあんたが、その・・・童貞だったからじゃない。あんたが嘘ついたからよ」
「えっ」この「嘘」とは俺が童貞と言ったことに違いなかった。まさか。俺が童貞ではないことは親友のケイタでさえ知らないはずだ。俺は学校では童貞キャラを守っていて、それで時にはイジラレキャラにもなる。という絶妙なポジションを作りだしているはずなのに。
「なんで、お前知ってんの?」
彼女は答えず、愛しのオンミョウジ先輩のところまで走っていった。
「なんなんだよ。いったい・・・」こんなときはこんな独り言でも出るところだろうが俺はなにも言えなかった。多分これが普通だ。彼女は童貞と嘘をついた俺を嫌いになった。なんというか、「俺の嘘」で多少なりとも彼女を傷つけたと思っていたが、「嘘をついた俺」が彼女を傷つけていたなんて。こっちの方がはるかに罪は重いし、彼女の傷も深い気がした。そしておれの心の痛みも。
「とりあえず、今はプロデュースだ・・・」俺はようやく小説らしいひとりごとをつぶやいて、自転車の鍵を探すためブレザーのポケットに手をつっこんだ。

第9話
目次



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