サトゥの死ぬまでシネマ。

サトゥの死ぬまでシネマ。

第4話。

第4話「ユア・ワールド」
「ばあちゃん!」
俺は郵便局前のポストにいるおばあちゃんを掴まえることができた。
「トオル?どうしたんだい?」
「はぁ、はぁ、家から出るなっつったろ」
「でもね。消印が今日まで有効だからさ、健康ドリンクの懸賞」
「バッカ。死んだら健康もクソもねえだろ」
「何を言ってるんだかねえ」
俺はさっき渡ってきた大通りを眺めた。おそらく、ばあちゃんはこの後白い車に轢かれるに違いない。
「なあ、これからどっかいかね?喉渇いたなあ。そうだ喫茶富士子。あそこのミルクセーキは冬でも飲みたくなるんだよなあ」
「それもいいねえ。でもほら」
ばあちゃんは横断歩道のすぐそばにある自動販売機の前を指差した。
「あんたがすきなペプシコーラ買って帰ろうかと思ってたからね」
ばあちゃんに付き添いつつ自販機の前まで行く。多分横断歩道を渡っているときに轢かれたはずだからここで少し時間潰して、白い車をやりすごす。ばあちゃんは自販機機に金を入れ始めた。
「えーっとどれだっけねえ。アンタが好きなのは」
「これこれ、ダイエットペプシ」
「ああ、そうだった」
俺は信号機の方をチラリとみた。パチンコ屋の看板が目に入る。あれ、この景色前にも見たことが・・・。俺はあの時のフラッシュバックを思い出していた。あの白い車が突っ込んでくるときに見た景色はまさにこの自販機前からのものだった。そして信号は赤なのにスピードを落とさない白い車は目に入った。
「ばあちゃん!」
俺はばあちゃんの手を引いて抱きかかえるように思いっきり横に吹っ飛んだ。
キキー。大きなブレーキ音とともにその白い車はガードレールを突っ切って、さっきまでふたりがいた自販機に突っ込んでいた。もう、それはスローモーションだった。しばらくボーっとしていたが周りに人だかりができ始め、携帯で救急車を呼び始めたスーツの男の手を借りて立ちあがることができた。
「ばあちゃん。俺にジュースを買おうとしたばっかりに車に轢かれたんだね」
「何いってんだい、助けてくれたじゃないか」
泣きじゃくる俺にばあちゃんは優しく声をかけてくれた。警察官が近づいてくる。
事情聴取みたいなことが終わると、俺は警察官に聞いてみた。
「あの、車の運転手は?」
「ああ、無事だったみたいだよ。まだ詳しくはわからないけど居眠り運転じゃないかな」
「そうですか・・・」
もしかしたら彼は人を殺してしまったという事実に悩まされたかもしれない。しかし、それさえも救うことができた。
「じゃ、気をつけて帰って」
警官は去っていく。こんなに簡単な聴取でいいのか。ま、いっか。
俺たちは無事に帰宅した。
「あんた!髪切ってないじゃないの!」
母親は怒ったが埃だらけの俺の制服姿にすぐ気づいた。
「いや、それどころじゃなくてさ」
俺は事情を説明した。
「まっそういことで」
「へえ、アンタもたまには役に立つもんね」
「うるせえ」
「お兄ちゃん見直した~」妹が目を丸くして言った。
「まあな」
それをばあちゃんは優しい目で見てくれていた。
「飯食ったら髪切りいくよ」理容ナカニシは深夜12時までの営業です。

9時頃理容ナカニシへ行く。俺はニヤニヤしながら店へ入った。
「なんだ?お前」ナカニシのおっちゃんは不思議そうな顔をした。
「おやっさ~ん。おもろい話があるんだけど」
「なんだ?」
「とりあえず髪切ってから、とっておきだよ。まずは彼女にフラれた。いやフラれた話から。あっそれ踏まえたうえでスピードの時のキアヌ・リーブスみたいな感じね」
「なんだ?暗い話題のくせにやけに明るいな」
「まあね」

「で、なんだ。おもろい話って」
1万円からのお釣りを渡しながらおっちゃんは聞いてきた。
「信じてくれんのかね~。あっそうだ。おやっさんの学生時代に恋バナから言っちゃおうかなあ。2回目の今日はその話でなかったもんなあ」
「なんだそれ?」
携帯が鳴る。無論、パターン1だ。
「あ、母さんからだ、ちょい待って」電話に出る。
「もしもし。どうした」
「トオル、トオルおばあちゃんが、おばあちゃんが」
「な、なんだよ」嫌な汗が出てくるのを感じた。
「バイクに轢かれて今病院に・・・」
「なっ。嘘だろ」
「とにかく病院に・・・。せっかくあんたがさっき助けたのに」
「わかった。泣くなよ。今から行くよ。フドウ病院だろ」
「あんたなんで・・・」
「なんとなく。だよ」俺は電話を切った。
「大丈夫か?」おやっさんが不安そうに聞いてきた。そう、1回目の今日のように。
「大丈夫じゃ、ないかも。おやっさん話は後で。暗い話しになっちまうかも。いや、まだチャンスはあるはずだ!」
キョトンとしたおやっさんを後に俺は店を飛び出した。
タクシーを止める。タクシーに乗っているときに俺はまた今日の朝に戻れた。
もしかしたら、またタクシーに乗ればなんとかなるかもしれない。
「フドウ病院まで」
しかし、無情にもタクシーは俺を病院まで運んだ。

第5話
目次


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