1.僕と俺



 僕は河野彰(こうのあきら)。
今日から中学三年生だ。

 成績はかなり下のほうで、得意科目なし、苦手科目…全部。
運動音痴、弱気、特技…なし。

 ついに僕も受験生。
でも、どうせ…下のほうの高校にしか
行けないし。



 鞄を右手に、僕は中学の校門を通り、
クラス発表を見に行く。

「あぁ……見事にバラバラだ…」

 仲の良かった友達は皆バラバラだった。
はぁ、とため息をつく。

「よぉ、彰」

「あ、森(もり)君」

 森剛司(もりたけし)君。
同級生で、中学1年生の時のクラスメート。
成績優秀、運動神経抜群、でも性格は…。

「彰、同じクラスだな」

「う、うん」

「ま、新しい友達、一人は作れよ?ま、無理かもしれねーけどな」

 性格はちょっと意地悪なんだ。
…と言っても、僕に対してだけ、なんだけどね。
他の人には優しくって良い人なんだ。



 新しい教室。
僕は新しいイスに座り、筆記用具を机にひろげる。

「おいおい、彰?やる気満々だなぁ?」

 森君とその友達2人が僕を囲んだ。

「今年は俺達受験生だからなぁ~」

「落ちこぼれの河野君は、頑張って勉強しないと浪人しちゃうもんなぁ」

「ホントホント」

 あははは、と面白そうに笑う三人。
僕は苦笑い。

 悔しいなぁ、と内心思う。
でも、本当の事だから言い返せない。
何より、僕は気弱な性格だから、言い返すなんて無理だけど。



 僕はまっすぐ帰る気がしなくて、
屋上に来ていた。

 ここは落ち着く。
僕のお気に入りの場所なんだ。
嫌な事があった時は、いつもここに来る。
ここから見える景色はけっこうキレイなんだ。

 ふぅ~、と大きなため息をついた。

「頭が良くて勉強を教えてくれる、親友が僕にいたらなぁ」

 そんな人、いないだろうケド。
何よりこの学校で友達なんて…10人もいないし。

 苦笑した、その時だった。

 ぱしゅっ!!

「?!」

 何かに後ろから押されたような気がした。

「いってぇ…な、何だ?!」

 僕は目をぱちくりする。
今のはいったい……?

『あ、あれっ?!』

「?!」

 え。何だこれ?

「誰?!」

『え?オレの声が聞こえるのか?』

「え…な…何これ?!何で僕の頭に声が響いてるの?!」

『あ……聞こえてるんだ…?』

 いったい何がおこったのか分からない。
でも、夢じゃない。
僕の中に、誰かがいるみたいな感覚。

『すまない…ビックリさせてしまったみたいだね』

「あ~、えっと、これは…何がおこったんだろう?」

『君に憑依しちゃったみたいだ』

「憑依?!」

『う~ん、とりついちゃった、って事だ』

「え…ええ?!」

 意味が分からない。
そうか、これは夢だ。変な夢…。

 頬をつねってみる。
……痛い。

「夢じゃないんだ…」

『君、名前は?』

「……え?」

『あ、オレは西野要(にしのかなめ)っていうんだ』

「…河野彰…だけど」

『まだ信じられないみたいだね』

「…うん、でも何で僕に憑依したの?」

『事故だよ』

「…偶然ですか…」

 変な感じ。
独り言言ってるみたいだ。
誰かが見てたら不審者じゃないか…。

「……えっと…要さん?」

『うん?』

「とりついた、って事は幽霊?」

『…そうなるね…三日前、急に事故死しちゃってね』

「事故…死…?」

『オレはあの世に行く途中だったんだよ』

「そして偶然僕に憑依しちゃった…と?」

『ああ』

 全く、何で?
何で僕になんか憑依しちゃうんだよ…?

 それにしても、突然事故死なんて。
かわいそうだよなぁ。

 事故死…って事は、本当に突然死なんだな…。
家族や友人に、別れのあいさつも出来ないなんて………。

悲しすぎる…ね。

 そう思うと、なんだか悲しくって、涙が出てきた。

それに気付いた要が、驚く。

『お、おい…?どうした?大丈夫か?』

「うん…でも、要さん…本当に天国へ行く途中だったの?」

『?そうだぜ?』

「何か、そんな感じしないなぁ…」

『そうか?』

ははっ、と無邪気な笑顔が見えてくる。

「要…さん…?」

目の前に、僕よりかなり身長の高い男の人が現れた。

輪郭ははっきりしない。

ボウッとしている。

「幽霊…」

『おいおい、幽霊とか言わないでくれよ…確かに幽霊だけどさ…』

ははは、と苦笑する要さん。

「でも…幽霊だけど幽霊って感じしませんね」

『ん?』

「こうして普通に話してるし…」

『ん~、でも姿は君以外には見えないだろうし、声も聞こえないと思うぜ』

「そう…なんですか?」

『ああ』

 僕以外には…見えないんだ。

何で僕には見えるんだろう?

「霊感…強いのかな、僕」

『…そうかもな』



 そんな話をしていた時だった。

ガチャ。

扉が開いた。

屋上に上がって来たのは…同じクラスの森君。

「あれ?彰じゃねーか!!」

「森…君…」

「何してんだこんな所で?ああ、現実逃避?」

ははは、と笑う森君。

『現実逃避~?彰…君、何か嫌な事でもあるの?』

「……」

『ああ、ゴメン…人前で俺と会話なんて出来ないよな…』

そうだけど。

現実逃避…なのかなぁ…?

嫌な事…?

この世の中には、いっぱいあるじゃないか。

君は…要さんは、いいよね…。

天国に行ったら、嫌な事なんて…ないだろーから…。

 森君は、しばらく笑った後、屋上から景色を見ていた。

「……ふぅん、けっこう良い景色じゃねぇか」

「え?」

「…彰…お前さぁ、勉強もクラブももっと頑張れよなぁ」

「え…あ、うん」

「こんな所で現実逃避してる場合じゃねーだろ?」

「……うん」

もっと頑張らないと…。

『彰君…ズバッと言ってやれよ!!』

いきなり、要さんの声が聞こえてきた。

え、ズバッと?何を?

『よけーなお世話だ!!現実逃避・現実逃避って、うるせぇんだよ!!』

「ちょ…」

森君には聞こえてなさそうだけど。

そんなの、言える訳ないよ~。

それに、図星だし…。

『これから変わっていけばいいんだよ!!』

変わる?

『人生にはそりゃ、辛い事も嫌な事もあるけどなぁ…楽しい事だってあるんだぜ!!』

……うん、確かにそうかもしれない。

でもね、僕には楽しい事なんて何もないし…。

『おいコラ!!聞いてんのか?彰!!』

何か、口調が…変わってきてません?要さん?
てか、呼び捨てになってるし…。

『言ってやれ、バシッと!!』

無理だってば。

『今に見てろ!!お前なんか、勉強もクラブも…全て抜いてやる!!ってな!!』

抜ける訳ないじゃん!!

『ほら、何黙ってる!!早く言えって!!』

「……」

僕みたいな気弱な人間に、そんな事言える訳ないじゃんか!!


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