妖精の館

妖精の館

-戦闘へ-


「おっ、セレナにセシル、よくここが分かったな」
「衛兵の方に聞きましたから」
「もし、お前達が偽物だったらどうする気だったんだ、あいつらは」
「ま、結果オーライじゃないか」
「さっすが、おじさん話が分かる~。親父もこんくらい頭柔らかくしないとダメだぜ、これからは」
「私までむちゃくちゃをしていては、収集が付かなくなるだろうが」
 困ったように、息子をたしなめるのに、同情するような視線を向けるセレナ。
 自分の境遇が、重なって見えるのだろう。
「セディンおじさま、セシルが騎士団の戦いを見に行きたいそうです」
 で、穏やかな、人好きのする笑顔のままで、しれっと、告げ口してたりするし。
「なっ、てめ、裏切り者」
「セシル、神殿の鍛錬室に行って、コージンに稽古を付けて貰ってきなさい。
 五日間くらい、付きっきりでみっちりと」
「親父~、息子の言い分聞いたりとか、信じるとかしねえのかぁ!」
「事こういうことに関しては、信じないことにしている」
 苦虫をかみつぶしたような顔で、息子を鍛錬室の方に追いやろうとする。
「おいおい、セディン。男の子はそれぐらい元気があった方がいいとは思わないのか?」 セシルに視線で助けを求められ、ちょっとばかし、説得っぽい事を口にする父。
 無言で、応援する、セシル。
 今では、親友となった男の言葉に、少し気を取られたセディン。
 男達の思考が交錯する中で、セレナは慌てず騒がず、どこかあきれた調子で、一言、投入するだけで良かった。
「セシルが行くなら、もちろん、私も行くことになるけど?」
「セシル、やっぱり、子供には危険だ。もう少し大人になってからにしろ」
 一人娘を、猫っかわいがりしている親父なんてこんなもんだったりする。
 その後には希望をうち砕かれ、唯一の(この場での)理解者に見放されて涙する少年が一人。
 けっこう、哀れを誘う光景だな、などと思ったりもしたが、あくまで他人事の範囲内だったりする辺り、かなり冷たい奴かもしれない。セレナという奴は。

「さあ、もう遅いですし、帰りましょうか?送っていきますよ」
「うっせー」
 神殿の鍛錬室で、心身共にぼろぼろになるくらいにしごき抜かれた少年一人。
 それでも、今までどこに行っていたのか、目の前で穏やかな笑みを浮かべる少女への敵意は隠そうとしない。
「鍛錬室でお休みになるんですか?別に構いませんが体はこわさないようにして下さいね?」
 相手の不機嫌かつ、素っ気ない対応の意味が分かってるのかいないのか、自分のペースは全く崩さず、相手に対する思いやりもこもっていると思われる口調で静かに言葉を継ぐ。
「違うだろ~!」
「何がですか?」
 にこにこと、気合いの抜ける笑みで怒りを逸らされてしまう。
 のれんに腕押し、糠に釘。
 分かっていても、自分の怒りの通じなさに密かに涙してしまうセシルである。
「明日は、薬草摘みに行きますから、朝早いですよ。ゆっくり、休んで下さいね?」
「俺は、承諾して覚えも、聞いた覚えもないぞー!」
 かってに人の予定決めるなー!
 魂からの叫びは、やはり届かなかったようだ。
 届いても、どうしようもなかったのかもしれない。
 ほとんど無表情と同異義語の笑みを消して、困ったようにセレナが付け加えたからだ。
 用がないなら、明日コージン師が5時前に迎えに行くとおっしゃってましたけど、と。
 つまりは、今日以上に過酷な訓練という名の死合か、セレナのお供しか選択肢はないと言えた。
 他に用事を作るという手は使えない。
 よっぽどの事がない限り、あのコージン師が自分の訓練を休むことを承知するはずがないからだ。
 この穏やかそうでいて、ひたすら強情な少女を苦手としている事実がなければ選択肢は全くなく、強制であったろう事も想像に堅くない。
(俺、コージンのおっちゃんの訓練、何回すっぽかしたっけか?少なくとも十回以上だよな…。ヤバイかな、やっぱ。)
 どちらの方がマシか?
 真剣に頭を悩ましてみる。
 自分の行状を振り返ってみるに、怠惰な弟子を「おっちゃん」が、手ぐすね引いて待ちかまえてることは間違いなかった。
 しかも、彼の父親のお墨付きもある。
 今度こそ、根性を叩き直してやる、という声が聞こえてくる気分だった。
 今日のしごきっぷりからも伺いしれたのだが。
 セレナはそれを見越して、“提案”をして、選択肢を残しておいてくれたのだろう。
 セレナに借りを作るのは、プライドが結構傷ついた。
 だれしも、自分の惚れている相手に(しかも年下だ!)助けられて嬉しくは無いだろう。
 逆ならば、それこそチャンス!なのだが…。
 この事態を招いたのが、そもそもセレナだという認識もある。
(俺ってば、もしかしなくてもセレナの手のひらの上?)
 他の人間に自分の決断を決められる腹立ち。
 年下の少女に助けられるいらだち。
 自分の計画をじゃまされたことに対する反発。
 その他諸々の理由から、相手の提案を断ろうと、口を開いた刹那。
「未だ怒ってるんですか?」
 静かに、間隙に滑り込む言葉。
 相手の呼吸を読んで、つるりと言葉を潜り込ませる。
 微妙な技術のさえ、慣れを感じさせるタイミング。
「セシルは確かに剣の腕、戦術の組立なんかは、先生方も目を見張るほどの腕かもしれません。
 でも、はっきり言わせて貰えば実戦経験はまったく足りてません。
 そのままで、騎士の方達に付いていけば必ずと言っていいほど足手まとい決定ですね!
 でも、セシルの立場、-おじさまの地位といい変えた方がいいかな?-を考えれば騎士団の方も見殺しにはできないでしょ?
 そうするとそのしわ寄せは、どこに行くと思ってるの?」
 いつもの口調を、途中からきっちり捨て去り、腰に手を当て、相手を指さし、偉そうな態度で説教モードにはいる。
 正確に言えば、おふざけモード。
 セシルに説教するときの、セシルの母を真似ているのだ。
 もっとも、言ってることは本心だろうけど。
 本心でなくこういった正論を言えるほど、修行は積んでないし。
 ついでに言うと、真面目なまま言えるほど、大人(?)にはなってない。
「無理しなくっていいんだぞ、俺が心配だったら心配と言ってくれれば」
「何、人の肩に手を乗っけて、なれなれしく言ってんの!
 誰が、誰を心配してるの!?
 かってに納得しないで!」
「お前が、俺のこと心配してんだろ?
 明日のことといい」
「その、にやにや笑いを止めて!
 セシルなんか、コージン師に半殺しにされればいいよ!」
 セシルのほっぺをぶににと引っ張りつつ、言葉にドスを利かせてみる。
 最も、全然答えてないようだったけど。
 ちなみに、セシルのその時の意見としては
(今まで、どんな思わせぶりなこと言ってもなしのつぶてだったけど、ついに俺の気持ち届いたか?おいっ!)
といった感じ。
 ちょっと、頭の中身だけあちらの世界に行きかけてたりする。
 別の言い方をすれば、歓喜に包まれかけてる、とも言える。
 セレナを切れかけさせるには十分すぎるほどの反応でもある。
「…見捨ててやる」
 ぼそり。
 完璧に座った目でセシルを一別すると、後は全く後ろを気にせず、家路をたどる。
 はっきり言って、恋愛事にはすっさまじく疎く、またその機微に関しても同じ事が言えるセレナにして見れば、セシルの態度は『バカにしてる』としか思えなかったりする。
 哀れなり。
 この言葉はどちらに対してかけられるべきなのだろうか?
「で、明日いつ集合だって?」
 無視、とことん無視。
「おい、セレナ」
 再び、完璧な無視。
「悪かったって、な?ちゃんと真面目に行くって。
 他にも行くやついるのか?」
「この非常時にそんなに人員が割ける分けないでしょう?
 山にはいるということは、全く危険が無いわけではないんですから。
 付け加えておきますけど、薬草なんかを取りに行くのも、今回の戦闘で保存してある分だけでは足りなくなりそうだからです。
 ですから、傷や、化膿止め、血止めに使える薬草、鉱石なんかを中心に集めます。
 これも、立派な騎士団への参加です」
 ですから、暇つぶしで付いてこないように。
 言外に含みを持たせている。
 口調も、表情もすっかりいつもの通りに見える。
 皮肉げなまなざしさえ除けば。
「わーってる、って。
 じゃ、時間はいつもお前が行ってる時間でいいのか?
 夜明け後の、6時過ぎってトコか」
「ええ、でも何で知ってるんです?」
「え、そりゃ、そう、おじさんに聞いたんだよ、うん」
「ふーん、お父様に?」
 セレナの不信げな表情にさらされつつ、冷や汗を流す。
 実は、友人にその話を聞いて心配して護衛のつもりでこっそり付けたことがあったりする。
 途中で、偶然を装って合流する気だったが。
 もっとも、気づかれたらしく途中で巻かれた。
 誰か、ということはばれてない様だったのだが、途中で尾行を気づかれたなんて恥ずかしい事を告白する気にはなれなかった。
 ついでにいうなら、ばれてないなら、ばれないままで。
「おくってくよ」
「逆じゃない?」
 誤魔化す為にはいた一言は、あっさり返される。
 全身ぼろぼろの人間に送られても、確かに後味悪いだろう。
「ま、男のメンツって奴で」
「無駄なものは捨てた方がいいのではないですか?」
 素っ気ない言葉。
 再び、心の中で血の涙を流すセシル。
 が、その後がいつもと違った。
 ゆっくり近づいてくると、“聖光”(治癒の呪文)をセシルに向かって唱えたのだ。
「ま、命もかけれる事なら、それはそれで無駄では無いのかもしれませんね」
 半殺しにあいかける事が分かって、コージン師の訓練をとろうとしたこと。
 その決断を支えた物が、同じ所から来ていると気づいたからのことば。
 思い立ったら命がけ。
 これは、いつもの状態からは想像が付かないが、セレナの行動原理であったりする。
 それと同じ心意気を認めた、ということ。
 何となく、良い雰囲気が流れる。

 で、どんなことになるのかもしらず、薬草摘み(お花だとメルヘン)に出かけることになる。
 知らぬが仏、なのだろう。
 もし、知っていたら?
 それでも、変わらないかもしれない事に、怒濤のごとく突っ込んでいく。


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