新緑のオリバー

存在十題(消化済)


『存在十題』



01. 湖と孤独

ほとりに佇む少女の影が、じわりと伸び、やがて湖を覆い尽くした。
されど光も水面も去らず、少女は徐々に色を失い、ゆっくりゆっくりと
湖の底へ沈んでいった。

(「ある湖畔のお伽話」)


02. 吸血鬼のひび割れた鏡

彼は美しい自分の顔を見るのが嫌いだった。私がいくらその白皙を褒めても、彼は一向に微笑まない。
(それは多分、彼のその美貌の理由が、  )
ただ、いつかの三日月のように青白い額をそっと歪ませて、水底から響くような声で囁くのだ。
「おれの世界にそれは不要ぬ」、と。

(「白い額」)


03. 泡沫に消えぬ

去りゆく背はあまりに遠く、あまりに広く、私を拒絶するには充分だった。
闇に、霧に、雨に、森羅万象は私を拒み、彼をいざない、
やはりどうしても 私は彼に追いつけないのだった。

(「嵐が丘」)


04. 救われています。

あなたは精一杯やってるじゃない。
項垂れて首を振る後ろ姿は、抱き寄せたくなるほどしょぼくれている。
けれど、そんなに落ち込むことはないのに。
有り余る命を全て救おうだなんて、それは傲慢というものよ。
十分なの。あなたは今のままで、十分なのよ。
だって、少なくとも私はあなたに、  救われています。

(「あなたという人」)


05. 霞んだ指輪

ありがとう、――
呟いたはずのそれは涙でくぐもり、言葉にならなかった。
左手に輝くそのちっぽけなリングに口付けをして、私は幸せになります、と、そう天に誓った。

(「くすり指」)


06. 貴方が決めることじゃない

だからそう何度も言っているじゃないの。危険だなんて、承知の上だわ。
結局あなたは自分のことしか考えてないの。エゴよ、自己満足よ。
あなたは何も分かってない。私はこれでいいと言っているじゃないの。
ええそうよ。私はあなたに付いていくの。そう私が決めたことなの。私の唯一のわがままなの。そう思って、聞いてはくれない?
――私が幸せかどうかって? そんなこと! 今更にもほどがあるわ。あなたは私を不幸にしたいの? もちろん私は幸せになりたい。
けどね、私が一体何を幸せと感じるのか。そんなのはあなたが、――
貴方が決めることじゃないわ。

(「幸か不幸か」)


07. 絶対的存在感

あなたはいつも、その強い瞳で私を縛る。
柔らかな微笑に隠された心の刃は、その傷は、どこまでも深く酷く。だから彼は人に特別やさしく出来る。
ぼろぼろになって、それでも立ち上がって、 私に見せるその背中はこんなにも狭いのに。
どうしてこんなにも、大きく見えるのだろう。
傷付かないで、といえば、あなたは笑うだろう。屈託もなく、どうして? と笑って訊ねるだろう。
それは私を諭すように、穏やかな微笑で。
涙を堪える私に気づいては、困ったように眉尻を下げ、
彼は今日もまた、私にその有り余る勇気を見せ付けるのだ。

(「リトルブレイブ」)


08. 存続を確信する日常の中に、

私は物足りなさを感じていた。
このまま永遠に続くのかしら。虹色の空を見上げて思った。
ああ、今日も相変わらず蓮の花が綺麗だわ。
水面に浮かぶ淡い華に横目を投げて、私は今日も退屈凌ぎに下界を見下ろす。
さて、今日は何が釣れるかな。
池から一本糸を垂らし、せわしなく行き交う人間を眺めてみる。
ひとはいいな。私のように日々を持て余すことがない。

(「神々の退屈」)


09. きっと壊れる

そんなに、何を怖がっているの。
私はここから逃げたりしない。ただ、あなたを思って。あなたを見かねて、世界を飛び出すことはあるかもしれないけれど。
大丈夫。まだここにある。
あなたも私も、ここに「ある」。

(「崩壊寸前存在定義」)


10. 君の在ることの幸せ

ぬくもりが溢れる。
それは、日溜りのような暖かさ。
それは、ぬるま湯のような心地よさ。
降り注ぐ光と風のシャワーを浴びて、柔らかな殻に身をゆだね、
私は今日も 君と生きる。

(「ふたりきり」)



2006.10.3 completed!









title by: 『群青三メートル手前(http://uzu.egoism.jp/azurite/)』


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