NO,5







私は車に飛び乗った。
母から聞いた場所を頭の中でもう一度思い出してみる。
そして、口に出して言ってみる。自分の中の確認はとれた。

アクセルを踏んだ。思いっきりアクセルを踏んだ。
二人でよく走った道。バイクで走った道。車で走った道。
景色がその日は違って見えた。
不安だった。もしかして?
「死」と言う文字が頭の中でグルグル回っている。
その反面、「そんな事は無い」と懇願する自分の中の自分。

病院に到着。変な寒さを感じた。
入ると警察の人が私を見つけて「こっちですよ。」と私を促す。
「この部屋の中にいます。」淡々と話す警察官。
「今どんな状態なんですか?看護婦さんはいないんですか?すぐに会わせて下さい。」
「ご親族以外は面会できないんですよ。」後ろから来た看護婦が私の背後からそう答える。
すると突然彼のいる部屋の扉が開いた。

30cmくらい開いていた。中が見える!
看護婦 「身内の方ですか?」
警察官 「この方は被害者のフィアンセです。」
看護婦 「あぁ、婚姻届の、、、。でも、あなたは身内じゃないから今は会えません。」

冷たい一言だった。刺さった。
婚姻届は今日出しに行く事になっていた。今日が他人から身内になる日だった。

一瞬見えたその部屋の中で横たわる見慣れたジーパン、ジャンパー、床に置いてある靴。
私の所を出てそのままの洋服だった。確かにこれは現実だ。
ジャンパーはファスナーが全開で、トレーナー、Tシャツは下から首までカットしてある。
ジーパンは右足の所が裾から腰のあたりにかけて裂けていた。
私は一瞬我が目を疑った。

あんなに細かったお腹が妊娠している人の様に膨らんでいる。
あんなに強そうだった胸がサッカーボールが入った様に膨らんでいる。
あんなに細かったあごから首にかけてがタオルを何重にも巻いた様に膨らんでいる。
そして目を閉じて動かない。

彼の横のモニターはただ一直線に一本の線が横に伸びている。
小さくかん高い音で「ピーーー」と聞こえる。

その後私は悲しい事なのか、辛い事なのか、嬉しい事なのかよくわからなかった。
なんだか分からないけど、それがどうしてか分からないけど、笑えて仕方が無かった。
私は病院でただ大声で笑っていた。

涙はかなり後になって私に追いついた。


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