みみ の だいありぃ

みみ の だいありぃ

奴の女



だけど、もちろん、そんなことは経験しなくったって良かった。

でも、ただ、起こってしまったのだ。

その日も今夜と同じ、どしゃぶりだった・・・。



あたしの場合、トコトン怒ると、まさに脳天にくる。

そして、髪の毛が一本一本抜けそうな感じになる。

マンガで良くある、髪の毛が全て逆立ち、頭から湯気がでる、みたいな。



浮気性の馬鹿男と付き合ってた頃は、残念ながら、こういうのをよく経験した。

奴との別れを決めた理由だってそれ。

このままじゃ禿げちゃうって。

いや、禿げるほど、あたしも弱くはなかったけど。



どしゃぶりの中、あたしは、大学の帰り、友達と買い物をする訳でもお茶をする訳でもなく、一人でとぼとぼと奴のアパートに向かっていた。

計算からいくと、あと数時間で奴が帰ってくるという時間だった。

ちょうどテスト期間だったし、帰ってくるまで勉強でもしていようって思ってた。



奴のベッドで横たわり、ノートを広げてみた。

勉強する気になんてなれないな。



そして、奴のcdコレクションから、今の自分の気分にぴったりなものを選んでいた。



どれにしようかな。

BLACK STREETにしようかな。



cdをケースから出し、プレイヤーに入れてみた。

流れ出す音が、雨の音と上手く調和し、あたしを優しい気持ちにしてくれる。



あともう少しで奴が帰ってくる。

それまで、素敵な音を楽しもう。



まだ、音楽を1曲、聴きおわる前だった。



トントン。



ドアをノックする音が聞こえた。



誰だろう?

奴なら鍵を開けて入ってくるはずなんだけど。



あたしは迷った。

奴の家だし、一応。



すると、トントン。



またドアを叩く音が。



仕方がないなー。

あたしは、すっかりワイフ気取りで、でもちょっぴりドキドキしながらドアを開けた。



「はい。何か用でしょうか。」



ドアを開けて、あたしははっとした。



雨のしずくに濡れながら立っていたのは、さっき電車の中で斜め前に座っていた女性。

なんとなく、あたしと同じニオイのする彼女。

電車の中で、お互いに、ちらちら見合っていた。

彼女もブラックのボーイフレンドがいるのかなって。



その女性は、「○○はいますか」とあたしに聞いた。



「まだ帰ってませんけど」とあたしは答えた。



「あ、そうですか。分かりました。」と彼女は去って行った。



なんだったんだろう。

友達かしら?知り合いかしら?



いや、まさか・・・。



ドアを閉めたその場所で、あたしは立ち尽くした。

動けなかった。

そして、あたしは、嫌な予感を閉じ込めるように、リビングのドアを閉めた。



すると、またトントンという音が。

今度はさっきのそれより、相当荒かった。



あたしは玄関まで駆けて行った。

扉を開けると、予想通り、彼女がいた。



「あんた、○○の何なの?」って、彼女はいきなり言った。



「は?あんたこそ、誰?」あたしも言った。



そんなの、決まってる。

あたしだって彼女だって、そんなの分かってる。

お互い、奴と関係を持ってる者同士なんだ。



彼女は黙っていた。そして、あたしの顔を必死ににらみ続けた。



「入る?」と、あたしは気がついたら言っていた。



彼女ははっとした顔をした。

でも、とりつかれたように突っ立っていた。



「入る?雨、かかるでしょ。」あたしはもう一度、言った。



彼女ははっと我に返ると、遠慮がちに中に入ってきた。



何も初めて来るって訳じゃないだろうに。

一つ一つのものを確認でもするように、慎重に入ってきた。



玄関には、あたしの靴と、彼女の靴と、そして奴のサンダルが並んでいた。

3足のカラフルな靴が、あたしたちをしずかに笑っているような気がした。

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