waiting for the changes

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04話:新天地


優美が笑顔で話しかけてくる。さっきからずっとこの調子だ。通路を挟んだ反対側の子供たちが、昨日東京シティビルで行われた「ヒューマノイド・バトル」の話で盛り上がっていた。
「次の停車駅はー 東京シティビル中央、東京シティビル中央、終点です。この電車は駅に到着後、傭兵専用車両となります」
レッシュはある傭兵部隊の隊長に任命された。その部隊は何やら曰く付きの部隊らしい。前隊長が何かの諸事情によって解任されたとのことだ。レッシュたちは任命を受けた数日前、ある演習場に呼び出された。


「よく来てくれましたね、レッシュ・F・ヴィレドル。お待ちしていました」
パイロットスーツ姿のレッシュが格納庫に入ると、数人の白衣を着た研究員らしき人と、メカニックがレッシュのグロリアス・ファーストを整備していた。
「何の用ですか?」
「今日来ていただいたのは、あなたにお渡ししたいものがあるのです」
「渡したいもの・・・?」
「はい、こちらです」
そう言うと、白衣の女性はレッシュをパソコンのモニターの前に呼んだ。
「これです」
モニターにはレッシュのグロリアス・ファーストのデータが数値化されていた。普段見慣れた数値。レッシュはそのすべてを統括するメインフレームの部分に見慣れない文字を見つけた。
「・・・E・V・E?」
「はい、簡単に言えばGのサポートシステムです」
彼女は説明を始めた。
「これは、擬似人格プログラムを用いたG操縦サポートシステムです。音声で認識し、あなたが許可しない限り機体を起動させることはおろか、すべての機体に関する事項をプロテクトできるのです。更に戦闘面でも最適化修正、射撃修正などをあなたが命令すればオートで行ってくれます。他にも機能はありますが、それは慣れてくればわかるでしょう」
「大体わかったが、何で俺なんだ?」
「あなたにしか扱えないのです・・・」
少し間をおいて彼女は答えた。俺にしか扱えない・・・?多分、「あの能力」のことだろうとレッシュが考え込んでいると、今度はグロリアス・ファーストのコクピットの近くにいた白衣の男性が呼んだ。


「準備はいいですか?では、起動させてください」
「EVE、システム起動」
「了解」
機械的ではない人間味のある女性の声がする。その声にレッシュはちょっと驚いた。モニターが灯り、計器が正常な値を示す。音声認識による起動はひとまず成功だ。
「これより戦闘を行います。と言っても、コンピュータ制御の的を攻撃するだけですが、最初から本気で飛ばしてください」
「了解した、これよりテストを開始する」
本気で飛ばせということは、最初から「特殊能力」を使えということだ。レッシュは目を閉じ、スロットルを全開にした。そのとき、今までと違う感覚が流れ込んできた。
「これは・・・?」
「私はEVEです。能力発動中のあなたの全面的なサポートが私の役割です」
「軽い・・・。今までよりも感覚がいい」
「あなたは機体とリンクした状態なのです。そして私はあなたと機体を滑らかに繋ぐ為のオイルのようなものです。これにより今までより最低で30%は戦闘能力がアップしたはずです」
EVEは滑らかに答えた。とても擬似人格プログラムとは思えない。レッシュは、次々と的を撃破していく。それを白衣の研究員たちはモニターで見ていた。
「予想以上ですね」
「ああ、彼で間違いは無いな」
「不測の事態が起きた場合はどうすんだ?」
「そのときは、彼らに頼めばよい」
研究員たちはうっすらと笑みを浮かべた。


「“F”の手に“EVE”が渡ったそうです」
ディスクを黒服の男からこれもまた黒服の男に渡す。ディスクをもらった方はアタッシュケースを男に渡した。
「これで、契約は終わりです」
アタッシュケースを持った男が自動車に乗り、その場を後にする。倉庫街の角を曲がったところで、車が爆発した。
「すまないが、知ったものには消えてもらうしかないのだよ」
ディスクを内ポケットにしまい、男はタバコに火をつけた。


「先輩、それ何ですか?」
優美が小型携行用のタッチパネルを覗き込んでくる。
「ああ、EVEのプログラムの調整だ。色々、俺のことを書き込まないとな」
「あの擬似人格サポートの?」
「それだ」
そう言うと、再びレッシュはぶつぶつ言いながらタッチパネルに向かう。
「ふーん」
相手にしてくれないのが嫌なのか、ちょっとふてくされたような顔をする。
「ちゃんと優美のことも書き込んであるよ」
そう言ってレッシュは、画面を優美の方に向ける。彼女のデータなどがそこには書き込まれていた。不測の事態に備えて、レッシュの身の回りの人物の詳細なデータも書き込まれていた。
「へぇー・・・って、これ体重とかスリーサイズとかも入ってるじゃない!!」
優美は赤くなってぐーでレッシュの左肩をパンチした。
「待て、待てって、これは傭兵試験のときに必要だっただろ?」
レッシュの弁明はむなしく響き渡った。アナウンスが終点を告げ、地下へと列車は進んで行った。


「すげーな」
「うん・・・」
レッシュも優美も言葉を失う。この東京シティビルの地下は極東地区最大の、傭兵や傭兵部隊の本部となっているのだ。今はその入り口の前。何が起きても壊れなさそうな頑丈な巨大な扉がある。格納庫の出入り口の丁度隣にある入り口からは格納庫中身が一望できた。様々なタイプ、カラーのGが部隊ごとに並んでいる。一番奥が部隊に所属しない傭兵のGのようだ。優美がその奥から出てきたGを見て嬉しそうに言う。
「見てください!あの青いG「蒼い死神」ですよ!ほらっ!ソロではかなり有名ですよねー」
「へぇー、俺とは1日口聞かないんじゃなかったっけ?」
「うっ・・・」
ちょっと前に、うっかりレッシュが「ある数値」を漏らしてしまったせいで優美の機嫌が悪かった。「蒼い死神」を見て浮かれていた優美は何か唸りながら、ぶつぶつ言い訳を言い始める。ちなみに「ソロ」とは部隊に所属しない傭兵の総称だ。レッシュは、受付の女性にIDカードを提示して、優美にもそれを促した。
「レッシュ・F・ヴィレドルです。どこかの部隊の隊長に任命されたのですが」
「お待ちください」
そういうと、モニターに向かいタッチパネルで検索を始めた。「隊長の任命で来たなんて珍しいことなのに、いちいち調べる必要があるんですか?」と優美は小声で言う。それもそうだ。何故わざわざ確認を取る必要があるのだろうか?少し待つと、メモリーカードを渡して受付の女性は「こちらに」それだけだった。
「さてと」
レッシュはEVEの携行用端末にメモリーカードを差し込む。傭兵組織のエンブレムが浮かび上がり、地図が表示された。パネルに表示された大まかな地図を見て、レッシュは首をかしげる。
「・・・ん?倉庫じゃないのか?」
「あ、確かにここは倉庫ですね。EVEの端末が壊れている、ってことはありえませんしね・・・」
優美が覗き込んできた。優美はレッシュと20センチ以上の身長差があるため、背伸びしないと見えない。「見ーせてくださいー」と言葉からもやはり、さっきのアレは根に持っているようだ。
「とりあえず、行ってみるか」
「そうですね」
レッシュたちは地図示された「部屋」に向かった。


「うおっ!何だ!?・・・着ぐるみ・・・?」
「・・・これって、Gの手ですよ・・・」
エレベーターを降り、散らかった通路を進み、レッシュたちはようやく地図で指定された部屋(正しくは倉庫)に到着した。
「ここか?」
「ここの・・・はずです」
「第4倉庫」扉にはそう書かれていた。2人は顔を見合わせた。空調が壊れているのか、蒸し暑い上にゴウンゴウンと凄い音だ。2人は段々不安になってきた。しかも扉は自動ではない。手動のスライドドアだ。
「開けるぞ・・・?」
「は、はい」
敵地に潜入するような、妙な緊張感が張り詰めていた。レッシュは思い切って一気にドアを開けた。そこには衝撃的な光景が広がっていた。・・・欠伸をしている下着姿の女性がいた。
「あれ・・・?」
「ふぁ~・・・、ん?」
3人の間に妙な間が出来る。それは一瞬のことなのだろうが、レッシュと優美には凄く長い時間に思えた。レッシュと優美は完全に硬直していた。
「きゃあぁぁぁぁ!!!」
先に悲鳴を上げたのは、優美だった。次いでその女性も叫ぶ。
「痴漢よ!敵襲よ!全員攻撃態勢!!」
「ま、待て!!俺は、隊長に任・・・」
「ええ~い!!問答無用!!」
その下着姿の女性は何処からか投げられたハンドガンを受け取るとレッシュと優美のほうに撃ってきた。飛び込むように2人はドアの両側に隠れる。通路に置かれた着ぐるみに弾丸が突き刺さり、綿が飛び散る。
「先輩!何とかしてください!」
「無茶言うな!こっちは武器持ってないんだぞ!」
レッシュが叫ぶ。優美は今にも泣き出しそうになっていた。部屋の中が騒がしくなってくる。
「痴漢?」
「許せませんね」
「これいるか?」
男の声がした。どうやら男1人がいるようだ。「沈める」とか「殺す」とか数人の女性の物騒な声も聞こえる。そのうちの1人が、思い出したように言った。
「確か、今日新しい隊長が来るみたいよ?」
「こんなときに何言ってんの!?今は、あの痴漢を殺す!」
ここしかチャンスは無いと思い、レッシュは思い切ってドアの前に立った。さっきの下着姿の女性の他に、背の高い男がいた。皆が一斉に銃器を構える。レッシュは両手を挙げて言った。このままだとどのみち殺される。
「俺がその隊長だ」
「この期に及んで、そんな嘘をつくか!?」
「ちゃんと任命文を見てくれ!!」
「ちょっといいですか?」
引き金が引かれようとした時、一人の女性が近づいてくる。EVEの端末に示された任命文を見て言った。
「本物ですね」
「マジ・・・?」
顔面蒼白になった下着姿の女性は逃げるように奥の部屋に消えて行った。ようやく命の危険から開放されたレッシュは大きなため息をつく。優美はドアの横でまだ震えていた。
「レッシュ、か?」
その時、背の高い男がレッシュの名前を呼ぶ。落ち着いてきたレッシュはその男の顔を見る。そこには懐かしい顔があった。
「翔?・・・翔!久しぶりだな!」
「マジで?新しい隊長ってお前だったのかー」
「元気だったか?」
「まあまあだな」
織地 翔。レッシュの幼馴染で、傭兵技術専門学校に同じく入学した。レッシュは航空科、翔はG科と分かれたが、学校時代は会う事が出来た。しかし、開戦以来会うことができなくなっていたため、実に2年ぶりの再会となった。ここに翔が居たことに驚いたレッシュだったが、もっと驚いたのはこの部屋に居た女性たちだ。元痴漢(新隊長)が、代行隊長だった翔と知り合いだったことだ。「マジで?」とか「ホントなんですか?」などと小声で話している。レッシュは最初から疑問だったことを問うた。優美はやっとレッシュの横に恐る恐る出てくる。
「何だここは?部隊だよな?」


「私が説明しますね」
先ほどレッシュたちの無実を証明した女性が前に出てきた。丁寧にお辞儀をして自己紹介を始めた。
「李沢 友子です。この部隊のオペレーターです。私も最近配属されました」
「レッシュ・F・ヴィレドルだ。この部隊の隊長となったからよろしく」
「あ!わ、私はこの傭兵部隊の、あのー、配属になった・・・えっと、樹村 優美ですっ!・・・うげっ!」
勢いよく頭を下げた優美は無造作に置かれていたデスクでおでこを強打する。図らずも部屋は爆笑に包まれた。相当痛かったのか、優美はうずくまる。それにしても散らかり放題だ。涙を流して笑っていた友子は、はっと我に帰り、咳払いを1つした後続けた。
「この部隊は問題児部隊なんですよ」
「は?」
意味深なことを友子は笑顔で言った。その時、奥から整備服姿の女性が出てくる。
「ねぇ、今日搬入されたあの白いグロリアス誰の?」
「は、はい!私のです」
勢いよく優美は立ち上がって挙手する。その女性は頭をかきながらこう言った。
「ごめんなー、クレーンで掴み損ねて左腕壊しちゃった」
「え・・・」
優美はそのまま固まって動かなくなってしまった。どうやら今日は優美にとって厄日のようだ。



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