waiting for the changes

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06話:消える白


友子からの通信が入ってきた。「了解」とミコとクルスの声。友子は続ける。
「クルス、ちゃんと隊長の命令を聞いてくださいね」
「はいはーい、わかってまーす」
ホントに分かってるのか?「大丈夫か?」と聞くと、「はいはい」と帰ってきた。大丈夫だろうか。
モンゴル地区北西部、ロシア地区との国境付近にレッシュ、ミコ、クルスはダミーの輸送機の陰にいる。この作戦成功するだろうか。レッシュはEVEの索敵モードの範囲を最大にして対象を待つ。友子やシェリーは戦闘エリアの外のワゴンタイプの車から通信を送ってきていた。
「EVE、反応はどうだ?」
「未だ反応ありません」
「早く来ないかなー?」
クルスが「暇だー」とぼやく。それを友子がたしなめている。ミコはといえば精神集中と言ってさっきからとても静かだ。
「来ました」
EVEの索敵システムが2機のGの機影を捉えた。やはり町がある方角から向かってきた。どうやら、作戦の第一段階である「呼び出し」は成功したようだ。
「機体照合します・・・。ウィン、50と判明。尚も接近中」
EVEが詳細な機体データをモニターに出す。レッシュはそれをミコとクルスの機体にも送った。「便利だねー」とクルスが笑った。レッシュが深呼吸して言う。
「ミコ、クルス、戦闘態勢!!」
「了解!」


「これか」
ルドラスが輸送機のデータを見ている。ナードがその後ろから覗き込んできた。「簡単だな」そう一言言って、ナードはベッドに横になった。ルドラスはコップに入ったぬるくなったコーヒーを流し込んだ。飲み干した後、壁に向かってコップを投げつける。
「ふんっ!俺がするまでもねぇだろ」
「だが、思う存分やっていいそうだ」
「中身は負傷兵みたいだしな。楽しみだぜ」
ルドラスは淀んだ笑いを浮かべ、モニターの電源を切りパイロットスーツに着替え始めた。ナードはいつの間にかパイロットスーツに着替えていた。ヘルメットを持ち、「早くしろ」とルドラスを急かした。2人が家から出てくると、そこは地獄だった。
家が崩れ、死体が大量に転がっていた。防衛用と思われる戦車も大破し炎上している。ここは反政府軍に協力している町だった。彼らは女子供も容赦なく皆殺しにした。赤い光の中で2機のGが揺らめく。その光景を見てにやりとルドラスは笑った。ナードは顔色ひとつ変えない。そして、2人はGに乗り込んで町を後にした。


「はぁ!!」
ルドラスの放ったグレネードランチャーが炸裂した。ダミーの輸送機が炎を上げて崩れる。その影から3機のGが躍り出た。クルスのグロウが先に仕掛ける。
「やあっ!!」
「何!?罠か!」
ルドルフがギリッと歯をかみ締めた。クルスのブレードによる一撃は惜しくも受け止められる。受け止められてしまっては、パワーはクルスのグロウより“3”のウィンの方が上だ。一気に押し返され、あっという間に立場が逆転した。背後には燃える輸送機、絶体絶命だ。
「クルス!」
そう叫んで、ミコがブレードで“3”に斬りかかった。その時、側面から強い衝撃を受け、ミコのグロリアス・スーパーは吹き飛んだ。“4”だ。
「きゃあ!」
バランスを崩して草原に落ちる。レッシュがすかさず“3”に斬りかかった。レッシュは自らの力を解放した。そして、EVEのシステムが発動する「Linker(リンカー)起動」
「何!?」
“3”はそのGの動きが違うことに一瞬で気づく。間に割って入った“4”の左手を一瞬で斬り落とし、蹴り飛ばした。その動きをモニターしていた部隊のメンバーも驚いた。これほど滑らかに動くGは見たことが無い。レッシュはEVEのサポート受けた実戦は初めてだが、これほどシックリくるとは思わなかった。様々な情報がレッシュの意識に直接入ってくる。
「ナード!大丈夫か?」
「ああ・・・」
くらくらする頭を振ってナードは返す。
「はっ!」
“4”の動きが鈍るのを“赤き巫女”が見逃すはずがない。ここぞとばかりにライフルを連射する。脚部と頭部に直撃し“4”は崩れ落ちた。レッシュは攻撃の手を休めず“3”弾き飛ばす。クルスはその圧倒的とも言えるレッシュの力に言葉を失う。
「すご・・・」
「くっ、何なんだ、コイツは!」
ブレードによる滑らかな連続攻撃。それを何とか受けるルドラスのウィンはさすが“3”と言ったところだ。レッシュは一気に距離を詰めたその時、ウィンから閃光が走る。ルドラスのGが強力な光を放ち、レッシュの「目」が眩む。一瞬、レッシュはひるんだ。逃さず“3”はレッシュのGのブレードを弾きあげた。
「くっ!」
「終わりだ・・・」
“3”は振り上げたブレードを振り下ろす。その時、レッシュは予想外の行動に出た。臆することなく更にGを一歩踏みこませた。右腕を伸ばし、掌を“3”のウィンに押し当てる。その時、何かが起きた。
凄まじい衝撃波が起き、ウィンが吹き飛んだ。上半身が一瞬にして無くなり、下半身が辛うじて残る程度だった。メンバーはその破壊力に息を呑む。モニターでそれを見ていた真琴がつぶやく。
「やっぱあれは、攻撃用かぁ」
「え?どういうこと?」
優美が「前にも見た」と言ったので、アレについて真琴は説明した。

通称「ジェネレーター・ショック」と言われる「事故」なのだという。

ジェネレーターはGを動かす源となる言わばエンジンである。ジェネレーター・ショックとはジェネレーター内のエネルギーが暴走し、外に放出してしまう現象のことだと言う。放出が起きると機体は融解及び爆発、周りにも甚大な被害のでるものだった。昔のGではよくあったことなのだが、今は安全技術の向上で皆無に近い。レッシュの機体は右腕を完全に伸ばすことによって、右腕に内蔵されたパイプが繋がる。あとは、ジェネレーターと直結させて、意図的にジェネレーター・ショックを起こすだけだと言う。最初は味方のエネルギー切れの際に補給用と思っていたのだが、そんなプログラムは無かったので、疑問に感じていたのだと真琴は言う。「ジェネレーター・ショックを攻撃に生かすなんて初めて見た」と嬉しそうに真琴は言った。対象に密着することで他への被害を最小限に食い止めていると、更に付け加えた。突然、EVEが異常な反応を示した。
「危険です!ヤツが来ます。今すぐ撤退してください」
「どうしたんだ?」
「ヤツです!ヤツが来ます!」
擬似人格プログラムであるEVEが取り乱している。やはり、EVEは何らかの秘密があるようだ。擬似人格プログラムが取り乱すなんてありえないことなのだから。その時、倒れこんでいたクルスのグロウの後方で「扉」が開いた。EVEのモニターには「ゲート反応」の赤い文字が表示されていた。扉の中から現れたGは「あの時」の白いGだった。
「“F”・・・、排除する」


「何?何が起きたのですか?」
友子が3人に呼びかけた。クルスが「Gが現れたわ!」と叫んでいる。友子がレーダーを確認してもレッシュたち3機と半壊している“4”の姿しかない。車の中が急に慌しくなる。
「こちらでは確認できません」
「何言ってるの!?目の前にいるじゃない!」
クルスは友子から言われた事実と目の前にある現実に混乱していた。レーダーにも映らないG。そのGは“4”に銃口を向けた。
「貴様は既に用済みとなった」
白いGはエネルギー弾を3発放った。完全に動けない状態だった“4”はなすすべなく破壊された。
「そんな!?エネルギー弾を連射することは不可能のはず!」
ミコが驚きの声を上げた。光学射撃兵器。つまり、エネルギー兵器のことだ。実弾と比べ精度も高く、攻撃力も高い。しかし、発射時に銃身が発熱する上、弾であるエネルギーの充電に時間を要する。連続発射するためには巨力なジェネレーターと高性能な冷却システム、エネルギーを高速でリロードできる装置が必要で、G携行用連射型光学兵器の開発は不可能とされていた。レッシュはブレードを拾い上げるとその白いGに対峙した。
「F、貴様は存在してはならない」
「何?」
「・・・んの名の元に排除する」
白いGは再び、エネルギーライフルをレッシュに向けて連射してきた。レーザーブレードで薙ぎ払い、距離を詰める。
「隊長!」
「2人はさがれ!コイツは只者じゃない!」
レッシュの一撃は白いGのライフルによって受け止められた。エネルギーライフルはブレードと一体となっていた。流れるような動きで滑り、Gの回旋運動利用した一撃が白いGを捉えた。一体型のライフルが真っ二つに割れる。それは見たこと無い光景だった。レッシュの動きと白いGの動き、共に人間の動きそのものだった。優美が言う「先輩には特別な力があるんです」と。その優美も白いGの動きに驚く。
EVEがまた、反応した。モニターに赤い文字が躍る。
「後ろ!!」
「がっ・・・」
そこには扉が開いていた。そこからは1本のブレードが出現する。そのブレードは、レッシュのグロリアス・ファーストの背中から腹部へと貫いた。ゆっくりと“扉”の中から現れる白いG。崩れ落ち炎に包まれたグロリアス・ファーストをただ見ているだけだった。
「隊長!!!!」
クルスは思いっきり叫んで、機体を動かそうとする。しかし、さっきのダメージで動くことが出来ない。現れたもう1機の白いGがエネルギー弾をミコとクルスの機体の前に放った。
「死にたくなければこの男のことは忘れろ」
「“F”の排除完了」
2機の白いGは開いたままのゲートへと消えていった。それもまたありえないことだった。ゲートの入り口には必ず巨大な装置が必要だと言うことを。でも今は、そんなことどうでもいいことだった。
「隊長っ!!!!」



“3”撃破の任務へ向かう直前、別の任務が入ってきた。人数が余っているため、その任務を受けることにした。
「2人で大丈夫か?」
レッシュは見上げてくる双子に目を合わせる。
「「大丈夫よ!」」
2人は見事にハモり、自信たっぷりの瞳でそう言った。レッシュは2人の様子を見てふっと笑った。
「じゃあ、いいか?」
レッシュはモニターに映し出されたミッションの内容を説明し始めた。
「これは任務なんだが、ちょっと違う。中規模戦闘に参加してもらいたい、とのことだ。世界政府軍に参加して、反政府軍の駐留部隊を叩くのが目的となる。大体はこんなもんだ。あとは現場で聞いてくれ」
「了解!」
そう答えたのは・・・、亜実の方だ。イマイチ、レッシュも区別が付きにくいが、前髪が右に流れているのが亜実、左に流れているのが亜希だった気がする。それにしてもよく似ている。性格もそっくりだ。優美はもう区別が付くらしい。何故だ・・・?
「一言だけ言わせてくれ」
レッシュは部屋を出て行こうとする2人を呼び止めた。2人同時に振り返った。
「「何ですか?」」
「死ぬなよ」
レッシュは短く、強く2人に言った。亜実と亜希は同時に「はい!」と言って部屋を後にした。


「亜実、準備はいい?」
「完璧よ!」
左右対称の装備が施された2機のハイジェンが戦闘プログラムを起動させた。それとほぼ同時にこの作戦の指揮官から通信が入る。
「あなたたちが派遣されてきた傭兵ね?」
女性だ。声も優しそうな印象な感じだ。亜実と亜希は驚く。女性がGのパイロットをやっていることは珍しいことではないが、作戦部隊長になる女性となるとかなりの腕を持つか、相当偉い人になる。
「あ・・・、は、はい」
緊張しまくって2人は挨拶して、コードネームを告げた。「KO‐1」が亜実「KO‐2」が亜希。この世界では傭兵はコードネームで呼び合う。素性を知られないためだ。だから、亜実も亜希も機体に乗ったままでこの作戦開始地点に行った。例えば、ミコは「赤き巫女」というように通称や通り名を持つ傭兵はそれで呼ばれる。亜実と亜季のコードネームは苗字から来ている。パッと見では分からないだろう。
「私はビリシャ・ラウドリー。日本語は得意だから安心して」
亜実と亜希にとっては外国人になる。彼女にしても同じことだ。何か変な感じだ。一通り作戦の概要を聞いたあと、亜実は亜希に回線を開いた。
「何か不思議な人だね」
「すっごく偉いのは確かだけど」
「それは言えてるね」
あはは、と2人が笑っていると、作戦開始の号令が掛かった。それまでの笑顔は消え、引き締まった顔に変わる。スロットルを開き、前の小隊に続いて亜実と亜希の小隊も前進し始めた。


「何!?襲撃!?」
反政府軍は奇襲攻撃に慌てふためいていた。さきほど、「世界政府軍が反対方向を向いて進軍し始めた」という偽の情報によって、戦闘態勢が解除されていた。そこを狙った襲撃だった。ビリシャは的確に指示を出す。
「Gだけを攻撃して。極力相手に死者を出さないように!」
逃げ惑う反政府軍の兵士たちを踏み潰さないように、亜実と亜希は機体を着地させた。Gに乗り込んだ兵士たちが反撃してくるが、一気に後ろに回りこんだ亜希の機体が足を斬り落とし、同時に亜実が上半身を吹っ飛ばした。そのGの上半身は損傷してはいるが、パイロットは死んではいないだろう。2人の連携は完璧だった。
「死ね!!」
亜実のハイジェンにグロウが斬りかかって来た。亜実は咄嗟に機体をひねるが、間に合わない。しかし、亜実には余裕があった。
「亜実!!」
亜希のGが横から斬り払い、グロウを弾き飛ばす。格闘能力は大輝社のGは他の追随を許さない。反応速度や、動きの滑らかさもピカイチだ。さらに2人のGは格闘能力のレスポンスをあげる改造を施しているためかなりのものだ。
「完璧」
「でしょ?」
通信障害の電波が出ているのか、声しか聞こえないが顔を見なくてもお互いの表情や気持ちが分かる。それが2人だ。その時、奥のコンテナから黒いGが表れた。シャイニングと呼ばれるグロリアス社の格闘特化型のGだ。
「みんな!」
ビリシャの号令と同時に一斉にそのシャイニングに攻撃を仕掛けた。が、それは格上だった。飛来するミサイル、銃弾をするするとかわした。次々に、バリアのようなものを張った左手で撃破していく。そのシャイニングは急所を突かず、戦闘能力だけを奪っていった。
「亜実!」
「うん!」
亜実と亜希は左右から斬りかかっていった。斬るタイミングを若干ずらし、逃げ場を無くした、はずだった。シャイニングは中に浮いていた。
「マジ!?」
「反則じゃん!」
空振りに終わって、愚痴る2人を置いて、シャイニングはビリシャのグロリアス・スーパーの前に降り立った。武器を破壊し、左手をコクピットに突きつける。亜実と亜希が助けようとしたその時、シャイニングのパイロットから通信が入ってきた。
「動かないで!この人が指揮官でしょ?貴方たちが手を引けば、攻撃しない」
「構わず攻撃して!」
ビリシャが叫ぶ。2人の機体は今回の作戦のため格闘専用の装備しかしていなかった。この間合いだと、2人が近づく前にシャイニングはビリシャのグロリアス・スーパーを破壊するだろう。2人には攻撃することが出来なかった。
「いい子ね」
そう言うとシャイニングは飛び去っていった。亜実と亜希はただ見送るしかなかった。あのシャイニングのパイロットは只者ではないことは確かだ。
「うっ・・・くっ・・・」
ビリシャの嗚咽が通信から漏れてくる。ビリシャは完敗だった。自分の不甲斐無さに腹が立つ。2人は黙ったまましばらくその場にいた。こういう形ながらも、任務は完了したことになる。どのような形でも任務は任務。ちゃんと報酬を受け取らなくてはならない。
「報酬は振り込んでおくわ・・・」
ビリシャの震える声が2人の印象に強く残った。
2人がその場をあとにしようとしたとき、突然部隊専用回線が開く。ノイズ交じりで、早口な上にパニックを起こしているようだが、2人にはそれが何を意味しているかすぐに理解できた。
「隊長が!!・・・隊長が!!」
クルスの涙声の叫びに、2人はジェネレーターが焼き切れるほどスロットルを全開にした。



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