「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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12話:消せない記憶
自分のため。
愛するもののため。
祖国のため。
信念を貫くため。
復讐のため。
そのためのG(チカラ)。そのためのモノ。彼女の理由(わけ)は復讐。愛するものを目の前で奪われた。その意思に迷いは微塵もない。そして、目の前いる。それを果たすときが来た。彼女の黒い瞳に漆黒の影が揺らぐ。
「お前は、私の!!」
桜は機体を急加速させる。ブレードを交差して突撃し、一気に距離を詰めた。“鷹”のGのリニアガンはロングタイプ。威力が高いが長い分取り回しが利かない。近づいてしまえばこっちのものだ。桜の実力とGの格闘能力があれば最強と謳われる“鷹”の撃破も不可能ではない。桜は一気に2本のブレードで斬りかかった。が、ブレードは空を斬った。そこにいる筈の黒いGがいない。次の瞬間、桜のGにロックオンの警報が響く。
「え?・・・どこから?」
翼はGを攻撃される瞬間変形させていた。人型よりは戦闘機形態の方が、先ほどの攻撃を受ける表面積は少ない。わざと揚力を失わせ地面すれすれを飛行し、桜色のGの後ろに回りこんでいた。
「・・・こんなものか」
翼は失望していた。“乱れ桜”世界政府軍でも珍しい女性のエースパイロット。その実力を確かめる前に勝負は決してしまう。戦う前の覇気が感じられなかった。翼は、完全にロックされた桜色したGめがけ、トリガーを引いた。
「やあぁー!!」
桜は機体を180度回転させ、左手のブレードでリニアガンから放たれた弾を打ち落とした。完全にロックされた攻撃は機体の中心、つまりはコクピットへと向かってくる。向かってくる場所が分かっているのならあえて避ける必要はない。そこから動かなければ、そこにしか弾は飛んでは来ないのだ。桜は緊急用のコマンドを入力し、ブレードが完璧に弾丸を捉える。機体の関節が軋しみ、警告を知らせる赤い光に桜は包まれた。
「何!?・・・ふっ・・・」
翼は撃墜された弾丸を見て気分が高鳴る。“乱れ桜”はやはり“乱れ桜”だった。さっきとは明らかに動きが違う。きっとこれが彼女の実力なのだろう。翼は機体を人型に変形させ、2本のブレードを展開する。空中で変形したため、重力を利用して、桜のGに斬りかかった。
「・・・くっ!・・・危ないっ!」
正直、このコマンドが上手く決まるとは思わなかった。それモこれも全ては“鷹”の正確無比な射撃の賜物と言ってもおかしくはない。完全にロックされた状態と言っても、気象条件、機体のバランス、パイロットの微調整で真っ直ぐ、完璧にコクピット目掛けて飛んでくる射撃はそうない。機体のバランスも高次元でまとめられている。このコマンドプログラムは完璧な射撃に基づいて初めて効果を発揮するものだ。皮肉なことにある意味、“鷹”の恐るべき力に助けられた。“鷹”は2本のブレードを構えた。あの時とは違う、腕に直接埋め込まれた内蔵式のブレードだ。ブレードを構える黒いGを見て桜の脳裏にあのときの光景が蘇る。それは愛した人の仇。
「はぁぁ!!!」
「漆黒の鷹ぁぁ!!」
2つの機体が激突する。ブレード同士の激突、鍔迫り合いとは言え、コクピットには強い衝撃が走る。翼と桜の力は互角だった。正確には翼の方が上かもしれない。翼の連続攻撃を桜は受け止める。桜のGの専用の高出力ブレードでなくては、簡単に弾けかれ、負けてしまう。桜も反撃に出るが翼との距離は遠く、お互い決定力に欠けている。格闘能力においては2人の力は均衡していた。同時に攻撃を繰り出し、2人の機体は弾け飛んだ。その衝撃で桜側の通信のスイッチがオンになってしまった。桜の声が翼に届いた。
「漆黒の鷹!!」
「何だ!?」
突然の通信に翼は驚いた。そこに若干の隙が出来る。桜は一瞬動きの鈍った黒いGを斬りつけた。機体の左肩をブレードが掠める。ジッと音を立てて、装甲が融解する。ギリギリで翼はその攻撃を回避した。
「お前は、私の!!」
「くっ!何だ!?」
聞こえてくるその声はあの時、聞いた事がある声だった。桜は攻撃を繰り出しながら言葉をぶつける。
「私の夫を殺した!!」
「夫・・・?」
その反応から“鷹”はあの時のことを忘れてしまっているようだ。殺した側は忘れても、殺された側ははっきりと覚えている。翼は一度距離を取り、戦闘機形態に機体を変形させた。背中のエネルギー砲とミサイルが火を吹く。桜はそれらを地上を高速移動して回避し、あの時のことを叫ぶ。
「オーストラリアで!白いG!」
「・・・何?」
「お前は味方“だった”私の夫を殺した!!!」
「・・・!」
空中で翼のGの動きが完全に止まった。桜は一気に飛び上がり、正面から斬りかかる。翼のGは揚力を失い、そのまま地上に落下していった。桜のブレードがまた空を斬った。
「・・・お前は・・・あの時の」
「やっと思い出したの!?」
罵る桜に翼はゆっくりと言葉を発した。忘れようと思っても忘れるはずがない。あの時のあれはずっと翼を苦しめ続けた。
あの時。
「ブラック・バード、翼機帰還しました」
オペレーターの若い女性に、がたいのいい男性が覗き込むようにして聞いた。その腕には整備主任の腕章が付けられていた。
「損傷は?」
「確認できるだけで、ブレード、スラスター、通信システム、右腕部関節です」
「よし!鷹山君が降りたら作業に掛かるぞ!」
整備作業主任がドッグにいた皆に声をかける。全員がその問いかけに答えた。まとまりのあるいい整備チームだ。翼は機体から降りると、そのまま自室へと向かう。
「おかえりな・・・って、翼君?翼君ってば!!待って!」
ヴィラの言葉にも耳を貸さず、翼は真っ直ぐ進む。部屋に入ると翼は厳重にロックを掛け、ベッドにパイロットスーツのまま突っ伏した。
「俺は・・・」
さっきの光景が目に浮かぶ。あれは何だったのだろうか?気付けば深緑のGが自らのブレードに貫かれていた。確かに翼はあの白いGを深緑のGと共に倒した。そこまでは良かった。が、何かが起きた。翼はその何かによってその行動に出た。そして、それは起きた。味方“だった”深緑のGは、翼が破壊した。
「やったか・・・?」
舞い上がる砂埃で視界はゼロに近い。あの深緑のGに乗る男からの通信だろうか。何か言っているがはっきり聞えない。粉塵が消えた瞬間、そこには衝撃の光景があった。
「・・・何!?」
倒したはずの白いGが深緑のGにブレードを付き立てていた。白いGはゆっくりとこちらを向いた。そして、右腕からブレードを引き抜き左手に構えた。
「どうなってんだ!?」
「・・・は・・・ょする」
その白いGは翼のGに斬りかかってきた。翼は右腕のブレードで白いGに突き刺した。感覚がない、が正直な感想だった。あまりにもあっけない。直感で翼はそう思った・・・。
「翼君?どうしたの?」
扉を叩くヴィラの声がする。翼は一言ギリギリ、ヴィラに聞こえるかどうかの声で「一人にしてくれ」と言っただけだった。翼がやったことは紛れも無い事実だ。白いGも倒すことが出来た。その後、翼が見た光景は衝撃のものだった。今でも翼を苦しめるその光景。
「あんたは、あの時のGパイロットか!?」
翼は桜に叫ぶ。桜は機体を着地させ動かなくなった黒いGに対峙した。
「そう・・よ!おま・・が殺し・・のよ!!」
翼はゆっくりと答えた。その事実に間違いはない。
「俺が・・・ああ、俺・・殺した。間違・・・いない」
落ち着いている“鷹”の声に桜の怒りは頂点に達した。桜は機体を動かそうとスティックを倒した・・・が、機体は少し振動した程度で前には動かない。感情に任せて機体を動かし続けた結果、桜のGには限界以上の負荷が掛かっていた。真っ赤なランプが点り、「オーバーヒート」の文字がモニターに表れていた。桜は色々試してみるが機体はウンともスンとも言わない。それから、お互いの声にノイズが走っている。さっきまではなかった事態だ。
「こんなときに!!」
桜は拳を思いっきりモニターに叩き付けた。モニターには亀裂が入る。オーバーヒートの文字が割れた。このまま“漆黒の鷹”倒されてしまうのか。だが、“鷹”に攻撃する意思は見られない。
「言い訳をする気は無ぇよ」
「ならば、ここで死ね!!」
桜は目一杯叫んだ。さっきと違いクリアに声が届く。動かない機体に出来る全てのことを施す。ここで“漆黒の鷹”を倒さなければ意味が無い。その時、桜の機体が反応する。「システム復活まで247秒」と割れたモニターに文字が表示された。あと240秒、“鷹”が何もしないとは言えない。何もしないほうがおかしい。既に、こちらの機体が動かないことにも気付いているはずだ。桜にはその時間が非常に長く感じる。
「あんたにどんな理由(わけ)があっても、俺はここで大人しく殺される訳にはいかねぇんだよ」
翼はブレードを構えた。桜は息を呑む。ここで終わってしまうのか?夫を殺した同じ相手に私も・・・。“鷹”のGの動きが再び止まる。
翼は何かに気付いた。
「何だ・・・あれは!?」
「何を言って・・・あれは・・・」
翼の声に桜も反応する。一日が終わる夕焼けの空に数百ほどの流星が煌いていた。翼は直ぐにその正体に気付いた。あれは人工の流星、つまり今の世の中考えられる流星はGの降下部隊の他にない。反政府軍は衛星軌道上でも勢力は無いと行っても等しい、降下作戦を行うと言う情報も無い。ということは世界政府軍の他に答えは無い。
「健闘を祈る」
指揮官からの言葉にモニターに向かってパイロットたちは敬礼をする。家族の写真を見つめる者、戦友同士でゲン担ぎのトランプのハートのAに軽くタッチする者。同じ降下カプセルに搭載されたG同士で会話が交わされている。そのGは見たことも無いモデルのGだった。昔からの友であり戦友でもある隣のGの男がおどけて言った。
「地上か・・・俺、地球は初めてなんだよ」
「いいところだぜ?あのクズ共を消せばな」
「ああ、俺たちの新型の力を見せてやる!」
オペレーション:メテオ・アタック発動。衛星軌道上から地球に降り注ぐ光はまさに“流星”に相応しい光景だった。反政府軍を一気に殲滅するために世界政府軍が敢行した作戦だった。既に世界の平和維持のために作られたと言われる“世界政府連合”の姿はもう、無い。更に、世界政府軍は軍独自の新型機を2機種投入してきた。1つは“足が無い”機体だった。足の代わりに巨大なジェネレーター・ホバー・システムが見える。地上での高速戦闘を目的とされたGだ。通常のGとは比較にならないほどの地上機動性を誇る。シールドとマシンガンを構えている。もう1つは、“4つの腕”を持つ機体だった。機体の両側に2本ずつ、上側はロングライフルを持ち、下側は腕自体がブレードになっていた。それ以外は他のGと変わらない。
「時間か」
「行くぜ!」
モニターに映し出されていたカウントダウンが0になったのと同時に、1つのカプセルから4機のGが出現する。数百のカプセル、1つ当たり4機。幾千の数になっているだろうか。凄まじい数のGが降り注いできた。その中には母艦になるのだろうか、戦艦の影も見える。
「何て数だ・・・」
翼がそう思った次の瞬間、翼と桜の機体の周りに無数の弾丸が着弾する。翼はとっさに機体を桜の機体から放した。
「オイ!“乱れ桜”様に当てるんじゃねぇよ!」
「分かってるよ!あの黒いヤツだろ、って、何だあの残骸は・・・全部黒いヤツがやったのか?」
降下しながら、数機のGが黒いGと桜色のGを確認し援護射撃を放ってきた。4本腕の新型だ。
「降下部隊!?オペレーションなの?」
「新型か!?・・・オイ、何だあのGは・・・」
その姿を見た翼は思わず突っ込んでしまう。4本腕のGなんて不恰好にも程がある。あれは翼の中の「G観」を叩き壊す姿だった。そして、桜の通信に「援護します」と降下部隊から通信が入る。直後、生きていた“漆黒の鷹”の回線から声が届いた。
「乱れ桜、俺でも流石にこの数じゃ無理だ」
「待て!!」
「もう会うことは無ぇだろう」
「待ちなさい!!」
桜の声を無視して、翼は戦闘機形態に機体を変形させ一気に飛び去っていった。桜は再びモニターに拳を何度も打ちつける。
「・・・何も出来なかったなんて」
自分の不甲斐無さに涙があふれてきた。機体をオーバーヒートさせるなんて、ルーキーでもやらないミスだ。怒りで一杯だったとはいえそのミスが全てだった。
「美山少佐!お怪我はありませんか?」
降下部隊の新型に乗った部隊長の声も桜には届かなかった。
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