waiting for the changes

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16話:友の言葉


レッシュは追撃してくるブラック・バードを回避しながらそれの後ろに回り込もうと試みる。だが、機動力はクリムゾン・イーグルよりブラック・バードの方が上のようだ。レッシュは常に後手に回ってしまう。“あの時”のブラック・バードにはグラビティー・キャンセラーが搭載されていた。よって、激しい動きをしても一般の戦闘機程度のGしか影響を受けないはずだ。だが、このブラック・バードは“あの時”より遥かにスピードは上回っている。“羽ばたき”も切り返しも滑らかだ。つまり、パイロットにかかるGは“あの時”に比べて半端なものではないということになる。グラビティー・キャンセラーがあってもアレだけの動きをできるパイロットは数えるほどしかいないだろう。機動力、火力が段違いだ。

そして、レッシュはあのような動きを出来るパイロットを知っている。
だが、彼は3年前目の前、白いGに敗れ、海に消えた。

「だとすれば誰が・・・!?」


「んだと!?」
その“赤いブラック・バード”は翼の追撃をことごとく回避する。見たところ、“赤いブラック・バード”は重装備を施しているようだ。機動力ではこちらのほうが上のはず。だが、翼は捉えきれずにいた。何度も後ろに回りこみ、ミサイルロックしようとしても、それが分かっているように“羽ばたいて”回避する。この戦闘機のパイロットはかなり出来るヤツだと翼は感じる。

「コイツ・・・何者だ?」

嘗て、翼が“漆黒の鷹”と呼ばれる前、翼を破った男がいた。彼は“あの時”以来消息を絶って今は何をしているか分からない。恐らくあのあとあの白いGたちに撃破されたのだろう。
“ブラック・バード”は“赤いブラック・バード”の後ろに付いた。空気が乱れ、機体が振動する。警告灯が光り、コクピットが赤く染まる。翼は瞬時にバランスを調整し、“羽ばたき”でそれらを皆無にした。“赤いブラック・バード”は何とか振り切ろうと“羽ばたく翼”を利用して、わざと後方への空気の流れを乱す。そうすることによって追撃が難しくなるはずだ。だが、後ろに付いているのはあの“ブラック・バード”。今や敵無しと言われる“漆黒の鷹”と呼ばれる機体だ。機体の能力は、レッシュは良く知っている。パイロットも相当な腕の持ち主と見える。“ブラック・バード”は同じように羽ばたいて合わせて来た。
「くっ!振り切れない!」
音速の領域で飛行する2機の戦闘機がまるで、鳥同士が空で戦っているように見える。戦闘機であって戦闘機で無いその動き。それは次元の違う戦いだった。ブリッツェンもただ見守るしかできなかった。今になってようやく、レッシュが“漆黒の鷹”と激突していると言う情報が入ってきた。
「隊長が“漆黒の鷹”と接触中!・・・詳細は不明です」
「何ですって!?」
友子が射撃管制の席に座ったミコに振り返りながら言う。すでにレイザー周辺のGは居なくなったが、レッシュが戻らないことに皆が心配していた。シェリーは援護に行こうと提案したが、すぐさま優美がそれを止めた。
「・・・行っちゃダメです」
「why!?隊長ピンチなのよ?」
「だけど・・・行っちゃダメなの。どうしてか分からないけど・・・ダメ」
優美は望遠のため画像の荒い激突する赤と黒の戦闘機を映し出したモニターを見つめながら言う。シェリーはいつもと違う優美の雰囲気に少し考えて、「O.K」と言った。


「捉えたぜ・・・」
オートロックだと“赤いブラック・バード”は簡単に回避してしまう。それならば、マニュアルでロックし、その瞬間にミサイルを放てばいい。オートロックだと正確を期すため若干のタイムラグが生じるからだ。“赤いブラック・バード”の能力を持ってすれば、そのタイムラグ内にロックを回避することも可能と言えるだろう。だが、マニュアルロックだと相当な腕が必要となる。翼にとっては簡単なことだ。それにマニュアルロックはロック感知システムに感知されにくい利点もある。“ブラック・バード”はミサイルを放った。
「ミサイル発射!来ます!」
「分かってる!!」
EVEが警告したが、レッシュは分かっていたようだ。レッシュはクリムゾン・イーグルを加速させた。背中にゾクゾクとした感覚を覚える。レッシュは「Linker」モードでいる時は攻撃をそのように感じていた。言葉では表現できない、感覚の部分だ。ミサイルが直ぐ後ろに来ていた。レッシュは限界点までスピードを高める。Gが掛かり赤い警告灯がすべての状況を物語っていた。このままではミサイルに撃破されてしまう。が、“これ”はただの戦闘機ではない。“世界初の技術”を流用したとされる“クリムゾン・イーグル”は通常の戦闘機の戦い方は通用しない。レッシュは機体を急激に降下させた。重力の影響も加わり、機体が更に加速する。機体が限界を超えようとしたとき、レッシュは機体を変形させ、180度体をひねった。振り向きざまに、赤いGは“シルバー・アロー”を放った。
「行けぇ!!」
ミサイルを捉え爆発する。更に“漆黒の鷹”を掠めた。変形したことに翼は驚かなかった。正確言えば驚いたのだが、それを上回ることが直後に起きた。戦闘機からGへと変形したそれはエネルギー兵器を3連射した。

そう、“あれ”と同じように。

「何だと!?」
翼は機体を人型に変形させ、赤いGと対峙した。
それぞれ銃器を構えた。
赤いGは飛行しながら、エネルギー弾を連射する。
恐ろしく正確な射撃だ。
それをギリギリで回避しながら黒いGもリニアガンで反撃に出た。
すると赤いGは盾を持った左手で背中のブレードを抜きリニア弾を撃墜する。
そして、ブレードを背中にしまいながら機体を横に伸ばし、右手に持った長いライフルからエネルギー弾を放った。その動きはとても滑らかで、人間の動きそのものだった。プログラムの動きではあそこまではいかない。人間臭い動き、つまりは・・・翼の答えはひとつだった。
「お前は・・・!!」


目の前にいる赤いG。
この“ブラック・バード”と同じG。
それだけではただの敵だ。だが、それだけではない。
連射されるエネルギー兵器。
人間臭い動き。
・・・そして、この感覚。
「“アイツ等”か!!」
「何だ!?・・・速いっ!」
翼は機体を加速させ、赤いGにリニアガンを放ちながら突っ込む。赤いGはシールドで受け流した。レッシュは攻撃が止むと同時に“シルバー・アロー”を構えた。目の前にはリニアガンを切り離した黒いGがいた。それぞれの腕からはブレードの光が伸び、腕を交差させながら斬りかかって来た。クリムゾン・イーグルはシルバー・アローを後ろにしまいこみ、背中から2本のブレードを抜く。2機は激しく激突し、4本のブレードから光が走る。ブレードの出力ではクリムゾン・イーグルの方が上だった。
「ちっ!出力が違うか!?・・・けどなぁ!」
「・・・パワーでは上のはず!」
お互い弾かれ、錐揉み状態で落下していく。レッシュは直ぐに体勢を立て直し、機体を安定状態にする。それを見届けるかのように直後、翼も体勢を立て直した。間違いない。翼の勘が確信に変わる。あの動き、あの反応速度、白いGのヤツ等だ。
「今度は俺と同じ機体とはな!!」
翼はブラック・バードを高速で回転させながら突っ込んできた。レッシュはブレードでガードしたが、ブレードが粉々に砕けて爆発する。そのまま、反動でクリムゾン・イーグルは吹っ飛ばされた。
「何!?・・・損傷は無いな」
レッシュは一瞬で機体の損傷度合いを知る。すべてが思い通りに動く状態ではこのようなことも可能だ。ギリギリのところでブレードを投げ捨て、損傷を免れる。高出力のブレードほど、破壊されたときの爆発、エネルギーの放出は大きい。ブラック・バードは攻撃の手を休めない。ブレードによる連続攻撃を仕掛けてきた。
「はあぁぁぁぁ!!!」
レッシュはそれを人間臭い動きで回避する。上半身だけを動かし、最小限の行動でそれらを回避した。そして、“シルバー・アロー”を至近距離から放った。
「そこだっ!」
「何だこの動きは!?・・・くそっ!」
攻撃の一瞬の隙。その瞬間にこの赤いGはエネルギー弾を放ってきた。そして、今までに見たこと無いような上半身だけで回避するとは。空中だからこそできる動きなのだが、この赤いGのパイロットは“白いG”のヤツ等の中でもトップクラスなのだろう。こうやって、翼が考えながら機体を動かしている間にも、赤いGのパイロットはエネルギー兵器を連射している。EVEは攻撃が当たらない事に苛立ち始めた。
「攻撃当たりません!ロック修正。回避率補正・・・ダメです」
「“漆黒の鷹”というわけか・・・こっちの攻撃が読まれているのか」
レッシュはEVEをなだめながら最適の射撃位置を探る。やはりEVEは不思議なAIだ。レッシュはふっと笑う。そして、目の前にいる黒いGを見た。いくら最強と呼ばれる相手でも突破口は無いはずが無い。どこかにそれがあるはずだ。レッシュはけん制でエネルギー弾を撃ちながら、それを探った。レッシュは在らぬ方向にエネルギー弾を放った。
「ああっ!?ロックでも壊れたか?」
「どこへ撃っているのですか?対象は・・・」
「静かにしろ!こっちは作戦があるんだ!」
レッシュはEVEの言葉を遮り次は回避することを見越して今度は左側にエネルギー弾を放った。そしてすぐさま機体の右下に弾を放つ。黒いGはそれをギリギリで回避したが回避した先にエネルギー弾が真っ直ぐ向かってきた。翼は揚力を失わせ、重力の影響でそれを回避した。頭部を掠め、カメラの映像が乱れる。そこにもエネルギー弾が飛ぶ。次々と行き先に飛んできるエネルギー弾が機体を掠めた。“漆黒の鷹”と呼ばれるようになって以来、ここまで追い詰められたのは初めてだ。その中で翼は何かを感じる。
「・・・何だ?・・・この戦略どこかで・・・?」
翼は赤いGの攻撃の方法に覚えがあった。敵を追い詰めるこの攻撃方法。翼は嘗てこの攻撃方法で落とされたことがあった。戦闘機でなければやられていただろう。この攻撃をしてきた唯一の人物、彼はその名前を、全方位通信をかけて呼んだ。それは長い間口にしなかった名前だった。

「レッシュなのか!?」

「何だ・・・?」
レッシュはその声に聞き覚えがあった。でも思い出せない。とても懐かしい感じはする。
「レッシュなんだろ!?」
“漆黒の鷹”は機体を止め赤いGに語りかけた。2度目に自分の名前を呼ばれたときレッシュは確信を持つ。それは“あの時”海に消えた友の声だった。
「・・・タカなのか?」
「レッシュ!お前何やってんだよ!?」
「お前が“漆黒の鷹”とはな」
3年振りに聞いたお互いのその声は何の変わりもなかった。だが、友の再会に戦争の渦がそれを引き裂く。“扉”が開いた。それと同時に通信が入る。いつの間にか通信障害は解消されていた。
「“漆黒の鷹”!!貴殿の目の前にいるのはエデン・チルドレンだ!彼は反政府軍の大部隊を撃破したとされる“F”と呼ばれるやつだ。ソイツの存在は危険だ。消せ!!」
現れた反政府軍の大部隊の指揮官は翼に命令した。2日前、世界政府軍の太平洋フロートを撃破した大部隊が一瞬にして撃破された。そして、部隊は直後に消息を絶った。その後確認されたのは“赤い鷹”だった。
「んだと!?んなわけあるか!レッシュがそんなことする訳ねぇ!!」
翼は真っ向から反論する。だが、指揮官はレッシュの撃破を急かした。
「間違いない!我々も今手に入れた情報だ。レッシュ・ヴィレドル。“F”の名前とコイツの出生が傭兵組織のデータから抹消されている。やつは世界を滅ぼすエデン・チルドレンなのだ!」
「・・・そうか、エデン・チルドレン、レッシュがそうなのか!?」
翼は赤いGに向き直った。赤いGの後方には傭兵組織の大部隊がこちらに向かってくる。あの動きの説明がつく。レッシュがエデン・チルドレンならば人間臭い動きも可能なのだろう。いつも間にか翼の後方には反政府軍の大部隊がいた。指揮官は更に続ける。それは翼のことを兄のように慕う少年の死を告げる言葉だった。
「・・・ニーバル・ハイオルスも彼によって戦死した」
「ニーバルが!?・・・レッシュ!!」
指揮官は翼の身近な人物たちの死を告げる。太平洋フロートを襲撃したのは翼たちと交流の多い部隊だった。翼はレッシュの赤い機体に斬りかかった。
「タカ!?・・・何だ!?」
突然の出来事にレッシュは戸惑う。だが、黒いGは止まらない。
「何の話だ!?」
レッシュは翼の攻撃を回避しながら必死に呼びかける。だが、翼はそれに応じない。
「お前は俺が殺す!!・・・かかって来いや!!」
「これは戦争だ!そんな理由で!!」
このままではやられる。だが、こんなところで死ぬわけにはいかない。それに翼にも聞きたい事がある。レッシュは反撃に出た。“シルバー・アロー”を連続発射する。翼はそれを回避した。が、後方にいた空中艦やGを捉えた。爆発し、反政府軍の陣形が乱れる。
「ヤツはエデン・チルドレンだ!世界を滅ぼすモノの子供だ!容赦はいらない。破壊しろ!!」
レッシュの機体に火線が集中する。レッシュはそれらを回避しながら翼に叫んだ。
黒いGも迫る。
「タカ!!エデン・チルドレンって何なんだ!?」
「世界を滅ぼすモノの“子供”だ!お前は・・・あってはならねぇ存在なんだよ!!ニーバルを殺した!どうあってもお前は俺が殺す!!」
「それだけじゃ分からない!」
翼は斬りかかりながら強い言葉で真実を告げた。翼はこのときは怒りに任せた言葉だった。後になって後悔する事になるのだが、そんなことを考えている余裕は翼にはなかった。それは聞きたくなかった事実だった。
「じゃあ、教えてやる!!エデン・チルドレンは・・・人工の人間だ!Gのパイロットになる為だけに生み出された・・・“兵器”なんだよ!!」
「何・・・?」
レッシュの動きが止まった。翼はここぞとばかりに斬りかかる。その時、EVEの緊急プログラムが起動した。直撃は避けたが左手を失う。コクピットにも強い衝撃が走り、視界が全て砂嵐になった。Linkerモードを強制的に解除する。EVEは戦闘機へと機体を変形させレイザーへと運んだ。
「レッシュ!しっかりしてください!レッシュ!!」
「レッシュ逃げるのか!?・・・くっ!?」
叫ぶ翼を反政府軍の大部隊が阻んだ。この弾幕の中では弾切れ寸前の今の状態では生き残るのは難しい。丁度、オペレーターからの帰還命令が入った。
「鷹山機、ハイオルス機、直ちに帰還してください」
「・・・了解」
翼はギリッと歯をかみ締め母艦へと進路を取った。
「レッシュ・・・お前は必ず俺が・・・」


「あぐっ・・・」
グロリアス・スーパーが地面に落ちる。ヴィラが止めを刺そうとしたとき、帰還命令が入った。
「また命拾いね」
ヴィラは海面ギリギリと飛び去っていく。視界が全くきかないコクピットの中でビリシャはモニターを殴りつける。あの黒いシャイニングに2度も敗北し、2度も生き残ることが出来た。彼女にとっては屈辱的なことだった。
「・・・何故だ・・・何故・・・」
彼女の嗚咽を聞く者は周りには誰もいなかった。


「隊長機被弾、損傷度中!緊急着艦!」
友子の言葉に皆が凍りつく。優美は格納庫へと急ぐ。ミコは指令を出した。
「このエリアを離脱、回りこんでシアトルへ向かうわ!」
「了解!」
シェリーがレイザーの出力を上げ戦闘エリアから離脱する。傭兵部隊と反政府軍の激突が始まった。翔もスピルスで護衛し始める。
息を切らした優美が格納庫につくとレッシュが隅のほうに座り込んでいた。優美はそっと近づくと、レッシュは震えていた。友の言葉が胸に突き刺さる。

「俺が・・・兵器・・・。俺は兵器なのか!?」

レッシュは優美を見上げ問いかける。そんなレッシュを見て優美はやさしく微笑んで、そっと抱きしめた。
「大丈夫。あなたはレッシュよ。他の何者でもないから。だから・・・」
レッシュは恐怖と告げられた事実に怯え、優美にしがみついた。優美は不安で一杯の心を抑えてそっと語りかけた。

「あなたは、あなただから・・・」



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