「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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20話:THANK YOU
優美は格納庫に帰ってきたレッド・バードから降りてきたレッシュに飛びつく。あまりの嬉しさにぎゅっと抱きしめた。優美の目から涙が溢れ、優美はレッシュの胸に顔を埋める。レッシュもそっと、彼女を抱きしめた。その光景をメンバーがみんなで見ていた。こういう状況ではクルスは黙っていられない。頭をぽりぽりと掻きながら笑う。
「あのさー・・・いい雰囲気の悪いんだけど、私たちもいるんだけど・・・」
「あっ!す、すいません!」
優美は真っ赤になって、レッシュから離れた。クルスはにやにや笑って、優美に近づいて、小突いた。
「まぁー、私はいいけどねー・・・」
「あ・・・その・・・」
「うふふ・・・いでっ!」
クルスは背後から頭をチョップされて後ろを振り返った。ミコが怖い顔して立っていたが、目が笑っている。
「もう、優美ちゃん困らせちゃだめじゃない」
「あのねー・・・」
クルスとミコが言い合いをはじめるのを見てレッシュはほっとため息を付く。みんな変わらない。ほんの2、3日の間の出来事だったが、レッシュには何日も長く感じられた。レッシュはゆっくりとみんなを見渡し、口を開いた。
「話さなければならないことがあるんだ」
過去のこと。
自分自身のこと。
そして、これからのこと。
レッシュは知っていて欲しかった。
レッシュが自分の力に気づいたのはゲームセンターに行った時の事だった。
「レッシュ!これやろうぜー」
翔がレッシュを手招く。それは今流行のロボットを操作して戦うというゲームだった。当時は“ギガス”と“ヒューマノイド”の前身となる歩行ロボが普及し始めた頃だった。それは主に作業用として作られ、このゲームはその作業用ロボに武装を施し、対戦させるという内容だった。
「これって、今流行のやつか?」
「レッシュやったことないのかー?大体分かるだろ、お前そういうの得意じゃん」
「とりあえず、やってみるか」
翔はコクピットを模して作られたシートに座る。レッシュも隣の媒体に腰掛けた。2本のメインレバーに武器発射のスイッチ、2つのペダル。補助するのかシフトノブのようなものがシートの左側についていた。翔はこちらを向きながら画面を指差した。
「俺、“ファントム”使うから、レッシュは“ストーム”使えよ!」
「“ストーム”?」
「上から3番目の機体だよ。初心者でも扱いやすくて、強いんだぜ?」
翔は自分のモニターに向き直り、“ファントム”と表示された軽くて速そうな機体を選んだ。レッシュは最初に行われる初心者訓練というものを一通り受けた後、翔と対戦することになった。レッシュはシートに座ったときから何か変な感じを受けた。
「あれ?・・・俺これ初めてなのに・・・」
初めてやるゲームなのにレッシュは、思い通りに動かせるような気がした。横では自信満々な翔が笑っている。手加減しないつもりだろう。
「じゃあ、行くぜ!」
翔がバトルスタートのボタンを押した。「GO!!!」と言う文字と共に、視界が開け、戦闘が始まった。やはり、いきなりはじめたレッシュの動きは硬く、ぎこちない。必死だった。翔は“ファントム”を華麗に操り、熱線を利用したカッターで斬りかかって来た。
「無理無理!!」
レッシュは必死にレバーを倒す。だが、間に合わなかった。レッシュは必死にペダルを踏み叫んだ。
「動けぇぇ!」
その時だった。翔の“ファントム”のカッターが空を切った。一瞬、レッシュも翔も見ていたギャラリーも何が起きたか分からなかった。ただ一ついえることは、“ストーム”が“ファントム”の後ろに回りこんでいたことだった。
「え?」
「行けっ!」
“ストーム”のバズーカが“ファントム”を捉えた。“ファントム”が爆発し、翔の方のモニターに「YOU LOSE」の文字が表示される。ゲームの媒体から降りてきたレッシュに翔はビックリして聞いた。
「すげー、何やったんだ?」
「さぁ・・・?」
「え?お前、覚えてないの?」
レッシュは頷く。その時だった。後ろから少し年上の男の人に声を掛けられる。
「君凄いね。俺と勝負してくれない?・・・あ、お金は俺が出すから」
「あ、はい。いいですよ」
レッシュはその男の人との対戦でもさっきの“力”を発揮していた。最初の頃は決まってピンチにならないと“その力”が発揮できなかった。だが、レッシュは徐々にその力の本質が分かってきているようだった。いつの間にか、レッシュは、そのゲームで有名人になっていた。翔はゲームセンターのベンチでジュースを飲みながら笑う。
「めっちゃ有名人じゃん。しかも“不敗のレッシュ”だもんな」
「あはは。対戦申し込まれるから大変だよ」
「その変な力、思うように使えるようになったんだろ?じゃあ、いいじゃん」
翔はジュースを一口飲んで、肩をポンポンと叩いた。その時、一人の制服を着た男性に声を掛けられた。
「君が“不敗のレッシュ”かい?」
「あ、はい」
「僕は、傭技専の巨人機科の者だけど、僕と勝負してくれるかい?」
店内がざわめく。傭技専と言えば、かなり有名な学校だからだ。その学校に入学し卒業するだけで、様々な業種に就職することが出来る。巨人機科というのは最近新設された、小型ロボの操作技術を専門に教える学科だった。その、傭技専から来たと言う青年に対戦を申し込まれたと言うことは、スカウトと考えてもいい。このゲームは裏でそういう意味もあった。だから、傭技専に入りたい子供たちがこの後こぞって始め、一大ブームが起きた。そのあと、Gが開発されることになる。
「わかりました」
レッシュは立ち上がって、そのゲーム媒体へと歩いていった。
ここまで話すと、レッシュはお茶の入ったカップを持って立ち上がった。窓の外は森が覆い茂る。シアトルから200キロ以上離れた山奥にレイザーを降ろしてレッシュはみんなに話をしていた。食堂(といってもの食事スペースの方が近い)のテーブルを囲んでみんな座っていた。レッシュの隣から時計回りに、優美、クルス、ミコ、亜希、亜実、シェリー、真琴、友子、貴子、翔、そして、レッシュに戻る。いつもの傭兵の制服姿だ。傭兵の制服はかなり自由度が高く、基本となるデザインから変更が加えられていることが多い。彼女たちも皆個性的な制服を着ている。クルスは続きが気になってレッシュに質問した。
「ねぇ、隊長はその後どうなったの?そいつに勝ったの?」
「ああ、勝った」
「圧勝だったな、あれは。」
翔がコーヒーを啜りながら笑う。その後レッシュはスカウトされたと続けた。クルスは手をパチンと叩いて笑う。
「凄いじゃん!それで、傭兵になったの?」
「いや、俺はそこで断ったんだよ」
「えっ!?」
クルスは固まる。予想外の展開に横に座っていたミコもコーヒーを飲む手が止まった。普通なら、そのまま傭兵となって、素晴らしい結果を出しているかと思ったからだ。あの戦いを見れば安易に予想できる。
「でも、結局隊長は傭兵になったんですよね?」
亜実が挙手をして質問してくる。レッシュは頷いて、その経緯を話し出した。
「はぁ?飛行機のパイロットになる?」
レッシュの言葉に翔は思わず大きな声を出してしまった。周りを見渡して一頻り謝ったあと、レッシュに向き直った。
「お前、前に巨人科にスカウトされただろ?航空科に行くのか?」
「ああ、航空科の方に俺は行く」
その顔を見た翔はそれ以上、何も言わなかった。翔は巨人科への進学を予定していた。レッシュも同じように来ると思っていたようだ。
「出来れば、お前と一緒にチーム組みたかったんだけどな」
「俺は、他の・・・飛行機の世界で試してみたい。こう言ったら何だけど、ギガスは“見える”ような気がするんだ」
レッシュのその理由に翔は頷いた。確かに、ゲームとは言え、あの後も不敗伝説を続けたレッシュは巨人科では必ず活躍できると思っていた。調子に乗った考えかもしれないが、レッシュの力はそんなレベルのものじゃなかった。
「ま、会おうと思えばいつでも会えるしな!」
「そうだな。お互いがんばろうぜ」
「ああ」
傭兵技術専門学校の試験まで3ヶ月のことだった。
「まあ、またお前がGに乗るってことも運命だったのかもしれないな」
「かもな」
レッシュと翔が顔を見合わせて笑う。真琴が笑って2人を見ていた。
「なんかいいね」
「ん?何だ?」
翔とレッシュが同時に真琴のほうを向いた。真琴は肘を付きながら言う。
「私ってさ、男の子のそういう関係に憧れてたんだ」
「へー・・・」
「何かカッコいいじゃない?男の友情ってさ。「別々のところに行ってもお互い頑張ろうぜ!」みたいなのがさ」
真琴は親指を立てて、ポーズをつけて話す。
「そうか?」
と言って、レッシュと翔はまた笑った。優美もクルスもミコもみんなで笑った。
話は本題へと進む。
「そこで・・・航空科で組んでいたのがタカ・・・“漆黒の鷹”の鷹山翼だ」
その事実に皆が驚いた。驚いたと言う次元の話ではない。あの反政府軍の英雄、“漆黒の鷹”と同じ学校に行き、そして、チームまで組んでいたと言うのだ。ミコが優美に早口で聞いた。レッシュと一緒にいる優美なら何か知っていると思ったからだ。
「優美ちゃん、本当なの?」
「はい・・・翼さんは、レッシュとチームを組んでいた人です。私も、“漆黒の鷹”が翼さんとは思いませんでした。・・・私もあの時、レッシュが・・・その時に聞いただけです」
「そうなの・・・」
ミコは優美の辛そうな雰囲気を見て、それ以上聞くのをやめた。そして、レッシュは静かに続ける。自分が何者であるかを。
「俺は、“エデン・チルドレン”20年以上前の“エデン計画”で生み出された・・・兵器だ」
「え・・・?」
皆の顔が凍りついた。“エデン・チルドレン”最近よく耳にするようになった言葉だった。だが、その正体はよく分からず、彼女たちは忌むべき存在と聞かされていた。
「驚いたか?俺の・・・あの能力も全部、“兵器”だからこそあったんだよ。それを、アイツに・・・タカに聞かされた」
レッシュはカップを両手で包んで下を向いた。共に戦っていた友と戦うことになってしまった事、その友から伝えられた聞きたくも無かった真実。それがレッシュを苦しめた。皆口を開かない。メンバーを見渡して、レッシュは問いかけた。
「俺はこのまま行く。この運命に抗うつもりだ。あの“白いG”たち・・・あいつ等が鍵を握っていると俺は思う。それに、タカは俺が倒さなければならない相手だ。もし、“兵器”である俺と一緒にいられないなら、俺はここから独りでも行く」
静かに話すレッシュの言葉の後に沈黙が流れる。一番に立ち上がったのは優美だった。泣き出しそうな顔でレッシュを見つめた
「私は・・・何があっても、レッシュと一緒にいます!・・・前にも言ったでしょ?」
優美は最後に優しい顔に変わった。レッシュはそれを見て「ありがとう」と言った。クルスがふて腐れた感じでレッシュの方を向いた。
「あー、先越されちゃった・・・私が一番に付いて行くって言うつもりだったのになぁ」
「ちょっ、クルス!もっと考えて言いなさいってば!」
場の空気を考えていないと思ったミコはクルスを制止した。クルスはそれを押しのけて、ミコに声を荒げた。
「隊長が“兵器”だって!?そんなの信じられるわけ無いじゃん!でもさ、今の隊長はこの人なんだよ?・・・私は隊長についていくわ、ミコが嫌ならサヨナラね!」
「そんなこと言ってるんじゃないでしょ!?私は・・・」
「私はどうだって言うの!?・・・隊長が怖いんでしょ?私も正直怖いわよ!!でも、優美っちが好きな人なんだよ?・・・例え“兵器”だとしても、私は隊長がそうはならないことを信じてる」
「なっ・・・」
ミコは何も言い返せなかった。ミコは怯えていた。今、目の前にいる男は“エデン・チルドレン”。彼の言葉が正しく“兵器”だとすれば、いつ彼が兵器として私たちに矛先を向けるか分からない。それが怖かった。だが、クルスは「怖い」とはっきり言った。そして「信じている」と。ミコは自分の心の弱さに涙が溢れてきた。
「私は・・・私は!!」
「ミコ」
隊長の声がする。隊長になって間もないのだが、聞きなれた声だ。その声が優しいと感じるようになる。
「直ぐに答えを出さなくてもいい。ゆっくり考えてくれ」
ただ、ミコは泣くしかできなかった。
「他の皆はどうする?」
レッシュは他のメンバーを見渡した。真琴がため息を付いて言った。
「しょうがないわねぇ。レッド・バードの面倒は私が見てあげるよ」
亜実と亜希もそろった声で言う。
「「私たちも付いていきます!」」
横に座っていた翔が、友子と貴子とシェリーの方を向いた。
「君たちはどうする?」
「翔・・・」
レッシュが翔のほうを向く。申し訳なさそうにしているレッシュに翔はいつもと変わらないおどけた笑顔で答えた。
「まあ、幼馴染のよしみだ。援護くらいしか出来ないが、ヨロシクな」
「悪いな」
レッシュの返答が終わると同時にシェリーが挙手をする。
「私も付いて行くよ!・・・トモは来ないの?」
シェリーの問いかけに友子は直ぐに答えた。
「私も行きます」
「翔さんは行くんですよね・・・?」
貴子はもう一度翔に確認した。翔は無言で頷く。それを見た貴子はレッシュの方をゆっくりと向いた。
「私も、一緒に行きます」
ミコは机に伏せて泣きながら皆の言葉を聞いていた。皆は直ぐに返事を出した。他の皆はこれからも一緒に行くと答えを出した。出していないのは私だけ。そっと肩を叩かれた。見上げるとクルスだった。
「ねぇ、もう答えでてるんでしょ?」
「・・・え?」
「一緒に行きましょ?・・・隊長だってそうして欲しいはずだってば」
突然話が自分に向けられ、レッシュも驚く。でも、それが、クルスなりの優しさだと気づくのには時間は掛からなかった。
「私は・・・」
目からポロポロと涙が溢れ、みっともない姿を晒しているとミコは自分が恥ずかしくなった。
「じゃあ、こうしよ!今は一緒に行く。もし、嫌になったら・・・」
「そんなこと!!」
「そんなこと・・・?」
ミコは一度レッシュに目をやった後、クルスを見上げた。
「嫌になるなんて・・・そんなことできるわけ無いじゃない」
そう言うとミコはクルスの胸に顔を埋める。クルスは抱きしめて頭をなでた。そして、レッシュの方を向き直り、笑って言った。
「じゃ、決まりね。皆で隊長をサポートする!全員一致!!」
そのことばに熱いものがレッシュの胸にこみ上げる。
そして、一言だけレッシュは言った。
「ありがとう」
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