「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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22話:勝者と敗者
いとも簡単に仲間を倒されたことで翼は怒りを覚える。怒りで沸騰しそうな頭を抑えて
“無限”に向かう。
だが、格が違いすぎた。
“無限”の強さは次元を超えている。
「くっ!攻撃が掠りもしねぇ!!」
遠い。
こんなにも遠いのか。
世界政府軍で最強と呼ばれ、恐らく世界最強と目される男との距離は。
翼も反政府軍最強と呼ばれている男だ。
自分の腕には自信があった。
だが、その自信も“無限”には通用しない。
ヴィラとバラッドを行動不能にした白いGと黒いGが対象をこちらに変える。
“無限”が静かに命令を下す。
「プランCをキャンセル、プランDにシフト」
「「了解」」
彼らはどこまでも冷静だった。そして強い。翼は彼らが感情のない人間に思えてくる。3機に囲まれ、窮地に陥ってしまう。逃げ切れない、そう覚悟したその時だった。
「食らえ!!」
「・・・まだ機体が生きていたか」
バラッドが背中のキャノン砲を白いGの背中を捉えた。大きな爆発が起きる。青白いGはよろめきもせずバラッドの方に向いた。やはり無傷だった。Gに搭載されたジェネレーター・フィールドの限界ダメージはそれほど高くない。それを突破するだけの威力が今の一撃にはあったはずだ。バラッドは目の前の事実に愕然とする。
「馬鹿・・・な!?ジェネレーター・フィールドは突破したはず・・・」
「・・・違う。ジェネレーター・フィールドではない。ジェネレーター・バリアだ」
「な・・・に?」
突如通信が開いた。彼らはバラッドたちの通信を傍受していたようだ。切り替えしてきた白いGはブレードを抜きバラッドのGに真っ直ぐ向かう。バラッドは必死に機体を動かすが言うことを聞いてはくれない。その白いGから聞こえてくる声はとても若く感じられた。だが、驚くほど冷静な声だった。
「このMK-1を甘く見るなよ」
「くそっ!」
「させない!!」
MK-1と呼ばれた白いGとバラッドのGとの間に黒い傷ついた機体が割って入る。ヴィラのシャイニングはバスターナックルでそのブレードを受け止めた。コクピットには赤いランプが灯り機体性能の限界を知らせる。さらにヴィラは右手のブレードもMK-1のブレードに当てた。
「うっ・・・出力が・・・」
「ヴィラ!!」
「早く・・・逃げて!!」
ヴィラの必死の声にバラッドはブースターを全開にする。地面を削るようにしてバラッドのGはその場を離れた。が、上から次の脅威が迫る。
「逃がすわけにはいかない!」
黒と赤のGだった。2本のブレードが残っていた足と、背中のキャノン砲に突き刺さる。バラッドのGは胴体だけの姿になってしまった。
「があっ!」
「バラッド!!・・・お前ぇ!!」
翼のブラック・バードの内蔵型ブレードから2本の刃が発生する。出力が負けているとかそんなことどうでもよかった。ブラック・バードが黒と赤のMK-1に斬りかかった。黒と赤のMK-1はバラッドの機体からブレードを引き抜き、構えた。彼はブラック・バードが“斬りかかって来る”と思っていた。動作もそれだった。だが彼は、“マサ”は一つ考えに入れてないことがあった。ブラック・バードは世界初の戦闘機に変形するGだということ。目の前でGは戦闘機へと姿を変える。反応したがもう遅かった。
「行けぇぇ!!!」
「くそっ!!」
至近距離でリニアライフルが火を噴いた。とっさに回避に出た黒と赤のMK-1の左のブレードを吹き飛ばした。と、同時にマニピュレーターも吹き飛ばした。どんなに強力な防御力を持つGでも可動の多い手だけは防御しきれない。逃げようとするGに翼は追い討ちを掛ける。もう一度人型に変形し、関節部に狙いを定めた。装甲に対して攻撃が効かないのなら撃破は厳しい。それならば関節部を破壊して行動不能に陥らせるより他には無い。
「関節なら効くだろうよ!」
ブラック・バードのリニアライフルが火を噴いた瞬間だった。横からGの赤に白いラインの入った腕が伸びる。リニアライフルに手を添え発射角度を変えた。発射された弾丸は逸れ青い空に消える。
「私を忘れてはいないだろうな」
「くそっ!!」
そこにはムゲンが居た。リニアライフルを握り、Gの顔だけがこちらを向いた。そして、ライフルを突き上げると、ムゲンはくるっとその場で一回転した。直後、ブラック・バードに凄まじい衝撃が走る。吹き飛ばされたブラック・バードが砂煙を上げて止まった。“無限”は後ろ回し蹴りをしたのだ。とんでもないバランス感覚を持つ機体。通常のGでは考えられない動き。ムゲンは高次元のバランスでまとめられたGのようだ。だが、翼はそれ以上のことを見る。蹴り終わったあと、そのムゲンの動きは人間そのものだった。両手を腰のところで拳を作り、息をふーと吐いているように見えた。あたかも空手の技を出したのかのようだった。
「馬鹿な・・・お前も・・・!アイツと同じ“エデン・チルドレン”なのか!?」
「エデン・・・ああ、“アーティファクト”のことか」
「何!?」
「会ったことがあるのか・・・」
“無限”は聞いたことのない言葉を放った。“アーティファクト”。世界政府軍はそう呼んでいるのだろうか。同時にヴィラのシャイニングも吹き飛ばされ、ブラック・バードの横に倒れる。右足と左腕が無い状態だった。
「ヴィラ!!」
「彼女の心配をしている場合ではない」
“無限”は一言放つとムゲンを加速させる。機体形状が変化した。肩と腕と足の一部がスライドした。そして、背中にも小型の羽根とブースターを展開させた。速い。速いという次元ではない。速すぎる。武器も使わず、ブラック・バードを吹っ飛ばした。
「ぐああぁ!!」
グラビティー・キャンセラーが振り切れる。凄まじいGが翼を襲った。機体にエラーが起き、システムがダウンした。機体が全く動かない。
「・・・ダウンしたか」
「・・・なに?」
動こうとしたわけでもないのに“無限”はブラック・バードのシステムダウンを見破っていた。それを確認したかのようにムゲンの機体形状が元に戻った。“無限”は2人に声を掛けた。その声は翼、ヴィラ、バラッドにも届く。
「“カズ”、“マサ”。帰還するぞ」
「待て!!」
翼は力を込めて叫ぶ。このままでは終われない。動かない機体を殴り、スピーカーに向かって叫んだ。
「まだ終わっちゃいねぇ!!」
「・・・鷹山君。君が私に勝つのは無理だよ」
「俺の名前を知っているのか!?」
翼は初めて敵から戦場で“自分の名前”を呼ばれた。“彼”を除いて初めてだった。
「君の情報は“上”のトップシークレットとなっているようだが・・・私には関係ないことだ」
「何!?」
振り返ったムゲンの動きは人間そのものだった。伏目がちに俯いた後、顔を上げた。
「鷹山君、君は“アーティファクト”・・・“エデン・チルドレン”と呼んだ方がいいのかもな・・・彼らと戦闘し生き残っていること自体驚異的なのだがな」
「・・・何が言いてぇんだ!?」
翼は“無限”にスピーカー越しに叫ぶ。落ち着いたその声が更に翼の怒りに拍車を掛ける。
「君は我々の最重要危険人物とされているのだが・・・私にはどうでもいい」
「んだと・・・!」
「“反政府軍最強の男”・・・“漆黒の鷹”だと聞いて君の実力を試しただけだ」
そう言って、ムゲンは後姿を見せ、帰還の準備に入った。翼は納得するわけにはいかない。
「試しただけだと!!ふざけるな!!・・・ここは戦場だぞ!?止めを刺さずに帰るのか!?」
翼は操縦桿を思いっきり握り締め、“無限”に叫んだ。バラッドもヴィラも黙って2人のやり取りを聞いていた。後姿のまま“無限”はゆっくりと言った。
「君には“真実”を見極める力がある。この戦いには闇があるのだ。“真実”を見つけることが出来なければ、世界は・・・終わる」
「何言ってるかわかんねぇよ!」
「まあ、いずれ分かることだ・・・また会えることを楽しみにしてるよ」
そう言って、3機は飛び立っていった。その後姿をただ見送ることしか出来ない翼はモニターを殴りつける。彼は“無限”は意味不明なことを言って去っていった。“真実”とは何か。
それが分かるのはまだ先のことである。
「で、さぁ・・・孤立してるのは何処にいるわけ?・・・ねぇ優美っちー?」
「は、はい?」
覆い茂る樹木の間に数機のGが構える。姿勢を低くした状態で武器を構えていた。今まで静かにしていたクルスが隣の機体に乗った優美にいきなり話しかけた。突然のことに優美はきょとんとする。
「優美っちの勘でどこら辺にいるか分かんない?」
「わ、分かるわけないですよ!」
「まあ、そうだよねー・・・。優美っちは隊長だけだもんねー・・・」
「ちょっ、何でそうなるんですか!?」
イジワルなクルスがにやけてモニター越しの優美を見る。ヘルメット越しでも慌てているのが分かる。明らかに動揺している雰囲気だ。
「・・・おい、作戦中だぞ」
レッシュが2人のやり取りをあきれて聞いていたが、隊長らしく2人を制止した。それを聞くと2人は静かになってしまった。それを見て思わず翔は笑ってしまう。
「いいか?この先の中継基地に孤立した部隊が居るはずだ。貴子、何か見えるか?」
「はい。3キロほど先に基地があります。反対側に世界政府軍を確認」
「よく今まで落とされなかったわね」
ミコがもっともらしい質問をした。見た感じ主だった装備はエネルギー砲数門、対空防御システム、ミサイルランチャーなどだ。ミサイルランチャーは半分ほど破壊されてしまっているようだが、他は“生きている”ようだ。レイザーの貴子から送られてきた映像に映し出された映像だけではそれしか感じられなかった。
「友子、とりあえず基地とコンタクトしてくれ」
「了解」
早速友子は中継基地に通信を掛けた。
「こちら、第8傭兵部隊、応答願います」
「・・・所属部隊名・・・隊長は誰だ?」
返って来た声は冷たい声だった。明らかに信用していない感じだった。友子はこのままレッシュの名前を口にするところだったが、声にしようとしてやめた。そして、レッシュにこのことを報告する。
「隊長、隊長名を言えと言っています。どうしますか?・・・罠の可能性もあります」
「そうだな・・・。俺の名前を出してもいいだろ」
レッシュは少し考えて、結論を出した。友子はこくりと頷いて基地との通信に戻る。
「何だ!?・・・言えないのか!?」
「こちらはヴィレドル隊、極東エリア所属です」
「ヴィレドル・・・?聞いたことある名前だな・・・お前ら・・・もしかして“不敗のレッシュ”か?」
「え!?」
どこかで聞いたような言葉だった。レッシュがこの前はなしていたことを思い出す。相手は“ヴィレドル”という名前を知っている以上、彼はこちらを信用してくれたようだ。慌てて、友子は返事をした。
「あ、はい。救助の命を受けて来ました。援護します」
「“不敗のレッシュ”の部隊とはな。助かったぜ!・・・おっ、日本語でよかった、ってもう喋ってるか。はははっ!」
向こうの声は急に明るくなった。救援が来たのがよほど嬉しかったのか、自分でも何を言っているのか分からないみたいだ。「そうか・・・“不敗のレッシュ”か」と嬉しそうにつぶやいていた。
「こっちはエネルギーが底を尽きかけてる。ある程度なら援護できるが、そっちの機数は?」
「出撃しているのは5機です」
「相手は30機ほど居る。こっちは援護ぐらいしか出来ない」
「了解だ」
2人のやり取りを聞いていたレッシュは“シルバー・アロー”を構えなおした。レッシュの声も相手側に届く。その声を聞いて嬉しそうに笑う。
「あんたが“不敗のレッシュ”だな?俺は北米エリア所属のジョーだ!“不敗のレッシュ”頼んだぞ!」
「ああ、分かった」
レッシュは久しぶりにその名前で呼ばれた。目を閉じ、そして開く。目の前の世界が変わる。Gの“目”から見た世界だ。
「行くぞ!!」
「了解!!」
赤いGを先頭に、5機のGが一気に世界政府軍の部隊に加速して行った。
「レーダーに反応!!G5機を確認!!・・・内1機は“漆黒の鷹”です!!」
「馬鹿な!?“漆黒の鷹”だと!?」
「恐らく、“深紅の鷹”と呼ばれるやつではないでしょうか」
慌てるオペレーターと指揮官にパイロットの1人が冷静に言った。彼らにも聞いたことのある名前だった。ハワイの戦闘において現れた“漆黒の鷹”と同じ赤い戦闘機が出現、更に先のシアトル戦でもその赤い戦闘機は現れた。その姿を見て、彼らはこう呼んだ。“深紅の鷹”と。
「かまわん!排除しろ!!」
「G部隊と接触戦闘を開始します!」
「“深紅の鷹”だと!?」
「悪いが、倒させてもらう!!」
レッド・バードの“シルバー・アロー”が光る。あっという間に3機のGが倒れた。
「馬鹿な!!・・・何だあの武器は!?」
その破壊力に世界政府軍のパイロットたちは驚愕する。
「優美っち!左!!」
「うん!」
優美はその声に反応し、振り返りざまにマシンガンを放った。斬りかかろうとしたGは崩れ落ちる。翔のスピルスが2隻居る地上艦の目の前に現れた。あまりに突然の出来事に言葉を失う。ブリッジに左手を押し付けた。
「ショック起動!!」
凄まじい流動とともにブリッジが吹き飛ぶ。そこに遠距離からスナイパーライフルによる射撃が続く。その攻撃をしているのはミコだった。嘗て貴子が使っていたスナイパーライフルを赤いグロリアスが構えている。抜群の精度を誇るそれはミコにも扱いやすいものだった。
「んー・・・まずまずね。命中精度は素晴らしいわ」
ミコはコクピットの射撃用スコープから目を外す。ブリッジが破壊された地上艦は自動追尾システムが起動していた。飛び上がったスピルスをそれが追う。迎撃システムが起動し、スピルスを追い始めた。ジョーが射撃管制をしていた青年に叫ぶ。
「おい!あの灰色の機体は敵じゃない!!あいつらは対空攻撃から除外してくれ」
「わかりました」
中継基地の対空防御システムはスピルスを追うだけで弾丸は放たれなかった。上空が開けた事で、レッド・バードの能力を生かすことが出来る。レッシュは機体を空中に運んだ。すでにGは残り10機ほどしか居ない。
「あのままで空を飛べるのか!?」
そう言ったGパイロットも直ぐに破壊される。レッシュは機体を戦闘機に変形させ、残された地上艦に迫った
「俺は艦を沈める。優美とクルスはGを頼む!」
「はい!」
「まかせて!」
2人からは直ぐに返事が返って来た。彼女たち若いながらはそこら辺のパイロットよりはかなり腕がいい。彼らごときに倒されることは無いだろう。次々と2人で世界政府軍のGを破壊していく。
「撃ち落せ!!」
「ま、間に合いません!!うわぁー!!!」
オペレーターは恐怖で職務を放棄し、頭を抱えた。直後ブリッジを光が包み込んだ。
「これが・・・“深紅の鷹”か・・・」
木々の間に燃え上がる炎が赤い機体を更に赤く染める。周りに居たGも優美とクルスが破壊し終っていた。クルスの赤いGが親指を立てる。あんなプログラムを入れていることにレッシュは苦笑した。
「すげぇな・・・。さすが“不敗のレッシュ”だな」
「ですね。“深紅の鷹”らしいですよ。彼は」
「おっ、そっちの方がカッコいいじゃねぇか」
基地の中でも歓喜の声が上がっていた。
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