waiting for the changes

waiting for the changes

23話:銀色の幻


「優美っち、ご機嫌だねー」
「え?そう?」
優美の笑顔を見てクルスも笑う。シャワールームで服を脱ぎながらクルスは言う。
「やっぱ、優美っちはそっちの方がいいよー。ま、年上さんには敬語使うのはいいんだけどね。私たちにも敬語だと何か変じゃん」
「あ・・・うん」
優美は数日前クルスに指摘されてから、言葉遣いに注意していた。皆に対して敬語を使っていた彼女だが、クルスはそれをよそよそしいと感じていた。クルスの提案を優美は笑って答えてくれた。クルスはこのことで優美と少し近づいた気がしていた。
「何かいいよー・・・うん」
「な、何よ・・・もう」
クルスは腕組をして頷いた。優美は赤くなってそっぽを向いてしまう。クルスは優美の傭兵の制服に目をやった。アレンジを加えられたノースリーブの白いブラウスに黒いプリーツのミニスカート。ミニスカートはクルスと一緒だが、クルスの服は珍しく標準の制服そのままだった。傭兵組織の指定の長袖のブラウス。袖が若干長くて困っているが、このご時勢、新しい制服なんて頼めるわけが無い。傭兵たちの世界にも制服は存在するがほとんどの傭兵がアレンジを加えられている。左胸に部隊名やエンブレムの刺繍が入っていれば基本的にどんな色形状でもかまわない。どんなものでもかまわないが、大体は支給された制服を改造する程度で終っている。奇抜な改造だと全体会議のとき浮いてしまうことになるからだ。
「あー・・・いいなー。優美っちの制服可愛いいし・・・」
「あ、それくらい簡単にできます・・・簡単だよ」
照れながら優美は言い直した。クルスはイジワルそうに笑った。
「すぐには抜けないよね。ゆっくりでいいよ」
「・・・うん」
優美はシャワーのバルブを捻る。何日振りかのシャワーだ。その心地いい感触に身を委ねた。
「あー・・・気持ちいい」
「ふーん、優美っちスタイルいいんだねー」
クルスが仕切りを乗り越えて覗き込んできた。優美はビックリして思わず隠した。
「きゃー!!」
「「きゃー!」って、・・・私も一応女なんですけどね」
クルスが呆れたようにつぶやく。クルスが覗き込んだ反対の部屋から別の声がした。
「クルスはダイエットしなきゃねー」
「う、うるさいわね!」
「よっと・・・ホントだ」
反対から覗き込んできたのはミコだった。頭にシャンプーがついたままだった。
「きゃあー!!もう!ミコさんも何やってるんですか!?」
赤くなって優美は言い返す。ミコとクルスは向かい合って笑う。あれだけ言い合いをしていたのに2人はもう仲直りしたみたいだ。ミコとクルスは似ているのかもしれない。こういう部分がそっくりだと優美は思う。ミコとクルスは怒涛の口撃を仕掛ける。
「このスタイルで、裁縫とか料理とかうまいんだよねー。隊長は幸せ者だねー」
「な、何でそんな話に・・・」
「そうよねぇ。隊長って優美ちゃんのことどう思ってるのかしら?」
「え?・・・それは・・・」
「まあ、優美っちはとりあえず隊長ともっと近づかなきゃダメね!」
「レッシュ・・・と?」
クルスは仕切りに掴まったまま、優美を見つめた。ミコも頷く。
「第一段階は・・・隊長との敬語をやめる。・・・あ、公私別々で、って意味だよ?」
思い出したようにクルスは付け加えた。さすがに戦闘中までは気が回らないだろう。
「あ・・・うん」
「第二段階は・・・ゴリ押し!!」
「え・・・!?な、何それ!?」
優美は赤くなってクルスを見上げた。クルスが拳を作って、天井に軽く突き上げる。ミコは大きなため息をついた。
「クルスに聞いたのが間違いだったみたいね」
「何よ!!ミコは男と付き合ったことあるの!?」
「まあ、クルスよりは多いんじゃない?」
「・・・年の差ね」
ぼそりといった一言をミコは聞き逃さなかった。身を乗り出してクルスに詰め寄る。
「ちょっ!聞こえてるわよ!!」
「あー聞こえちゃった?・・・ごめんねー」
「あのー・・・もしもし?」
優美がそーっと2人に声を掛けた瞬間だった。艦全体に強い衝撃が走る。ミコとクルスは反動で下に落ちた。2箇所から同時に凄い音がする。
「痛ったぁ・・・」
「もう!!何!?」
直後艦内放送が原因を知らせた。
「あー、聞こえてる?・・・整備室の真琴です。クルスのGが倒れてミコのGに接触したの。あ、怪我人は出ないから安心して・・・。でー、あのさ・・・クルスとミコ聞いてる?あのね・・・」
その放送が終わる前に2人からため息が聞こえる。
「マジ・・・?」
「ありえないわ・・・」
その放送の続きは
「2機とも破損しちゃったの・・・。ちゃんと次の出撃までには直すから・・・ね!」
静かになった2人を置いて優美はシャワーの続きを浴び始めた。未だ横から何かブツブツと声が聞こえる。

彼女たちにバチが当たったんじゃないのかと、優美は密かに思っていた。


「待て!!乗れるのは詰めて5人で限界だ!!」
「え?気合で乗れないんですかー?」
「気合で何とかなるわけ無いだろ!!ただでさえ古いんだからな!サスがイカれるだろうが!!」
黒いカジュアルジャケット姿のレッシュが無理に銀色の車に乗ろうとしてる亜実、亜希、シェリーを止める。後部座席に座ったクルスが「まだ乗れる」と無責任なことを言ってしまった事でこういうことになってしまった。レッシュは皆を制止しながら、落ち着けと言った。
「・・・まあ、待て。俺除いて4人しか乗れないんだ。誰が行くんだ?」
「クルスはとりあえず、車から降りなさい」
ミコの言葉と同時にクルスを皆が睨む。渋々ながらクルスは車から降りた。例えちょっとした買出しでも、中立地帯で出かけられることは嬉しい。彼女たちは何としても出かけたかった。ちなみに移動手段はレッシュの銀色のスポーツタイプのセダン。前に優美と出かけたときに乗っていた車をコンテナに入れて同時に持ってきていた。彼女たちの買出しを掛けた戦いが始まる。ミコが円になった彼女たちに言った。その声は真面目だ。
「・・・とりあえずジャンケンね。席は3人よ」
「3人?席は4人でしょ?」
シェリーが当たり前のように首を傾げた。レッシュは車の運転をするから仕方ないとして、後4人乗れるはずなのだが、ミコは3人と言う。ミコはふっと笑って当たり前のように言う。
「何言ってのよ。助手席は優美ちゃんが乗るのよ」
「わ、私!?」
突然自分のことを言われて優美は戸惑う。だが、皆は「いいよ」という顔をしている。クルスも亜実も亜希も同じような顔をしている。
「あー・・・そっか、それじゃあ仕方ない」
「だねー」
「だねー」
好意は嬉しいのだが、優美は皆に何か悪いような気がした。「いいからいいから」と言って、ミコは優美の背中を押す。
「あの・・・」
「何だ、優美が最初に勝ったのか?早く乗れよ」
エンジンルームを見ていたレッシュが顔を上げ、横を向くと優美がいた。何かバツの悪そうにしている優美を顔で行けよ、という。優美の格好はいつもの様に薄着で動きやすい服だ。あの時、海で着ていたへそ出しのタンクトップに赤いベルトにデニムのタイトなミニスカート。足には少し厚底のヒールがちょっぴり高めの白いサンダルといういでたちだった。レッシュにはいつもの見慣れた格好だった。ショートヘアで活発そうな印象を受ける優美にはそういう格好がよく似合う。それに優美自体がそういうシンプルな格好が好きだった。
「ったく、たかが買出しだろ?3人もいれば大丈夫だろ?」
「そうなんですけどね」
オイルゲージをチェックしながらレッシュはぼやく。その横で優美は苦笑するしかなかった。右手でジャケットの内ポケットから紙切れを出し、優美に渡した。受け取った優美はそれを見た。雑誌のほかに化粧水や生活用品が書かれていた。
「何ですか・・・これ」
「それ、翔と貴子のヤツだよ。雑誌は分かるけど、その化粧品とか他の分かんないから、優美が何とかしてくれ」
エンジンルームのチェックが終ったレッシュはボンネットをそっと閉める。嬉しそうに愛車を眺めて、ボンネットを軽く数回叩いて何か言っている。そんなレッシュは見て優美はなんだか嬉しくなってきた。
「あ、はい。大丈夫です」
「早く決めろよな・・・なぁ」
「そうですね」
レッシュが早くしてくれと言う顔をして、優美が苦笑した。

「ちょっと!今の後出しよ!」
「な!んなわけないでしょ?」
「やり直しだからね!」
未だ、買出しを掛けた女の戦いは続いている。


後部座席にいるメンバーをルームミラー越しに見てレッシュはため息をついた。
「・・・で、メンバーがこれか」
「「これ」って言い方はないんじゃないですか?」
クルスがちょっとむすっとした顔でレッシュの後姿を見た。レッシュがミラーで見た顔は嬉しそうだった。後部座席にいるのは薄いピンクのノースリーブのセーターに傭兵の制服のミニスカートにスニーカー姿のクルス。完全に服が困った感じだ。そういえばあの服、優美が着ていたような気がする。多分借りたのだろう。フリルのついた白いブラウスの胸元を開けてセクシーに決めて、タイトなジーンズにヒールを履いたシェリー。背が高くてスタイル抜群の彼女にはとても似合う。黄色のカットソーに優美とは少しデザインの違うデニムのミニスカートにスニーカーがミコの格好だった。
「亜実だけが勝って、亜希が行けないだったら行かない、って言うとは思わなかったからね」
ミコが窓の外を見ながら言った。横を流れる景色は崩れたビルが見える。その向こうには真新しい高層ビル群が見えている。このあたりは中立地帯で戦闘が全て禁止されている。Gや兵器の侵入でさえも認められていない。シェリーがクルスとミコに挟まれて笑う。
「Yes!ミコ滑り込みだねー」
「まあ、おまけみたいなもんだし」
クルスが余計な一言を言ったおかげで後部座席でバトルが始まる。
「何回やり直したと思ってるのよ!?後出し後出しって言い過ぎなのよ!」
「仕方ないじゃない!行きたいんだから」
「私だって行きたいわよ!!」
「Oh~stop, stop。頼むから」
ミコとクルスの合間に挟まったシェリーはたまったものではない。ぎゃーぎゃー言い出した後部座席を見てレッシュが声を荒げた。
「車で暴れるな!!・・・降ろすぞ」
「「・・・はい」」
2人は素直にその言葉に従った。車のこととなるとレッシュは怖い。助手席の優美はおかしくて吹き出してしまう。
「あはっ」
銀色の古いセダンは高層ビルが立ち並ぶ街へと向かって行った。


「気分転換?」
「はい!・・・最近の姉さん、なんか疲れてるような気がするので・・・」
「・・・そう?」
桜は地上艦の食堂で部下の青年に言われた。そして、地図で、ある場所を示される。それは中立地帯と呼ばれる場所だった。左手で髪をかき上げ、地図を覗き込む。
「買い物でも行きませんか?」
「買い物・・・?うーん・・・欲しい物は無いわねぇ」
「じゃ、じゃあ、少しでも外の空気吸ってすっきりしましょうよ!」
彼の強い押しに桜はその提案を了承した。確かに最近少し疲れているのかもしれない。部下は減り、強敵も現れた。普通に考えればかなりの心労が溜まっていてもおかしくは無い。彼なりに私のことを気遣っていてくれているのだろう。その好意に甘えさせてもらおうと桜は思った。
「他に誰が行くの?」
地図を覗き込んだ体勢のまま桜は顔を上げる。前髪が顔に掛かって色っぽく見える。上目遣いで見られた部下の青年はドキッとしてしまう。それに、視線ははだけている胸元にいってしまう。言うまでも無いが、桜は胸が大きい。
「え・・・まだ俺だけですけど・・・どうかしたんですか?」
「ううん、あんまり一杯だと大変と思ったからね・・・って、顔が赤いわよ?」
「あ、いえ!大丈夫です!!」
大きく首を横に振る彼をみてうふふと桜は小さく笑う。
「じゃあ、13時に艦の3番出入り口でいいですか?」
「ええ、いいわよ。エスコートは任せたわ」
「は、はい!!」
彼は勢いよく立ち上がって敬礼し、走って食堂を後にしていった。その後ろ姿を見送ってから桜は立ち上がった。
「さてと、」
彼も張り切っていることだから格好でちょっとサービスしようかな、と考えながら桜は自室に向かっていった。


「お待たせ」
「あ・・・いえ・・・」
桜の格好を見て彼は完全に硬直してしまっている。胸元が大きく開いたホルターネックの白いへそ出しのキャミソール。しかも背中はほとんど全開に近い。それにあわせているのは黒いタイトな超ミニスカートだ。太目の白いベルトを巻いて、足元も黒いヒールの高いサンダル。普段と違って髪を後ろでアップにまとめているせいか、印象が全然違う。彼なりの精一杯のおしゃれが、チェックのカッターシャツにジーンズだったため、これでは釣り合いが取れない。桜は笑って、ポーズをとった。
「うふふ。行きましょ?」
「あ!あの・・・もう1人いるんですよ」
ぼーっと、桜の格好を見ていた部下の青年は、思い出したように言って腕時計を見た。そのとき艦の奥から走ってくる女性の姿があった。
「申し訳ございません!遅くなりま・・・した」
その女性もまた、桜の格好を見て硬直する。固まっている2人を見て桜はくすっと笑った。
「この方は?」
「あ、はい。新たに配属されたビリシャ・ラウドリー大尉です」
「あ・・・はっ!ビリシャ・ラウドリーです!本日付で美山少佐の部隊に配属になりました!」
姿勢を正したシャツにジーンズ姿の女性は敬礼をする。彼女は太平洋沿岸のエリアを転戦していたという。部隊の解散とともに桜の部隊に組み込まれたとのことだ。
「えーっと、今日の姉さんの護衛です」
「護衛?大丈夫よ。心配しすぎなんだから」
「いえ!美山少佐に何かあっては・・・」
かしこまるビリシャに桜は笑って言った。小さなメモ用紙みたいなものを青年から受け取りそこに書かれていたビリシャのデータを見る。
「桜でいいわよ。ビリシャは私より年上なんでしょ?」
「いえ!年上であっても上官であることには変わりありません!!」
「今日だけは、名前でお願いね。街で階級とかで呼ばれるのあんまり好きじゃないの」
桜は少し伏目がちになってビリシャに言った。ビリシャもこの青年がずっと桜のことを「あねさん」と呼んでいる事が不思議だった。ビリシャの観点から言えば上官に対して失礼に当たる。他の上官と部下の関係の中でも変わった部隊だとビリシャは思っていた。
「はっ・・・、ではどのように?」
ビリシャは首を傾げる。桜は笑顔に変わって言う。
「桜でいいわよ。ヨロシクね、ビリシャ」
「はい、よろしくお願いします。・・・桜・・・さん」
「ええ、よろしく」
部下の青年が2人の会話が一段落したのを見計らって、手をパチンと叩いた。
「では、行きましょうか」
「ええ」

3人は艦を降りて用意されていたオープンモデルのジープに向かう。部下の青年はどうぞ!と言わんばかりに運転席に“招待”した。
「・・・私が運転するの?」
「もちろんですよ!俺、免許持ってませんから!」
自信たっぷりに言う彼に桜は頭を抱える。
「Gは操作出来るのに?」
「それとこれとは別です!」
あまりにもはっきりと言う彼に桜は反撃する気が失せてしまった。桜は念のためビリシャにも聞いてみた。
「あなた運転は?」
「あ・・・私、車の運転は苦手で・・・それにこれ、マニュアルと言われる車ですよね」
「ええ・・・」
彼女が目をあわせない。いやな予感がする。
「私は車の免許はオートカーしか持ってないので・・・申し訳ありません」
いやな予感は的中した。結局この車を運転できるのは桜だけだった。仕方なしに桜は運転席のシートに座った。
「姉さん・・・すいません。車これしか無くて・・・」
「ええ・・・いいわよ。気にしないで」
桜はぎこちなく笑う。こんなときになって変わった資格が役に立つ。今の時代でマニュアルタイプの車は非常に珍しい。珍しいと言うことはその免許を持っている人間も珍しくなる。深呼吸して桜は2人の方を見た。
「じゃあ、行くわよ?」
「はい!」
エンジンを掛け、シフトを1速に入れたジープが砂煙を上げて発進して行った。


「さあ、着いたぜ」
「ん~・・・結構遠かったねー」
車から降りたクルスは指を組んで背伸びをした。その横で降りてきた順にシェリー、クルスと同じように背伸びをした。ミコがボンネットに腰掛けて運転席で何かしているレッシュを見つめていた優美に聞いた。
「はっきり言って乗り心地は良くないわね」
「え・・・そう?私は平気だけど」
「だよねー、大好きな隊長の車だもんねぇー」
「・・・もう!」
イジワルそうな目つきでクルスが優美を突っつく。優美が赤くなって言い返す光景。それは日常になりつつあった。4人で笑っているとレッシュが車から降りてきた。
「じゃあ、行くか」
「うん」
「ええ」

男性が4人の女性を引き連れて歩く光景。それはこの時代でも異質に見える。しかも4人とも“レベルが高い”。否応にも目立つ5人だ。その視線にミコが最初に口を開いた。
「なんか、皆が見てるわね」
「私が可愛いから?」
「それはないわ」
ミコはクルスが言い終わる前に突っ込む。綺麗に返されてクルスは黙ってしまった。クルスは信号待ちの合間に4人の顔を見回した。交差点の向こうでも多くの人が待っている。ビルに反射する光が眩しくて優美は目を細めた。
「うーん、やっぱ優美っち?」
「え!?私?」
レッシュの横に立っていた優美はひょいと後ろから顔を出してきたクルスは笑う。優美の顔から足先まで見てクルスはにやにやした。
「やっぱ、肌出した方がいいのかなぁ・・・。スタイル良いし、可愛いし」
「え・・・?えーっと・・・」
「ねぇ、優美ちゃんってクルスのお気に入りなの?」
ちょっと赤くなって困り顔の優美だったが、ミコその言葉で更に動揺する。
「うーんとね、なんか良いの、うん。・・・なんとなくだけど・・・」
「なにそれ・・・」
「でも、可愛いし、からかって楽しいし」
クルスは後ろから優美に寄りかかって、腕を前で交差した状態のまま、ミコの方を向く。息が首筋に掛かってくすぐったい。「ねー?」と笑うクルスに優美は戸惑うばかりだ。
「優美ちゃんはどうなの?“こんなの”に好かれて」
「こんなのって何よ!ねー、優美っちー?私のこと嫌いじゃないよね?」
この状態で“嫌い”とはどう考えても言えない。後ろに引き倒されかねないからだ。でも、彼女の答えは決まっていた。
「あ、好きですよ。部隊のみんなも」
「ほらねー」
自信たっぷりに笑うクルスを置いて、ミコは優美にこっそりと言う。
「でも、やっぱ一番は隊長?」
「なっ・・・!」
真っ赤になる優美を見てミコとクルスは2人して笑った。この2人、やっぱり似ている。同じように赤い機体に乗って、一緒に居ることが多くて、雰囲気も髪型もそっくりだ。性格もよく似ている。
「あ、変わった」
丁度信号が青に変わってクルスから開放されて優美は慌てて歩き出した。


ジープが舗装された真っ直ぐな道を走る。桜の後ろで束ねられた髪の毛が風で揺れる。3人に会話は少なかった。部下の青年は横を向くとはだけた胸元にギリギリのミニスカート、何を話していいのか分からない。後ろの席に座った女性は桜の見事な全開の背中を見つめていた。女性から見ても桜はあこがれた存在だった。Gパイロットとしての実力、隊長としての人望、そして、女性としても。桜の鼻歌が小さく聞こえているだけだった。
「♪~」
中心街から少し離れた銀色のビルの合間に駐車場を見つける。桜は進路を変えた。丁度、一台分開いた場所に桜は車を止めようとする。隣に止まった特徴的な銀色の車に目が留まった。
「ねぇ、あの車、かなり古くない?」
「え?」
桜の足を見つめていた青年は慌てて顔を上げる。ちょっと赤くなった彼の顔を見て桜は笑った。
「もう、そんなに見つめられたら困るじゃない」
「あ・・・いや・・・」
「うふふ、冗談よ。ほら見て、この車」
そのやり取りを見てビリシャは不思議に思う。桜のイメージは強くて、いかにも軍人ぽいイメージがどうしても先行する。ビリシャは桜が思っていた以上に“変わった”人なのかもしれない。
「あ・・・そうですね。見た感じ恐ろしく古い車に見えるんですが」
「そうね・・・」
ジープから降りた桜はその銀色の古い車の周りをゆっくりと一周する。中を覗くと綺麗に乗られているんだろうか、素人の目から見てもかなり古い型ながら状態は素晴らしいと言える。
「誰が乗ってるのかしらね。きっと、車が大好きな人なのね」
「恐らく・・・」
車のことはよく分からないが、桜は自分よりは詳しいようだ。当たり障りにないことを言っておかないと後で困る。
「じゃあ、行きましょうか」
桜が先頭を切って歩き出す。慌てて青年と女性がそれを追いかけた。


「すっげー・・・何だよあの美人」
「足!見ろよ!・・・綺麗だよなぁ」
桜が街を歩けばこうなことは2人は予想してなかった。正確に言えば、予想はしていた。が、その予想を超える反応が返ってくる。桜が歩くと道が自然に開いた。声も掛け辛くなってくる。
「あ、姉さん・・・」
「ん?なあに?」


「あいつ見ろよ、女の子4人も連れてるぜ・・・いいよなぁ」
ある程度買い物を終わらせたレッシュたちも街を車の方に向かって歩く。優美が先頭に立って歩いていた。
「優美、速く歩くなよ!」
「って、隊長!何で私たちが荷物持ちなんですか!」
クルスとミコが荷物を抱えて呻く。その声に優美が振り返った瞬間だった。
「きゃぁ!」
「きゃっ!」
優美が後ろから来た女性に打つかってよろめく。レッシュは直ぐに反応して優美を受け止めた。レッシュはその体勢のまま優美言う。
「大丈夫か?・・・ったく」
「ご、ごめん」
抱きとめられたことに驚いて少し優美は赤くなる。レッシュは優美の無事を確認すると、尻餅をついた女性に手を差し出した。その女性はスタイル抜群で優美と似たような格好をした飛び切りの美人だった。
「・・・大丈夫ですか?」
「ええ・・・平気」
「優美、ちゃんと謝れよ」
レッシュは優美に向き直る。その自分と同じような格好をした少女はぺこりと頭を下げた。目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「ごめんなさい!!私が・・・」
「ええ、平気よ」
桜はそう言って、彼の手をとって起き上がった。そして、その男性の彼を見て桜は硬直した。一瞬時間が止まったような感覚を覚える。その顔は“彼”そっくりだった。
「嘘・・・あなた・・・」
「ん、大丈夫みたいだな。怪我は無いか?」
レッシュは彼女を一通り確認する。スタイルが抜群で露出度の高い服を着ている女性は、思い詰めた顔をしている。
「具合でも悪いのか?」
「え・・・あ、平気よ。ごめんなさい」
「ごめんなさい」
優美がもう一度謝る。彼女の方を向いて「大丈夫よ」と桜は言った。強い衝撃を受けた桜に笑顔を作る余裕が無かった。ぎこちなく笑っているのが自分でも分かる。
「姉さん!!」
「あ・・・」
「大丈夫ですか!?」
青年が駆け寄る。それをみて、レッシュは彼女から手を離した。彼女は今にも泣き出しそうな顔で自分を見つめていた。
「どうかしたのか?」
「姉さん?」
2人に言われてようやく現実に引き戻される。
「あ、ええ、平気よ」
「あ、すいません、ご迷惑をおかけしました」
礼儀正しい青年はレッシュと優美に頭を下げた。
「っと、誰?・・・ってうわぁ」
後ろからクルスが顔を出す。思わずため息が漏れる。それほど桜の格好は“凄い”彼女のスタイルもあってのことだ。
「失礼します」
そう言って、その女性は青年と後から来た女性と反対方向に歩いていった。レッシュはあの顔が気になっていた。優美の方をレッシュは振り向く。
「なぁ」
「はい?」
「俺の顔になんかついてるか?」
「え?・・・何にもついてないけど・・・」
首を傾げる優美にクルスが荷物で優美の足を小突いた。
「いたっ」
「ねぇねぇ、今の飛び切りの美人誰?知り合い?」
「さぁ?」
「この世の者とは思えないわね。天は何物も与え過ぎだってば」
頷くクルスを見て優美とミコ、シェリーで笑う。この後も例の美人の話で持ちきりだった。
「今の・・・誰だ?」
レッシュは自分の知り合いから顔を必死で検索していた。


「嘘よ・・・そんはず無いわ」
彼の顔は“彼”と同じだった。“彼”は桜の目の前で命を落とした。もうこの世にはいない。だが、彼はそこに居た。似ているという次元ではなかった。声も似ている。そして、ユミと呼ばれていた少女が言っていた「レッシュ」これが彼の名前だろう。
「姉さん?」
「桜さん?」
「え?」
考え込んでいた桜に2人が話しかける。桜の目には涙が浮かんでいた。桜の顔を見て2人は驚く。無意識のうちに泣いていたようだ。
「あ、姉さん!?」
「大丈夫ですか?」
「ええ・・・平気」
桜は2人に笑って見せるがぎこちない。
「さっき、どこか打ったんですか?」
「平気よ・・・ちょっと考え事してただけ」
2人はそれ以上追及しなかった。追求されないことは桜にとっては嬉しかった。彼は何者なのか。桜の頭の中はそれで一杯だった。

鏡のように銀色に輝くビルのガラスが太陽を映し出していた。



© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: