waiting for the changes

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29話:記憶


「“A”、“C”、“E”、“K”ともに反応良好です」
「そうか・・・ではプログラムR2開始、負荷を上げてくれ」
モニターを見ながら1人が報告する。指示を出すと、分厚いガラスの向こうでは。いくつも並べられた機械にそれぞれ付いていた防護服の研究員たちが“R2”と打ち込み、ボリュームのようなものを30から50に引き上げた。その時“E”の機械から警報が鳴り響き赤いランプが灯る。
「主任!“E”に異常発生!・・・やはり精神状態が不安定です」
「またか・・・実験は中止、“セカンド”達のメンテナンスを頼む」
主任と呼ばれた白衣の男は自動ドアを開き、白で覆われた廊下を歩いて行く。そして一番角の部屋に入っていくとそこには一人の男が居た。そのことに白衣の男は驚いた。
「!・・・お前か。来るなら前もって言ってくれ」
「まあ、いいだろ。ヤツはなかなか動かんからな。俺が変わりって訳だ」
黒いスーツに身を包んだ金髪で短髪の男は両肩を軽く上げて言う。そして、“ヤツ”というところで煙草を吸う仕草をした。
「何のようだ?」
「冷たいなぁ。これはいらないのか?」
冷たく付き返した白衣の男は自らの机に付いた。黒スーツの男は内ポケットからディスクを取り出し、カタカタと横に振る。
「何だそれは?」
「AIシステムのデータ?・・・とかアイツが言ってたが」
「何!?」
天井の方を見上げ、男は半ば適当に答えた。だが、その言葉に白衣の男は机から立ち上がった。
「とりあえず。問題のあるヤツに使ってみてくれ」
金髪の男はにやりと笑った。
「そうだな・・・早速使うとするかな」
そう言って、白衣の男はカプセルの中に居る1人の少女を見た。


「EVEのプログラム再構築完了。再起動させます」
「あ・・・?ああ・・・やってくれ」
貴子が弾くコンピューターには訳のわからない数値が並ぶ。数台のコンピューターをフルに活用してやっとEVEを“立ち上げる”のがやっとだ。いくつものキーボードを驚くべき速さで弾き、次々とプログラムを修復する。それでも、EVEの全ては分からなかった。レッシュはEVEのモニターに呼びかけた。
「EVE?」
「・・・“F”」
「え?」
レッシュはその名前で呼ばれたことに驚く。まるでEVEは人の寝起きのようだった。ぼやけた声で“F”と呼んだ。
「レッシュを確認」
何事も無かったようにEVEはプログラムを最適化し修正した。
「EVE?今・・・」
「御用ですか?」
「いや・・・なんでもない。貴子、レッド・バードに搭載しといてくれ」
レッシュは何かを言いかけてやめた。そして、数台のモニターに囲まれている貴子に向いた。
「はい。・・・真琴さん?」
「何~?」
貴子が内部通信用のモニターを格納庫に繋ぐと、頭をかきながら真琴が出た。その姿を見てちょっと戸惑った貴子だったが、気を取り直して言った。
「・・・EVEの搭載のお手伝いお願いします」
「うん、任せて!・・・今からでしょ?準備しとくわ」
そう言ってモニターは切れた。貴子がEVEの一式セットを積んだ大きなカートを押して部屋から出て行こうとした。それをレッシュが止める。
「貴子」
「はい?」
「EVEのことをもっと詳しく調べてくれないか?・・・EVEの“正体”についてだ」
「はい」
貴子はこくりと頷いて真っ直ぐレッシュを見た。貴子はゆっくりとカートを押して格納庫へと向かった。


私は誰?
ここは何処なの?
声が聞こえる。

「これでいいわね」

みんなは何処?
みんなは何処に行ったの?
・・・みんな?って誰のこと?
私一人なの?
誰か居るの?
・・・誰って何?

「隊長が・・・」

隊長・・・?
私は・・・。

「EVEぅー?起動してー?」

イヴ・・・?EVE?
違う!私は!!
私は・・・違う!!
・・・何が違うの?
思い出せない・・・。
思い出せるの?
・・・思い出す?・・・思い出すって、何を?

「あれ?おかしいわね・・・」

私は誰なの!?
・・・EVEが私の名前なの?
・・・そう、私は“EVE”。戦闘AI。
私は・・・。

「システム起動。レッド・バード、戦闘プログラムにアクセス。セットアップ開始」
「あ、反応した」
真琴がEVEに接続されたキーボードを弾く。レッシュの驚異的な戦闘データから更に限界値を引き上げるようセッティングし直した。
「システムコンプリート。セッティングが適用されます」
「よし!完璧。・・・って、やっぱ隊長って凄いねー」
真琴がキーボードを繋いでいたコードを抜いて顔を上げた。そこには貴子の顔がある。
「ええ、信じられません。凄いですよね」
「隊長が兵器でも、私は味方で居たいよ。あんなにいい人が兵器な訳ないでしょ?」
真琴は真面目な顔をして、貴子を見つめた。きっとレッシュは友と言った“漆黒の鷹”と戦うと言ったが、本当は戦いたくないはずだ。
「ええ、私たちが信じないと・・・ですね」
貴子も真っ直ぐ真琴を見た。付け加えるように真琴が言う。
「それに・・・」
貴子が首を傾げて真琴を見た。白い歯を見せてにこっと笑って真琴は人差し指を立てた。
「優美ちゃんがいるでしょ。うまく言えないけど、隊長には優美ちゃんが必要なんだと思うの。・・・優美ちゃんがいれば大丈夫だって!」
「そうですね」
貴子が笑ってそれに答えた。レイザーのジェネレーター音が格納庫内に静かに響いている。


「ギア・ロッド発進する。目標、砂漠地帯駐留世界政府軍!」
大型の灰色の戦艦がゆっくりと空に浮かぶ。修繕を受けて何とか持ち直した翼やブリッツェンたちは広がる砂漠を睨んでいた。翼たちの乗るギア・ロッドの周囲をホバー艦が取り囲んでいた。
「世界政府軍の戦艦を確認!!」
「鷹山君、バラッド君、ハイオルス君、出撃だ」
ブリッツェンがオペレーターに指示を出した。すぐさまハッチが開き、カタパルトに大型の黒いGがセットされる。操縦桿をしっかりと握りなおして、バラッドは砂の世界を睨んだ。
「カールトンだ、“100”発進するぞ!」
黒い機体が一気に加速し、発射されていった。続いて翼を持ったシャイニングがカタパルトにセットされた。ブリッツェンと直接通信が開いた。
「ハイオルス君、行けるのだな?」
「はい!行けます!」
勢いよく返事を返してきたヴィラを見てブリッツェンが頷き、小さく呟く。
「無理はするなよ・・・」
「シャイニングセット完了。発進してください」
「ヴィラ・ハイオルスよ!シャイニング行くわよ!!」
オペレーターの合図とともに、機体が加速し、Gがコクピットに掛かる。飛び出した機体が砂地に着地した。が、ズブズブと沈みだす。
「な、なにこれ!?」
「慌てるな!・・・データ・・・送る。最適化・・ろ」
バラッドの掠れた声と同時に砂漠のデータが送られてきた。ヴィラは傾くとコクピットの中で手際よくそれをコンピューターに取り込んだ。砂漠は思った以上に圧迫感を感じる。警報装置が異常な値を示して鳴り響いていた。
「ブラック・バード、カタパルトにセット完了」
黒い人型の機体がリニアライフルを構えてカタパルトに収まった。
「鷹山だ。ブラック・バード出るぜ」
漆黒の機体は一気に加速し砂の世界へ飛び立つ。人型形態のまま、低空を飛行し先行していたシャイニングと100に追いついた。
「・・・対空が・・・無いと・・・楽・な」
翼の途切れ途切れの声が2人に届く。他の反政府軍のGたちも彼らに続いた。


傭兵たちとの戦いが終わって4日後。
「姉さん!新しい機体が届きましたよ!」
桜は机に座って、コンピューターのモニターに向かっていた。怪我は良くなっていたがあの一件以来桜は沈んでいた。ここ最近で心にダメージを受けることが多い。“漆黒の鷹”のこと、“あの人”のこと、そして“F”のこと。
「そう・・・」
桜の返事は素っ気無かった。肘を付いてモニターを見る。そこに映し出されていたのはレッシュだった。モニターに触れ愛おしそうに頬の部分に触れる。
「・・・姉さん」
青年の心がぐっと締め付けられるようだった。彼女が背負っているものはとてつもなく大きく、そして重く辛い。彼女は、少佐と言えどまだまだ若い。自分の置かれた立場、状況に押しつぶされそうだった。部下の青年は桜の側まで歩み寄り、そっと語りかける。
「新型を見に行きましょう」
「・・・わかったわ」
桜は椅子からゆっくりと立ち上がって、部下の青年に目をやった。いつもの顔では無く心配そうにこちらを見ていた。桜は一度目を閉じると、一呼吸置いた。今の自分には心から笑顔を作ることは出来ない。でも、いつまでも沈んだままだと彼がもっと心配するだろう。桜はぎこちないが笑顔を作った。例えぎこちない笑顔でも、心から笑っていなくても、沈んだままの顔を見せているよりは幾分かマシなのかもしれない。
「行きましょ」
桜は部下の青年の後に続いて部屋を出る。そして格納庫へ向かう間、一言も話すことが出来なかった。桜は自分がこれほど追い詰められているのかと自分でも自覚できた。こんなことは今までなかったからだ。
「これですよ」
格納庫の扉が開くと整然といくつものGが並んでいる。その中に一際目立つ薄いピンク色、桜色をしたGがあった。2本の大型のブレードを背負ったGはグロリアスにどこか似ているGだった。新型と言ったが、桜が前に乗っていたGもグロリアスを基本としたGだったため、これといった変更点は無いように思える。
「“グロリアス・バーサス”の“DBモデル”って言うやつです」
「“グロリアス・バーサス”?それに“DB”って何なの?」
部下の青年が手を掲げてその名前を呼んだ。桜は少し首を傾げてその機体を見上げた。安易な名前だ、が桜の率直な感想だった。だが、その名前の並びにある機体のことを思い出した。桜の前の機体を圧倒的な力で大破させるまで追い込んだ機体の名前だった。
「えーっと、“ダブル・ブレード”の略だそうです。後、“Aモデル”の“アックス”と“Sモデル”の“サイス”、“Gモデル”の“グローブ”・・・つまりは、パンチで攻撃するってことですね。他にもありますね」
「・・・ウィング・グロリアスと同じ系列なのね」
桜は思い出しながら小さく呟いた。あのウィング・グロリアスには“ユミ”と呼ばれたあの時、街で出会った少女が乗っているはずだ。少しの時間の間だが彼女のGの動きはGの動きを超えたものだった。あれはまるで・・・。
「さすがですね。このシリーズは“コンプリート・シリーズ”って言って、人気機種であるグロリアスの性能をそれぞれの分野で極限まで引き出したシリーズだそうです」
「へぇ・・・凄いわね」
自慢げに話す部下の青年に桜は感嘆の声を漏らした。他にもバリエーションがあるらしいが、桜の耳には聞こえなかった。新しい“力”を見上げて桜は呟く。
「私に必要な力なの?・・・これが運命なのかしら」
「姉さん?」
ぼーっとしていた桜は部下の青年の言葉に引き戻される。付け加えるように彼は言った。
「あ、一応、フライング・アタッチメントの装着も可能ですよ。それも新しいモデルになりますが」
桜には小さく答えることしか出来なかった。


「姉さん!反政府軍です」
「・・・わかったわ。総員戦闘態勢!」
桜の掛け声と共にGの目に光が灯り歩みを始める。遥か後方に待機された地上艦が反政府軍に狙いを定めていた。桜もいつものように彼の写真を見つめる。
「あなた・・・」
桜は写真に口付けしようとして、寸前で止めた。彼の顔が“レッシュ”と呼ばれた青年と重なる。桜は初めて“儀式”をせずに真新しいGに乗り込んだ。コクピットはグロリアスと殆ど変わらないが、ボタン位置などが変更されている。モニターも大型で鮮明なものに変更され、とても見やすい。反応速度の上昇が図られ、新しい動きなどが追加されていて桜の好みの機体になっていた。そして、桜の横には同じように新型のウィング・グロリアスに乗った、部下の青年とビリシャが居る。
「・・・行くわよ!」
彼女の掛け声に世界政府軍のGと反政府軍のGたちが激突し始めた。


「くそっ!・・・艦砲射撃か!?」
反政府軍のGたちは傭兵たちと同じように遠距離から放たれる砲撃に悩まされていた。反政府軍の戦艦の射程外からの攻撃のため反撃すら出来ない。
「対空防御が破壊されても・・・キツイな」
バラッドが“それ”を回避しながら、世界政府軍のGたちに狙いを定める。翼、ヴィラ、バラッドの3人は仕方なく散開してそれぞれ戦うことになっていた。
「数が多いわ!・・・後ろよ!」
ヴィラが味方のグロウに通信を掛けるが、電波妨害に阻まれ声ははっきりと届かない。彼が気づく前に破壊される。
「・・・っ!」
ヴィラは歯をかみ締め味方のGを破壊したGを迎撃する。ブレードを抜いたヴィラのシャイニングは砂地を滑るように飛行し、真っ二つに世界政府軍の“50”を斬った。
「フルバースト!!」
バラッドがロックした対象に向かって一斉にミサイルを放つ。砲撃された弾丸、世界政府軍のアスロートやグロウなどが一瞬にして爆発する。他のGより一回り近く大きなバラッドの“100”は目立つ存在だ。
「あのGを止めろ!!」
2機のGが一気にバラッドの100に迫る。バラッドは腰に溜めていたバズーカを両手に持ち一気に放った。2機のグロウが爆散し、鉄の塊へと形を変えた。
「翼とヴィラは!?」
バラッドは回りに目を凝らす。通信、レーダーが使えない状況で頼れるものは目視だけだ。バラッドは直ぐに翼のブラック・バードを見つける。彼の周りには敵は居なかった、いや、既に倒した後だった。彼のことは心配ないだろう。そう判断したバラッドはヴィラが居るであろう方向にGの進路を変えた。


「・・・はっ!ヤツもいるのか」
翼は砂の中に見慣れたGを見つけた。傭兵たちのGだろうか、破壊されたGがバリケードのように反政府軍たちの行く手を阻む。そして、その向こうには桜色のGが居た。桜もほぼ同時に黒いGを視界に捉えた。
「“漆黒の鷹”・・・」
桜の中でいつもの感情が起きる。だが、少しいつもとは違った。憎い、憎くて仕方ないのだが意外と桜は冷静だった。自分が負傷していても漆黒の鷹の存在を知れば、自らを奮い立たせ彼に挑んだ。何としても、どんな手段を使っても彼に復讐を遂げる。桜の全てだ。だが今は不思議なことに、最高点まで達する感情の高ぶりが無い。自分でも不思議だった。最近の出来事がそうさせているのかもしれない。それを引きずった、まま戦いに赴いたからなのか。桜は静かに漆黒の鷹を見つめる。

「決着をつけるわ」
桜は新しい機体を加速させる。

「・・・新型か?優美の機体と同じみてぇだな?」
翼は桜色した機体が迫ってくるのを迎撃するため両腕のブレードを展開した。


ざらつく砂の大地が震えていた。




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