「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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30話:心の支え
「来たな!!」
翼はブレードで桜のグロリアス・バーサスのブレード攻撃を受け止め弾き飛ばされた。やはりブレード出力では負けてしまう。それを見越して翼のブラック・バードが吹き飛ぶ。だが、いつもとは違う。
「・・・出力が上がっている!?」
吹き飛ばされた状態で体勢を立直し、桜色のGを翼は見た。桜色のGはいつものように突っ込んでくる。
「今日こそ!!」
「くっ!」
スラスターを吹かして桜のグロリアス・バーサスが加速する。機体が軽い。今までより動かしやすくなっている。これなら、行けるかもしれない。ブレードを振りかぶり斬りかかった。
「行けぇ!」
「このやろ・・・!」
翼は機体を捻ってそれを回避した。が、桜のGの左腕が突きの体勢を取っていた。とっさに翼は機体を引くが、ブラック・バードを捉える。行ける。この機体なら、きっと。
「やった!」
桜は手ごたえを感じる。ブレードの先だがブラック・バードを捉えた。だが、それは幻のものだった。ブラック・バードを捉えたブレードはジェネレーター・フィールドに阻まれる。光が走り、弾かれるように桜色のグロリアス・バーサスの左腕が引き戻される。
「・・・そんな!」
「マジであぶねぇ・・・」
普段の桜ならこのまま、また向かっていくところだが、今の彼女にそれは出来なかった。一度躓いてしまうとなかなか立ち直れない。黒いGが一旦引いて再び迫って来た。桜の世界が閉じようとする。
「いい機体だがな!・・・終わりだ!!」
ブラック・バードが両腕のブレードを展開し、斬り掛かって来る。その攻撃がほぼ無抵抗な桜色のグロリアス・バーサスを捉えようとした瞬間だった。薄い水色のウィング・グロリアスが2機の間に躍り出た。ブラック・バードのブレードをそれぞれシールドとブレードで受け止め弾き返した。
「姉さん!!しっかりしてください!」
「あ・・・」
桜の耳に青年からの声が届く。通信状況の悪い砂漠だが、桜には驚くほどクリアに聞こえた。その声が桜に力を与える。
「ったく、飛ばさればっかじゃねかよ!」
翼は再び体勢を立直し、立ちはだかる薄い水色のウィング・グロリアスに迫った。ブレードを振りかぶり、それは向かってくる。まるで、桜色のGを守る騎士のようだった。
「無茶よ!!」
「度胸あるじゃねか!」
「姉さんをやらせるわけにはいかない!!」
ブラック・バードは斬りかかる瞬間、ブレードの刃を消滅させる。それは一瞬の出来事だった。少しだけ機体をフワリと浮かせ、背中側の腰から外したリニアライフルを流れるように受け取ると至近距離で放った。シールドに直撃し、ウィング・グロリアスはバランスを崩す。そこにもう一撃をブラック・バードは放った。
「があっ!」
右腕に直撃し、コクピットにまでダメージが及ぶ。モニターが割れ、煙を吐く。前が見えない。掠れるモニターの向こうでは黒いGがいる。これが“漆黒の鷹”。自分なんかでは遠く及ばない存在。自分の上官である桜はこれほどにまで強い相手に戦いを挑み続けていることに改めて感心する。でも、ここで終わりだろう。彼は幸せだった。自分がもっとも信頼できる人に出会えて、そして彼女を守って死ねるのなら。そっと、目を閉じた。ブラック・バードのリニアライフルが火を噴いた。
「・・・?」
死んだのか?そっと目を開けると、目の前には桜色のGの背中が見えた。
「大丈・・夫!?」
「姉さん・・・?」
途切れ途切れの声が青年の耳に届く。もう聞けないと思っていた優しい声を聞くことが出来て心から安心する。一気に全身の力が抜けた。
「あなた、・・・下・・・て!早・・・く!」
「・・・姉さん!」
「わ・・平・き・・よ」
殆ど何を言っているのか聞き取れなかったが、彼にはわかった。自分が信じたヒトだ。心配は無いだろう。青年は機体を防衛ラインまで下げた。
「姉さん・・・生きて帰ってきてください」
砂地に着地した薄い水色のGに味方のGたちが集まってきた。
「彼はやらせないわ!」
「何だ!?」
違う。今までとは違う動き。滑らかで、そして速く、美しい。今までに翼が感じていた怒りに任せた動きではない。今の桜色のGからはそれが感じられない。攻撃パターンにつながりがあって、休み無く攻撃を仕掛けてくる。
「何が・・・起きた?」
砂地を蹴り上げスラスターを全開にする。彼を守りたい。今までずっと自分について来てくれた上に、信頼してくれている。公私においても彼が支えとなっていた。信じてくれる彼のためにも負けられない。その中で桜は冷静に“漆黒の鷹”と対峙することが出来た。ただ、怒りに任せて攻撃するのではなく、攻撃のコマンドを繋げ、ゲームのコンボのようにブラック・バードを追い詰めた。不思議な感覚だった。
「行ける・・・落ち着くのよ」
桜は自分に言い聞かせた。“漆黒の鷹”は夫の仇である前に世界政府軍の敵、反政府軍のエースだ。それを倒すだけと考えることにした。今は、そう考えて戦うことで彼を追い詰められる。
「くそっ!!」
「はあっ!」
ブラック・バードの装甲が音を立て始める。ジェネレーター・フィールドも無限で万能ではない。同じ場所に攻撃を仕掛けられるか、同時に他方向から攻撃されるとその効力を失う。戦艦クラスではそうではないがGでは話は違う。彼女にそれに気づかれると、非常に危険だ。桜色のデュエル・グロリアスのブレードが左肩と右足を同時に捉えた瞬間、ブラック・バードの機体の輝きが一瞬“くすんだ”様な気がした。
「今の・・・まさか!?」
桜色のグロリアス・バーサスは再び、ブラック・バードを追い詰める。今度は左足と右腰をブレードが掠めた。右腰の装甲が吹き飛んだ。翼は確信する。この機体の弱点を把握された。
「やっぱり!・・・同時攻撃でフィールドが消える!!」
「接近されなければいぃんだよ!」
翼は機体を離そうと加速させるがぴったりと桜色のGは引っ付いてくる。変形しようにも無防備な変形する瞬間を攻撃されて終わりだ。しばらくは逃げるしか出来ない。
「・・・っ!」
翼は歯をかみ締め、桜色のGを睨んだ。
「アイツは!!」
ビリシャの目にフライング・アタッチメントを装着した黒いシャイニングが映る。薄い黄色のウィング・グロリアスは砂を巻き上げシャイニングに迫る。
「な!?・・・ウィング・グロリアス!!」
ヴィラもその機体の姿を捉える。あの機体には見覚えがあった。自分を追い詰めた機体。そして、自分の命を救った形になってしまった機体。あの時の真っ白なウィング・グロリアスのパイロットは自分より腕は上だろう。彼女のプライドは崩れ去った。“普通”のGに敗れたことが無かった彼女は嘗て無いほどの敗北感を味わった。敗れたわけではないが、ウィング・グロリアスは彼女のトラウマとなっていた。その機体を見つければ、誰であろうと必ず破壊しないと気が済まない。それに、倒すべき相手の象徴でもある翼のある機体だった。
「消えろぉー!!」
「今度こそ・・・負けない!!」
ヴィラとビリシャは声をあげブレードを抜き、ぶつかり合う。さすがは新型、シャイニングの格闘能力のスペック、出力に負けてはいない。互いに一歩も譲らない。一度離れると
マシンガンで互いに牽制しあう。
「早い!!」
「この機体なら・・・!」
ビリシャのウィング・グロリアスが砂地に一旦着地し、地面を蹴って飛び上がる。ヴィラのシャイニングも機体を落として再びぶつかり合った。互いのブレードから光が弾け、機体がうなりを上げる。新型機なのだろうか、“粘り”においてビリシャのウィング・グロリアスの方が上だった。シャイニングのブレードを弾き上げ、突き返しシールドで吹き飛ばした。
「きゃああぁ!!」
激しいGがコクピットを襲った。モニターには薄い黄色のウィング・グロリアスが止めを刺そうと加速してきた。
「終わりよ!!」
ウィング・グロリアスのブレード攻撃をシャイニングは左手のバスターナックルで辛うじて受け止めた。パワーでぐいぐい押してくる。
「強い・・・」
ウィング・グロリアスの左手が動いた。真っ直ぐ横に振りかぶってシャイニングを捉えた。激しい衝撃が右から襲う。ブレードを持つ右手の装甲が吹き飛んだ。
「きゃうっ!」
「いい加減に・・・落ちて!!」
ビリシャがふらつくシャイニングを追いかけようとした瞬間だった。ウィング・グロリアスの目の前を何かが通り過ぎた。そして、ビリシャが飛んできた方向に目をやると、そこには黒い“100”が居た。背中の巨大な砲台から放たれた攻撃のようだ。
「ヴィラ!!」
「バラッド君・・・」
「お前・・・下・れ!コイ・・・相手は俺・・・」
バラッドは地上からミサイルを放ち、ライフルをそれに重ねる。弾幕にビリシャは近づけない。
「くっ・・・近づけない!!」
同時に、黒い100が連れて来たのだろうか、数機のGもビリシャに対する攻撃を始めた。こうなれば引かざるをえない。
「引くしかないみたいね」
ビリシャは機体を180度向きを変え、防衛ラインまで下がっていった。
「やあっ!」
桜の掛け声と共に桜色のグロリアス・バーサスのブレード攻撃がブラック・バードを襲う。弱点が分かればそこだけを狙えばいい。2本のブレードが黒い機体を追う。
「ちっ!・・・強いじゃねぇか!!」
翼は舌打ちして、桜色のGを睨む。左腕で水平に斬ったあと、右手のブレードが突きを繰り出す。それを回避しても左手のブレードが更に斬りあげてくる。休み無くブラック・バードを攻め立てた。ギリギリで回避してブレードで受け流していくのにも限界がある。脚部や腕部の装甲にかすり傷が重なって行く。
「ちっ・・・反応が追いつかねぇ!」
翼は初めて“乱れ桜”の本当の強さを知った気がした。今までは名前負けしているのではないのかが正直な感想だった。攻撃も見切りやすく、変化に掛けていた。今、目の前にいる“乱れ桜”は別人のように強い。このままでは一瞬でも気を抜けばそこで終わる。
「どうする・・・!?」
「届かない・・・後一歩なのに・・・」
桜も決め手に掛けていた。今までの立場とは違う、圧倒的に自分に有利な状況で戦いが進んでいる。黒い機体が傷つき少しずつその手ごたえが大きくなってくるのが分かる。“漆黒の鷹”との距離が少し縮んだ感じがした。だが、決め手に掛けている以上、その距離はまだ遠い。ブラック・バードが一瞬だけ、動きが変わった。人間が起こす、たった一瞬の操作ミスだった。桜はそれを見逃さなかった。
「はあぁっ!!」
「ヤバい!!」
翼にも自分がミスをしたことが分かった。それを悔やんでも、もう遅い。桜のブレードがブラック・バードの頭部を突いた。頭部が吹き飛んだことでコクピットのモニターが、砂嵐に変わる。直ぐにサブのカメラに切り替わるがブレードが直撃する直前だった。
「ぐあっ!」
とっさに機体を放すがコクピットのある胸部をブレードが捉える。だが、そのブレードは分厚く張られたジェネレーター・フィールドに阻まれた。黒い装甲が弾けて火花が散る。
「そんな!」
桜は落ちていく黒い機体を追いかけようとしたが、それは戦闘機へと姿を変え飛び去って行った。桜はただ見つめるだけだった。
「くそっ!くそっ・・・!」
赤い光に包まれたコクピットで翼はモニターを殴りつけた。サイレンが鳴り続け機体の異常を知らせ続けている。
「・・・負けだな」
一頻り悔しがった後、翼は冷静に今の戦いを振り返った。
確実に自らの驕りで負けてしまった。
相手の実力はそれほど高くないと高を括っていた。
あれが本当の実力だろうか。
いや、本当の実力はまだまだ上なのかもしれない。
次に会ったときは、必ず倒すと誓って翼はギア・ロッドに帰還して行った。
バラッドは世界政府軍のGを見る。戦艦からの砲撃は今でも続いている。そして、とんでもない数のGが見える。
「ダメだな・・・帰還するぞ!」
周りにいた反政府軍のGたちにバラッドは呼びかけた。次々と「了解」という通信が届き下がっていく。
世界政府軍はアフリカ砂漠地帯において、短期間で2度も防衛に成功した形となった。この出来事は世界政府軍の士気を上げ、今後の戦いに大きく影響するはずだろう。それほど大きな勝利となった。
「システムオールグリーン。異常なし。セットアップ完了」
「よし、起動させるぞ!“ヤツら”を呼んで来い!」
「了解です」
いくつものモニターが並ぶ部屋の中に世界政府軍の制服姿の男性女性がモニターに向かって並ぶ。そして、ガラス張り向こうには結構な広さの空間があって、そこには2機のGが立っていた。シンプルなGだが片方は青色で右手にあの白いGたちが装備していた武器が取り付けられていた。モニターには“ランサー”という文字が浮かぶ。左腕には大型のシールドが装備されており、シールドの先端にはスパイクが取り付けられていた。背中には折りたたまれたウィングと大型の砲身が見える。
もう片方も青色だが、肩の部分だけが黒に塗られている機体だ。右手には同じように“ランサー”が取り付けられ、更に左手にも“ランサー”が装備されていた。同じように背中には折りたたまれたウィングが装備されている。基本的な装備や期待の形状は同じだが、最も違うのは肩や腰や胸、脚部に見たこともないような装甲のような装備が、肩が黒いGの方には搭載されていた。
「“I”、“O”、共にセットが完了しました」
「よし・・・Gに“搭載”後カプセルにセットしろ」
「了解」
指揮官らしき人物が一番近くで報告をした兵に対して指示を出す。彼から部屋にいる全員に更に指示が送られた。女性兵士のモニターには“I”と“O”と表示されそれぞれ青年の顔写真が表示されていた。そして、ガラスの向こうのGがいる空間に2人の青年が兵士たちに連れられて現れた。2人だけがパイロットスーツだった。機体に対応するように青いパイロットスーツで片方の、胸に“O”と書かれた方の青年のパイロットスーツの肩が黒い。
「機体を起動させろ」
2人がGに“搭載”されたことを確認すると、マイクを持って、近くのモニターを覗きこんだ。そこには2人のコクピット内での表情が映し出されていた。
「了解だ」
「了解」
2人からそれぞれ返事が帰ってくる。更に指示を出した。といっても、数分前に与えた任務の再確認をしただけだった。
「任務の内容は分かっているな?」
「“F”を殺るんですよね?」
「他の連中も殺してもいいんですよね。全部破壊しますよ」
二人は無表情のまま、棒読みのように言葉を連ねる。やはり、人格プログラムに問題があるのだろうか、表情が乏しい。そのことだけに、指揮官はため息をついた。士気が感じられないためかどうもやりにくい。普通のパイロットなら気合の入った声が帰ってくるところだろう。だが、実際のところ戦闘するために感情、表情は必要ではない。必要なのはGを動かし、敵を破壊すること。それだけだ。
「いい結果を期待している」
1つの目に灯が点った2機のGがカプセルへと歩みを進めた。
「さあ、使えるのか・・・」
指揮官の男は閉じるカプセルの中に見える青い背中をただ、見つめていた。
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