waiting for the changes

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32話:突破口


「ん?どうした?」
「あ・・・いえ、なんでもありません」
友子がぎこちなく立ち上がって一礼した。いつも冷静な友子が珍しいとレッシュは思う。
「何かやっていたのか?」
「あの・・・日記を書いていたので・・・」
「日記?・・・ああ、悪かったな。そろそろミーティングの時間だろ?友子が遅いから、ちょっとな」
そう言ってレッシュはその部屋を後にした。「すいません」と頭を下げ、顔を上げるとそこにはレッシュの姿はもう無かった。大きなため息をついて友子は椅子にどさっと座り込んだ。頭を垂れてもう一度大きなため息をつく。レッシュは普段ミーティングのときは10分ほど前から準備している友子の姿が見えないということで、探していたようだ。友子はモニターのスイッチを入れる。そこにはたわいも無い文章が連ねてあり、写真や資料も添付されていた。
「・・・気をつけないと」
そう言って友子はその資料をメールで送信する。あて先には“Father”の文字が見えていた。


「遅くなりました。これよりミッションを解説します」
友子がディスクをコンピューターに差込みモニターにその映像が展開する。砂漠地帯と廃棄された市街地、そして、北の隅のほうには地中海が見える。
「反政府軍を突破して、地中海に出ます。我々が突破口となることで、“傭兵の道”を開くのが目的です」
友子がキーボードを弾くとデータや、経路などが地図上に表示された。レッシュと優美は1度見たものだったが、翔やミコ、クルスにとっては初めてのものだった。クルスがその状況をみてぼやいた。
「かなり厳しくない?私たちが先行するって言っても、これじゃ厳しいよ」
「確かに厳しいかもしれません。ですが、諜報部の報告ではこの経路で攻めれば防衛が薄いと推測されています」
クルスの問いに友子は直ぐに答えを出した。クルスはその答えを聞かずにミコに「諜報部ってスパイだよね?・・・傭兵にもいるんだ」と聞いていた。優美が真剣な眼差しでモニターを見つめている。反政府軍ということはあの中に翼さんがいるのかもしれない。その時、私は・・・。
「優美っち・・・?」
「・・・はい?」
「どうしたの?」
クルスが顔を覗き込んでくる。その顔は心配そうに優美を見つめる。優美は驚いたが、直ぐに笑顔を作った。
「ううん、なんでもない」
「・・・何でもない分けないでしょ」
「え?」
クルスの言葉に優美はそれ以上何も言えなくなった。クルスは優美の両肩を持ってまっすぐ見つめた。
「優美っちって、顔に出ちゃうんだもん。辛いことがあったら、自分だけで抱え込まないで、なんでも言ってね」
「・・・うん」
クルスは優美にしか聞こえないぐらいの声量でそっと言った。その後、にっこりと笑って優美から離れて、またミコの横に戻った。優美の様子を見てレッシュが近くまで来る。
「どうした?」
「クルスが、何かあったらみんなに言って、って」
「クルスが?・・・はは」
レッシュはクルスの方を向くと、クルスと目があった。笑ってピースサインを作って2人に笑いかけてきた。直後にミコにチョップを食らわされていた。
「・・・以上です。準備をお願いします」
丁度、友子の説明が終わり、シェリーと貴子と友子がレイザーのブリッジルームに向かい、クルスとミコ、優美は正面の女性用のパイロットルームへと向かって行った。
「レッシュ」
2人となった男性用のパイロットルームで翔がパイロットスーツに着替えながら、レッシュに話しかけた。
「何だ?」
「・・・“漆黒の鷹”のことだけど・・・出てきたらどうするんだ?」
翔の問いかけにレッシュは少し間を置いて答えた。
「話をしようと思う」
「話!?・・・また無茶苦茶なことだな。・・・出来るのか?」
「わからない。だけど、優美が言ったんだ。それに賭けてみようと・・・俺は思う」
翔が驚きの顔を見せたが、レッシュとの長い付き合いのためか、内心それほど驚きはしなかった。逆にレッシュがそのことに驚いた。
「そうか」
「・・・それだけか?」
「まあ、こういうことは今に始まった訳じゃないしな。優美ちゃんが絡んでいるなら、尚更だな」
「悪いな」
レッシュは苦笑して翔の顔を見た。翔も歯を見せて笑う。お互いにパイロットスーツに着替えて、ヘルメットを持った。
「行くぞ?」
「ああ、一気にカタつけるか」
レッシュと翔は手をガッシリと握り合ってから、パイロットルームを後にし、格納庫へと向かった。


「優美ちゃん」
「はい」
ミコがパイロットスーツの前面の気密ファスナーを上げながら優美の名前を呼んだ。優美は着替え終わって、丁度ロッカーを閉めた瞬間だった。
「ねえ、隊長となんかあったの?」
「・・・翼さんのことで」
優美が暗い顔をしたので、ミコは聞いてはいけないことを聞いてしまったような感じがしてあたふたしてしまう。
「“漆黒の鷹”・・・あ、ゴメン」
「大丈夫です。レッシュが何とかしてくれます」
優美の顔は、今度は真っ直ぐな瞳をしていた。彼女がどれほどレッシュのことを信頼しているということが分かる。彼女の目は嘘はつかない。
「そっか・・・隊長が何とかしてくれるよね」
「ミコも優美っちも心配しすぎなのよ。隊長がやる!って言って失敗したことがあった?」
クルスが2人の会話に割って入ってきた。その言葉で、2人は救われる。
「そうよね・・・隊長なら大丈夫よね」
「うん、レッシュなら」
3人は向かい合って頷いた。彼を信じて戦って来た。そしてこれからも・・・。
「さ、行くわよ!」
ミコの掛け声と共に3人は格納庫へと向かった。


「レーダーに機影!・・・識別コード認証、輸送艦レイザーと確認」
「レイザー?・・・物資の予定は無いぞ?」
シートに取り付けられたキーボードを弾くと小さなモニターに“物資輸送予定”のデータが展開する。突然現れた輸送艦レイザー、そして物資の輸送の予定は無い。つまり導き出される答えは1つだ。
「敵襲!各員第1級戦闘態勢に移行!・・・今は1隻だが、今後増援が現れるかも知れん。G部隊をいくつかこちらに廻せ!」
指揮官は的確に指示を出し、自らもGの元へと向かう。
「後は頼んだぞ」
「了解!お気をつけて!」
その指揮官がパイロットスーツに着替え、格納庫に向かうと、腕と足の一部だけが緑に塗装されたウィング・グロリアスがあった。その機体は、初期モデルといわれる元々純白の機体だったものだった。


「最初にミコ機とクルス機を投下。以降、翔機、優美機、レッシュ機と順次出撃してください」
「了解!」
ミコから通信が帰ってくる。既に反政府軍たちのGは動き出したようだ。かなりの数のGが見える。
「クルス!先に行くわよ!」
ミコがレイザーのハッチから飛び降り乾いた大地に着地する。着地体勢からゆっくりと起き上がった赤いグロリアス・スーパーの横に同じく赤いグロリアス・スーパーが着地する。
「数が多いねー」
「さあ、行くわよ」
ミコとクルスが同時に歩み始めた時、頭上を爆音が駆け抜ける。灰色のGだった。あっという間に反政府軍のGたちに接触し、戦闘を開始した。反政府軍の1機が炎を上げる。
「うわっ!早っ!!」
「あれは・・・反則よね」
お互いぼやいて笑い声が漏れる。2人はペダルを踏み込み機体を加速させて行った。


「優美です。ウィング・グロリアス行きます!」
レイザーのハッチデッキを軽く蹴って空へと飛び立つ。すーっと持っていかれるようなGを感じて世界政府軍のGたちを見た。異常に速く飛び回るGと、ド派手な赤い2機のGが味方のGだ。目立っている分味方として認識しやすい。そして、横に赤い戦闘機が平行して飛んでいく。
「優美!」
「はい」
「気をつけろよ!」
「はい!!」
レッシュのレッド・バードは機体を更に加速させ一気に反政府軍のGたちの中に飛び込んでいった。それを見て優美も機体を加速させながら願った。
「レッシュ達を守って・・・それから翼さん・・・お願い」
優美はパイロットスーツの中にあるペンダントのある辺りをそっと触れた。


「“赤き巫女”、“灰色の弾丸”、“深紅の鷹”を確認!!・・・最近噂になっている傭兵部隊です!!」
「相手にとって不足はないな。各機、散らばるな!固まって集中攻撃で1機ずつ墜として行け!」
「了解!!」
反政府軍のグロウやグロリアス、ハイジェンが最初のターゲットに選んだのは“灰色の弾丸”だった。スピルスに射線が集中する。銃弾の雨の中を翔は回避していく。
「くっ!・・・ミコさん!クルス!援護してくれ!」
「待って!・・・今は!」
ミコとクルスのグロリアス・スーパーの前に4機の50が立ちはだかった。それぞれ両腕にマシンガンを持ち凄まじい弾幕を張っている。
「ああっ!もう!!・・・見た目がヤなのよ!!」
クルスがシールドを構え、50の周辺をGが円を描くように地面を這わせ加速させる。銃弾が空を捉え、赤いグロリアス・スーパーの後ろに飛んでいく。ロック修正され、銃弾が彼女の機体を捉えるギリギリのタイミングで飛び上がりシールドで1機の50にタックルした。バランスを崩したその50を吹き飛ばし、ブレードを抜く。動揺が見える50のパイロットたちが瞬き瞬間、頭部を切り落とした。モニターにノイズが走り、更に強い衝撃が機体を襲う。吹き飛ばされ、地面を削って動かなくなった。
「コイツ!」
残された50のパイロットが至近距離でマシンガンをクルスのグロリアス・スーパーに向けた。直後、横からライフルの銃撃を受け、爆発する。その先にはミコのグロリアス・スーパーがいた。残された50は殆どヤケクソになって、銃弾を撒き散らした。その銃弾をさらりと回避してミコのグロリアス・スーパーが迫った。
「クルス!」
「うん!」
ミコのグロリアス・スーパーはブレード抜いてその50を横から真っ二つに斬った。そして、最初に吹き飛ばされ、やっと起き上がった50の目の前には、クルスの赤いグロリアス・スーパーがいた。
「うわぁああ!!」
クルスは頭部と武器を持った腕を破壊して戦闘能力を奪った。そして、苦戦している翔のスピルスのところに向かおうとした瞬間、強烈な光が襲い、2機のグロウが一瞬で破壊される。レッド・バードの“シルバー・アロー”の光だ。
「隊長!!」
「翔は俺が援護する!クルス達は地上部隊を頼む!」
「任せてください!」
クルスが勢いよく返事をしたとき、2機の赤いグロリアス・スーパーの間に純白の翼を持ったGが降り立った。パイロットはクルスの乗るグロリアス・スーパーの元パイロットだ。
「クルス!機体はどう?」
「いい感じ!前より反応がいいし、パワーが違うわ!」
通信モニターに映る嬉しそうなクルスの顔を見て優美は小さく笑った。彼女たちに息つく暇も無く次の部隊が攻める。
「ミコ!優美ちゃんを援護するわよ」
「あ、丁度私も同じこと言おうと思ってたのに!」
純白のウィング・グロリアスが飛び上がり、スラスターを開いて加速する。優美のウィング・グロリアスのスピードにはグロリアス・スーパーでは追いつけない。ここは彼女の援護に徹した方が足手まといにならずに済む。ウィング・グロリアスの右腕の“G-4”が火を噴いた。3連射して、2機のGの戦闘能力を奪う。
「馬鹿な!?あんな小型のエネルギー兵器なんて、“不可能”なはず!」
紅白の3機のグロリアスの前には次々と反政府軍のGたちが倒されて行った。


「これが・・・“深紅の鷹”」
そのレッド・バードの圧倒的とも言える力に成すすべなく反政府軍のGたちは倒されていく。ピンチを脱したスピルスも息を吹き返し、また、超高速で飛び回り撹乱し始めた。反政府軍の飛行能力を持ったGの部隊はほぼ全滅状態までに追い込んだ。
「レッシュ、飛行部隊が少ないな」
「今まで俺たちが戦った相手が飛行部隊が多かっただけで、基本的には多くないだろ」
最小限の動きだけで回避しているレッド・バードは攻撃が当たりそうで当たらなかった。普通のGじゃ考えられない体勢から“シルバー・アロー”を放って、反政府軍のGを葬る。その動きが更に反政府軍のGパイロットたちに恐怖を与える。
「隊長!!こ、攻撃が当たりません!!」
「落ち着け!・・・よく狙っ、ぐああ!!」
「隊長ォォ!!!」
純正色のグロリアスが燃え上がる。その横には灰色のGがブレードを構えていた。一瞬の隙を突いて翔のスピルスが撃破した。
「お前ぇ!!!」
「おい!イーザ!待て!!」
怒りに燃える青年はグロウをスピルスに加速させる。ブレードを抜いて、大振りで斬りかかった。隙だらけのその動きを見て、翔はスピルスをしゃがみ込ませた。そして、踏み込んで横に斬った。上半身と下半身が真っ二つになって、上半身がそこに崩れ落ちた。下半身だけがむなしく数歩歩いて崩れる。
「イーザ!!・・・っ!」
残されたグロウのパイロットは腰が完全に引けてしまった。スピルスは攻撃する意思の見られないグロウの頭部と右腕をマシンガンで破壊する。
「・・・次だな」
翔はスピルスを飛び上がらせ、一旦、レイザーの元へと補給に帰っていった。


「被害増大!」
「よし、私も出る!ハッチを開けてくれ!」
地上から真っ直ぐ地下に向かって長いトンネルがある。そこの最上部、つまり地面の部分が開いた。その男は薄い緑のパイロットスーツに身を包んだ男だった。そっと目を開け、メインモニターに灯が点る。システムが起動し、ウィング・グロリアスの目に灯が点る。
「エルト・リーだ。ウィング・グロリアス出撃するぞ!!」
飛び上がった緑のウィング・グロリアスが縦長のトンネルを抜け、ハッチから飛び出していった。




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