「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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37話:FLY
「何!?」
ブラック・バードが一気に接接近し、青い機体を捉えた。そのスピードに、“I”は堪らずシールドでガードした。2本のブレードを受けたシールドが軋み、左腕が押し返される。青い機体は至近距離で“ランサー”を放った。
「くっ!」
「タカ!」
とっさに離れたブラック・バードの前をエネルギー弾が掠めた。レッシュは“シルバー・アロー”を放ちながらシールドを持った青いGに迫る。そこに、ジア・エータの砲撃がレッド・バードを捉える。だが、EVEのセンサーのお陰で容易くレッド・バードは回避した。
「左から砲撃!」
「はっ!」
だが、その先に居たシールドを持った青いGを砲撃が捉えた。シールドの前でエネルギー弾が拡散し、光が弾ける。
「・・・っ!・・・あれか」
“I”はジア・エータを睨んだ。そして、“ランサー”を構えた。チャージが完了し、銃身に光が収束する。それを見たブリッツェンは回避命令を出した。
「・・・障害は排除する」
「回避!!」
ジア・エータは右に大きく傾く。そこにエネルギー弾が駆け抜けジア・エータの左舷の下底部を掠めた。ジア・エータが大きく揺れる。
「損傷は!?」
「・・・軽微です!」
「ブリッツェン!?・・・大丈夫か!?」
すぐに翼からの通信が開いた。ブリッツェンは「大丈夫だ」と返した。それを聞いて翼は一安心する。ブラック・バードはリニアライフルを持ち、シールドを持つ青いGに向かって放った。それは回避され空を切る。
「“I”。あくまでも対象は“F”・・・のはずだろ?」
皮肉っぽく“O”は“I”に向かって言う。それに対しては“I”は何も言わなかった。そんな“O”にはレッド・バードが迫る。
「行けぇ!」
「排除対象は“F”・・・お前だ」
“シルバー・アロー”が両手に銃を持った青いGを狙う。放たれた2つのエネルギー弾は回避され、次は青いGの両での“ランサー”から4つのエネルギー弾がレッド・バードを捉えた。
「くっ!・・・危ない!」
「・・・ん?どうした?さっきのはまぐれか?」
先ほどのレッド・バードの動きと明らかに違う。キレが無い。何とか回避しているように見えた。だが、動き自体は自分たちと同じ、人間的な動きでそれを回避した。
「邪魔をするようだな。“O”、“ブラック・バード”を排除対象に移行。・・・排除するぞ」
「・・・確認した」
“I”はブラック・バードを圧倒しながら、“O”に静かに告げる。“F”の排除の邪魔をすれば、敵だ。堪らず翼はレッシュに叫んだ。
「レッシュ!・・・何だコイツ等!?」
「俺が知るわけ無いだろ!」
レッシュは2つの銃から放たれるエネルギー弾を何とか回避し続けていた。翼も打つ手が無いままエネルギー弾を回避するだけ。ジア・エータは味方に当たるかもしれないということから攻撃が出来ない。レイザーもまた同じだった。
「艦長!どうします?」
「待て・・・今は攻撃できない」
ブリッツェンは振り返った射撃管制のクルーに“待った”の合図をした。4機のGが空中で絡み合う。
「貴子さん!」
「今は・・・無理です。隊長に当たります」
「でも!」
「・・・今は、ミコさんの言うように隊長を信じるしかないです」
クルスを制した貴子だったが、アームレストを強く握り締めてその戦いの行方を見守っていた。
強い。
攻撃を回避するのがやっとだ。
そして、この動き。
人間臭い動き。
エデン・チルドレンに間違いない。
そして、今までに出会ったエデン・チルドレンの誰よりも強い。
機体性能と相まって、翼にはそう感じられた。打開策が無い。攻撃が掠りもしない。
「・・・ダメだ・・・」
翼の目に入るのは同じように苦戦している赤い機体。あの強力な銃が相手の2丁拳銃の青いGに掠りもしない。強烈な光が空を捉えているだけだった。このような状況も前にあった。その時は・・・。
「当たらない!?」
「ロック率修正、回避ロジック誤差修正、システムに適応・・・行けます!」
「これでっ!」
“シルバー・アロー”が空を切り続ける。EVEがデータを解析し、レッド・バードのシステムを修正する。それを確認した瞬間にレッシュはトリガーを引いた。
「・・・ん?少しは良くなったようだが・・・まだだな」
「・・・くっ!外した!?」
レッシュは射撃には自信があった。この機体とEVEの力を手に入れてからはそれが更に強固なものになっていた。だが、それはこの敵の前では脆くも崩れ去る。自分と同じエデン・チルドレン。腕は相手が上だ。“O”からの通信が開いた。
「“F”・・・お前は、“イクシード”をうまく使いこなせていないようだな」
「何・・・?“イクシード”?」
レッシュは意味が分からなかった。使いこなせていない?何のことなのか。もしかして、今の“この能力”のことなのか。
「お前と俺では、“力”が違うんだよ。お前はここで俺たちが消す」
「そうはいかない!俺は、俺を知るために戦う!」
レッシュは機体を加速させ、一気に距離を詰めた。青いGは両手の“ランサー”をスライドさせ、ブレードを展開する。レッド・バードと青いGが2本のそれぞれブレードを輝かせ激突する。
「知る?・・・知る必要はない」
「何!?」
「ここでお前は消える運命なのだからな!」
レッド・バードが弾き飛ばされる。そこに肩が黒い青いGが“ランサー”を元に戻し、エネルギー弾を放った。レッドシグナルが点り、EVEが叫ぶ。
「来ます!」
「くっ!」
錐もみ状態になりながらも何とかそれを回避したレッシュだったがもう、手一杯だった。そして目に入ってきたのは同じように苦戦している黒い機体だった。追い詰められた状況を打破する方法がレッシュに浮かんだ。自分でも信じられなくて小さく笑ってしまう。そして、その方法を実行に移した瞬間だった。
「タカ!」
「レッシュ!」
互いに通信を開いてお互いの声が重なる。そのことにレッシュと翼は驚いた。レッシュはもう一度、彼の名前を呼ぶ。
「タカ!」
「・・・何だ?」
その声は怒りのこもった声ではなかった。レッド・バードを通し、EVEを通し伝わってくる僅かな感覚がレッシュにはそう思わせる。レッシュはこの状況で驚きの提案を翼に投げかけた。
「タカ!・・・手を貸してくれ」
「ああ?」
思っていた通りの反応が翼から返ってくる。今は敵同士である上に、レッド・バードは翼の仲間である“100”を破壊し、ギア・ロッドを航行不能までに追い込んだ。そんな対案を翼が聞いてくれるはずも無いだろう。
「・・・やっぱりな」
「え?」
「結局同じだな。・・・俺とお前は」
意味深なことを翼が返してくる。この状況ではその意味を理解するのはレッシュには無理だった。だが、その次に聞こえた言葉が全てを吹き飛ばす。
「ちょうど俺も同じこと考えてたとこだよ!」
「タカ!」
レッシュはその言葉に驚いて同時に嬉しくなった。嬉しいという表現は間違っているのかもしれないが、そうレッシュには感じられた。
「だが、条件がある!“これ”はコイツ等を倒すまでの話だ!・・・それから!」
「それから?」
翼からの1つ目の条件をレッシュはのんだ。その条件はまだあるようだ。
「指示はお前が出せ!・・・反論はあるか?」
「・・・ああ、それでいい!・・・行くぞ!タカ!」
最後の方は翼が笑っているようにレッシュには聞こえた。レッシュはスロットルを全開にして更に高く飛び上がる。レッド・バードは戦闘機形態へと姿を変えた。
「ああっ!」
「付いて来い!」
翼は、レッシュの言葉に同意する。久しぶりの感覚だった。その言葉を心地よく感じる。そう昔、彼の指示の下で翼は戦っていた。ブラック・バードも戦闘機形態へと変形し、レッド・バードのあとを追った。
「何をする気だ?」
「無駄な足掻きを・・・」
“I”と“O”は空を見上げてその行方を追った。丁度、太陽が目に入って眩しい。それが狙いなのか。
「太陽を背にするのか・・・だが、来る方向は太陽からだろ」
“O”は2丁の“ランサー”を太陽に向けて構えた。
「タカ!」
「何だ?」
レッシュの言葉に翼は自然に反応する。ついさっきまで敵同士だったのに、笑えて来る。
「正直、あいつらには勝てない!」
「ああっ!?何言ってんだよ」
「・・・Gのままじゃ勝てない・・・ってことだ」
レッシュは自信を持って言った。彼が一緒ならば負ける気がしない。自信を持って自分が考えた作戦を言う。作戦というほどのものでもないが、最善で最高の手段だった。
「どういうことだよ!?」
「俺たちは元々戦闘機乗りだ。・・・で、その機体は何だ?」
「ブラック・バード・・・。ふっ・・・なるほどな」
翼は納得できた。ブラック・バードは“可動翼”という新システムを搭載した戦闘機であって、対G戦闘用に開発された戦闘機だ。そして、レッシュの乗る赤い機体はほぼ同型機、つまりはブラック・バードと同等の戦闘能力を持っていてもおかしくはない。それに、その力は翼がよく知っている。
「Gに乗ってるより俺たちは戦闘機の方が長いんだ!・・・俺たちのコンビなら」
「あいつらなんて敵じゃねぇな」
翼からの自信たっぷりの声がレッシュに届いた。翼のほうにもレッシュの声が届く。同じように自信に溢れた声だ。さっきまでの“勝てない”という感じがしない。逆にレッシュと翼が負ける気がしなくなっていた。
「止めだ」
“ランサー”が立て続けに発射される。だが、爆発が起きない。数発放たれたエネルギー弾は彼らを捉えなかった。
「タカ!F(フォーメーション)12!!」
「了解!」
久しぶりに聞いた“命令”だった。3年経ってはいたが、翼ははっきりと覚えていた。当時、レッシュは相当な数のフォーメーションを考えていた。それを敵や場所、天候などの状況に応じて細かく分類し翼に覚えるように言っていた。体がそれを覚えている。その“命令”が下った瞬間、反射的に翼の体はブラック・バードを動かす。雲を切り裂き、死角からブラック・バードが現れる。すぐさまその方向を向いた瞬間、太陽の方向からレッド・バードが現れた。
「馬鹿な!?今の射撃を回避したのか!?」
「レッシュを甘く見るんじゃねぇぞ!」
翼はGに変形することなくただ、肩が黒い青いGの横を通り過ぎただけだった。それに速い。ブラック・バードは余計な装甲やパーツをパージして身軽になっていた。もう、人型形態には戻れないが、それだけのリスクを背負って戦わないと恐らく勝てない。自身の裏づけとして翼は覚悟してこの手段を取った。レッシュの指示に適うためには翼が“戦闘機乗り”として最大限の力を発揮することだった。
「攻撃しない!?」
「こっちだ!!」
レッド・バードの“3発分フル・バースト”が火を噴いた。真上からの攻撃に“O”は逃げ場を失う。ブラック・バードにロックしていたため、真上からレッド・バードが来るとは思わなかった。回避したが、左腕を全て強烈な光が包み込む。光は海面に打ち付けられ、空高く水しぶきを打ち上げた。左腕は消滅し、左足にも損傷を追う。
「がぁ・・・」
“O”のコクピットに危険信号が点る。機体とリンクしているため左目が見えない。頭部にもダメージを負ったようだ。“I”が“O”をカバーしようと、近づこうとしたときだった。ブラック・バードとレッド・バードがそれを阻む。
「「行け!!」」
「ちっ!」
ミサイルが上空に飛び上がったブラック・バードと肩が黒い青いGの横を駆け抜け、水面を抉りながら飛んでくるレッド・バードから放たれる。2人の声が重なった。
「タカ!先に肩が黒い方から仕掛けるぞ!」
「各個撃破か!・・・了解だ!」
「くそっ!何だ!?戦闘機ごときに・・・!アロードに消されちまう」
その言葉はレッシュにも届いた。そして、その名前はどこかで聞いた覚えがあった。
「アロードに・・・消される・・・?」
「ああっ?アロードがどうした?」
「・・・いや、何でもない・・・タカ!右だ!!」
レッシュが発したその言葉を翼は何気なくやり過ごした。後に重大なことになるともその時は翼は気づきもしなかった。レッシュの声に反応し、翼は機体を捻った。エネルギー弾を舐めるように回避し、肩が黒い方のGに向かってエネルギー弾を放った。“O”の視界にリニア弾が迫る。
「くそっー!!」
“O”は思いっきり体を起こした。と同時にリンクした機体も体を仰け反らせる。コクピットを掠め空へと銃弾が吸い込まれていく。
「まだだ!行くぞ!タカ!!」
「任せろ!!」
「F(フォーメーション)3!」
赤と黒の2機の戦闘機が合流し、機体の“腹”をお互いに合わせて“O”の乗る肩が黒いGに迫った。相当な腕と2人の息が合っていないと出来ない“技”だった。“シルバー・アロー”とリニアライフルが同時に放たれる。
「喰らえ!!」
「行けぇ!!」
リニア弾を回避した瞬間、“シルバー・アロー”の強烈な光がGを包む。空中で機体を沈み込ませ、それを回避しようとした。が、頭部を捉えられ、“O”の視界を完全に奪われた。
「何!?・・・だが!」
たとえ頭部が破壊されようと彼には関係ない。感覚を開けば、彼らエデン・チルドレンにモニター、カメラは必要ない。だが、それはこのときは通用しなかった。レッド・バードが戦闘機形態のままブレードを展開したのを“O”は見た。
「な・・・馬鹿な・・・!」
「終わりだ!!」
「ぐあああ!!!!」
「“I”・・・」
肩が黒い青いGの腹部のコクピット部分をレッド・バードのブレードが完璧に捉えた。金属の擦れる音が響き渡り、機体が真っ二つに割れる。レッド・バードは翼を羽ばたかせ急速旋回し、上半身を“シルバー・アロー”で攻撃した。爆発し、海へと落ちていく。下半身もブラック・バードの“背”に搭載された小型のエネルギー砲が破壊する。爆発しバラバラになって地中海へと墜ちて行った。その時だった。レッシュに何かが砕けるような感覚が流れ込んできた。
「このままで・・・道連れだ!!」
「・・・何だ・・・?」
「ああ・・・ああぁ!!」
「EVE?・・・大丈夫か!?」
EVEのモニターに凄まじい情報量の文字や数列、映像が並んだ。一瞬だったがその中には何か、誰かの言葉のようなものや、ある風景の断片などがレッシュには見えた。
「私は・・・あの時・・・!!」
「・・・EVE?」
「ここは何処なの!?何なの!?・・・私は!?」
凄まじい勢いで捲くし立てるようにEVEは言った。
「お、おい!?」
「何やってんだコラ!・・・来るぞ!!」
レッシュはEVEのモニターに流れ続ける情報に混乱していた。機体とリンクしている状態のため、EVEの“考えたこと”や“思ったこと”が頭に流れ込んでくる。翼は動きの鈍ったレッシュに向かって叫んだ。“I”の乗る青いGがそこに迫る。
「・・・馬鹿な。失敗したのか・・・?」
“O”は死に際、感覚を開放した。どうせ死ぬなら道連れだ。機体とリンクできる彼らには出来る。強制的にレッド・バードとリンクし、自分の死とレッシュの死を同調させるつもりだった。つまり、機体を“殺せば”レッシュは死ぬ。機体とリンクしている状態レッシュを葬るはずだった。だが、そこにはEVEが居た。
「あなたは・・・誰?・・・レッシュ?」
“目の前”にいる人物が誰か分からない。だが、データベースのメモリーにその名前があり彼女はその名前を呼んだ。
「EVE?・・・どうしたんだ?」
「私はEVEなんて名前じゃない!!・・・私は“E”!!」
「・・・“E”?」
混乱するその声は泣き叫んでいるようにも聞こえた。
「私のカラダは!?私は何でGの中にいるの!?・・・私に入ってこないで!!・・・助けて!!」
Linkerシステムが強制的に解除される。レッシュの視界がコクピットに戻った。
「くっ!後で何とかしてやる!・・・今はアイツを倒すんだ!」
「え?・・・私を助けてくれるの?」
「・・・こいつを倒せたらな!」
消えそうな声でEVEはレッシュに問いかけた。体がない。でも、体中が痛い感覚がある。でも意識だけははっきりしている。状況がすぐには理解できなかった。頼りになるのはレッシュだけだ。
「ああ、だから今は、もう一度、“同調”してくれ!」
「・・・分かった。我慢する」
「Linkerシステム起動!」
「うっ・・・!」
彼の情報が流れ込んでくる。だけど、今度は先ほどのような不快な感じはしなかった。どちらかというと心地いい感じだ。痛みも消え、すっきりと世界が広がる。不思議な感覚だった。翼がもう一度叫んだ。
「・・・レッシュ!!」
「ああ、大丈夫だ!・・・行くぞ!!」
2機の戦闘機は散開し、“I”の青いGに迫っていた。
「すごい・・・」
「・・・レッシュ・・・頑張って」
クルスが感嘆の声を漏らし、優美が胸の前で祈るように手を握っている。レイザーのブリッジが大きく湧き上がる。“漆黒の鷹”と共闘し始めたときは大騒ぎになっていた。
「ちょっ!・・・あれ!!何で“漆黒の鷹”が隊長と一緒に戦ってるの!?」
「嘘っ!」
異変に気づいたのはクルスだった。ちょうど。優美が格納庫からブリッジルームに上がってきた時だった。大型のメインモニターには2機の戦闘機が2機のGと戦っている映像だった。
「翼さん!!」
「え?敵じゃないの?」
「翼さん・・・やっとわかってくれたんだ」
レッシュと翼が一緒に戦っているということは、レッシュが翼との“交渉”に成功したと考えられる。優美にとっては大きなことだった。
「でも、すごい・・・」
その2機の戦闘機は翼を羽ばたかせる様に、飛び回っていた。
「艦長!!・・・“深紅の鷹”ですが・・・」
「今は、“敵”ではないようだ・・・。彼の判断に任せるしかない」
ブリッツェンはその戦いの行く末を見ていた。1機の青いGが真っ二つにされ爆散する。見事なまでのコンビネーションに息を呑んだ。たびたび接触しそうな瞬間があるが2機はそれをまるで楽しんでいるように見えた。お互いの信頼関係が成り立たなければ成し得ないことだろう。
「これが・・・彼の“過去”か」
ブリッツェンは過去を語らない翼のことを少しだけ知ることが出来た気がした。
「“F”の抹消に失敗。帰還命令を願います」
「・・・認めん。消すことが命令だ。お前の存在など重要ではない」
「・・・了解」
冷たい声が“I”を突き放した。所詮兵器、使えなければ意味はない。それっきり通信は切れる。“I”は静かに2機の戦闘機を見た。お互い距離を取って様子を見ている。
「リミッター解除。全システム、エンド」
“I”は全てを解き放った。それをいち早くEVEが察知した。
「あぁっ!!ダメよ!“I”やめて!」
「“I”・・・?」
「彼は“I”。“F”と・・・あなたと同じよ!」
EVEの叫びがレッシュの感覚へと届く。レッシュが感じていたことは正しかった。やはり、敵はエデン・チルドレン。レッシュと同じだ。
「レッシュ!!」
「行くぞ!」
「やめて!!“I”は私たちと!!」
レッド・バードのコントロールが強制的にレッシュから奪われた。攻撃態勢を取ったレッド・バードが急激に踵を返して、在らぬ方向へ飛んでいく。
「ってオイ!!何やってんだよ!?コラ!!」
「EVE!何を!・・・コントロールを返すんだ!」
「イヤ!あなたは“I”を殺すわ!“I”は・・・“I”が死んだら、私もあなたも死ぬ!」
突然のことにレッシュは混乱した。EVEの言っていることの意味が分からなかった。
「どういうことだ!?」
「今、“I”はレッド・バードを強制リンクさせたわ!だから、自分の命を絶てば、この機体ごと倒せる。つまり、リンクしているレッシュも死ぬの!・・・この会話も聞こえているはずだから」
必死に叫ぶEVEが言い終わると同時に声が届いた。その声は驚くほどクリアに聞こえる。まるで耳元で言ったような声だった。
「その通りだ。我々の力を持ってすれば、敵機の操縦系奪うことや視界を書き換えることも可能だ」
「・・・何!?」
「味方のGに侵入し味方同士で殺し合いをさせることも可能だ」
“I”の声は驚くほど冷静だった。EVEが言っているようにこの後自らの命を絶つとは思えない。その時、レッシュと“I”の間に翼が割り込んできた。
「・・・おい・・・敵を味方にするってことなのか?」
「そうだ。対象が“イクシード”でない限り、全てを奪うことが出来る」
「・・・コイツ!!」
翼はブラック・バードを急旋回させ、リニアガンを放とうとした。それをEVEが止める。
「やめて!今“I”を倒せば、レッシュも死ぬ!!だから!!」
「誰だお前は!!何で、レッシュの機体に乗ってんだよ!!」
見知らぬ声に翼は怒鳴った。もし、一緒に乗っているとしたら翼は優美以外考えられない。それは優美のものではない。その必死な声は翼に向かって言い返した。
「私は、“E”!どうしてか分からないけど・・・レッド・バードの中に居るの!!」
「レッド・バード!?・・・お前は何者だ!?」
「今はどうでもいいから!“I”を殺しちゃダメなのよ!!」
「やめろ!!この事態を打開するのが先だ!!」
今度はレッシュがEVEと翼の会話に割って入った。すると、あざ笑うような声がレッシュとEVEに届いた。“I”がコクピットの中でうつむいて、顔を上げた。
「ふっ・・・もう遅い。ここで共に消える」
ブラック・バードがもう一度仕掛けようと“I”をロックした。また、EVEがそれを止める。レッシュは歯をかみ締めた。
「やめて!!」
「くそっ!」
それを遠くに居た優美も異変を感じ取った。目を見開いて、ブリッジ正面のガラスに飛びついて震え始める。クルスも優美の尋常ではない姿を見て驚いた。
「ダメ!!レッシュ!!逃げて!!」
「どうしたの?」
「レッシュが!!レッシュが!!」
崩れ落ちる優美をクルスが支えた。泣き始めて何かを繰り返している。
「ちょっと、優美っち!」
「間に合わない・・・もう」
震える小さな声がそうつぶやいたときだった。レーダーがとんでもないものを捉えた。
「これ・・・何!?」
「え?」
それはジア・エータのレーダーにも捉えられた。
「アンノウン出現!!・・・速い!!」
レーダーには最初ミサイルと誤表示されたほどだった。熱源からすぐにGへと切り替わったが、このスピードで迫る機体を前にもオペレーターは経験していた。あの、スピルスと同等か、それ以上の速度だ。
「・・・何だ?」
ブリッツェンも身を乗り出してその方向を見た。カメラでは捉えることができないがレーダーだけがその姿を捉えていた。
「うっ!」
「くっ!何だ!?」
レーダーが鳴り響き、キンっと割れるような感覚をレッシュとEVEを襲った。それが何なのか分からないまま、それは起きた。目の前を何かが通り過ぎ“I”の機体が真っ二つに斬れた。
「うわあああ!!何故だ!!!・・・バカな!!!」
その叫びと共に“I”の青い機体は爆散した。そして、その向こうには赤い機体が居た。
「“無限のクーパー”!?」
「間に合ったようだな」
その声を聞いてレッシュは我に返った。・・・生きている。“I”は死んだが、自分は生きていた。EVEが泣いているような声でレッシュに言った。
「この人が助けてくれたの」
「え?・・・どういうことだ?」
「どうしてか分からないけど・・・この人は、私たちと同じ感じがする・・・でも、違う・・・」
その声を遮って翼が叫んだ。
「お前ぇ!!“無限”!!」
「待て・・・今は君たちと戦う気はない」
「お前が無くても、俺にはあるんだよ!!」
ブラック・バードがエネルギー弾を放った。それを簡単に回避して、MU-GENはブラック・バードに向き直った。背中を向けて、リッジはレッシュとEVEに向かって言った。
「行け。君も・・・目覚めたようだな」
「待って!私は何なの!?」
EVEが呼び止めたがその背中は多くを語らなかった。
「レッシュが教えてくれる」
「でも!!」
「それから・・・レッシュ」
「何だ?」
迫り来るブラック・バードを前にしてリッジは全く動じなかった。そして、静かに言葉を発した。
「もうすぐ分かる。“真実”が」
「“真実”?」
「そうだ。自分の目で確かめるのだ」
「待て!!」
レッシュの叫びを翼が遮った。ブラック・バードが真っ直ぐにMU-GENに向かって行く。
「お前ぇ!!」
「行け。もうすぐ世界政府軍の大部隊が来る。地中海を抜けろ」
「レッシュ!今は離脱するのが得策よ!・・・機体(からだ)が持たない!・・・限界・・・」
レッド・バードの出力が急激に落ちた。EVEに負荷を掛け続けたのか異常な反応が示されていた。
「わかった・・・撤退する!・・・タカ!!」
「・・・レッシュ!?」
「機体・・持たない・・・離脱・・・る」
「待て!!・・・何だ?電波干渉か!?」
突然レッシュに声が届かなくなり、ザーと言う音だけがスピーカーから聞こえてくる。レッド・バードが“無限”の背中から遠ざかって行くのが見えた。そして、今の敵は目の前のこの男だ。
「今日こそはっ!!」
「・・・何を言っても無駄のようだな」
そう言うと、リッジは機体をブラック・バードに加速させた。
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