「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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41話:友よ、再び
「ん・・・翼君?」
ヴィラがそっと目を開けるとそこには左腕と頭に包帯をまいた翼が心配そうに居た。そしてその横には死んだと思っていた人の姿があった。
「姉ちゃん!」
「ニーバル!・・・生きてたの」
「ああ!クーパーさんに助けてもらったんだ!」
「クーパー?・・・“無限のクーパー”!?」
うっすらと目を明けていたヴィラの目が見開かれ、体を起こそうとするが腹部の痛みでまたベッドに倒れこんだ。顔だけを横に向けて翼の顔を見た。
「ホントなの?」
「ああ・・・だがな、ヴィラ。お前は許されねぇことをしたんだよ」
翼に言われてヴィラは目を逸らした。天井を見て、涙が溢れる。涙が伝って耳の方へと流れていった。
「・・・ごめんなさい。どうしても、どうしても・・・」
「姉ちゃん・・・」
ヴィラは毛布を顔まで被って泣き出した。さっき見た翼の目が原因だった。冷たい目。ヴィラはその目がキライだった。今回は自分が原因だったため、何も言えない。ニーバルがヴィラにそっと触れて言う。
「姉ちゃん、俺の敵なんて考えなくていいから。レッシュって人は悪い人じゃないよ、許してやって」
「そんなの・・・っ」
ただヴィラは泣くしかできなかった。
「バカ!!」
ぱちんっと高い音がジア・エータの格納庫に響いた。頬がじわりじわりと熱が帯びていく。クルスは頬を押さえて黙ったままだった。ミコが詰め寄ってクルスを責める。
「何か言うことはあるの!?」
「・・・ごめんなさい」
クルスは優美の方を向いて深く頭を下げた。くやしくて、自分が不甲斐なくて、自分のせいで何人もの人に迷惑をかけた。貴子や友子、シェリーもここにいる。
「もう、いいよ。クルスが無事だったんだから・・・」
「よくないわ!クルスがやったことは許されないことなのよ!」
「ミコさん!!・・・私だって、勝手に出てったこともあるから・・・」
クルスに掴みかかってもう一度引っぱたこうとしたミコを優美が止めた。クルスは唇を強くかみ締めうつむいたままだった。その時少し向こうから声がした。
「もういいだろ」
「でも、隊長!?」
ミコは声がした方向振り返りながら、手を振りかざして言った。そこにはレッシュが歩いてきていた。優美の肩をぽんと叩いて、次にミコ、クルスと肩を叩いた。
「もうあんな無茶をしないなら、俺は許すよ」
「・・・・ごめんなさい、ごめんなさい」
クルスは崩れるように泣き出した。クルスをそっとミコが抱きしめた。抱きしめられてクルスは更に大きな声で泣いた。そしてレッシュはメンバーを見回して言った。
「これから話をしにいく。みんな来てくれ」
「揃ったようだな」
リッジはゆっくりと椅子から立ち上がってみんなを見回した。20代から30代ぐらいだろうか年齢は顔からはよく分からない。少し短めの金髪で深緑の瞳が特徴的な男性だった。優美はその顔を見て思った。雰囲気が何処となくレッシュに似ている。そっと、横に座っているレッシュに目をやると、見ていることに気づいたのかレッシュがこっちを向いた。
「ん?」
「あ・・・ううん、なんでもない・・・」
目が合ったことで優美は赤くなってしまい、そのままうつむいてしまった。レッシュの隣には優美。次に友子、シェリー、翔、貴子、ミコ、クルスと座っている。真琴はというとレッド・バードの修理に忙しいとこの席には出席しなかった。正面には翼、ブリッツェン、オペレーター2人が座っている。ニーバルとヴィラは医務室でその映像を見ていた。クーパーはゆっくりと話しはじめた。
「鷹山君、君は気づいたようだな?」
「ああ」
翼は腕組みしたままで答えた。そして、翼はレッシュの顔を見た。3年前と何も変わらない友がそこにはいる。その横には彼のことが好きな少女もいる。優美は見ないうちに可愛くなったように思えた。そんな2人を見て翼はふっと笑った。
「お前とこないだ“エデン・チルドレン”戦ったときに、あいつらの片方が“アロードに殺される”つっただろ?」
「ああ、そうだな」
翼が組んでいた手を机の上に持っていって組み直した。その上に顎を置いて言った。
「で、アロードっつーのは・・・反政府(ウチ)のヘッドだ」
「何!?」
レッシュは思わず身を乗り出しそうになった。優美も他のメンバーも同じように驚いた。ミコが翼に早口で聞いた。
「ちょっと待って!・・・何で“エデン・チルドレン”があなた達のトップの名前を言ったの?」
「それは私が説明しよう」
そう言って髭を蓄えた男性が立ち上がった。手にはディスクを持ってそれをリッジに渡す。リッジはそれをEVEの端末へと差し込んだ。大型のモニターにそれが表示される。
「初めまして。私はこのジア・エータの艦長、レッツォ・ブリッツェン。ヨロシク」
ブリッツェンが頭を下げると、優美たちもバラバラだが頭を下げて挨拶した。
「我々、反政府組織は“エデン計画”に反攻する組織だということは、既に分かっているかと思うが・・・」
そう言うと、クルスが腕組みをしながらしかめ面になった。どうやらしらなかったみたいだ。その顔を見てミコが大きなため息をついた。
「で、その意見を最初に提唱したのが世界政府議院構成員のアロード・ホーダンだ。彼は議会で危険性を説いたが、受け入れられず議会を去ることになった。エデン計画を執行するに当たって、世界政府は“ある作戦”を行ったのだ・・・」
ブリッツェンはその時の様子を語り始めた。
――20年ほど前
ブリッツェンは部下数人を連れて兵が多く集まる“集会場”へと小型のポッドで移動していた。眼下には月の荒い大地の上に建設された町と軍施設が見える。そこの中心に見える大きな建物が“集会場”だった。ブリッツェンが指揮を執る“バス・ニェルター”のブリッジからは敬礼が送られていた。
「なぁ艦長、今回の集会って何やんだ?」
「さあな、私にも分からん。通信には“重要な作戦の受け渡し”しか書かれてなかったからな」
ぶっきらぼうに聞いてきたのはブリッツェンより年上だが10年近く部下として働いてくれている男だった。灰色のツンツンヘアーが特徴的な男だ。にかっと笑ってブリッツェンの横の席に座った。その男は突然話の内容を180°変えた。
「で、艦長んとこの娘はいくつになったんだ?」
「6つだな」
「早いもんだよなー。ウチは連れ子だからな、16になったぜ」
にかっと笑って男はポケットから写真を取り出した。そこには金髪の少年が写っている。深い緑色の目が特徴的だった。灰色の髪の男は通路の向こうの席に座っていた男に声を掛けた。彼も子供を地球に残して単身赴任している。
「確かあんたも子供いただろ?写真持ってないか?」
「ああ、あるさ。これだよ」
そう言ってその黒髪の男はズボンの後ろポケットから写真を取り出した。それを2人に見せた。そこも少年と父の姿がある。その少年もまた金髪で黒い瞳をした少年が写っている。
「まだ5つだけどな。ここ1年会って無いんだ」
「・・・そっか・・・やっぱ、子供はいくつになっても可愛いもんだろ?」
ちょっと沈んだ灰色の髪の男だったが、また笑って、黒髪の男に話しかけた。その問いかけに黒髪の男も笑って返した。
「当たり前だ」
ちょっとした揺れが襲って、小型のポッドが“集会所”に着岸したのは丁度その時だった。
「ちょっと、待ってください!“反政府軍”って何ですか!?」
黒髪の男が議員の男に詰め寄った。議員の男は咳払いをして続けた。
「今しがた、元世界政府議員アロード・ホーダンが、世界に向けて声明を発表した。これがその全文だ」
ブリッツェンに2、3枚の資料が渡される、一通り目を通したブリッツェンは、顔を上げて静かに感想を述べた。
「クーデターの鎮圧ですか?」
「そうだな。我々は新型の兵器をもってこれを鎮圧する」
「新型兵器?」
議員の男は白衣を着た技術者らしき人物を手招きして呼んだ。新型兵器という言葉に灰髪の男も黒髪の男も目の色が変わる。
「こちらです」
白衣の男に案内されるがまま格納庫へと3人は向かっていった。大きな格納庫の扉が開くとそこにあったのは巨大な人型をしたロボットだった。灰髪の男が大きな声を上げた。
「何じゃこりゃ!?」
「これは“G”と呼ばれるものだ」
「“G”?」
黒髪の男も聞きなれない言葉に首を傾げる。白衣の男はその隣にある2機のGを指差した。そのGは脚部が人型ではなく、ブースターのようなものに変更されていた。
「こっちがあなたたちに乗ってもらう機体です。“グロリアス”という機体です」
「そっちは?」
灰髪の男が最初に見た機体を指差した。「ああ」と言って白衣の男は苦笑いをした。
「こっちは地上用ですがまだ運用には時間が掛かりますので・・・。こちらの“グロリアス”は宇宙空間における空間戦闘を主とした“G”です。空間戦闘機なんて時代遅れですよ」
ふーんと頷いて、灰髪の男と黒髪の男はその2機のグロリアスを見上げた。結構大きく感じる。白衣の男が渡した操作マニュアルを開くと大きさは18.33メートルと記されていた。複雑な操作が要求されるかと思いきや、全てコマンド方式で操作を行うようだ。議員の男が2人に問いかける。
「どうだ、使えそうか?」
「いくつあんだよ・・・コレ」
「覚えるのが大変ですが・・・数値上のスペックはかなりのものです」
灰髪の男は頭を掻いて唸った。多分、議員の言葉は聞いてないだろう。黒髪の男は少しだけ笑って議員の男に返した。議員の男は命令文を渡した。
「この機体を使って、第2スペース・ステーションに居るとされる、アロード・ホーダン及び、“反政府軍”と名乗る者たちの排除だ。猶予は3日間でこの新兵器に対応し、4日目で作戦を実行してくれ」
そこまで言って、ブリッツェンは議員の男に質問した。この作戦の根本的な部分だった。
「・・・武力行使に出るのですか?」
「ああ、アロードは軍にも働きかけ、既に25%以上の世界政府軍兵士が彼の言葉に騙され軍を脱退し、“反政府軍”となったのだ」
「25%も!?」
議員の言葉が終わるやいなや、灰髪の男が声を上げた。彼の友の中で急に連絡が取れなくなった者が居たからだ。軍を抜けたとなるとその理由も納得がいく。
「だから、アイツと連絡が取れなくなったのか・・・」
「彼らは完全抵抗を宣言している。彼らがどうしようと“エデン計画”は強制採択され、執行される。もう止められないのだよ。向こうが武力行使なら、こちらも武力行使するまでだ。嘗てのような話し合いで解決しようとする時代は終わったのだ」
強気に言う議員の言葉にブリッツェンは声を荒げて言った。
「武力行使!?君たちは簡単に言うが、それは安易に決めていいことではないはずだ!」
「君がこの作戦に参加しなければ別に構わんよ。“代わり”は他にいくらでもいる」
腕組みをしてふっと笑う議員の男にブリッツェンは歯をかみ締めた。そんなブリッツェンを見て、灰髪の男が2人の間に入ってきた。
「要は、抵抗してきたら攻撃すればいいんだろ?・・・まあいいじゃねぇか」
「だが!!」
「時代は流れてんだ。トップが変わったら、方針も変わる。仕方ないだろ?」
灰髪の男に言われてブリッツェンは黙って頷いた。「ふんっ」と鼻で言って、議員の男はその場を後にしていった。
「なあ、艦長」
「・・・何だ?」
「あんなヤツもいるだろ」
灰髪の男は小さく言った。ブリッツェンは息を大きく吐いて頷いた。
「だが・・・私たちのやることは・・・」
「ま、俺に考えがある」
灰髪の男はそう言うと笑った。それは、いつものような笑いではなかった。
「何だあの兵器は!?」
Gの力は圧倒的だった。空間戦闘機の攻撃はことごとく回避され、戦闘機では不可能なクイックな動きで翻弄する。攻撃力も戦闘機の比ではなかった。その時通信が開いた。
「私の話を聞いて欲しい!!」
「・・・アロード議員か!?」
ブリッツェンは戦艦のオペレーターに聞いた。それはアロードからのものだった。アロードは全軍の攻撃即時停止を条件に話し合いを求めて来た。ブリッツェンはそれの条件をのんだ。
「君たちは真実を知らない!真実を知れば世界政府の陰謀が見えるのだ!」
彼が言うとおり、第2スペース・ステーションを守っていた空間戦闘機たちの攻撃が止んだ。その時、バス・ニェルターのモニターに映像が送られてきた。その映像を見てクルーが驚いた。それは驚愕の映像だった。
赤ん坊がパイプにつながれ、液体に浸けられていた。
Gに少年少女たちが乗せられ戦闘させられていた。
コードが垂れている椅子に座らされ苦痛の表情を浮かべる子供たち。
遺伝子が操作され特別な力をもつ子供たち。
そして、最後に映し出されたのは“廃棄された”子供たちだった。
それは人間の扱いを受けていない。
気分が悪くなり、えづく者がブリッジで出始めた。ブリッツェンはその映像を見て動けなくなってしまう。
「コレが“エデン計画”の真実だ。AIによる統治は伏線で、AIにより管理され、戦闘兵器として生み出された通称“エデン・チルドレン”の“量産”が彼らの目的だ。その圧倒的な兵力をもって世界を統治する。だが、今は、“エデン・チルドレン”は彼らも途中だ!」
アロードは捲くし立てるように続けた。
「“エデン計画”は阻止しなければならない!!・・・君たちも力になってくれ!」
その言葉に灰髪の男も黒髪の男も何も言わなかった。ブリッツェンも黙り込んでしまう。少しの間沈黙が流れた後。灰髪の男が口を開いた。
「艦長、あんたに任せるよ。だが、俺の意見も聞いてくれ」
「・・・何だ?」
ブリッツェンは顔をゆっくりと上げた。通信用モニターにその顔が映し出される。
「俺は、今の話でこっちに付こうと考えている。だが、俺の上官はあんただ、ブリッツェン艦長。まあ、一兵士の意見として聞いてくれ」
ブリッツェンは目を閉じた。
議員の言葉。
世界政府の方針転換。
そして、“エデン計画”の真実。
そしてブリッツェンは答えを出した。
「・・・これより、我々は“反政府軍”として世界政府と戦う!」
クルーも灰髪の男も黒髪の男もそれに従った。
そこまで話すと翼が口を開いた。
「で、10何年経って、俺とあった訳だな?」
「ああ、“アロード”の命令でな。今考えてみればおかしい話だ。大西洋に転属になって初日だぞ?あの戦闘が起きるのも分かってた、ってことだな」
ブリッツェンは頷いて翼のほうを向いた。他にも心当たりが多くある。アロードに気に入られていたブリッツェンは最新情報を常に入手することが出来た。その情報もアロードが世界政府軍と未だ繋がっているからこそ手に入れられた情報なのだろう。レッシュが続いて口を開いた。
「確か“あの”ミッションは、3日前から決まってたよな?」
「ああ・・・そうだぜ・・・移動で1日掛かってるからな」
翼はレッシュの問いかけに頷いた。レッシュは最大の疑問をブリッツェンにぶつけた。
「そもそも、アロードの狙いは何ですか?」
その時、リッジが立ち上がった。その理由を語りだした。
「アロードの議会追放は仕組まれたものだ。つまり、世界政府軍、反政府軍と分かれることで戦争を勃発させる。戦争が起きれば特需景気で景気がよくなる。さらに、兵力の質も向上でき、使えない兵は戦死という名目で消す。傭兵も同じように強いものだけを生き残らせ、選別する・・・」
リッジは目を閉じ開いた。
「つまりだ、“強いものが生き残り、究極の世界を作り上げる。そして、エデン・チルドレンを使った究極の兵器と、エデンAIを使った究極の統治”が真の目的だ」
皆はその言葉に驚いた。今までただ、エデン計画の下で踊らせ続けられているということになる。
戦いは選りすぐられるためだけのバトルロワイヤル。
エデンが“終わり”と言ったときにだけ、終わりとなる。
それまで戦いは終わらない。
世界は崩壊し始めていた。
このままでは確実にそれは止まらない。
「そのための君たちなのだ」
そう言って、リッジはレッシュと翼を見た。“鍵”と呼ばれた2人はお互いの顔を見て首を傾げた。
「なぁ、“鍵”ってどういうことだ?」
翼がリッジの方を向いて聞いた。真実を知っても分からなかった単語が“鍵”だった。リッジは笑って言った。
「完璧な計画でも2つの狂いが生じた。1つはレッシュ、君だ」
「俺?ですか・・・?」
リッジは20年前のことを思い出していた。
――20年前、あの時。
「・・・生きてる・・・みたいだな」
リッジはそっと目を開けた。暗闇が辺りを包み込んでいた。体の半分が川に浸かっているため、体を起こそうとした瞬間、体に激痛が走った。
「ぐあっ!!」
見ると、左足が折れている。右足と左腕には銃弾が打ち込まれ血が流れていた。どうやら動けそうにない。
「・・・俺も終わりか・・・」
そう言ってリッジは空を見上げた。星空が綺麗に見えた。まだここは開発が進んでいない。都市部に比べて空気も澄んでいる。死に場所としては申し分ない。ふと、リッジはさっきの孤児院の前に置いて来た赤ん坊のことを思い出していた。
「あの子・・・助かるといいな」
そう言ってリッジは目を閉じた。
暗い。とても暗い。
俺は・・・死んだのか?
その時、光が見えた。
光・・・?眩しいな。
ああ・・・天国か。
俺でも・・・天国に行けるんだな。
リッジは苦笑いして、眩しくて目を細めた。その眩い光の向こうに何者かの姿が見える。
誰だ・・・?女の人か?
天国はいいところだといいなぁ・・・。
その瞬間、世界が揺れ始めた。ぐにゃぐにゃと揺れ、そこに居られなくなる。その女性は何かを差し出した。
何だ!?
俺に・・・くれるのか?
リッジは輝くそれを、手を伸ばして受け取った。それは、輝きを放って、リッジの中に消えて行った。消えた瞬間、リッジは全てが“見えた”ような気がした。
そうか・・・俺はまだそこには行っちゃダメなんだな?
女性はこくりと頷いた。
・・・俺は、“真実”を見つける・・・それが“使命”か・・・。
そのためにこの力を?
その言葉を言わされたわけではないが、自然と体の奥底から湧き出てくるようだった。
女性はもう一度頷いた。そして、その女性は何かを叫んでいた。
ああ、約束する。必ず“F”は俺が・・・。
その女性が何か言おうとした瞬間、その世界が崩壊しリッジは目を開いた。そこは医療室だった。白い天井が見える。白衣の女性が驚いたような表情を見せた。
「ここは・・・?」
「気が付いた!?・・・先生!先生!クーパー君が!!」
その女性は叫びながら医療室を走って後にしていった。
そのあとに先生から聞いた話では、川で発見された俺は仮死状態だったようだ。そのあと、2ヶ月も意識が戻らなかったという。俺は“生かされた”と思っている。
「・・・え?じゃあ・・・孤児院に預けたのは!?」
「そう、私だ。だから、レッシュ、君がこうやって成長した姿を見れて俺は嬉しい。“エデン・チルドレン”は研究室以外で生存した例がなかったからな」
リッジのレッシュを見るまなざしは父親が子供を見るようなまなざしだと、優美は思った。あのレッシュと同じ深い緑の瞳が優しく思える。優美はそれが何故か嬉しくて小さく笑った。
「俺が・・・」
「つまり、君が生きていることが“想定外”なのだ。真実を伝える証人だからな」
リッジは今度は翼のほうを向いた。そして、リッジは翼のことを始めてファーストネームで呼んだ。
「翼君」
「何だ?」
「君は、世界で始めて“エデン・チルドレン”を撃破した男だ。君の力はこんなものではないはずだ。レッシュと居ることで君は更に強くなれる。レッシュのサポートが出来るのは君しか居ないのだ。・・・わかるね?」
翼はリッジが言い終わらないうちに答えを出していた。リッジが喋り終わると同時に言った。
「まあ、大体はな。レッシュと組めるんだったら、こっちは問題ないぜ?」
翼は笑うとレッシュの方を向いた。目が合ってレッシュも笑う。レッシュの笑顔を見るのは久しぶりだったが、新鮮なものに思えた。リッジは全員に向ってこれからのことについて言った。
「君たちには、宇宙へと行ってもらう。そのためには一旦、ヨーロッパエリアを突破し、オーストラリアに行かなければならない」
「その真意は?」
ブリッツェンが、リッジに問いかけた。リッジは頷いて答える。
「“答えは月にある”としか今は言えない。私の“能力”でもこれが限界だ」
静かになったみんなを見てレッシュが口を開いた。
「俺は、リッジさんに従ってみようと思う。みんなはどうする?」
そう言って、レッシュはクルーの顔を見た。その顔を見た途端、レッシュは苦笑した。みんなの目が、表情がそう語っていた。優美が口を開く。
「前にも言ったでしょ。私たちはレッシュに付いて行くって」
「・・・そうだったな、ありがとう」
優美が笑うとミコやクルスもにっこり笑った。今度はブリッツェンが翼たちに聞いた。
「で、どうする?」
「どうもこうもねぇだろ?・・・俺はレッシュを信じる。レッシュが“無限”を信じるなら、俺もあんたを信じるぜ」
翼はリッジの方を向いて真剣なまなざしで答えた。
「決まりのようだな」
嘗ての友が固く握手を交わした。
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