「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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49話:混乱の戦場
「ああ、優美が付いててくれたからな」
翼がパイロットルームでレッシュの肩を叩いた。長椅子に座っていたレッシュは翼を見上げた。翼はいつものように笑う。そして、レッシュは強い言葉で言う。
「迷惑掛けっぱなしだからな」
「ったく、迷惑とか思ってねぇよ」
翼が腕を組んで吐き捨てるように言うと、視線を逸らしてレッシュは鼻で笑った。
「誰もタカに迷惑掛けてるとは思ってないぜ」
「ああ?何だと!?」
レッシュの言葉に翼は顔をレッシュに近づけた。レッシュはふっと笑う。
「・・・まあ、それだけ言えたら上等だろ」
翼が肘で肩を小突くと黒いヘルメットを持ち上げた。そのヘルメットには白い鳥の羽のマークがつけてあった。レッシュは壁を向いて真剣な顔をする。
「もうこれ以上あいつを悲しませるわけにはいかない」
「そのためにはさっさと計画の真実を見つけて、この戦争をなんとかしないとな」
「ああ」
首の気密パッキンを止め、ヘルメットを持ち上げたレッシュと一緒に翼もパイロットルームをあとにした。
「直ったみたいだな」
「あ、はい。ここの基地にあったパーツで何とか修復したんですよ」
ヘルメットを持った手を肩に掛けて翼が白いウィング・グロリアスを見上げた。補修された部分の色が若干違うようだ。優美は翼の後ろにいたレッシュに視線を移した。
「・・・優美も待機か?」
「レッシュ・・・大丈夫なの?」
心配そうに優美はレッシュを見つめる。そんな優美にレッシュは笑ってジェスチャーを交えて返した。
「ああ、心配するな」
「だといいけど・・・」
不安になって声が小さくなる優美の背中を翼が強く叩いた。
「あた!何するんですか!?」
「ったく、お前がそんなんだとレッシュが心配するんだろうが!」
翼は優美の耳元に顔を近づけると小さな声で言った。
「レッシュのためにもお前は、笑って元気でいるのが一番じゃねぇのか?」
「あ・・・」
そう言うと翼は優美の肩をぽんと叩いて、歯を見せて笑って、ブラック・バードの方に歩いていった。レッシュが優美に近づいて優美の肩に手を乗せた。
「優美」
「・・・うん?」
「今度は俺がちゃんと守るからな」
レッシュの言葉に少し頬を赤らめて優美ははにかんだ。その様子をブラック・バードの下で見ていた翼がひとつ息を付いた。そこにウィルと真琴が歩いてきた。
「お、いい感じだな!」
「ホント」
せっかくの翼もいい感じの気分だったのに、ぶち壊された気がした。2人を睨みつける。
「何しに来たんだ?」
睨んできた翼に2人は真顔で返してきた。
「何しにって・・・なぁ?」
「ブラック・バードの最終チェックよ。レッド・バードと優美ちゃんのグロリアスとミコのグロリアスのアタッチメント接続作業も終わらせてあるの。あとはアンタだけ」
腕組みをして言う真琴に翼は唸った。彼らの言うことは正論だ。ましてやここは格納庫。整備士(彼ら)がいても何もおかしいことはない。翼は白いウィング・グロリアスの向こうにある赤いグロリアスを見た。背中にフライング・アタッチメントが装備されている。この小さな基地に1つだけストックがあったため、彼女のGに取り付けられることが決まっていた。ウィルは翼の肩を叩いて1枚のブルーのディスクを渡した。
「おい、聞いてるのか翼?これ、セッティングデータだ」
「ああ、悪い」
翼はそれを受け取るとタラップに乗り込んだ。動かそうとした時、翼を呼び止める声がした。
「翼君!!」
「ん?」
声のするほうを向くと、ヴィラが小走りでこっちにきていた。まだ少し痛むのだろうか、左手はおなかに当てられている。翼はタラップから降りると駆け寄ってきたヴィラに向き直った。
「走るのはマズいんじゃないのか?」
「もう平気よ・・・あの、翼君」
俯きながら言うヴィラを見て、翼はいつもの調子で返した。
「何だ?」
「あ・・・えーっと、頑張って、って言いたかっただけ」
ヴィラは顔を上げてはにかみながら翼に言った。翼はそのあとまた俯いてしまったヴィラの頭を軽く叩いた。
「約束は守るからな」
「ありがと・・・ちゃんと帰ってきてね」
そう言うとヴィラはポケットから何かを出した。それは分厚い小さめのコインをペンダントにしたものだった。
「お守り」
「お、悪いな・・・じゃあ、行って来るぜ」
翼はペンダントを受け取ると、顔のところまで上げるとパイロットスーツの外付けのポケットにそれを押し込んだ。ヴィラに背を向け、再びタラップに乗り込んだ。その背中を見ながらヴィラは両手を胸の前で組んだ。
「死なないで・・・お願い」
ゆっくりとコクピットへと誘うタラップから翼はブラック・バードを見上げた。ところどころ傷が目立つようになってきている。この機体に乗ってもう3年以上経つ。少し前までは圧倒的な強さを見せていたこの機体もいまや時代遅れになりつつあった。真琴が言っていたリミッターが掛かっているというのも気になっていた。この機体でドコまでレッシュや優美の力になれるだろう。そう思いをめぐらしていると、コクピットの正面に到着した。翼はコクピットに乗り込む。シートに座ると、ブルーのディスクを差し込んだ。サブモニターに“ダウンロード”の文字が表示された。
「護衛か・・・」
翼はメインモニターのスイッチを入れた。
「これは・・・」
「はい、おそらく“漆黒の鷹”は反政府組織を離反したようです」
リーダーはミラに見せられた資料に驚愕した。先ほど捕らえた反政府組織の捕虜が吐いたことだった。
「待て、我々に寝返ったということか?」
「いえ、そういう訳ではないようです。“深紅の鷹”とともに、世界政府軍、反政府組織に対して戦闘を行っているようです」
ミラの言葉にリーダーは唸った。持っていたアルミのコップを机の上に置いた。おそらく事情は複雑のようだ。ミラは続ける。
「ジア・エータに対して反政府組織は総攻撃を仕掛けるようです。ヨーロッパ沿岸の傭兵も協力するとのことですが・・・」
リーダーは資料から顔を上げると、ミラを見つめた。
「彼女は知っているのか?」
「わかりません。事情が複雑になっても、私達の目的は変わりません」
リーダーはコーヒーをすすると頷いた。逆に反政府組織を利用することができる。“漆黒の鷹”を反政府組織に任せ、その隙を突きジア・エータを制圧する。かえって好都合だ。
「それにしても・・・」
「“深紅の鷹”・・・こいつは何者だ?」
リーダーは再び資料に目を落とした。そこには“赤い戦闘機”、“漆黒の鷹と酷似”、“強敵”と赤いマジックでマークされていた。
「あなた・・・」
桜はグロリアス・バーサスのコクピットで、写真を見つめながら膝を抱えうずくまっていた。外では慌しく人が走り回り、Gが配置されていく。桜はその写真をコクピットのサブモニターの横に貼り付けた。
「今度こそ仇をとるわ」
桜は目を閉じた。幾度も彼と対峙し、退けられてきた。それは迷いがあったからかもしれない。その迷いとは・・・レッシュだ。彼の存在は桜にとって大きすぎた。自分の仇と自分の望みが一緒にいることは桜を苦しめている。両手を合わせて桜は胸の前でぎゅっと強く握った。それも、全て今度で終わらせる。“漆黒の鷹”を討ち、“レッシュ”を・・・。そのとき、開いたコクピットハッチにひょい、と人影が現れた。突然のことに桜は驚いた。
「桜さん!」
「わっ!」
「あ・・・ごめんなさい」
びっくりした桜はびくんと体を震わせた。驚かせてしまったことに顔を出したミラはおどおどする。ひとつ息を吐いて桜は首を傾げた。
「びっくりしたわよ・・・でなぁに?」
「ごめんなさい」
ミラはぺこりと謝った。桜が髪をかきあげながら「いいわよ」と言うとミラは資料を桜に渡した。その資料を見た瞬間桜の顔が驚きの表情を見せたがすぐに真面目な顔に戻った。一通り目を通すと桜はミラに資料を返した。
「知ってましたか?」
「ええ、一応ね。でも、目的は変わらないんでしょ?」
桜は首を傾げるとミラに小さく笑った。
「大丈夫よ。反政府軍はうまくあしらうから」
「あ、はい。わかりました。お手間掛けました」
ミラがGから離れると桜の乗るGのハッチが閉まっていった。その向こうで桜が髪をまとめてヘルメットを被っている。ミラはさっきの桜の笑顔が気になった。やはりどことなく暗く感じる。
「桜さん・・・何を考えてるんですか?」
ミラは起動した桜色のグロリアス・バーサスを見上げて思った。
「ええーい!どこにいるんだ!」
「艦長落ち着いてください。ここは反政府組織と傭兵の激戦区ですむやみに状況を混乱させる必要はありません」
その副官の言葉に艦長はぴくりと眉を動かした。
「それではなんだね?この私が戦場を混乱させると言うのかね?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「君は言ってるじゃないか!!」
副官に噛み付いた艦長はキャプテンシートにどかっと腰を下ろしてため息をついた。貧乏ゆすりをしながら、アームレストをコツコツと人差し指で叩く。副官もため息をついて、シートに腰を下ろした。
「最悪だ」
何故こんな艦に回されたのだろう。イングランドエリアで新しく建造された新型艦の副官になる予定だった。そこに“漆黒の鷹”の艦ジア・エータが地中海で足止めを食らっていると言う情報が入ってきた。そのため急遽新型艦の副官の話は延期となり、数日前攻め落としたジブラルタル海峡を経由して遥々地中海までやってきたのだ。しかも、こんな無能な艦長の下だとは話が違った。反政府組織の有名部隊を撃破したとか資料にあったが、“この男”ではなくきっと部下の力だろう。そうに違いない。
「ブロード副官」
「何だ?」
サブオペレーターが艦長に聞こえないように資料をリドに渡した。その資料には先ほど偵察機がとって来たデータが記されていた。どうやら南からは反政府組織、西からは傭兵部隊が迫ってきているようだ。リドは艦長に内容を簡潔に報告した。この資料を見せると“戦場が混乱”する。
「艦長」
「何だね?」
まだ苛立っている様子の艦長にリドは冷静に伝えた。
「北からは傭兵、南からは反政府組織が迫ってきています。どのように我が艦は立ち振る舞いますか?」
「2つとも潰れるのを待ってそこを両者とも叩く!」
そう言うと艦長は立ち上がって拳を突き上げた。
「我ながらいい作戦じゃないか!・・・こっちの艦も数は多い。楽勝だな」
「はぁ」
リドの返事に機嫌のよくなっていた艦長は再びご立腹した。
「君は何が気に入らないのだね!・・・もういい!君はクビだ!!」
「は?何をおっしゃっているのかわかっているのですか?」
突然のことにリドも驚いた。その前に周りのクルー達も驚いた。
「君は上官に口答えするのかね?場をわきまえたまえ、無礼者!!」
「くっ・・・」
上から見下しながら艦長は腕を組んだ。リドは唇をかみ締めた。はっきり言って艦長を信用しているクルーはこの艦には乗っていない。リドが仲介してくれるからこそ、この艦は成り立っていると言ってもいい位だ。
「君は最後尾の艦に移りたまえ。君もだよ、オペレーター!私に隠れてこそこそと!!」
艦長横に置いてあった帽子をオペレーターに投げつけた。オペレーターは無言でブリッジを出て行った。
「さっさと出て行きたまえ」
「・・・わかりました」
リドも同じようにブリッジをあとにした。先に出て行ったオペレーターを追いかけていった。
「“漆黒の鷹”・・・裏切るとはな」
男はモニターに写る翼の顔写真を睨みつけた。その横で女が笑う。
「あんた前から信用してなかったじゃないの。この機会に“お仕置き”しなくちゃ」
「ああ、そうだな」
おそろいのパイロットスーツ姿の男女はモニターの電源を切るとその部屋を後にしていった。
「ジア・エータ発進する!」
ブリッツェンの声と共にジア・エータがドッグから浮上する。この“隠れ家”のクルーが敬礼していた。ここは“安全”のようだ。貴子がその証明のためにスパイまがいのことをやってくれた。彼女には感謝しなくてはならない。右前に座る貴子をブリッツェンが呼んだ。
「桐生君」
「あ、はい?」
貴子はヘッドフォンをずらすと後ろを振り返った。ブリッツェンは彼女にだけ聞こえるような声で言った。
「いろいろとすまない。君には・・・」
「いいんですよ」
貴子はブリッツェンの言葉を遮って笑った。眼鏡を直しながら、「気にしないでください」と言ってヘッドフォンをして再び前を向いた。彼女は昔そのようなことをやっていたとこの“任務”を言った時に話していた。
「待機中のGは全機出撃!樹村君と朝田君は後衛、ヴィレドル君と鷹山君は前衛を頼む」
「了解!」
「了解っ」
後部ハッチが開かれ、そこに赤と白のGが立つ。
「樹村優美!“ウィング”行きます!!」
「朝田ミコ、グロリアス行きます」
ジア・エータの両サイドに優美とミコのGが配置についた。
「優美ちゃん、あんまり無茶しちゃダメよ?」
「はい、わかりました」
続いて正面のカタパルトが開いた。黒いGがカタパルトにセットされる。友子の声がスピーカーから聞こえる。
「進路クリア、発進どうぞ」
「鷹山だ!BB行くぞ!!」
カタパルトが加速しブラック・バードが射出される。ブリッツェンからの提案で、ジブラルタル経由でイングランド方面、ノルウェー方面に行くというプランが立てられ、その意見に皆が賛同していた。翼はブラック・バードを変形させ、一旦ジア・エータの後ろに回り、正面に回って高度と速度をあわせた。
「レッド・バード進路確保、発進どうぞ」
友子の声を合図にヘルメットのバイザーをレッシュは下ろした。
「レッシュ・F・ヴィレドル、レッド・バード行って来る!」
レッド・バードも同じように変形し、ブラック・バードの横についた。
「レッシュ!後ろは優美たちに任せとけば大丈夫だからな、お前は前に集中しろよ?」
「ああ、わかってるよ」
翼からの通信にレッシュは笑って返した。といってもやはり優美が心配だ。そう思ってた時、翼が小さな声で言った。
「前にも誰かに言われた気がするし、お前にも言った気がするんだけどな」
「何だ?」
レッシュが聞き返すと翼は続けた。その声はとても力強く感じた。
「優美は弱くねぇよ。もしかすると俺達よりも強いかもな」
その言葉だけだったが、レッシュは安心することができた。そう、彼女は強くなってきている。
「リーダー!ジア・エータの出現を確認したそうです!ここから南東距離150の海上!・・・傭兵の艦と思われるものを数隻確認しました」
「よし!全機まだ動くなよ!」
リーダーは黒いアシュラ-4の4本の腕全てでストップの合図を出した。その手には上の2本の手にはブレード内臓シールド、下2本の手にはライフルが握られている。その横には桜のグロリアス・バーサス、その周りには最低限の防御用のGを残した全てのGが集結していた。
「美山少佐、あんたには悪いがジア・エータの周りの敵を落としてくれ」
「え?」
桜はリーダーからの通信に驚いた。自分もジア・エータに一緒に突入するつもりだったからだ。
「あんたは一緒に行くつもりだろうが、腕の立つパイロットが必要だからな。それにあんたは“乱れ桜”ここのメンバーの中で1番の腕だ。あんたに邪魔者は排除してもらう、いいか?」
「ええ」
昨日までとは人が変わったようなリーダーに桜はまた驚いた。それほどこの作戦に掛けているのだろうか。ジア・エータに一緒に行けないのは辛いが、“漆黒の鷹”との決着はつけられる。今度こそここでアイツを沈める。
「あなた・・・」
桜は愛する人との写真にそっと触れて、ヘルメットのバイザーを下ろした。
「敵機接近!!これは・・・9時方向より反政府軍!・・・3時方向より所属不明艦が接近・・・傭兵かと思われます!」
「一気に来たか・・・全機警戒態勢!迎撃!!」
友子の報告にブリッツェンが各機に指示を出した。レッシュと翼、優美とミコが頷いた時、再び友子の声が響く。
「12時方向に世界政府軍と思われる艦を確認!・・・こちらに攻撃態勢は見られません!」
「・・・攻撃態勢が無い?・・・なるほど、疲弊したところをまとめて叩くつもりか」
振り返って言う友子に頷くと、ブリッツェンは顎鬚をさすった。相手は策士か、ずる賢い奴のようだ。ブリッツェンは顔を上げると、レッシュと翼に聞いた。
「今の聞こえたか?」
「ああ、こりゃしんどいかもな」
「いや、そうでもないかもな」
気だるそうに言う翼の言葉に被さるようにレッシュが言った。自信のあるレッシュの言葉に翼はにやりと笑う。
「へぇ、どーすんだ?」
「その手をこっちも使うまでだ。艦長、ジア・エータを下がらせることはできますか?」
レッシュは軽く目を閉じてヘルメットを人差し指でコツコツと叩いた。そして、ブリッツェンに通信を掛けた。その通信にブリッツェンは疑問で返した。
「下がらせる?」
「はい。艦をアフリカ側に寄せてください。できるだけギリギリで。EVE、データ転送」
「了解」
EVEから送られてきたデータは反政府軍側つまりアフリカ側に艦を進め、そうすることで反政府軍との接触を早め、北から進行する傭兵部隊から離れ、接触を遅らせる。そして、できるだけ、反政府軍と傭兵部隊との接触が同時になるようにし、両者を激突させるものだった。かなりのリスクを伴うが、片方と接触中にもう片方と接触するより、同時に接触した方がリスクは少ないかもしれない。それはお互いが敵同士でなければ通用しない。EVEを介することで、レッシュの頭の中の構想が一瞬で伝えられた。その作戦にブリッツェンも賛同する。
「なるほど、よし、この作戦を取る!進路を南へ!」
ジア・エータがゆっくりと進路を変え始めた。
「ミコ機、艦前方へと配置変更、優美機、後方の迎撃をよろしくお願いします」
「了解!」
「了解!!」
友子の通信にミコ、次いで優美が返してきた。
その様子を見て孤立地帯のレーダーオペレーターは驚いた。
「ジア・エータが離れていきます!」
「馬鹿な!?気づかれたのか!?・・・全機出撃!追うぞ!」
リーダーの指示に、ホバー用装備を施されたGや、ジェットスキーのようなものを取り付けられたG、フライング・アタッチメントを取り付けられたGが次々と出撃していく。桜のグロリアス・バーサスもアシュラ-4を追って飛び立った。
「リーダー?」
「わからん!何故気づかれた!?・・・まさか」
リーダーの頭の中に悪い予感がよぎった。それを振り払うようにして機体を加速させた。桜はそんなリーダーにそっと声を掛けた。
「大丈夫よ。どの道奪いに行くんだから、順序が変わっただけよ」
「そうだといいんだが・・・」
リーダーは自分の予感が当たらないことを願った。
「4時方向より、G部隊接近!!・・・グロリアス、アスロート・・・恐らく世界政府軍です!!」
「世界政府軍?・・・ああ、例の奴らか」
友子からの通信に翼はふっと笑った。こないだ友子と話していた奴らだろう。これを機に一気に仕掛けてくるようだ。クルスが愚痴をこぼす
「ちょ!いっぱい来過ぎよ!」
「クルス!優美ちゃんに当てちゃダメよ!」
ミコからの通信にクルスはムキになって返した。クルスはインカムを掴んで叫ぶ。
「そんなヘマはしないって!」
「大丈夫、私クルスを信じてるから」
優美からの言葉にクルスは小さく笑った。そんな会話を翼がストップを掛ける。
「気ぃ引き締めろ!!来るぞ!!」
その時、反政府軍のGから最初の一撃が放たれた。
「艦長!ジア・エータ周辺に多数のG!北東から我が軍と思われるG部隊が接近中!」
「なんだと!?」
艦長はオペレーターの報告に唸った。どういうことだろう。北東から自軍のG部隊が来るという情報はない。そして、彼の頭の中で弾き出された結論はこうだった。
「私を出し抜こうと言うのか!?」
「は?」
「全艦全速前進!!ジア・エータを落とせ!!手柄は渡さん!!」
あっけにとられるオペレーターを艦長は急かした。アームレストに拳を振り下ろす。
「何をしている!あいつらより先にジア・エータを落とすのだ!!」
「全艦攻撃態勢に移行」
苛立つ艦長はモニターに写るレーダーのジア・エータを囲む無数のGたちを睨み付けた。
「行けっ!」
“シルバー・アロー”に光が収束し、一気に3発のエネルギー弾が放たれる。一瞬にしてフロウとウィング・グロリアスが鉄の塊へと変わり海へと落下していく。ブラック・バードは両腕のブレードを展開し、接近戦を仕掛けてきたウィンとシャイニングを一気に両断する。翼はレッド・バードを背後から狙っていたフロウ2機に気づいた。
「レッシュ!」
「後方からロック!ブルーのフロウ2機!」
EVEと翼の両者からの声でレッシュはレッド・バードを戦闘機形態に変形させた。レッド・バードを狙ったバズーカは空を切った。一気に空高くへと舞い上がって、人型に変形し垂直に2機のフロウを“シルバー・アロー”で撃ち抜いた。
「♪~さすがだ」
翼はその華麗な動きに思わず口笛を吹いた。ブラック・バードはリニアライフルを構えると傭兵のグロリアスに向けて2発放った。1発目は頭部に着弾し、2発目は胸部を貫いた。
「味方機の支援に徹するんだ!撃てー!!」
ブリッツェンの命と共に主砲2門が同時に火を噴いた。水上巡洋艦に直撃し、沈んでいく。射程はこちらの方が上だ。その時、傭兵のシャイニングが対空砲火を突破してきた。両腕のボロボロのシールドを切り離し、ブレードを抜く。ジア・エータのブリッジに一直線だった。
「しまった!」
もう攻撃が当たると思った瞬間、そのシャイニングは白いGによって上半身と下半身真っ二つに切り裂かれた。バランスを失ったシャイニングは一旦ジア・エータの右舷に叩きつけられた後、海へと落ちていった。そこにいたのは優美の白いウィング・グロリアスだった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、すまない!」
ウィング・グロリアスは後方からの敵に反応し、“G-4”を3発放った。同じウィング・グロリアスの頭部と脚部に命中しフラフラと落ちていく。“G-4”を腰に格納すると、ウィング・グロリアスはブレードを抜いた。スピードを生かし一気に3機を“戦闘不能”にする。
「そこよ!!」
デッキ上のロングレンジのリニア砲を構えた赤いグロリアスがフロウを1機叩き落した。リロードを行い、大型の薬莢が排出される。取り付こうとするGを片っ端からミコは落としていた。戦艦に張り付いているため、弾切れの心配はない。大型のシールドで覆われているため被弾の心配も当分は大丈夫だろう。メインモニターには華麗に変形を繰り返しながら圧倒的な強さで撃破していく。さすが異名を持つ者は違う。その時、ミコは遥か海上に多数の艦影を目撃した。同時に友子から通信が入る。
「世界政府軍の艦隊に動きあり!仕掛けてきます!!」
その通信にミコは口を真一文字に結んだ。この戦闘はかなり厳しいものになりそうだ。
「レッシュ!母艦を叩け!」
「ああ!」
翼に言われ、レッシュは反政府軍の艦にロックを掛けた。3発分の“シルバー・アロー”をセットし、両手で構えて放った。並んだ2隻の艦を一度に破壊する。すぐさま切り返し、迫ってきたウィンとグロウを至近距離から“シルバー・アロー”を見舞った。下半身を吹き飛ばし、武器側の腕を破壊された2機は成すすべなく落ちていく。2機の改良された新型の“ブロウ”がブラック・バードへと迫っていた。女はふっと笑った。
「へぇー・・・なかなかやるじゃない?」
「“漆黒の鷹”だからな」
男はブレードとライフルが一体になった独自の武器を構えた。フライング・アタッチメントを装備した薄い紫の2機のブロウが一気にブラック・バードに迫った。
「何だ!?」
「ここで死になさい!!」
「裏切り者に居場所などない!!」
ブラック・バードに同じ装備をした2機のブロウが同じライフルを放った。そして、すれ違いざまにそのブレードで斬りかかって来る。翼はその攻撃に反応し、両腕のブレードを展開した。リニアライフルは爆発したが、ブレード攻撃は受け流すことができた。翼は歯をかみ締め、女はうれしそうに笑った。久々の強敵だ。今まで味方だったが一度戦ってみたい相手だった。男も同じだった・
「ちっ!!こいつら!!」
「へぇ、やるわね」
「久々に楽しめそうだ!」
引き返してきたブロウにブラック・バードは構えを取った。
「!?」
優美は何かを感じ取り、“その”方向を見た。来る。それも感じたことのある感覚だった。この感覚は・・・。その時、ライフル弾がウィング・グロリアスを掠めた。
「くっ!」
優美ははっきりとGを目視で確認する。それは珍しいモデルのGだった。
「アシュラ-4!・・・それに、桜色のG・・・“乱れ桜”・・・生きてた」
その瞬間、優美はほっとした。敵が生きていることにほっとしたのだが、それは戦場では不思議な感覚だった。通常同じ敵と戦闘し、再び戦場で出会う確率は低い。しかし“乱れ桜”は例外だ。翼を狙い、そして、レッシュを求めている。その瞬間優美はそれを感じ取った。はっとして、それが分かって怖くなったが、今はそんなことを怖がっている場合ではない。彼女がレッシュを狙うなら、優美は全力で阻止しなければならない。桜も優美のGを確認した。
「あのG!」
「レッシュは渡さない!」
“G-4”を桜色のグロリアス・バーサスに向かって2発放った。が、それは2枚のシールドに阻まれた。アシュラ-4だ。2枚のシールドをドアが開くようにスライドさせるとアシュラ-4は2丁のライフルを構えていた。それが放たれる。
「あぅ!」
シールドでガードした優美だったが、打ち所が悪く、シールドが弾けて爆発した。その瞬間を2機のブロウに攻撃されながら翼も、更に戦艦を落として戻ってきたレッド・バードが目撃した。
「くそ!・・・また“乱れ桜”か」
「優美!!」
レッシュと翼が同時に叫んだ。優美はアシュラ-4の後ろから桜色のGが出てきたのを見た。桜の脳裏に必死でレッシュの名前を叫ぶ彼女の声がよぎった。
「悪いけど・・・あなたにはどいてもらうわ!!」
バランスを崩した優美のGに桜色のグロリアス・バーサスのブレードが迫る。水平に斬ったブレードが機体を捕らえようとした瞬間、ウィング・グロリアスがありえない動きをした。
「・・・」
「え!?」
ウィング・グロリアスを斬ったはずだった。だが、そのウィング・グロリアスは右腕でグロリアス・バーサスの腕を掴み、寸前でブレードを止めていた。その機体を斜め上に捻って、攻撃が当たるのを避けている。信じられない反応速度と操作技術に桜は一瞬思考が止まった。次の瞬間、桜の脳裏にこの動きの関する情報がよぎる。こんな動きができるのは“あいつら”以外にいない。桜は思わず叫んだ。
「あなたはエデン・チルドレンなの!?」
「な・・・」
「そいつは任せた!先に行くぞ!!」
睨み合う2機のGの横をアシュラ-4、グロリアス、アスロートが通り過ぎていく。桜の言葉に優美は言葉が出ない。
「その動き・・・今の動きは!」
桜に言われて優美ははっとした。今自分はどんな操作をしたのだろう。確かに今自分がした動きは、人間の域を超えている。瞬間的にこのような動きをしたのだろうか。言われて初めて優美は自覚した。
「違う!私は!!」
やはりそうだ。この声。あのレッシュを必死に呼ぶ声。この声にレッシュは“救われた”。彼女がレッシュの大切な人だろう。その時の桜はレッシュが全てだった。優美はただの障害でしかなかった。自分の動きに驚愕していた優美は隙だらけだった。
「優美!!」
レッシュが叫んだ瞬間だった。その声にはっとした優美のウィング・グロリアスを左腕のブレードは受け止められた状態のまま、桜のグロリアス・バーサスの右腕のブレードが縦に斬り下した。斜めにウィング・グロリアスが斬れる。
「レッシュは私がもらうわ!!」
「きゃああああ!!!」
「優美!!」
優美の絶叫とレッシュの声が重なる。ブレードを引き抜くと、白いウィング・グロリアスは海へと落ちていった。高々と水柱が上がり、直後、爆音と共に火柱が上がる。
「優美!!!」
「優美っち!?」
「え?」
ウィング・グロリアスの反応がレーダーから消えた。その瞬間、ジア・エータのブリッジが凍りついたように静かになった。クルスがヘッドフォンを投げつけて叫んだ。
「うそよ!!」
その時、レッシュの中でスイッチが切り替わった。リンカーモードのEVEが悲鳴を上げる。
「ちょ!レッシュ!?きゃあ!」
凄まじい速度でレッド・バードが加速し、一気に桜のグロリアス・バーサスに迫った。抜いたブレードでスピードに任せて衝突する。凄まじい衝撃が桜を襲った。
「きゃっ!」
「お前が・・・優美を!!」
その目は赤く変わり、声も憎しみのこもったものだった。あの時と同じ、レッシュがあの薬で“覚醒”したときと同じだった。EVEの強制停止シグナルも意味を成さない。桜のGをレッド・バードは蹴り飛ばした。
「ぎゃあ!」
「レ・・・ッシュ!操・・・作が効かな・・い!」
桜は背筋が凍りつくようだった。こんな彼を望んでいたわけではない。桜は恐怖と悲しみで動けなくなった。自分が“ユミ”を撃ったことで彼は逆上し、このようなことになった。涙が流れる。レッド・バードがブレードを振り上げ、下ろそうとした瞬間だった。その赤いブレードをエネルギー弾が打ち抜いた。EVEがすぐさま反応する。
「ゲー・・・ト?」
ついでジア・エータのブリッジも友子が反応した。クルスがまだ優美のことで騒いでるところだった。ブリッツェンがなだめていた。
「優美っちがいなくなったのよ!!」
「今はこっちが・・・」
「ゲート反応確認!」
「何!?」
ブリッツェンは身を乗り出して探す。それはレッド・バードの真上だった。
「・・・!?」
レッシュは上を見上げる。同時にレッド・バードも上を見上げた。そこには白いGがいた。大きな羽を持ったG。エデン・チルドレン。その時のレッシュは直感で分かった。
「“D”!!」
「ほう、“F”か」
Dはにやりと笑うとダッジを急速降下させた。ブレードを振り下ろすがそれをレッド・バードは最低限の動きで回避する。すれ違いざま、“F”と“D”の2人はスローモーションの世界でお互いの目を見たGを通してでも分かる。お互いはその一瞬でお互いの強さを知った。
「なかなかの“イクシーダー”だな!しかも・・・“レッド・アイ”の能力者とはな!」
「何!?」
2機は下降しながら激しく撃ちあう。桜は取り残された形になった。桜ははっとして、ブラック・バードを探した。2機の紫の新型と思われるGに翻弄されていた。
「・・・」
桜はブラック・バードに向けて機体を加速させた。
「もう少しだ!!頑張れ!」
2機やられた。あの艦の射撃は恐ろしく正確だ。後方に向けて放たれるリニア砲を回避するのがやっとだった。2枚のシールドを正面に構えながら、迎撃バルカンの中を飛ぶ。そして、リーダーのアシュラ-4はそこを突破し、ジア・エータの真上に出た。見下ろすと赤いGが見える。リーダーは引き金を引いた。ライフル弾が雨のようにミコのGに降り注ぐ。
「きゃあ!!」
グロリアスはGの形を失いながらも辛うじてミコはコクピットで生きていた。頭から血を流して、ぼんやりとその黒いアシュラ-4を見上げる。迎撃システムを次々と破壊していく。友子が慌てて叫んだ。
「攻撃システム50%ダウン!戦闘続行不可能です!このままでは沈みます!」
「っし!皆取り付け!制圧するぞ!」
リーダーのアシュラ-4が合図を出した瞬間だった。レーダーにミサイル接近と表示され、直後に“unknown”と表示された。
「レーダーに反応!!ミサイル接・・・いえ、“何か”が来ます!!」
空からエネルギー弾が降り注ぎ、取り付こうとした3機Gを海上に落とした。リーダーは何が起きたか分からなかった。が、上から撃たれている事に気づき、シールドを上方に構える。エネルギー弾が弾け、光が降り注ぐ。ブリッジの目の前だったため、ブリッツェンたちは眩しさで目を覆った。
「何だ!?」
「きゃあ!」
そして、それは彼らの目の前に現れた。クルスはその赤い機体を見た。
「何・・・あれ」
「ス・・・ピルス」
貴子が小さく呟いた。その姿はスピルスに酷似していた。リーダーはその赤いGを見上げて驚愕した。
「お前・・・は!!」
そんなはずはない。
ありえない。
彼は数年前姿を消した。
そして彼は偽名を名乗り反政府軍に参加しているとされていた。
数少ない情報で“彼”の死の情報をリーダーは知っていた。
だが、この機体は“彼”のものだ。
“彼”しか扱えない。
嘗て、“彼”は圧倒的な力で、あの“無限”に匹敵するか、それ以上とも言われていた。
・・・そう“彼”の名は。
「“スピード・オブ・サウンド”・・・“皇帝”、ジャック・リー」
赤い機体は翼を展開し空中にホバリングしている。コクピットではジャックが前を見据えていた。
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