「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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57話:彼女達の思い
「はい・・・今、トヨタ博士の孤島に居るのですが、探しても彼女の姿が見当たりません」
庭に立ったスーツの男が携帯電話であの男と話していた。空はうす曇で風が強く吹いている。男はタバコの煙を吐くとため息をついた。
「隅々まで探したのか?」
「はい。地下格納庫も空です。博士の部屋も荷物がなくなって、データも消されています」
「何!?」
それを聞いて男はタバコを灰皿に押し付けた。シルバリアスは“エデン・チルドレン”でないと操縦は不可能だ。荷物が無い、データも消されているということは襲われたのではなく、博士自ら何らかの方法でシルバリアスを持ち出したことになる。男は思考をめぐらせた。あの機体を扱えるものなどそうはいないはずだ。
「・・・いや・・・そんなはずは」
「私はどうすれば・・・?」
「そうだな、調査を続けてくれ。こっちからも後発部隊を送る」
「はっ!」
そう言って電話は切れた。スーツの男は携帯をポケットに仕舞うと視線を右に移した。
「・・・」
そこでは庭が吹き飛びえぐられ、Gのブレードが突き刺さっていた。
風が強く吹いていた。
「これ・・・どういうこと・・・?」
真琴はシルバリアスのコクピットを覗いて驚いた。本当に何も無い。必要最低限のモノすら取り付けられていなかった。ありえないことに操縦桿が無い。フットペダルも無い。エリーゼは真琴の肩を叩いた。
「まだ完成じゃないのよ。・・・でいうか、私も優美があれだけ動かせたのは不思議でたまらないわ」
「え?こんなのを優美ちゃんが動かした!?・・・冗談きついって」
「冗談じゃないわ。マジよ、マジ」
「マジ・・・?」
驚く真琴にエリーゼはディスクを渡した。それを受け取って裏返したりしながら見つめた。
「何これ?」
「シルバリアスのコクピットの完成形よ。で、さっきの優美の動かし方や癖を元にちょっといじったからこれの通りやってくれる?・・・使うパーツも明記してあるから」
「んー・・・おっけー!任せてよ!」
敬礼をする真琴にエリーゼは笑った。エリーゼはコクピットから顔を出すと、ブラック・バードを見た。シルバリアスの横には赤いスピルスもある。エリーゼはシルバリアスのコクピットを興味深そうに見ている真琴に小さく言った。
「あれがブラック・バードね」
「ん?ああ、そうだね」
「あれが父の最高傑作・・・」
呟くように言ったエリーゼに真琴は首を傾げた。
「何か言った?」
「何でもないわ・・・。見せてもらってもいい?」
「うーん・・・まあ、いいんじゃない?」
真琴は翼の許可を取ろうと考えてやめた。翼ならブラック・バードのこととなれば態度が違う。だが、難しい話は無理なので、言うのはあとでもいいだろう。そう思ったときエリーゼがブラック・バードに向いたまま真琴に言った。
「パイロットを呼んできて」
「何か今日は忙しいわね」
そう白衣の女性は優美を座らせてぼやいた。優美を向き合った瞬間、優美の体を近づけくんくんと臭いを嗅いだ。優美は驚いて動けない。白衣の女性の顔が歪んだ。
「汗臭いわ・・・もう」
ため息をつくと優美に向かって白衣の女性は言った。
「ねぇ、あなたも何してたの?こんなに汗だくで・・・あなたも先にシャワーよ!検診はそのあと!ほら早く!」
「え!?あ、はい」
言われるがまま優美は立たされると奥のシャワールームに押し込まれた。つい立の向こうに居たレッシュに向かって言った。突然呼ばれたレッシュは思わず姿勢を正してしまう。
「ちょっと向こうのあなた!」
「は、はい!」
「あの子の“彼”でしょ?着替えを持ってきてよ。頼んだわよ」
そう言うと、レッシュが返事をするのを待たずに、何かガチャガチャと忙しく準備をする音が聞こえ始めた。レッシュはふっと笑って察室を後にしてジア・エータから降ろされた優美の荷物が置かれた場所へと向かって行った。
「あんた誰だ?」
あくびをしながら翼が聞いた。態度のでかい翼にエリーゼはちょっとムッとした。ひとつ気を落ち着かせて手を差し出した。
「エリーゼ・トヨタよ」
「おう、俺は鷹山翼だ」
握手には素直に応じたことに少しエリーゼ気が抜けた。眼鏡を直しながらエリーゼは聞いた。
「あなたがブラック・バードのパイロット?」
「ああ、そうだ。で、何のようだ?」
腕を組んで聞いてくる翼にエリーゼは直球で簡潔に言った。
「ブラック・バードをパワーアップさせるわ」
その言葉に翼の目の色が変わる。
「何だと?」
「あなたはブラック・バードにリミッターが掛かってる、って聞いてるはずよ」
エリーゼはもらった資料をめくりながら言った。翼は「ああ」と小さく頷いた。
「リミッターはね。もうほとんど意味がないの」
「意味がない?」
「そう、ブラック・バードのリミッターは機体の限界性能に合わせてあるわ。みんなあのジェネレーターにリミットが“掛かってると思ってる”みたいだけど、ホントは違うのよ」
突然言われたことに翼は顔をしかめた。言っていることがいまいちわからない。
「分かりやすく言ってくれ」
「簡単に言えばリミッターと思われてるのはリミッターじゃないの。ブラック・バードのメインコンピューターが、リミッターが掛かってるように“思わせている”だけ。つまり、ジェネレーターについてあるリミッターは何の意味もないの。本当のリミッターはメインコンピューターだわ。・・・反応速度もまだ速くできる」
「・・・簡単に言えば強くなるんだな」
今までの自分の説明を全部省略されたことにムッとしたが、早い話性能が上がるということだ。翼の顔が変わる。
「まあ、そういうことよ。・・・私の父はこのブラック・バードの性能を完全に出せないようにしたのよ。・・・パワーアップしたと言われても、あなたがブラック・バードの限界を感じていたのはそのためよ」
「はぁ?・・・父?」
翼は「何を言ってる?」という表情をしてエリーゼを見た。ため息をついてエリーゼは言った。結局、父の名前は自分の周りに常に存在することになる。
「ルス・トヨタよ。・・・父がこのブラック・バードを造ったの」
「何!?」
腕を組むのをやめると翼は一歩エリーゼに詰め寄った。エリーゼは翼を止めてゆっくりと話した。
「だから、私なら・・・娘の私ならこのメインコンピューターにアクセスしてリミッターを外せる・・・はずよ」
「・・・はず?」
「私にも分からないわ。父の造るモノに私はどうしても似てしまうのよ。・・・私なら、何とかできると思うから」
自信なさげに言うエリーゼをよそに翼はブラック・バードを見上げた。ルス・トヨタが造ったことは驚きだったが、それよりも強くしてくれる可能性があることが嬉しかった。にやりと笑って翼は言った。
「強くできるんだろ?」
「保障はできないわ」
「・・・できる限りのことをやってくれ。俺は行かなきゃならねぇところがある」
真剣な眼差しで見つめる翼にエリーゼは小さく頷いた。それを見て翼はエリーゼの肩をぽんと叩いた。その場を立ち去ろうとして、エリーゼの横で翼は立ち止まった。
「で、あんたどっから来たんだ?」
驚いた表情を見せたあと、その質問にエリーゼは大きなため息をついた。
「服か・・・ってあいつ・・・バリエーションが少ないな」
レッシュは優美の着替えや生活道具が一式入った大き目の赤いトラベルバッグを開けた。
「・・・やりづらいな」
綺麗に仕切られ、歯ブラシやシャンプーセット、ミニスカートとパンツ、タンクトップやキャミソール、パーカー、下着、コート、ジャンパーと、年頃の女の子と思えないほど少ない。ちょうどそこにクルスが通りかかった。優美の赤いトラベルバッグを物色しているのを見て目を細めた。
「ねぇ・・・隊長、何してるんですか?」
「な!?・・・なんだ、クルスか」
突然声を掛けられてレッシュはビクっとした。クルスにはその行動が、レッシュと優美の関係から考えればそんなに不思議とは思わなかったが、レッシュ一人で優美の下着や服を引っ張り出しているのは傍から見れば怪しすぎる。
「それ・・・優美っちの下着」
「ん?ああ!・・・ちょうどよかったちょっと来てくれ」
少し赤くなったレッシュは慌ててそれをバッグに押し込むと苦笑した。クルスはレッシュの傍まで行ってもまだ疑いの目でレッシュを見ていた。
「まさか・・・盗む気じゃ・・・」
「そんなことするわけないだろ・・・」
ため息をつくレッシュにクルスはそこでようやく肩を降ろした。確かに、レッシュがそんなことするはずは無い。きっと、優美に渡すのだろう。
「優美の服とか下着を出してくれないか?」
「え?」
「いや・・・どれ持って行っていいか分からないんだよ・・・」
困り顔のレッシュにクルスはようやく事態が飲み込めてきた。
「汗かいてるから着替え持って来い、って・・・。どうしていいか・・・」
「ああ、なるほどね。・・・任せてください」
そう言ってレッシュの代わりにクルスはしゃがむとバッグから次々選んで出していく。「あ」と言ってレッシュに向き直った。
「隊長リクエストありますか?」
「リクエスト?」
レッシュは首を傾げた。クルスは笑って言う。
「優美っちにこんな格好してもらいたいとか・・・こんな格好好きとか、無いですか?」
「そうだな・・・まあいつもの感じでいいんじゃないか?」
「いつもの・・・ですか」
そう言ってクルスは“いつもの格好”を思い出した。カバンの中を見ながら頭の中でそれを取り出しながら唱える。
えーっと、へそだしの白キャミに、デニムのミニ、赤いベルト。で、下着。・・・あとサンダル。
「あ」
とクルスは、今までこのパターンしか優美の格好を見ていないことに気づいた。そしてため息が出てくる。バッグの中を見ても本当にバリエーションが少ない。
「優美っち・・・」
「なんか言ったか?」
ため息をついていたクルスにレッシュは声を掛けた。首を横に振ってクルスは言った。
「いや・・・優美っち服少なすぎ、と思って」
「まあ、女の子が普通どれくらい持ってるか知らないけど・・・俺より少ないのは確かだな」
「いや、どう考えても少なすぎですよ!・・・しかも結構大胆な服ばっかだし」
頭を掻きながら言うクルスはそれをバッグに入っていた小さなビニールバッグに入れた。バッグを閉じると、クルスは立ち上がってレッシュに渡した。それを受け取ってありがとうのジェスチャーをした。
「悪いな」
「いえいえ。・・・隊長も紛らわしいことは止めてくださいね」
「ああ、以後気をつける」
反省した表情を見せたレッシュにクルスは笑った。レッシュもその顔を見て笑う。お互い優美が帰ってきたことで表情が元に戻ったと感じていた。
「じゃあ、俺は行くよ」
「あ、はーい。いってらっしゃい」
クルスは手を振ってレッシュの背中を見送った。通路の角を曲がるまで見送るとクルスは小さく笑ってひとつ息をついた。
「信じられないわね・・・」
白衣の女性は優美の検査の結果に目を通していた。血液、視力、レントゲン、脳波など一通り調べたが、何も異常は見られない。健康そのものだ。優美の“前”の健康診断表の写真を見て今の優美の顔を見比べた。目と髪の色が違うほかは変わっているところも無い。
「普通、一瞬で目や髪の色が変わることなんて無いんだけど」
「そうなんですか?」
不思議そうに首を傾げる病院着のような物に身を包んだ優美に白衣の女性は苦笑した。カルテを机の上におくと、白衣の女性は立ち上がって、コーヒーメーカーの置いてあるところに歩いていく。「飲む?」と聞く彼女に優美は首を横に振った。
「あ、結構です」
「そう・・・」
その時ドアがノックされ男の声が聞こえた。その声に優美の表情が変わる。それを見て、コーヒーを入れながら白衣の女性は小さく笑った。入ってきたのはレッシュだった。
「どうぞ」
「失礼します」
レッシュが入ってくると優美は立ち上がって迎え入れた。レッシュは笑顔を見せると、優美もはにかんだような笑顔を見せた。
「レッシュ」
と、レッシュの持っているビニールバッグに目をやった。
「あ、それ・・・」
「ん、ああ、着替えなんだけど、俺じゃ分からないからクルスに選んでもらった」
「クルスに?」
頭を掻きながら言うレッシュを少し見上げてそのバックを受け取った。
「クルスは、俺が優美のバッグを物色してると思ってたんだよ」
「あはっ、もう」
少し照れながら言うレッシュに優美は笑った。2人のやり取りをコーヒーを飲みながら見ていた白衣の女性は。ひとつ咳払いをした。それに気づいて、優美は赤くなる。
「いいかしら?」
「すみません・・・」
「別にいいけど」
そう言って優美に歩み寄るとレッシュを見て白衣の女性は言った。
「今の世の中何が起きたって不思議じゃないわ。あんなロボットはできるし、でっかい鉄の塊は宙に浮くし、あなたみたいな人もいるしね」
「俺・・・ですか?」
コーヒーを一口飲むと白衣の女性は椅子に腰掛けた。足を組んで小さく笑う。コーヒーを机の上に置いた。
「だから、あなたも心配する必要は無いわ。その子は健康そのものだもの。・・・さっき聞いたけど、何か苦しいことや、辛いことがあったら、そのことを話すのが一番よ」
「はい」
優美は頷いた。白衣の女性はレッシュにコップを持った手で指した。
「あなたがその“力”のことは“先輩”なんだから、いろいろと教えてあげないとダメよ」
「はい」
レッシュも頷いた。そう言うと白衣の女性は膝を叩いて立ち上がった。
「もう、行っていいわよ?・・・はい、着替えるから男は出る!」
そう言うとレッシュに「しっしっ」と出て行くようにジェスチャーをした。苦笑いを浮かべながらレッシュは出て行った。その後姿を見ている優美を見て白衣の女性はいたずらっぽく笑う。
「私が出て行ったほうが良かったかしら?」
「なっ!」
また赤くなった優美に白衣の女性は机からコーヒーを取ると背中を向けた。背中を向けたまま優美に言った。
「いい男じゃない。優しそうで」
「・・・はい」
着替えながら言う優美の回答に白衣の女性は笑った。
「あら、自信たっぷりね」
白衣の女性は、また一口コーヒーを飲んだ。
ひんやりとした薄暗い収容室。
物音ひとつしない。
桜は膝を抱えて顔を埋めていた。物を隠せないように半そでのシャツとジャージの短パンだということを聞かされた。普段足や手を出す格好が多い桜は、ある程度寒さには強い方だ。この室温も“普段”なら過ごしやすいくらいの温度だろう。だが、今の桜には見に染みるように寒く感じる。ちくちくと痛む胸がそれを強く感じさせた。その時鉄の扉が開く音がした。足音が近づいてくる。それは桜の檻の前で止まった。
「よう」
その声に桜はゆっくりと顔を上げた。そこには翼が立っていた。桜は疲れきった表情を見せている。翼はそこにあった椅子に腰掛けた。
「あなた・・・鷹山翼」
「・・・気分はどうだ?」
翼は小さく言った。桜は膝に顎を置いて言った。翼の方は見ずに、壁を向いた。
「良くないわ。・・・何をしていいか分からない」
そう言うとまた桜は顔を膝に埋めた。この間まで殺そうとしている人物が近くに居る感じは複雑で、実際あまり気分のいいものではない。どれくらい沈黙があっただろう、桜はもう一度顔を上げると、翼の方を向いて意を決して言った。
「聞かせて」
「ん?何を?」
「あの人の話。・・・まだ、あなたを完全に信用したわけじゃない」
その言葉に翼はすぐに反応してきた。
「信用する必要はねぇよ。俺がお前の旦那を殺したのは本当だ」
「でも!あの女の人は事故だって・・・」
翼も桜の言葉に割って入った。桜は自分が辻褄が合わないことを言っているのは分かっていた。
「それはヴィラの視点だろ?俺からすれば“仲間だった男を殺した”・・・お前からすれば“旦那を殺された”・・・結果は同じで、真実は1つだ。・・・1人の男が死んだ」
そして、翼が暗い表情を見せた。あの時雨の中で見せた顔。桜はその顔を見ると立ち上がった。右足に気をつけながら、桜は両手で檻を掴んだ。
「そうかもしれないわ。・・・でも、私が知ってたあなたと違う部分もあなたにはたくさんある」
「ああっ?」
翼は顔を上げた。真っ直ぐ桜がこっちを見ていた。
「私の中であなたは冷徹な殺人者、破壊者でしかなかった」
桜は俯いて目を閉じた。ゆっくりと顔を上げて目を開く。
「でも、あなたは“あの人”のことを“仲間”だと言ってくれた。・・・あなたを殺そうとしていた私を助けてくれた。・・・私の願いを聞いてくれた」
最後になるにしたがい、桜の声が震え始めた。左の頬に涙が伝う。
「“あなた”は私の知っている“あなた”じゃなかった。だから、聞かせて?あの人のこと、“あなた”のことを」
その時だった。またあの鉄の扉が、今度は大きな音を立てて開いた。一人の女性が駆け込んでくる。
「翼君!!」
「ヴィラか・・・」
ヴィラは檻の前に来ると桜を睨みつけた。その後翼に向き直ると、手を取った。
「行きましょ!・・・話があるの」
「話ならここでできるだろ?」
そう言った翼にヴィラは取り繕うように慌てて言った。
「ゆ・・・優美が呼んでるのよ!」
「優美はレッシュと一緒だろ?アイツが俺を呼ぶ話なんてねぇだろ?」
「ぐっ・・・」
翼に嘘を見抜かれ押し黙った。ヴィラは翼が桜と居ると聞いて飛んできたのだった。桜は翼を殺そうとしていた女。彼と一緒に居るのは許せなかった。
「今、コイツと話をしてんだよ。邪魔するなら帰れ」
「ダメよ!この女は翼君を殺そうとしてるのよ!?」
手を引いたヴィラの手を翼は振り払った。その行為が相当ショックだったのか、ヴィラは目を見開いて固まっていた。
「話してるつってんだろ?」
「でも・・・こいつ・・・」
唇をかみ締めるヴィラを見て桜はゆっくり口を開いた。
「もういいわ。鷹山翼とは・・・」
「やめてっ!!」
桜の言葉を遮ってヴィラが割って入った。その目は涙で潤んでいる。
「あんたに翼君の名前を呼ぶ資格はないわ!!」
「なっ!?」
ヴィラは手を振りかざして叫んだ。
「私は翼君が分からない!何であんなのを連れてきたの!?あいつは翼君を殺そうとしているのよ!?・・・あれは事故なの!あの“エデン・チルドレン”さえ居なければ、起きなかった事故なの!翼君は必死に戦ったじゃない!・・・翼君は悪くないわ」
そこまで言うと翼が口を開いた。その目はヴィラの嫌いな目だった。
「それだけか?」
「何を・・・」
「言いたいことはそれだけか?」
そう言われてヴィラは押し黙った。唇をかみ締める。翼は突き放すように言った。
「やっぱ、俺とお前は合わねぇな・・・」
「何で!?」
「お前は俺のことを分かったような気で居るが、俺の苦しみや思いは誰にも分かりゃしねぇよ」
「・・・好きにすればいいでしょ!」
ヴィラは踵を返すと小走りで鉄の扉に向かって行った。階段を駆け上がって、振り返らずに飛び出して行った。その後姿を見て翼はため息をついた。桜はあっけに取られて言葉を発することができなかった。翼はゆっくりと口を開いた。
「まあ・・・今のでわかったろ?あんたの立場が」
「ええ・・・良くないわね」
桜はゆっくり頷いた。翼が椅子に座りなおした。
「さぁ・・・どっから話せばいい?」
桜も冷たい床に座り込んだ。
「そうね・・・」
翼がゆっくりと目を閉じた。
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