waiting for the changes

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60話:PRELUDE



世界各国の主要都市に現われた“白いG”は一斉に攻撃を開始した。
北アメリカで退去勧告を発していたGが、エネルギー弾で破壊される。
「ぐあっ!?」
それを確認し、指揮官は叫んだ。
「全機攻撃開始!!」
街中にある“塔”が展開し、数機のGがその中から現われる。と、同時に避難を開始していた市民たちが悲鳴を上げた。シェルターや地下鉄の駅に人々が殺到する。
「きゃああ!」
「うあぁ!!」
白いGたちは一斉にそのGたちに襲い掛かった。戦闘能力の差は目に見えている。あっという間に世界政府軍のグロリアスやグロウが姿を鉄くずに変えられて行く。
「隊長!!無理です!!うああああ!!」
「うあああ!!!」
「ちっ!何だコイツら!?」
グロリアスのパイロットは舌打ちした。敵わない。圧倒的過ぎる。白いGたちは着地すると、辺りのGを破壊し、議事堂へと真っ直ぐに向かう。議事堂には議員が避難を開始しているところだった。
「な、なんだ!?」
「避難を早く!」
議事堂を白いGが取り囲み、その中の1機のデザインの違うGが降りてきた。そして、言葉を発する。議員の初老の男はその白いGを震えながら見上げた。
「腐った制度など“楽園”には不必要だ」
「何!?」
「・・・人もまた然り」
その瞬間、議事堂にエネルギー弾が降り注ぎ、炎を上げた。
白いGが炎の赤を浴びて血のように赤く見えた。


世界各国でも同じような事態が起きていた。“マスター”管轄も関係ない。世界政府軍も何が起きているか分からなかった。だが、傭兵、反政府軍は“白いG=世界政府軍”と言う式が成り立つ。皆が世界政府軍の暴挙に激怒した。
「世界政府・・・どこまで腐ってるんだ」
「ぶっ殺してやる・・・」
各都市の防衛機構は全て破壊される。
炎を上げ壊れたGが道路に横たわる。
砕け散るガラス。
ひび割れたアスファルト。
人。
・・・そして人だった・・・モノ。
今まで平和だった街が一瞬でその姿を変えた。その中で白いGが静かに立っていた。

憎しみの渦は瞬く間に世界を包んでいった。


「アロード」
「何だ?」
その声に反応し、壁に展開する大型のモニターを見ていた男が振り返った。モニターには破壊された街、逃げ惑う人々、そして、逃げ遅れ爆発や建物の倒壊に巻き込まれた人の死体が映し出されていた。そこにはスーツの男“1”が居た。タバコに火をつけた。
「どうだ・・・これは」
「いい感じだ。世界政府軍内部での不信感、世界政府に対する憎悪・・・それが世界を支配し、誰もが誰をも信じることのできない世界・・・旧世界は終わり、新しい世界が来る」
アロードはモニターを見ながら手を広げると笑みを浮かべた。“1”がアロードの隣に歩み寄ってくる。ポケットに手を入れると紫のディスクを取り出した。
「“5”からだ」
「あいつか・・・」
そう言ってアロードはそれを受け取るとコンピューターに挿入した。キーボードを弾いてダウンロードする。それを見てアロードは驚いた。
「シルバリアスが!?・・・それにこれは・・・」
「興味深いだろう・・・是非ともコイツは我々の手に入れたい」
戦闘データと共に、そこにはカメラに映った白いワンピース姿の金髪で緑の目をした少女が映っていた。


「なっ!?これは!?」
ブリッツェンは外の光景を見た。空を飛ぶ白いGが街を破壊している。その時リドが部屋に飛び込んできた。
「ブリッツェン艦長!!世界政府軍が!!」
「ああ・・・だが、あいつらは世界政府軍では無い」
「・・・は?」
息を切らしたリドは首を傾げた。確か“あれ”は世界政府軍の“白いG”だ。彼の知識ではそうだった。
「エデン・・・」
ブリッツェンは拳を握り締めると窓の外を向いた。リドに背中を向けたまま言った。
「住民の避難は?」
「遅れています!完了までには時間がかかりそうです」
「こちらもGを出す。ヴィレドル君や鷹山君に出撃命令を掛ける」
「了解っ!」
リドは敬礼をして部屋から飛び出していった。ブリッツェンは受話器を持ち上げて、格納庫へと繋いだ。しばらくコール音が続き、ウィルがその電話に出た。
「艦長!?」
「ヴィレドル君、鷹山君、樹村君、間宮君、リー君は出撃を」
「今、翼の指示でやってます!あの・・・」
ウィルはブリッツェンが告げた名前に口ごもった。レッシュと優美は居ない。
「レッシュと優美ちゃんが居ないのですが・・・」
「何!?・・・今はいい。とりあえず現戦力で“白いG”を撃破、及びこの街の死守を命令する」
ブリッツェンは手を口に当てた。彼らならきっとすぐに戻って来るだろう。今は一刻も早く対策を打たなくてはならない。ウィルは頷いた。
「了解っ!セットが出来次第出撃させます!」
「現場指揮は鷹山君に取らせてくれ」
通信を切るとパイロットスーツに着替え走ってきた翼をウィルは呼び止めた。怪訝そうな表情を浮かべて翼は立ち止まった。
「待て!翼!!」
「何だ?」
「艦長が指揮はお前が取れって」
「ああ、出るのは誰だ?」
翼は頷いて辺りを見回した。慌しく整備士が動いている。
「レッシュと優美ちゃんが居ない!・・・出るのは間宮とジャックさんだ!」
「ちっ・・・こんな時に・・・まあいい。クルスは砲撃戦装備、ジャックは俺と徹底的に“あいつら”を落とす!」
「ああ、それで行こう」
後ろから声がして翼とウィルは振り返った。薄い赤のパイロットスーツ姿のジャックが居た。ヘルメットを担ぐと首を傾げる。
「すぐに出よう」
「ああ!」
ブラック・バードと赤いスピルスに乗り込んだ2人は次々と出て行った。大型の対空ライフルを持ってゆっくり赤いグロリアス・スーパーが歩み出てくる。クルスがコクピットで忙しくセッティングしていた。
「射撃はあんまり得意じゃないのよね」
バックアップに回ったミコからの通信が開いた。
「クルス!C3ブロックまで行って!そこに対Eコートの壁があるから」
「了解っ!・・・なるほど、あれね」
クルスは2ブロック先の交差点を見た。ちょうどその“壁”がせり出してくるところだった。思った以上に分厚くて頑丈そうだ。
「ふーん、まあ、なんとかなりそうね」
「クルスは鷹山君とリーさんのバックアップよ。支援に徹して!」
「分かってるって!・・・あんなのに私が対抗できるわけないでしょ」
毒を吐いたクルスにミコは渋い顔をした。まあ、出過ぎた事をしなければ大丈夫だろう。
“白いG”は港に侵入してきた。


“白いG”が2機の赤と黒のGを確認した。市街地の破壊と同時に対抗勢力の完全撃破も目的とされていた。

「目標確認」
「コード:漆黒の鷹。・・・機種不明機確認」
「機体照合・・・該当データなし」
「新規データ入力。データ送信・・・返答待機」
「2機の排除を優先」
「該当機体あり。・・・コード:音速の皇帝。危険度レベル・・・測定不能」
「対象の再確認。コード:漆黒の鷹、コード:音速の皇帝」
「排除を開始する」

“白いG”が初撃を放った。その瞬間、彼らの視界から“赤いG”が消えた。
「対象ロスト」
「索敵・・・下方より対空ミサイル接近」
その瞬間、3機のGが一瞬で3等分にされた。圧倒的なスピードに白いGたちの編隊が崩れ始める。翼はにやりと笑った。
「さすがだな。さぁ・・・BB・・・お前の力を見せてくれ」
翼は増設されたスイッチを全て「ON」にして、ペダルを一気に踏み込んで機体を加速させた。


「終わったのか?」
「ええ」
エリーゼは眼鏡を直すとブラック・バードを見上げた。形状や装甲が所々変更されている。
「でも、テストがまだよ」
「こっちもそんなこと言ってられねぇんだよ!・・・まあ、なんとかなるだろ」
「何とかしてくれなくちゃ困るわ。・・・これで、ブラック・バードの現能力の限界まで引き出したわ。ハードの変更、ロムのチューン、書き換え、ジェネレーター出力、反応速度の引き上げ。これがブラック・バードの真の力よ」
翼にとって難しい単語が並んだが、要は強くなっているということだろう。翼は顔をしかめたあと、ふっと笑う。
「まあ、強いんだろ?」
「理論上問題ないと思うわ。問題は・・・」
「何だなんかあるのか?」
エリーゼが神妙な面持ちで翼に向いた。翼は腕を組んで「ん?」と言う表情を浮かべる。
「あなたが反応速度について行けるかどうかよ」


一気に放たれたエネルギー弾を最小限の動きでブラック・バードが回避した。動きのシャープさ、反応速度に翼は驚いた。自分好みのセッティング。思った通りに操れる。これなら・・・。
「はっ!・・・これならいけるぜ!!」
翼はブラック・バードを変形させるとブレードを展開し、一気に斬りかかって行った。その速度はスピルスに匹敵するほど速かった。その様子を見てエリーゼは感嘆の声を上げた。
「へぇ・・・なかなかやるわね」
ジャックは次々と市街地に入ってきたGを倒していく。ブラック・バードも速度を生かして一撃離脱戦法を用いて排除していた。だが、2機は高速戦闘を目的とした機体。防御や防衛には向いていない。街にエネルギー弾やミサイルが降り注いだ。ビルが崩壊し、アスファルトがめくれ、車が吹き飛んだ。逃げ遅れた人がそのエリアに居なかったことが幸いしていた。
「くそっ!俺達じゃ厳しいぞ!?」
「では、その前に排除すればいい話だ」
ジャックはペダルを踏み込んで操縦桿をスライドさせた。スピルスが瞬間的に加速し、一瞬にして3機の白いGの背後に回りこんだ。エネルギーライフルとブレードで一気に破壊した。翼も負けじと機体を加速させ、ライフルを放った。だが、非力なリニアライフルは関節系に当てないと致命傷とはならない。それを判断すると、躊躇することなく翼はブレードを振りぬいた。2機の白いGが真っ二つに斬れた。


「我々も移送作業を早く終わらせるんだ!」
リドは地下から海に繋がる広い空間に居た。そこには黒い巨大な潜水艦があった。ジア・エータに積み込まれていたものの移送作業が行われていた。作業用のGに乗ったヴィラとニーバルがコンテナを運び込んでいた。天井から時々地響きが漏れ、鋼鉄の骨組みが軋んでいる。
「翼君・・・」
ヴィラは祈るように上を見上げた。


「レッシュ、レッシュ!?」
突然胸を押さえてうずくまったレッシュに優美は必死に呼びかけた。レッシュは息を切らしている。優美は空を見上げた。避難命令を告げるサイレンが鳴り響き、と同時に白いGが現れた。その瞬間レッシュが苦しみ始めたのだ。レッシュは息を整えるとゆっくりと立ち上がった。
「レッシュ!?」
「大丈夫だ・・・もう収まった・・・今のは何だ?」
「ホントに・・・?」
まだ、今にも泣き出しそうな表情で自分を見つめてくる優美の肩を叩いた。優美はレッシュに肩を貸すとゆっくり歩き出した。その時、背後から爆風が襲った。
「きゃああっ!!」
吹き飛ばされた2人は石畳の道を転がった。レッシュは優美を抱きしめ庇う。転がってゆっくりと顔を上げた。
「大丈夫か!?」
「うん・・・レッシュは平気?」
腕と膝を優美は小さく擦りむいていたが他は大丈夫そうだ。レッシュはそれを見てホッとする。その時頭上をブラック・バードとスピルスが飛んでいった。それを見てレッシュの表情が変わった。
「立てるか?」
「うん」
「車まで走るぞ!」
レッシュが走り出すと優美もその後を追った。辺りの風景は一変していた。さっきまでの風景はそこには無く、本屋も服屋もファストフード店もめちゃくちゃに壊れ、炎を上げていた。レッシュと優美の目には逃げ遅れ、燃える建材の下敷きになって息絶えている人も目に入ってくる。優美は唇をかみ締めて目を閉じた。レッシュは一旦立ち止まって空を見上げた。
「タカ・・・ジャックさん」
2機のGは白いGを次々と破壊していく。だが、圧倒的な量の前に押され気味になりつつあった。2人は車のある場所にたどり着いた。運がいいことに車は無傷だった。これならすぐにでも戻ることができそうだ。
レッシュはエンジンを掛け、ミッションを1速に入れると銀色の車は勢い良く加速して瓦礫で半分ふさがった道に飛び出して行った。


何が起きたのだろうか。
鳴り止まない振動。
この振動は・・・戦闘によるものだ。間違いない。
まだ振動は遠いが確実にこちらに近づいている。
暗い部屋、手錠をされたままの桜は顔を上げた。
戦闘が起きるのは分からなくはない。
“彼ら”がここに居るのだ。“彼ら”を狙って攻撃を仕掛けてくることも考えられる。
だが、納得できないこともある。
ここが“マスター”の直轄エリアだということだ。
世界政府軍もそう簡単に手出しできないはずだ。
「・・・おかしいわね」
桜は立ち上がって冷たい壁にもたれ掛かった。


「くっそー!!」
当たらない。
掠りもしない。
鈍重な射撃兵器は白いGにはやはり通用しなかった。
クルスは大きく舌打ちした。その時、ミコから通信が入ってくる。
「クルス!撤退よ!」
「あーん、あれ無理!!ウザっ!!当たらないっ!」
「いいから下がって」
クルスはミコからの通信に頷くとゆっくりと撤退を開始した。
「とりあえず、帰って来て!これからのことはそれから話すわ」
「・・・了解」
クルスは固定砲撃仕様の装備を解除すると軽くなった機体で市街地の奥に戻っていった。


「ちっ!」
ブラック・バードは戦闘機形態でバレルロールしながら攻撃を回避した。白いGの背後に回った瞬間、人型形態に変形し、ブレードで斬った。白いGの数は減ったどころか、逆に増えているのではないかと思うほどだ。その時、地上からエネルギー弾が放たれた。倒したと思っていた白いGが上半身の一部と右腕だけの状態で攻撃を放った。回避できなかった。
「やべぇ!!」
その瞬間、左から強い衝撃が走った。ブラック・バードは錐揉み状態になって吹き飛ばされる。そこに居たのは赤いスピルスだった。ジャックは翼の危険を察知し、“わざと”ブラック・バードを蹴り飛ばした。フレームの一番強い基部を蹴ればダメージは無いだろう。ジャックからの通信が来る。
「気を抜くな!」
「ああ・・・悪りぃ」
白いGは止むことなく街の破壊とブラック・バードとスピルスに迫ってくる。こっちがパワーアップしていなければこの数射相手に戦えなかっただろう。エリーゼには感謝しなくてはならない。
「次から次へと・・・きりが無いな」
ジャックは辺りを見回した。ゲートが次々と開いて白いGが現れる。いくら2機が高性能で腕の立つパイロットが乗っていても、数で攻められると突破されかねない。その時、2人にブリッツェンから通信が掛かった。
「鷹山君・・・リー君聞こえるか?」
「ブリッツェン!?」
「ブリッツェン艦長か?」
ブリッツェンはマイクを持つと立ち上がった。そこは計器の光だけが照らす部屋だった。潜水艦のコントロールルームだった。そこにはシェリーや貴子、友子も居る。
「隙を突いて我々はこの街、及びエリアを離脱する!」
「何!?」
翼はスピーカーに噛み付いた。離脱するといっても問題が多く残っている。
「レッシュはどーすんだ!?優美も帰って来てねぇだろ!?」
「2人が帰って来次第、潜水艦で離脱する。君達はそれまでの間、時間を稼いでくれ」
「はぁ?」
翼が顔をしかめるとそこにジャックの通信が重なった。
「レッシュと優美が戻ってくるまでしのげばいいんだな?・・・住民の避難は?」
「シェルターに完了している。我が艦と他の潜水艦にも避難民を搭載している。この後はどうなるか分からんが、とりあえずの処置だ」
「了解した」
ジャックは通信を切るとまた白いGの撃破を再開した。状況が掴めていない翼はブリッツェンに向かって叫んだがすでに通信が切れていた。
「おい!ブリッツェン!!おい!」
「翼」
「ああっ!?」
ジャックは冷静に翼に通信を掛けた。まだ興奮状態の翼が噛み付いてくる。
「今はこの状況を打破しろ、対応はそれからだ。レッシュが戻れば戦況は変わる。・・・いいな?」
「・・・ああ・・・わかった」
あまりにも冷静に言うジャックに翼は軽い恐怖すら感じた。この状況に置いても自分を見失わず、自分のやるべきことをやる。それをジャックはやっているだけだ。翼はこくりと頷くと前を見据えた。自分もやるべきことをやるだけだ。
「レッシュが来る前に全部蹴散らしてやるか!」
ブラック・バードが両腕のブレードを展開し、白いGに一気に迫っていった。


「くそっ・・・」
レッシュは愕然とした。道がなくなっている。優美も呆然と途切れた環状線を見つめていた。レッシュはハンドルに拳を振り下ろした。背後では爆発音や轟音が響いている。レッシュは唇をかみ締めてぎゅっと目を閉じた。その時だった。顔を上げた優美が何かに反応する。
「何か来る!」
そして、目の前に赤いグロリアス・スーパーが現われた。クルスも銀色の車を見つけた。
「クルス!!」
「え??隊長!?優美っち??」
車から降りて手を振る2人の場所にクルスはグロリアス・スーパーをつけた。レッシュが叫ぶ。クルスはコクピットハッチを開けて顔を出した。
「クルス!」
「隊長!?何やってるんですか!?優美っちも!!」
「話は後だ!俺達を本部に連れて行ってくれ」
クルスは頷くとコクピットハッチを閉めた。外部スピーカーにしてクルスは叫んだ。
「車に乗ってください!車ごと運びます!」
それを聞いて2人は車に乗り込んだ。クルスはそっと機体を動かして銀色の車を手のひらに載せる。少しだけ安心したレッシュと優美に激しい衝撃が襲った。
「よーし・・・しっかり捕まってくださいね!飛ばしますよ」
「きゃああっ!!」
「うおっ!」
2人はしっかりと車に捕まった。凄まじいほどの上下運動によるGが2人を襲った。GのコクピットはG衝撃を軽減する装置がついているが、車にはもちろん無い。モロに上下運動のGが2人に掛かった。グロリアスのコクピットからクルスは銀色の車を見た。中でレッシュと優美がこちらに向かって必死に何か言っているように見えるが、クルスは構わず“飛ばした”。
赤いグロリアス・スーパーは小ジャンプを繰り返しながら本部へと戻っていった。


「艦長!!最終防衛ライン突破!本部施設に3機進入!」
「ブリッツェン!!3機そっちに行ったぞ!!」
友子と同時に翼からの強制通信が掛かってきた。そして、市街地の一番奥にある建物の格納庫からも真琴から通信が入った。
「艦長!!こっちにも来たよ!・・・クルスと隊長たちはまだ!?」
飛び交う声に友子は処理に困っていた。ブリッツェンは拳を握り締めた。
「早く戻ってきてくれ・・・ヴィレドル君」


「きゃあっ!」
桜は振動に立っていられなくなった。よろけてコンクリートの床に転げる。ベッドで頭を打ち付けて桜はその痛みで唸った。
「痛ったぁ・・・」
顔をしかめて桜は思った。きっと、助けはもう来ないだろう。捕虜の末路は決まっている。今、桜が置かれている状況がそれだった。顔を上げた桜は驚いた。鉄の扉があるところが崩壊し、外から光が漏れていた。牢獄も潰れ、さっきまで桜が居た場所には鉄骨がむき出しになっている。
「・・・私も・・・ここで終わりね」
桜はゆっくりと目を閉じた。


「食らえ!!」
翼はペダルを踏み込んで空中で姿勢制御し、白いGのブレード攻撃を、体を捻って回避した。ブラック・バードのブレードの突きが白いGの腹部に突き刺さった。そのまま上に斬り上げた。ジャックの赤いスピルスは白いGにロックされることも無く飛び回って次々と撃ち落していく。
「・・・捕捉不可能」
「反応速度・・・不足」
その時、一際大きな“ゲート”が開いた。
「艦長!ゲート反応!!規模が大きいです」
友子は表示されたデータを見た。巨大な熱量も感知されている。この規模だと恐らく戦艦クラスだ。
「ジャック!“ゲート”だ!」
「・・・来たか・・・あれが恐らく本隊だ」
「何!?」
ジャックの言葉に翼は驚いた。本隊ということは更にこの状況は悪化する。ジャックは“ゲート”から姿を現し始めたそれを見た。巨大な戦艦。“ギアシリーズ”で最も武装、装甲共に最強の艦だ。ギア・シートだ。
「ギア・シートか・・・厄介だな。私と君の火力ではあれは無理だ」
「ちっ!」
翼は舌打ちして本部のあった方向を見た。3機の白いGが攻撃を始めていた。


「後方よりグロリアス・スーパー接近」
「排除開始」
クルスはこちらを向いた白い3機のGを見てつばを飲み込んだ。覚悟の時だ。外部スピーカーでクルスは叫んだ。
「隊長!突っ込みます!!」
レッシュも白いGを見た。拳を握り締める。グロリアスのシールドがレッシュの視界を塞いだ。クルスは地面に着地するとペダルを思いっきり踏み込んで、スラスターを全開に開いた。
「おりゃあああ!!!」
白いGが放ったエネルギー弾を赤いシールドが弾く。もう少し。もう少しで滑りこめる。その時、シールドの一部が弾けた。肩の装甲を掠め、ギリギリで格納庫に滑り込んだ。パージしたシールドが外でエネルギー弾の集中砲火を浴びて爆発している。
「ふー・・・何とかなった」
クルスはコクピットで大きなため息をついた。レッシュたちの乗る銀色の車を降ろすと、レッシュは車を発進させ、真琴が誘導するコンテナの中に車を滑り込ませた。レッシュと優美は車から飛び降りると真琴の説明を聞いた。
「隊長!優美ちゃん!とりあえず出て!話は艦長がするから!」
「ああ」
「はい!」
レッシュと優美は頷くと互いの機体の所に走った。車が納められたコンテナにヴィラの乗る作業用のGがゆっくり歩いてくる。外部スピーカーで真琴に聞いた。
「これが最後?」
「そうよ!私たちもついでに運んで!」
そう言って真琴はコンテナによじ登った。整備班の残っていた少女達もコンテナに乗った。
「捕まってて!」
ヴィラはゆっくりとコンテナを持ち上げる。方向を変え、奥に向かって歩き出した。そして、右に視線を移した。そこには白いGと赤い戦闘機がある。それに向かってレッシュと優美がそれぞれ走っていっていた。
「・・・頑張って」
ヴィラは視線を通路の奥へと移した。


レッシュはコクピットに滑り込むとハッチを閉めた。その瞬間、レッド・バードのコクピットが一気に明るくなった。EVEがレッド・バードをすぐに発進できるようにアイドリング状態にして、スタンバイさせていた。
「レッシュ!遅かったわね」
「悪い!・・・早速出るぞ!」
「了解!全システムオールグリーン、優美に通信開きます」
レッシュはEVEの対応に驚いた。今、口にはしてなかったはずだ。そうしている間に優美との通信が開いた。
「レッシュ!先に行って!シルバリアスはもう少し時間が掛かるから!」
「ああ、すぐに来いよ」
「うん!」
笑顔を見せた優美を見てレッシュは通信を切った。滑走路へレッド・バードを向かわせながら、さっきの疑問をレッシュにEVEにぶつけた。
「EVEさっき・・・」
「もう・・・レッシュとリンクしていればレッシュがしたいことぐらい分かるわよ」
「あ・・・」
「こういうのはリンクAIの私は優れているんだからね」
EVEがつんとした感じの声で言った。レッシュは苦笑いを浮かべる。EVEは少し声の調子を変えて言った。
「ま、優美には負けちゃうけど・・・あの子は特別だし」
そう言ってからかうEVEにレッシュは少し赤くなって1つ咳払いをした。
「リンカー起動。ブリッツェン艦長との通信を開いてくれ」
「了解!リンカー起動・・・通信開きます」
まだ生きているカタパルトにセットし、レッド・バードのスラスターが唸りを上げ始める。
「レッシュ・F・ヴィレドル。レッド・バード、行ってくる!」
加速した機体が一気に滑走路を駆け抜ける。ちょうど居た白いGをブレードを展開し、真っ二つに斬った。倒れこんで爆発する。レッド・バードは空へと舞い上がった。レッシュは下を見下ろした。2機の白いGが居る。EVEがレッシュに直接伝えた。
「ブラック・バード、スピルスの位置はここ。戦艦も出て来た・・・状況は良くないわ」
「ヴィレドル君!」
「艦長!」
映像通信が開いたが酷くノイズが入っていた。ブリッツェンはレッシュの顔を確認すると作戦を伝えた。
「EVEから聞いていると思うが、一応確認だ。我々はこの街を離脱する。君達は白いGを突破して、海へ出てくれ。そこで我々が君たちを回収する」
「了解!」
レッシュは頷いて通信を切った。EVEが付け加えた。
「本隊が出てきたわ。ブラック・バードとスピルスは苦戦中!急行して」
「ああ、その前にあの2機を・・・」
白い2機のGが格納庫の出口に侵攻してくる。その時だった。格納庫から放たれた無数のエネルギー弾に手足、頭を破壊されて白いGが倒れこんだ。ゆっくりとあの大きな翼をマントのように羽織ったGが歩み出てくる。その数枚の羽が白いGの方を向き、両手のライフルを構えていた。
「優美は自分で何とかしたみたいね」
「そうだな」
レッシュはふっと笑ってレッド・バードを加速させた。


「優美!」
「エリーゼさん!?」
優美は突然繋がった通信に驚いた。優美を見てエリーゼは小さく笑う。
「どう?ペダルと追加の補助スティックは?前よりは動かしやすいはずよ?・・・ちゃんとリンクできてる?」
エリーゼの質問に優美はこくりと頷いた。前よりも意思が伝わりやすいように感じる。ペダルがあったほうがやはり楽だ。まだこの不思議な感覚になれないが、慣れていなくてもこの状況ではそんなこと言ってはいられない。慣れなくてはならない。
「大丈夫です!行けます!」
「あとそれから」
「え?」
ペダルを踏み込んで飛び上がろうとする優美をエリーゼの言葉が止めた。
「“FOUS”は元々宇宙空間での使用を前提とされているの。シルバリアスに接続状態での飛行、攻撃するのには問題ないわ。でも・・・」
映像に映るエリーゼが目を伏せる。優美はその表情を見て少しは悟ったようだった。
「オービットとして展開した場合、あなたに相当な負担が掛かるわ。前の戦闘で分かってると思うけど、まだ経験の浅いあなたにはかなりの体力を必要とするはずよ。精神に対する負担も考えられるわ」
優美はエリーゼの言葉を黙って聞いていた。と、エリーゼはふっと笑った。
「・・・まあ、あなたに言っても無駄だろうけど」
「え?」
「レッシュが絡んだらあなたは後先考えないでしょ?どーせ、自分を犠牲にして無茶するんだから」
「な!?」
赤くなった優美を見てエリーゼは笑う。少し堅かった優美の表情も和らいだ。そして、エリーゼは「また、“え?”って言った」と言う。今のことで優美がリラックスできればいいのだが。
「まあ、一応聞いたことは覚えておいてね。・・・あなたの場合、精神面も体力も全然問題なさそうだから」
「あはは・・・」
苦笑いする優美の背中を押すようにエリーゼは言った。
「さあ、いってらっしゃい!シルバリアスとあなたの力を見せてやるのよ!」
「はいっ!」
シルバリアスは大きな翼を広げて空へと飛び立った。


「破壊対象G4機を確認。各個排除に当たれ」
「了解」
「了解」
ギア・シートのキャプテンシートに座っていたのはレッシュとそう歳の変わらない薄い灰色の髪をした青年だった。真っ直ぐブラウンの瞳を外に向けていた。クルーは数人が同じ顔をしている。彼らの白い軍服の肩には“I”、“O”嘗てレッシュたちが退けたエデン・チルドレンの量産型クローンだった。同じ顔をした1人がそのキャプテンシートに座った青年に言った。
「“P-0”(ピーゼロ)。確認されたGはブラック・バード、スピルス、レッド・バード・・・シルバリアス」
「シルバリアスか・・・アレは確保せよとの命令だ。破壊してはならない。各機に伝えよ」
「了解」
“I-033”と軍服にかかれた青年は頭を下げた。“P”は受話器を持ち上げる。カタパルトで待機しているGのパイロットに繋がった。
「何だ“P”?」
「失敗は許されない。貴様はすでに2度敗退している」
「ああ・・・アイツがいるんだろ・・・あの“不気味なイクシーダー”だ」
“D”はコクピットで感覚を開いた。居る。確かに同じ感覚だ。“F”と共に感じる感覚、あの時感じた不気味な感覚だった。ざわつく様な、心に何かされるような。“エデン・チルドレン”からは感じない不思議な感覚だった。今度こそ失敗は許されない。
「アイツを消す」
「それはダメだ」
「何故だ!?」
“D”は送られてきた映像を見てシルバリアスを睨みつけた。が、“D”の言葉を“P”が遮った。“D”は“P”に噛み付いた。
「アレを確保せよとの命令だ。破壊してはならない」
「ふざけんじゃねぇよ!」
「ふざける?・・・2度失敗した“モノ”の言葉か?貴様が存在するのは私のお陰だということを忘れるな」
“P”の冷静で威圧のある言葉に“D”は押し黙った。拳を握り締め、ため息をついた。
「俺は“ハッカー”が得意じゃねぇ」
「・・・期待している」
そう言うとブツリと通信が切れた。“D”は歯をかみ締めた。“P”には逆らえない。自分が生かされているのは事実だ。彼が命を握っていることも。・・・失敗は許されない。
「“D”-ダッジ・・・出撃する」
カタパルトが加速してダッジがギア・シートから飛び立っていった。


「はあぁ!!」
ブラック・バードが白いGを斬った。撃破が追いつかない。次々とブラック・バードとスピルスの間をすり抜けていく。その時だった。独特の数発の発射音と共に発射音と同じ数の爆発音が起きた。翼はため息をついた。その視界には赤い戦闘機が移っていた。
「やっと来やがったか」
「悪い!」
レッシュはレッド・バードを人型形態に変形させると、“シルバー・アロー”を構え瞬く間に5機の白いGを倒した。ジャックもレッド・バードの到着を確認した。と、同時に友子から文章による作戦の概要が伝えられる。すでに潜水艦での潜行を開始しており、音声通信が繋がりにくいということも書かれていた。
「ちっ・・・あの戦艦をなんとかしねぇとな」
「俺が何とかする」
ブラック・バードの前に出たレッド・バードは白いGの間を一気に抜けていく。その間にレッシュは“EVE”に命じる。
「“シルバー・アロー”、“バースト3”・・・セット」
「チャージ開始・・・コンプリート!」
レッド・バードは両手で“シルバー・アロー”を構えるとギア・シートの右舷に狙いを定めた。銃身が上下に展開し、光が収束する。
「終わりだっ!!」
“シルバー・アロー”から強烈な光が放たれた。ギア・シートのキャプテンシートに座る“P”は顔色ひとつ変えない。回避運動も指示しなかった。直撃しようとしたその時、何かがその間に割って入った。“シルバー・アロー”の強烈な光が曲げられ海面に直撃する。凄まじいほどの水柱が上がった。そこには“ヴァイル”を展開した“D”のダッジがいた。
「馬鹿な・・・」
「あの野郎・・・俺を盾に使いやがって・・・」
“D”は舌打ちをしてギア・シートのブリッジを見上げた。首をコキコキ鳴らしてレッド・バードを見た。レッシュとEVEは“シルバー・アロー”を“曲げられた”ことに愕然としていた。
「そんな・・・“シルバー・アロー”が・・・」
苦戦を強いられていたスピルスの周りの白いGの武装や頭部脚部が次々と破壊され墜落していく。スピルスの横に滞空したのはシルバリアスだった。映像通信が開いて優美が顔を見せた。彼女は“また”パイロットスーツを着ていない。
「ジャックさん!・・・遅くなりました!大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ・・・君も無茶ばかりするなよ」
ジャックは小さくため息をついた。急いでいたのは分から無くはないが、万が一のことが起きた場合大変なことになる。
「パイロットスーツぐらいはきなきゃ駄目だぞ」
「あ・・・はい・・・ごめんなさい」
目を伏せて反省の意を表した優美を見てジャックは小さく笑った。
「・・・まあいい。ザコは私に任せて君はレッシュの援護を頼む!」
「了解っ!」
優美は頷くとシルバリアスを加速させた。羽ばたくようにレッド・バードの元に向かう。ジャックは翼に通信を開いた。
「さぁ、翼。私達はザコを片付けるか」
「だな。火力に関しては圧倒的にあの2機が上だ。オイシイところは全部あいつにやるよ」
吐き捨てるように言った翼にジャックは頷いた。今、自分にできることを、自分がしなければならないことをするだけだ。翼はにやりと笑った。
「まだ、BBの最高性能の70%しか出してないんだ。85%にしてやってみるぜ」
「ほう・・・楽しみだな」
「じゃあ、行くぜっ!!」
翼はリミッター設定をすばやく変えると、ペダルを踏み込んだ。ジャックも前を真っ直ぐ見据えてペダルを踏み込む。
「はあっ!!」
「・・・っ」
急加速した2機が白いGの大群に突っ込んでいった。


「どうした“F”?それが外れてそんなにショックだったか?」
「な・・・?」
「お前は消えろ!!・・・“ヴァイル”!!」
まだショックが抜けないレッシュに“D”は叫んだ。“ヴァイル”が一気に展開する。と同時に、“P”が指示を出した。
「主砲及び副砲をレッド・バードに集中“F”の排除を敢行する」
レッド・バードのコクピットにロック警告シグナルが鳴り響いた。レッシュははっとして回避行動を取った。
「レッシュ!右!下も!!」
「くっ!」
「発射」
全方向から攻撃されレッド・バードは行き場を失った。レッシュは息を呑んだ。その時、全ての攻撃が防御され、レッド・バードに届くことは無かった。宙に浮いた白い盾がレッド・バードを守っていた。優美がコクピットでため息をついた。
「・・・よかった」
間に合った。すぐさま表情をきりりと引き締め、ダッジを睨んだ。あのGはあの時のGだ。ダッジもそれを見てにやりと笑う。“復讐”の時だ。
「あんたをもらってくぜ」
「私は・・・レッシュのそばに居るの!あなたにも負けない!!」
直接流れ込んでくる声に負けずに優美は反撃した。“D”に不快な感覚を受ける。やはり、“イクシーダー”の中でも彼女は特例のようだ。そして、“F”も。
「お前も“レッド・アイ”の能力を使いこなせてないのか?せっかくの力も使い方を知らなければ何も意味を成さない」
「くっ・・・」
レッシュは歯をかみ締めてダッジを睨んだ。EVEは黙ったままだ。その時、レッシュとEVEに“直接”優美が語りかけてきた。
「聞こえる・・・?えーっと、こんな感じでいいのかな?・・・聞こえる?あれ?レッシュ?うーん・・・」
「・・・聞こえてるよ」
「ええ・・・よーく、聞こえるわ」
優美がコクピットで唸っている光景が目に浮かぶようだった。レッシュは苦笑して優美に言った。同じようにEVE苦笑する。
「え?あ・・・」
「自分の言いたいことを簡潔にまとめて、伝えるんだ」
「・・・うん、わかった」
優美は深呼吸してイメージした。レッシュとEVEだけに自分の言葉を伝える。
「“D”は私が倒すから、レッシュは戦艦を何とかして」
「な、おい!?」
「大丈夫。私は負けたりしないよ」
コクピットの中で優美はレッド・バードの方へ向いた。シルバリアスの顔も同じように動いた。優美は小さく微笑む。それを見てレッシュは頷いた。心配は要らない、優美は強い。簡単に負けたりはしないだろう。
「行くぞ!!」
「了解っ!!」
レッド・バードはギア・シートに向かい、シルバリアスはダッジと対峙した。


「レッド・アイ・・・」
レッシュは小さく呟いた。“D”が何度か言った言葉。EVEはレッシュの言葉に何も反応しなかった。EVEは押し黙ったように静かになる。
「EVE・・・お前は知ってるのか?」
「・・・時が来れば分かるわ。・・・それまでは私も話せない」
トーンが変わったEVEの声を感じ取ってレッシュはため息をついた。今すぐ知りたいわけではない。今後分かるというなら、それでもいい。今は、ギア・シートの沈黙だ。レッシュがギア・シートを見つめた。
「EVE!“シルバー・アロー”、“バースト4”セット!!」
「コンプリート!今度こそ!!」
レッド・バードは“シルバー・アロー”を両手で構えた。銃身が上下に展開し、光が収束する。強烈な光が放たれた。
「「終わりだ!!」」
レッシュとEVEの声が重なる。独特の発射音を残して一直線にギア・シートのブリッジへと向かった。“P”が冷静に命令を下す。
「回避運動と同時に“圧縮バリア”出力全開。配置位置・・・セット」
“P”は目を閉じてイメージした。小型の3機のオービットが射出され、一点に集まり高速回転した。そこに“シルバー・アロー”が直撃した。凄まじい光を放って拡散する。
「何!?」
「オービットバリア!?・・・“エデン・チルドレン”よ!!」
EVEが叫ぶと同時にレッシュはペダルを踏み込んだ。ブレードを展開し、一気に迫る。が、迎撃システムのバルカンがレッド・バードを襲った。レッド・バードは戦闘機形態に変形し、一気に離れた。「落せない」レッシュの頭にそれがよぎる。
「くっ!」
その瞬間を翼と優美とジャックも見ていた。3人とも同じように驚く。
「何!?」
「そんな・・・」
「・・・っ」
翼とジャックはお互い合図すると残された最後の4機の白いGをあっという間に片付けるとレッシュの援護に回った。開いた映像通信に翼の顔が映る。
「レッシュ!援護するぞ」
「私は後ろから回る!翼、ついて来い!」
ジャックが翼に回線を開き、命令を出した。翼は頷くと、2機は左舷にブラック・バード、右舷スピルスに別れ、一気に後ろに回りこんだ。それでも“P”は慌てることはない。
「リニア砲後方に展開。“深紅の鷹”は主砲により撃破。ミサイル照準・・・撃て」
無数のミサイルがレッド・バードとスピルスを襲った。が、ミサイル程度で捉えられる2機ではなかった。全てのミサイルを簡単に回避すると、ブラック・バードは戦闘機形態に変形した。この形態なら、まだ背中のエネルギー砲が使える。翼はレッシュに“シルバー・アロー”を放つように言った。
「レッシュ撃て!!」
レッド・バードは“シルバー・アロー”を“バースト2”で撃った。そのロックした先は左舷後方のミサイル発射装置、及びリニア砲だった。後方から同時にブラック・バードとスピルスもエネルギー弾を放った。


「前みたいには行かねぇぞ!・・・リミッター解除!!」
“D”はレバーを引いた。その瞬間ダッジの表面の装甲が剥がれ落ち、中から青い機体が現われる。その周りにはワイングラス型のオービット、“ヴァイル”が6機浮遊していた。優美も“FOUS”を6機シルバリアスの周囲に展開させる。優美は顔をしかめた。動いても居ないのに激しい運動をした直後ように体が重くなる。額や背中、手のひらに汗がにじむ。
「苦しそうだな。・・・そんなデカいオービットじゃ俺の“ヴァイル”は捉えられねぇよ!!」
その瞬間、“ヴァイル”が今までに無い動きをした。トリッキーに動き回り、上下左右に動き回る。一気に拡散するとシルバリアスの周りに集まった。そこから一斉にエネルギー弾が放たれた。優美はそれを感じ取ったが、防御が間に合わない。シルバリアスにエネルギー弾が降り注いだ。
「きゃああっ!!」
が、直撃したエネルギー弾は無く、全て大型の“FOUS”がガードしていた。それを確認して“D”は舌打ちする。すぐさま優美は反撃に出た。“ヴァイル”がある位置をイメージし、そこへ向けて“FOUS”のエネルギー弾を放つ。
「ちっ!」
「そこっ!」
だが、“ヴァイル”は易々と回避すると、ダッジは一気に“FOUS”を掻い潜ってシルバリアスに迫った。2丁の“R-5”が連射される。視界からダッジが消え、エネルギー弾だけが、空しく空を切っていった。
「・・・どこ!?」
優美は辺りを見回した。感覚を開いてダッジの居所を探る。優美は反応し、振り返って“FOUS”を前面に展開した。ダッジの突進とブレード攻撃を“FOUS”4機が阻んだ。
「ほう・・・なかなかの反応速度だな。・・・だが、これでジ・エンドだ!!」
“D”は感覚を開いた。シルバリアスにハッキングし、直接コントロールしているであろう“イクシーダー”のパイロットはひとたまりも無い。行動不能に陥らせ、シルバリアス諸共パイロットも回収する。それが“D”の狙いだった。
「ハッキング!」
ざわつくような感じ、頭の中や、心の中をぐちゃぐちゃにかき回すような感覚に優美は襲われた。体が痙攣し、視点が定まらない。深い緑の瞳が揺れる。
「ひぅ!!?きゃああああ!!!やめて!!いやあああっ!!」
優美は頭を押さえてうずくまった。自分が自分で無いような感覚。頭の中や心の中を全て見透かされ、破壊されているような気分だった。コントロールを失い、“FOUS”が元の位置に戻り、シルバリアスが急激に高度を下げた。
「いやっ・・・ああっ・・・ああん・・・あうっ」
「くくっ・・・ゾクゾクする声だな」
“D”が直接優美に接触してくる。口では表現できないような感覚が優美を襲っていた。体が言うことをきかない。心臓をつかまれたような、おなかの中を掻き回されたような、耐えられないほどの感覚が優美を襲った。その感覚に耐えられず、優美はえづき、嘔吐した。優美は途切れそうな意識の中、その名前を呼んだ。
「・・・れ・・っシュ」
その瞬間だった。
世界が一気に光に満ちた。
辺りが一気に明るくなったように優美は感じた。
今度は“D”の絶叫が響いた。
「なっ!!ぐああああああっ!!」
“D”は頭を抱えてうずくまった。その苦痛から解放され、優美は息遣いが荒いままそっと頭を上げた。いつの間にか目の前には赤い機体が居た。優美の頭の中に彼の声が響いた。
「優美」
優美は涙が溢れ、苦痛で歪んでいた顔を緩ませてその声に酔った。
世界で一番大切な声だ。優美はゆっくりと目を閉じた。
レッド・バードはシルバリアスを支えると港に下ろした。そして、レッシュは真っ直ぐダッジを見上げた。
一度目を閉じ、開いた瞳は血のように赤かった。


「優美を傷つけた・・・俺はお前を許さない」
レッシュはそう言うとペダルを踏み込んだ。不思議なことにレッシュは冷静で居られた。怒りや敵に対する憎悪、そういうのを通り越していた。その瞬間EVEのシステムが覚醒する。EVEが輝きを放った。
「“F”・・・シフトチェンジ。・・・“サードギア”起動」
その瞬間レッド・バードが消えた。だが、本当に消えたのではなく、凄まじいほどのスピードでダッジに迫った。一瞬にして、目の前に来るとレッシュは“シルバー・アロー”のリミッターを外した。
「や・・・やメロ・・・」
「・・・終わりだ」
その瞬間、“シルバー・アロー”が凄まじいほどの輝きを放った。そして、強烈な光の流動はダッジを跡形も無く消滅させた。それだけでなく、レッド・バードはギア・シートも同じ射線上に置いていた。
「オービット!!」
“P”は叫んだ。が、そのオービットをかき消し、ギア・シートを直撃した。
「馬鹿な・・・時をこえ・・・」
ブリッジも光に包まれ燃え上がる。ギア・シートはあっという間に爆発し、バラバラになりながら海へと落ちていった。翼もジャックも一瞬の出来事で何が起きたか分からなかった。気づいた時にはレッド・バードが居なくなっていた。次の瞬間、シルバリアスの前に現われ、シルバリアスを助けると姿を消した・・・ように見えた。もう、その後にはダッジもギア・シートが跡形も無く消えていた。翼は驚きで口が開きっぱなしになっていた。
「何だ・・・今の」
「・・・“エデン・チルドレン”の力か」
ジャックも同じように驚愕する。レッド・バードはゆっくりとシルバリアスの横に着地した。レッシュの目はすでに深い緑色になっていた。EVEのシステムも正常な値を示していた。さっき表示された通常では考えられない数値は嘘のようだった。
「EVE、悪いけどレッド・バードを運んでくれ。俺は、優美とシルバリアスで戻る」
「ええ・・・わかったわ」
EVEは何かを言おうとしてやめた。さっき時見せた力は、“あの時”、恐怖すら感じるほど圧倒的なものと同じだった。だが、同じ力でも今回はそんな感じがしなった。感覚でしか言い表せないような、温まるような感覚だった。レッシュがシルバリアスのコクピットをイクシード能力を使い開くと振り返った。中では優美がぐったりしている。
「・・・呼んだか?」
「ううん・・・なんでもない」
そう言ってEVEはレッド・バードのコクピットを閉じた。レッド・バードは飛び上がって、ブラック・バードとスピルスの横についた。EVEは2人に通信を開いた。
「先に帰って、って」
「ああ」
「・・・了解した」
2人は頷くとシルバリアスに背中を向けた。翼は思いに耽った。

レッシュは“エデン・チルドレン”
世界を破滅へ向かわせる存在の“手下”
だが、レッシュは無二の親友だ。
レッシュが暴走したとき、一度彼を疑った。
だが、優美は違う。
例え自分が分からなくなっても、彼女は彼を信じることをやめなかった。彼を信じ続けた。
優美の真っ直ぐな気持ちが、レッシュを変えた。
あのレッシュが見せた力は彼の決意の表れが力となって現われたのだと思う。
そして、彼女も変わった。
レッシュはそんな彼女を守りたい。
お互いのお互いに対する想いが、更に2人を強くさせた。
きっと、より深く絆が強まったと思う。

それを壊すものから彼らを守る。

翼は目を閉じた。世界の崩壊を止めるより、彼ら2人を支え、助けることが何かに繋がるのではないのだろうか。
ジャックが言ったこと。

「優美に世界を変えられた」

リッジが言ったこと

「レッシュが鍵となる」

それを思い出しながら、海上に浮上した巨大な黒い潜水艦の開いたハッチへと戻っていった。


「優美」
放心状態になっている優美をレッシュはそっと抱きしめた。優美は涙と激しい嘔吐でまだ痙攣した体を震わせながらレッシュに身を委ねた。唇が紫色になり、震えている。背中に手を回して優美の髪を撫でる。“ハッキング”されるということは経験した者でないと死よりも辛い苦痛となる。自分の意思に反して拒絶できない“何か”が自分の中に流れ込んで来るということだ。レッシュも一度経験したことがある。優美にはそれが耐えられなかったのだろう。レッシュは唇をかみ締めた。また、彼女を危険な目に合わせた。それがレッシュの胸に引っかかる。レッシュは強く抱きしめて語りかけた。
「もう大丈夫だ・・・俺がそばに居る」
「・・・うん」
優美はしゃくりあげながらレッシュの胸に顔を埋めた。優美はしばらく泣いていたがそっと顔を上げた。真っ赤に腫れて疲れきった目でレッシュを見上げる。レッシュの優しい笑顔を見て優美は小さく笑った。
「・・・ありがと」
「・・・ああ」
そう言うと優美はもう一度顔を埋めた。そして、優美は顔をレッシュの胸から離して俯いたまま言った。心に何か引っかかっていた。あそこに誰かが居る。呼んでいる。
「1人・・・逃げ・・・遅れてるの」
「何!?」
レッシュが驚いた表情を見せた。そんなはずは無い。生存者は全て潜水艦に乗せたはずだ。優美は震えながら本部のあるほうを見た。目を伏せ、何かを隠しているような様子で、レッシュに言った。
「助けにいって・・・いい?」
レッシュはこんな状態になっても逃げ遅れた誰かを助けようとする優美に半ば呆れたような表情を見せた。そこが、彼女のいいところだが。レッシュは頷くと、シルバリアスの操縦桿を握った。


その声の方へとシルバリアスは向かって行った。






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