元MONOZUKIマスターの独白

元MONOZUKIマスターの独白

第二篇第九章~十一章


P223L5
 ・・・・・前貸資本の総回転はそのいろいろな成分の平均回転である。・・・・・ただ期間の相違だけを問題にするかぎりでは、もちろん、いろいろな期間の平均を引き出すことほど簡単なことはない。しかし、・・・・・ここには、ただ量的な相違だけではなく、質的な相違がある。・・・・・
 それゆえ、固定資本のいろいろな部分の別種の回転を同種の回転に還元して、ただ量的に、回転期間の長さだけが違うものにすることが必要なのである。・・・・・われわれは、前貸しされた生産資本の総回転を計算する場合には、この資本のすべての要素を貨幣形態に固定させて、貨幣形態への復帰が回転の結びになるようにするのである。われわれはつねに価値を貨幣で前貸しされているものとみなすのであって、価値のこの貨幣形態が計算貨幣の形態でしかない連続的な生産過程の場合にもそうするのである。こうすれば、われわれは平均を引き出すことができるのである。
 (3) 次のようになる。前貸しされた生産資本のずっと大きな部分をなしている固定資本の再生産期間、したがってまたその回転期間が、多年にわたる一循環を包括している場合にも、なお、一年間に回転した資本価値は、その一年間に流動資本の回転が何回も繰り返された結果として、前貸資本の総価値よりも大きいことがありうる。・・・・・
 (4) だから、前貸資本の価値回転は、前貸資本の現実の再生産期間または前貸資本の諸成分の現実の回転期間とは別になるのである。・・・・・だから、前貸資本価値は、いくつもの回転を含む一循環を、たとえば前記の場合には10回の年回転から成っている一循環を、描かなければならない――しかもこの循環は、充用された固定資本の寿命によって、したがってその再生産期間または回転期間によって、規定されているのである。・・・・・大工業の最も決定的な諸部門については、この生命循環は今日では平均して10年の周期をもつものとして推定してよい。とはいえ、ここでは特定の年数が問題なのではない。ただ、次のことだけは明らかである。このような、連続的な、いくつもの回転を含んでいて多年にわたる循環に、資本はその固定的成分によって縛りつけられているのであるが、このような循環によって周期的な恐慌の一つの物質的な基礎が生ずるのであって、この循環のなかで事業は不振、中位の活況、過度の繁忙、恐慌という継起する諸時期を通るのである。資本の投下される時期は非常に種々さまざまである。とはいえ、恐慌はいつでも大きな新投資の出発点をなしている。したがってまた――社会全体として見れば――多かれ少なかれ次の回転期間のための一つの新たな物質的基礎をなすのである。

 第十章 固定資本と流動資本とに関する諸学説
      重農学派とアダム・スミス
P235L10
 ここでA ・スミスが流動資本 [zirkulierendes Kapital] として規定しているものは、私が流通資本 [Zirkulationskapital]と呼ぼうとするもの、すなわち、流通過程に属する資本形態(素材変換および持ち手変換)に属する形態にある資本であり、つまり、生産過程に属する資本形態すなわち生産資本の形態に対立する商品資本と貨幣資本である。これらの資本形態は、産業資本家が自分の資本を分割する特殊な種類ではなく、同じ前貸資本価値がその生涯[cuuriculum vitae]のなかで次々に絶えず繰り返し取っては捨てるいろいろな形態なのである。これをA・スミスは――そしてそれは重農学派に比べて一つの大きな退歩なのであるが――、資本価値の流通のなかで、すなわちそれが次々に取る諸形態を通してその循環のなかで、資本価値が生産資本の形態にあるあいだに生ずる形態的区別と混同しているのである。しかも、この形態的区別は、生産資本のいろいろな要素が価値形成過程に参加して自分の価値を生産物に移す仕方の相違から生ずるのである。われわれは、このような、一方では生産資本と流通部面にある資本(商品資本および貨幣資本)との、他方では固定資本と流動資本との、根本的な混同の結果を、もっとあとで見るであろう。

P244L5
 固定資本に対立するものとしての流動資本については次のことが強調されていない。すなわち、それがこのような対立をなすのは、ただ、生産資本のうちの、固定資本とは違って生産物の価値から全部補填され、したがって生産物の変態に全部いっしょに参加しなければならない成分としてのことだということである。流動資本は、むしろ、資本が生産部面から流通部面に移るときに商品資本および貨幣資本としてとる姿と混同される。ところが、この二つの形態、商品資本と貨幣資本は、生産資本の固定的成分と流動的成分との両方の価値の担い手なのである。どちらも、生産資本に対立する流通資本ではあるが、固定資本に対立する流動資本ではないのである。
 最後に、固定資本によって利潤が得られるのは固定資本が生産過程にとどまっているからであり、流動資本によって得られるのは流動資本が生産過程を去って流通させられるからだというまったくまちがった説明によって、――可変資本と不変資本の流動的成分とが回転については同じ形態をもっているために価値増殖過程および剰余価値形成での両者の本質的な区別がおおい隠され、したがって資本主義的生産の全秘密がますます不明にされる。流動資本という共通な名称によって、この本質的な区別がなくされてしまう。これはその後の経済学によってさらに進められた。すなわち、可変資本と流動資本という対立が、本質的なものであり唯一の区別であるとして固執されたのである。

P260L7
 重農学派では、労賃として前貸しされる資本部分は、正しく、原前貸 [avances primitives ] にたいする年前貸 [advances annuelles] のなかに入れられている。他方、重農学派では、借地農業者の充用する生産資本の成分として現われるものは、労働力そのものではなく、農業労働者に与えられる生活手段(スミスの言うthe maintenance of the workmen)である。これは彼らの独自な学説と厳密に関連している。すなわち、彼らにあっては、労働が生産物につけ加える価値部分は(原料や作業用具など、要するに不変資本の素材的成分が生産物につけ加える価値部分とまったく同じに)、ただ、労働者たちに支払われて労働力としての彼らの機能を維持するために必ず消費されなければならない生活手段の価値に等しいだけである。不変資本と可変資本との区別を発見することは、彼らには彼らの学説そのものによって不可能にされている。労働は剰余価値を生産する(労働そのものの価格の再生産のほかに)とすれば、それは工業でも農業でと同じに剰余価値を生産する。しかし、この学説によれば、ただ一方の生産部門、農業だけで労働は剰余価値を生産するのだから、剰余価値は、労働から生ずるのではなく、この部門での自然の特殊な働き(助力)から生ずるということになる。そして、ただそれだけの理由から、彼らにとっては農業労働が、他の種類の労働とは違って、生産的労働だということになるのである。

 第十一章 固定資本と流動資本に関する
        諸学説 リカード
P264L1
 リカードが固定資本と流動資本との区別を持ち出すのは、ただ、価値法則の例外、すなわち労賃の率が物価に影響を及ぼす場合を説明するためでしかない。これについては第三部に入ってから述べることにしよう。
 しかし、もとからの不明瞭さは、次のようなむぞうさな並置のうちに初めから現われている。
  「固定資本の耐久度のこのような相違、そして二つの資本種類が組み合わされてありうる割合のこのような多種多様。二五」
    二五 リカード『経済学原理』、25ページ。[岩波文庫版、小泉訳『経済学及び課税の原理』、上、33ページ。]
 そこで、二つの資本種類とはなにかと問えば、次のような答えが聞かれる。
  「また労働を維持するべき資本と、道具や機械や建物に投下されている資本とがいろいろに組み合わされてありうる割合。二六」
 つまり、固定資本は労働手段であり、流動資本は労働に投ぜられている資本なのである。労働を維持するべき資本、これがすでに、A・スミスから受け継がれたばかげた表現なのである。ここでは流動資本は一方では可変資本と混同される。すなわち、生産資本中の労働に投ぜられた部分と混同される。しかしまた他方では、対立が価値増殖過程から――不変資本と可変資本として――取り出されないで、流通過程から取り出されている(古いスミス的混乱)ので、二重にまちがった規定が出てくるのである。
    二六 リカード『経済学原理』、25ページ。[岩波文庫版、上、33ページ。]

P269L3
 以上によって、A・スミスがやった「不変資本と可変資本」という範疇と「固定資本と流動資本」という範疇との混同を、なぜブルジョア経済学が本能的に固執し、一世紀にわたって代々無批判に口まねしてきたのか、がわかるであろう。ブルジョア経済学では、労賃に投ぜられた資本部分は、原料に投ぜられた資本部分からはもはや全然区別されないのであって、ただ単に形式的に――それが生産物によって少しずつ流通させれるか全部いっしょに流通させられるかによって――不変資本から区別されるだけである。こうして、資本主義的生産の、したがってまた資本主義的搾取の、現実の運動を理解するための基礎は一気にうずめられてしまうのである。ただ前貸価値の再現が問題になるだけである。

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: