~ A LOVER ~

~ A LOVER ~

memory~boy


濁った僕の灰色さえそっと優しく彩ってくれる。》


忘れていた記憶は、積み木ではない。
一つずつ欠けたところで、今は揺るぎはしない。
でも、人の心は成長と共に複雑に絡み合っていく。
キレイ言の言い訳ばかりと人は笑うかもしれない、
自分の弱さを認めることに恐怖すら感じるかもしれない。

自分の行くべき場所や、自分が帰るべき場所、今、
この瞬間の自分の居場所さえ分からなくなってしまった時、
そんな時に自分の原点さえ断ち切る勇気を持ちたい。

いつか、そんな想いを支えてくれる誰かと共に成長出来るように。
そして、ほんの少しでもいい、そんな自分を愛せるように・・・ect


        記憶の扉 


夕暮れ、公園のブランコに一人で遊ぶ少年がいた。
年は5,6歳だろうか。
冬なのに裸足にボロボロのスニーカーを履き、
丈のあっていないジーンズをはいて、アニメの
キャラクターの缶バッチのついたトレーナーを着ている。

僕は引き寄せられるようにフラフラと少年に近づくと、
5メートル程離れたベンチに腰掛けた。
少年は寒さに震えながらも、一人必死にブランコを
こいでいた。
少し涙目の少年の瞳は、とても澄んで美しかった。

どこからか、子供を呼ぶ母親らしき女性の声がした。
少年は一瞬視線を声のする方に向けると、すぐにまた
ブランコをこぎだした。
遠くで、さっきの女性が子供と会話する声が聞こえる。

僕が少年をジッと見据えると、少年が僕の視線に気づいた。
強張った表情には、怯えすら見てとれる。
僕は優しく笑うとゆっくり少年に近づいた。
少年もブランコを降り、こちらに近づいてくる。
僕はその場にしゃがみ、少年の手を取ると、
そのまま両手でそっと包んだ。
少年の手はとても小さく、冷たかった。
微笑む僕に安心したのか、気づくと少年の顔に笑顔が
広がっていた。
僕は嬉しくなり、大げさにはしゃいで見せた。
少年は笑った、声を上げて笑い出した。
僕も人目を気にせず大声で笑った。
二人の笑い声が風と共にこだましていた。

一瞬風が止んだ・・・。

ふいに、僕は胸が熱くなるのを感じた。
そして次の瞬間、僕の頬を涙が伝っていた・・・。

公園の街灯が点きはじめる。
誰もいない公園で、僕は一人煙草を出すと火を点けた。
辺りを気にしながら出口へと向かう。
その時、パキッと何かを踏む音がしたが気にしなかった。

出口までくると、僕は呟く。
『バイバイ、俺・・・』
そう言うと、僕は公園を後にした。


街灯の狭間のベンチの脇には、
金具の取れた缶バッチが一つ、砂埃にさらされていた・・・。


                            by zinxxx
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