~ A LOVER ~

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桃色の花




桜の季節――

僕は、いつものように一人でベッドに潜っている。

1階から母の怒鳴り声が聞こえる

「佑太、いつまで寝てるの!!」

トタトタと階段を掛ける足音に

「うるせぇよ!!」と僕はいつものように起きた。

制服に袖を通すとさっさと家を出る。

急いでバスに飛び乗ると、僕は学校に向かった。

バスはいつにも増して混んでいたが、運良く窓側に座れた。

隣に座る小学生くらいの女の子が、僕の顔をジッと見ている。

僕は照れくさそうに笑うと、女の子は窓の外に視線を移した。

つられて後ろを振り向くと、そこには大きな桜の樹が優しい春を告げていた。



バスが桜の樹の傍で停まった。

僕は急いでバスを降りると、道路の反対側にある学校に向かって

バスの前を横切った・・・はずだった。

次の瞬間、キキィーーーーーーッ!!というけたたましいブレーキ音とともに

僕の身体は、宙を舞った。

スローモーションの視界の中、さっきの女の子が僕を見ている。

地面に叩きつけられる瞬間・・・僕は意識を失った。


病院のベッドの上、気づけば身体に何本もの管が通されている。

ドラマで見るような光景だった。

僕はゆっくり身体を起こすと、不自然なことに気づいた。

手が・・・いや、身体が透けている。

後ろを振り向くと、僕が寝ているのだ。

その時、ベッドで寝ている僕の頭上にある機械が

ピィーーーーー!!っと、激しく鳴り響いた。

僕の手が透ける・・・どんどん透けていく・・・。

その時僕は気づいた、自分が死んでしまったのだと・・・。

そして僕は静かに目を閉じた・・・。

消え行く自分の身体を感じながら、いろんなことを思い出していた


その時、僕は聞いた

トタトタと駆ける音、そしてあの怒鳴り声を・・・



僕が目を覚ますと、そこは2人部屋の病室だった。

両親が僕を見るなり、大泣きし始めた。

僕はそんな両親に笑いかけると、窓の外に目をやった

そこには美しい桜の樹が、僕をそっと眺めていた・・・。



向かいのベッドに人の姿は無かった。

両親も帰り、一人病室で桜を見ていると

看護婦さんが入ってきた。

「佑太君元気になって良かったわねぇ」

40歳くらいの看護婦さんが話しかけてくる

僕は静かに笑った。

「ここの桜は綺麗でしょう、2年前に仁君の学校の向かいにあった
小学校から特別に頂いたものなの。」

看護婦さんが続ける

「その頃ね、この病室には理沙ちゃんていう8歳の女の子がいてね。
小さい頃から身体が弱くて、学校にも行けずにずっと入院してたのよ。
その子は桜が大好きだったんだけど、この病院にはその時桜の樹がなくてね。」

僕は黙って聞いていた

「院長先生や市長さん達のはからいで、桜を移してもらえることになって
理沙ちゃんすごく喜んでたわ。
まだ植え替えの準備も出来てない頃から、いつも外を眺めてたの」

僕は桜の木から、看護婦さんのほうを向く

「本当に綺麗な桜でしょ・・・」

僕は頷いた。

「・・・でもね、あの子はこの桜の樹を見れなかったの」


向かいのベッドを横目に僕の頬を涙が伝う。

その時、突然吹いた大きな風に桜の花びらが舞った

そして僕は見たんだ

桃色の花に包まれる、あの少女の姿を・・・

                 present by zinxxx

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