「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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ミッドナイトドリーム
取引所の日々の泡風呂敷―PART3
ペナルティ一日目。
僕は彼女に無視されてる。
とても切ない気持ち。
♪ヘルプ・ア・プアー。ベービー・ウオンチュウ・ヘルプ・ポー・ミー
♪ベイビイ。君に心はないのかい?
彼女はフロアで花と咲いてる。
彼女は恋するために、この世に生まれてきた女の子。
彼女の周りではミツバチの甘い羽音がひっきりなしに
ハミングしてる。
チャンス・チャンス・チャンス。今がチャンス。
春の甘さ。
恋のときめき。
♪シュガー・ハニハニ・
♪シーズ・ユァ・キャンディ・ガール
値動きは可哀想な僕を見かねてしょんぼりしてる。
♪君がうまく行ってないと、僕も無性に悲しいのさ。
と言うか、こいつ等、二日で三円下げた。
皆は下がった事をどうこう言ってるけど
僕はその前の106円からの上がりで、
痛い思いをしてる。
どう考えても、妙なあがり方。
そんな風にここ暫く、
性質の悪い上げがずっと入り込んでた。
僕にしてみれば、彼等が値段を捨てたから
じりじりと下がり続けたという事に過ぎない。
米ドルが値段を捨てたから
どう考えても高すぎる
オーストラリア・ドルの値段が崩れるのを僕は待ってた。
しかし、これが崩れない。
下げが何度もトライするんだけど、
上げは頑として動じない。
でも結局、三円下げた。
まっ、言っても仕方ないんだけど。
そんな訳で、ペナルティ一日目は、
彼女は楽しくて仕方ない様子。
ペナルティ二日目、彼女はそれ程楽しそうでもない。
にこにこしながら僕を見て、何か言いかけて
あっ、ペナルティの最中、と思い出して・・・・。
そんな事がニ三度有って、
彼女は僕にカウンターの前に居るように指示した。
「仕事なんてしなくていいから、ここに居なさい」
僕は言われるままさ。
それでも彼女は何かしっくり来なくて
「いいわ。ペナルティは許してあげる」
僕は天にも上る気持ち。
「コラン、おいで」
彼女はカウンターの端に向って呼びかける。
小さな箱がカウンターの上をこちらに向って動いてくる。
よく見ると、
ハツカネズミが箱を押しながらこちらにやって来てる。
「コランって言うんだ?」
「さあ、どうなのかしら。
この辺りでハツカネズミを出して置かないと
表題の手前、良くないでしょ?」
「そう言われれば、そうだね」
「所で、あんたなんで、赤いバンダナしてんの?」
「そのハツカネズミと同じような理由かな」
「汚れた赤いバンタナなんてやめなさい」
彼女はカウンターの下から綺麗な模様の
淡いブルーのスカーフを取り出すと
僕の首に巻いてくれる。
嬉しさで僕は震える。
いや、スカーフなんてどうってことはないんだ。
彼女が同じスカーフを首に巻いてる。
それがなんとも、妙に、嬉しい。
ハツカネズミは二人の前にたどり着くと、
僕と彼女の顔を見比べて彼女の方に媚を売る。
彼女は20ドル札を丸めて、ハツカネズミに咥えさせる。
ハツカネズミは嬉しそうに
カウンターの上を滑りながら帰ってく。
「開けて見て」
細いリボンを解くのは根気と集中が必要。
僕は小さな白い箱を開ける。
小さな箱の中からは、
小さくて、宝石のようなケーキが出てくる。
ケーキの上には何か文字が書かれてるけど
小さすぎてよく読めない。
彼女が僕に虫眼鏡を差し出す。
「本当に大切なことは、裸眼じゃ見えないの」
特殊倍率の虫眼鏡が捕らえた文字群は
次のような意味をなす文字達の連結だった。
『私は貴方のもの』
実際はリニア・Bで書かれた古代ルーマニア語なんだけど
まっ、要約すれば、そんな意味。
「君はシャイなんだね?」
「ううん、女の子ってこと」
「人に見られる前に食べちゃって」
僕は天にも昇る気持ちで震えながら
それを食べようとしたけど、慌てて、手を止める。
もし、万一、・・・だったら、ちょっと洒落にならない。
「馬鹿ね。
ブラッディ・マリーがこんな物持って来たら
あたし、踏み潰してる」
安心して、僕は彼女に微笑む。
彼女の微笑み返し。
口の中で幸せがとろけてる。
ケーキの味はとても表現できないから、
表現しないで置くよ。
-41-
『私は貴方の物』
いい響き。
この世で最高の響き。
夏の夜にドックフードの缶を開ける音と
どちらが素敵かって?
僕に取ったら、
ドッグフードの缶を開ける音なんて比べ物にならない。
それ位、僕には素敵に感じられてる。
でも、もう、食べてしまっておなかの中。
それに、昨日の事だし。
昨日はすでに過ぎ去ってしまって、今日じゃない。
ただ、彼女の心が僕に寄り添ってるのが感じられてる。
彼女の心はしっとり、しっくりと僕に寄り添ってる。
僕達はまるで恋人のよう。
僕達はこの世で一番幸せな夫婦になる。
彼女が居て、この世は天国に変わった。
♪何者も僕の世界を変えられない。
なんて嘘さ。
♪可愛い天使を手に入れた。
♪彼女の甘さに、とろけそう。
♪彼女の背中の羽の美しさ。
♪彼女の羽に包まれると、この世に喜びの魔法がかかる。
喜びは魔法。
喜びはこの世を
壊れて出っ放しのスロットマシーンにする。
この世に僕ほど幸せな男はいない。
彼女がカウンターから出て僕の席に歩いてくる。
僕は幸せを現実のものとしてしみじみ感じたく思う。
「ねえ、僕達の子供・・・」
「ああ、生理、来たよ」
「・・・・・・・・・・・」
彼女は嬉しそうに微笑んでる。
彼女は僕の横に立ち止まると僕の頭を撫でてる。
彼女は何も感じてないらしい。
それが僕にはよく理解できない。
「僕達の結婚・・・・」
「まずは恋人から初めていただけません?」
「えっ?」
「じゃ、友達からにする?」
「いや、恋人から」
彼女は優しく微笑んでる。
「相場の世界じゃ、
躊躇したらチャンスはチャンスでなくなるの。
女の子も一緒。
人の心も値動きと一緒。
上がるか下がるかなんて、
本人さえ、分かっちゃいない」
-42-
僕は別に結婚したい訳じゃない。
やっと喜びの海の扉が開いたって言うのに。
僕は子供なんて、欲しくない。
自分の遺伝子なんて、後の世に残したく無い。
でも、相手が彼女となると話は別。
俺の女だと主張できる切り札がないと、
彼女とはやってけない。
どんな男でも、彼女を一目見るなり、
抱きたくてたまらなくなる。
男にとって彼女はこの世の桃源郷。
一口召しませ、イート・ア・ピーチ。
でも男達のそんな思い、間違ってない。
彼女は生まれながらに
男を有頂天にさせる能力を持ってる。
男達の物欲しげで
時には無遠慮な視線に悩まされながら生きてきた彼女。
だから、もし間違いが起こったとしても
彼女なら、どうとでも出来る。
彼女は生まれながらの博愛主義者。
生まれながらの男好き。
博愛主義者って、相手の長所に敏感な人間。
『大丈夫、貴方なら見事にやり抜ける』
彼女と居ると、男はそんな気分に浸り切れる。
僕に取って彼女は最高。唯一の絶対者。
でも、彼女にしたら、僕は最高かも知れないけれど
それは大した意味を持たない。
僕以外の男とでも、彼女は満開の花開いて生きてける。
この真実が、僕にはなんとも悩ましい。
それぞれの男にはそれぞれの長所と短所がある。
そんな事、彼女は知り尽くしてる。
うーん、彼女には本当に参る。
とは言うものの、
今、彼女の心は僕にぴたりと寄り添ってる。
僕は奇跡を目にしてる。
こんな異常現象が何時まで続くか分からないから、
僕は値動きそっちのけで、彼女の前に座ってる。
彼女の嬉しそうな視線が僕を直視する。
「そんな風に見られると、
思わず、エレベーターに誘っちゃうよ」
僕は笑いながら冗談を言う。
「誘って」うつむいて彼女がはにかむ。
おい、おい、おい、おい。
えっ・・・・・・。
「どういう事?」
「冗談であんな高いケーキ、食べさせないよ」
「高かった?」
「ええ、とても」
「フロアのミュールが高いって言うからには、
高いんだろうね?」
「やっぱりその名前なんじゃない!」
彼女がちょっと素になってる。
「あんたのセンスじゃ
とても北原白秋にはなれないわね」
「そいつ、凄いのか?」
「初夏晩春の濃きココワかな。
この上の句、作ってみて」
「ありきたりだね。
どんな上の句にもつながりそう」
どうせ待ってもろくな答えは出てこない。
彼女が答えを言う。
「良き椅子に黒き猫さえ来て嘆く」
僕の頭の中に、一瞬でマチスの絵が広がる。
「うわーーーっ、僕は北原白秋にはなれない。
勿論、与謝蕪村にもなれないけど。
ジョン・レノンにもなれない。
ジマーマンにもなれない。
リュクリューゴスにもなれない」
「でも、フロアのミュールの男にはなれるわ」
言った瞬間、彼女は恥じらいに包まれてうつむく。
「なら、何にも成れなくてもいいよ」
僕も言った瞬間、恥じらいに包まれて身の置き所がない。
好きでたまらない女の子がこの世に居るってのは
想像をはるかに超えて面倒な事らしい。
僕は彼女と二人っきりでエレベーターに乗りたいのに
実際、それが出来るとなると
恥ずかしくて、恥ずかしくて、とても、とても。
-43-
どんな人間も心の中にさまざまな人間を隠し持ってる。
その中には本人でさえ見知らぬ人間が居たりする。
だから目の前の相手がどんな人間なのかって、
少しは自分にも責任がある。
相手の中に自分の反映が認められるからさ。
彼女に取ったら、僕は純で一途。
ついでに初々しい。
彼女は心底、それを確信してるから
彼女も僕を見かけると
純で初々しい女の子になっちゃってる。
彼女の場合はせっかくそんな気持ちになれたんだから、
楽しまなくちゃ損って所もあるんだけど。
純で一途で初々しい二人は
妙な具合に恥ずかしがっちゃって、
僕達の二人の仲は一向に進展しない。
考えても見てよ。
僕はフロアのミュールを抱けるんだから。
・・・・だめだ。
想像するだけでおかしくなる。
そんな僕がますます彼女を恥ずかしがらせる。
二人は自分達の周りに、
『今、私たち、恋の真っ最中』オーラを発散させてる。
周りの人間達はやれやれと言う風に
二人を避けて通ってく。
二人が見つめあい、睦みあってると
中の部屋から彼女を呼びに来る。
彼女は相手にしないけど、やはり立ってく。
「時間、かかるよ」
僕は頷く。
「値動き見て無くても、状況、分かるんだ?」
「うん。
物心ついたときから、値段と遊んでた。
今じゃ私たちが値段を作ってるから
子供の頃よりはずっと楽」
彼女はやわらかく笑うと
「どうする?」
一緒に来るかと言う意味らしい。
滅相も無い。
僕の踏み込めるような世界じゃない。
「壁に寄りかかって日に当たってくる」
「うん、それがいいわ」
長く白い壁が日に輝いてる。
僕達三人はポケットに手を突っ込んで、
物憂げに壁に寄りかかって
太陽の下のボヘミアンを気取ってる。
「私、東大から誘われてる」琴美が言う。
そう言えば先生が色んな所に琴美を連れ出してたっけ。
琴美は無料で厩舎に行けるから遠出を歓迎してたけど。
「どうする?」
「余り、興味ない。
ここの道路は東大の黒板の何十倍もあるし
ここには先生もいるし」
琴美の横で先生は何も言わない。
先生のサングラスに小さく太陽が輝いてる。
多分、先生の心はここには無い。
何とかボソンとかジョージ・ハリソンとか
そんな事を先生は考えてる。
道路では香が鶏の卵でリフティングをしてる。
ホットパンツの芸術的な動きが日の光を浴びて
なんとも言えない心地よさを演出してる。
絶えず動いてないと生活に支障が出るから、
香はいつも草原のチータのよう。
「この壁の重力に私は捉えられて、
あそこまではいけない・・・」
先生がぼそりと言う。
そしてにやりと笑う。
先生の顔がにやりと笑ったまま止まってる。
サングラスで視線の動きは分からないけど、
顔の止まった方向を僕は見る。
そして、僕も口をあんぐりあけて見ほれる。
気づけば、琴美も見ほれてる。
とても美しい女の子。
こんな美しい女の子、見たこと無い。
美しい女の子は顔に柔らかな微笑を浮かべながら
僕達の方に歩いてくる。
この世にミューより美しい女の子が居たなんて。
上品でとてもシック。
僕達の所まで歩いてくると、
美しい女の子は僕に微笑みかける。
えっ?
何で僕に微笑みかけるの?
この子を美しいなんて思っちゃいけないと思いながら
僕はこの女の子が本当に美しいって感じちゃってる。
「紹介してよ」
微笑んでいる女の子からミューの声がしてる。
えっ?
ああ、良かった。ミューだ。
考えてみれば
ミューより刺激的な女の子がこの世に居るわけがない。
僕はミューを裏切らずにすんで、嬉しい。
琴美はポカンとしてミューを見てる。
「本物?
だよね。
取引所のモスコミュール。
こんな綺麗な偽者が居る訳、無い」
「本当にお綺麗。
思わず拝んでしまいそう」
先生は冗談で、
ミューに手を合わせて拝む振りをしそうになる。
ミューの顔が引きつる。
僕と琴美が慌てて先生の手を引き離す。
「先生、何て事を。
ゴドが見てるかも知れないじゃないですか」
僕は言う。
「ゴドに喧嘩を売ったら、やってけないよ」
琴美が先生に忠告する。
「あっ、そうでした。
でも、中々、大変。
ゴドに喧嘩を売らないような生き方って」
「だから、ゴドを何時も身近に感じられるんです。
偶像崇拝なんてしちゃいけない。
宗教なんて信じちゃいけない。
祈りなんて唱えちゃいけない。
君は僕をドリーマーって言うかも知れないけど
僕は一人じゃない」
「ええ、四人です」
-44-
取引所まで帰るのが待ちきれずに、
皆から離れた壁の前で彼女が怒り出す。
物凄い怒り。
人からこんなに本気で怒られたことないから、
僕はたじたじ。
彼女は怒ってる。
本当に怒ってる。
舌足らずな彼女だから、
普段の話し方はとても可愛いのに
今は怒りで言葉が不鮮明になったりしてる。
それが又、彼女を怒らせてる。
どんな気分で話しても、
彼女の話し方は舌足らずで、優しく、可愛いから
彼女はそれが悔しい。
それは彼女の持って生まれた
セクシーな魅力にも通じてる。
彼女は別に所構わず何が何でも
セクシーで魅惑的で居たいなんて思っちゃいない。
物事にはTPOってのがある。
でも、男達はいつも彼女をそんな目で見てる。
彼女は何時も男達の恋の対象。
彼女を一目見て、抱きたいと思わない男はいない。
僕は彼女が初めて出会った、
彼女をそんな目で見ないただ一人の男。
いや、僕も彼女を一目見たとき、
絶対この子を抱きたいと思ったさ。
マジ、抱きたくて、抱きたくてたまらない。
今も切実にそう思ってる。
でも僕には、彼女の存在自体が言い知れない魅力。
彼女はこの世の何処でも
手に入れることの出来ない魅力達の集合体。
彼女のセクシーさは
彼女のもろもろの魅力の中の一つ。
それは彼女を構成する絶対無くてはならない
魅力の一つではあるけれど、一つの魅力に過ぎない。
「高校生じゃない!!
私、てっきり、小学生だと思ってた」
それは恭子がちゃんと説明してるし、
僕もそう言ってたし・・・。
でも、今は反論はやめとこ。
ますます怒りを誘うだけ。
「とても綺麗な素敵な人じゃない。
それを物理学の先生だなんて。
余り私を馬鹿にしないで」
それも恭子が説明してるし・・・。
いや、反論はやめとこ。
彼女は怒ってる。
必死で怒ってる。
でも、めぐみが言ったように、
僕は次第に、僕の身に降り注ぐ
彼女の怒りのシャワーが快感に感じられてる。
僕の身に、勢いあふれて降り注いでる彼女の情熱。
彼女の怒りは僕を傷つけない。
彼女は生まれながらに
人を傷つけたり出来ない人間なんだ?
いや、彼女の怒りは彼女が言ってる事とは別の所にある。
何か別のものに彼女は感情を揺さぶられてる。
「分かってるの?あなた」
彼女に怒られて幸せそうにしてる僕に彼女は頭にきてる。
ここはしゅんとしといた方がいい。
じゃないと、彼女の怒りは収まらない。
「貴方のお部屋に行きましょう。
私一人が蚊帳の外だなんて、許せない」
うわーーっ。とうとう。
僕の心臓はどぎまぎ。
彼女の心臓もどぎまぎしてるのが感じられる。
彼女は途中から、この一言を
何時言おうかと、考えてたに違いない。
僕の部屋に向って歩き始めると、
彼女は色彩の美しい甘いキャンデーのよう。
僕にベタベタ。
今までの怒りが嘘のよう。
彼女は恥ずかしそうに僕を見ては、
僕の体に寄りかかって来る。
彼女がとろける軟体動物だから、
僕達は効率的に進めない。
まっ、これが恋なんだけど。
-45-
最初の日の事は書かずに置こう。
余りに甘く、美しいから。
それに、
僕は喜びと状況の美しさにパニクってて、
彼女は僕の目の中の彼女を
現実の彼女が裏切りはしないかと
とても恐れて緊張してた。
彼女が一番大事にしてるのは僕の瞳の中に住んでる、
この世のものとは思えない素敵な女の子。
彼女の感覚では現実の彼女は
とても僕の瞳の中の彼女じゃないはずなんだけど、
これまで何度も、彼女が
『あっ、しまった。化けの皮が剥がれた』と思っても、
僕の瞳の中の彼女は一向に輝きを失わなかった。
で、彼女は賭けてみることにした。
オール・オワ・ナッシン。
もしかしたら、僕の瞳の中の彼女が
本当の彼女なのかも知れないんだから。
『もしそうなら、何て素敵な事なんでしょう』
それこそが、彼女が求め続けてたもの。
彼女の思いをこれまで現実が裏切り続けてきた。
自分がこうだと思っても、
それまでの経験全てに否定されたら、
誰も自分の感性なんて信じられない。
我を忘れた情熱あふれる甘いキスからの流れに乗って、
いざその時。
緊張と感動が生んだ、僕のあきれ返る程のぎこちなさ。
それが彼女にはとんでもなかった。
彼女にはこれ以上ないって位の恥ずかしさの連続。
余りの恥ずかしさ。
彼女は掟破りの恥ずかしさにとち狂って、
出来れば逃げ出したい。
でも、まさか裸で街中を走るなんて。
フロアのミュールを抱く男達は、
相手が相手だから、
どじなんて踏まない、へまなんてしない。
ミューはすっかりそれに慣れてた。
女の子を恥ずかしがらせるのが特技の男達もいる。
でも所詮それは
原因と結果の因果関係が暗黙の内に了解されてる。
この程度の国民に、この程度の政治家。
僕は恥ずかしがらせようとしてるんじゃない。
僕の感動はストレートに彼女にぶつかって、
僕の感動が大きければ大きいほど
僕の動きは不器用で、意味不明で、
彼女は予想できない所から襲ってくる恥ずかしさに、
防御不能で、ボーボー燃えてる。
「あなた、恥ずかしい」
「ああっ!!恥ずかしい!!」
真っ赤な顔で必死に抗議しても、
わざとじゃないからどうにもならない。
彼女にはコントロールしようがない。
彼女はこの恥ずかしさが一刻も早く
通り過ぎてくれるのを祈るのみ。
「うううう・・・」
僕は何とかスムーズに運ぼうと
目先の作業に焦りに焦りながら、彼女にはきっと、
白熊の叔母さんかなんか居るに違いないと感じてる。
彼女の予想外の空間から
次々に彼女を襲ってくる恥ずかしさ。
彼女はすっかり弱々しく、初々しくなっちゃってる。
僕がようやく彼女の包装紙を解き終えて、
彼女をパニックに引きずり込んでた恥ずかしさが一段落。
彼女の心と体が、ふーーーっと安心してとろける。
二人は心から見つめあい、抱き合い、
ああ、あなた、大好き、情熱あふれるキス。
やっと訪れたそんな寛ぎも穏やかさも、ほんの一瞬の事。
僕が次の動作に及ぶと、
彼女は再び恥ずかしさに悲鳴を上げてる。
信じられない。訳、わかんない。
そう。恋にとち狂ってる男は
何を考えてるのか分からない。
恋にとち狂ってる男に常識なんてない。
純愛はポルノより刺激的で、
ずーーーっと、ずーーっと、恥ずかしいのさ。
女の子に取ったらね。
こんなご無体に及んだ挙句、僕は可能にならなかった。
おい、おい、おい、おい。
でもさ、そんなもんだよ。
本当に好きな相手との初めての時は。
思考が正常に働いてるようじゃ、惚れよが薄い。
ミューは怒り狂ったかって?
ポルノならそう。
でもこれは純文学だから。
ショックを受けてる僕の横で、
ミューはとてもよろこんでる。
ミューから女の子の持ってる素敵さが
次々にあふれ出してる。
「あんたは私の事が好きすぎるの。
それだけの話」
僕の頭を愛しくてたまらなそうに撫でてるミューは、
蕩けるほど甘く、蕩けるほど優しい。
僕は男としたら
絶対、やっちゃいけないとんでもないミスを犯したけど、
信じられないことに、今の所、未だ、
僕の首の皮は繋がってるみたい。
「変に悩んだりしないでね。
私、あんたが本当に好きやから。
もし、信じられなかったら、
あんたに費やしたこの時間で私が幾ら稼げたか考えて」
ミューは僕の物。
この甘く蕩ける可愛い生き物の全ては僕のもの。
と、思ってたのは、大通りにぶつかる少路までの話。
二人の視界に大通りが入った途端、ミューが変わる。
僕の横には『取引所のモスコミュール』が居る。
さっき迄のミューは幻?
おい、おい、おい、おい。
それはないだろう。
でも、自分のどじを考えれば、偉そうな事も言えない。
大通りに出るとミューは腕を高く上げて指を鳴らす。
何処から現れたのか
黒塗りのリムジンが僕達の前に停まる。
「明日は出来るだけ早く来てね」
ミューが愛しそうに僕を見る。
僕は頷きながら、そうしないではいられないと感じてる。
-46-
ミューの去った僕の部屋。
僕は美の残像に包まれてる。
セックスする為に生まれて来たようなミュー。
だからミューはその手の魅力であふれてる。
フオミュラー・ワンの存在美。
そのミューを相手に、あの失態は如何にもまずい。
ガソリンを切らしたフル装備のハインド。
アパッチの装備なら知り尽くしてるけど
ハインドはどんなものを積んでるんだろう?
まっ、似たようなものさ。
燃料切らしたタイガーは、異国の丘に捨てましょか。
燃料が有っても、タイガーは空を飛べない。
空を飛べない重戦車。
ミューは僕の指使いに驚愕してた。
一度間違って指が滑ったとき
ミューは足を踏み鳴らして半狂乱になった。
「やめちゃいや!!やめちゃいや!!
気が狂う!!!」
ミューは上半身を飛び起こして
必死で僕の目に訴えながら、
僕の両腕を強く握った。
しっかり結果を出さないと、捨てられるぞ、お前。
僕の指をよろこんでるミューが余りに美しいから
僕はミューの隣に片肘ついて
優しくミューを蕩かせながら
ずっとミューの顔を眺めてた。
僕の指は無意識に動いていて
それだけでミューには十分すぎた。
ミューの喜びの顔を眺めながら
この美しい生き物を作ったのは神以外にないと
僕は感じてた。
僕はかくも見事な神の偉業を目の前にして
自分が絵描きじゃなくて本当に良かったと
つくづく感じてた。
次は頑張れよな。
カフェインを切らしたコーヒー。
ニコチン抜きのタバコ。
ジョンのいないビートルズ。
♪水曜、早朝、五時。
実際は四時二十五、六分前に彼女は起きる。
夜明けを待って、
彼女は家を出て行く。
♪私たちあんなに尽くしたのに。
僕は可能にならなかったけれど
幸運にも別の方法をイメージする事が出来た。
もし、思いつかなかったら・・・。
今になって、改めて、冷や汗。
おい、おい、おい、おい。
ちょっとした食い違い。
出来ずに分かれるのはとてもヤバイ状態だった。
あのまま出来ずに分かれてたら
僕達は終わってた。
ミューは、現実の自分は
僕の瞳の中の自分じゃないと勝手に決め付けてた。
違う!違う!違う!
多分、原書には
no! no! no!
と書かれてるはず。
『無理だからね!
私を喋らそうとしたって、無理だからね!』
いい教師である条件の四分の三は
タイミングにかかってる。
適切な場所でなされた適切な行動は
そうでなかったときの負担を何千倍も軽減する。
裸の胸に毛布を抱えてる寂しそうなミューの心は
その時、もう、僕の部屋には無く
町の通りをしょんぼりと歩いてた。
だから、僕がそれを思いつけたのは
本当に、とびきりの幸運と言うほか無い。
その時、神は、僕とともにあった。
僕がそれを提案したとき
しおれてぼんやりしていたミューの体に
一瞬で生気がよみがえった。
ミューは大きな花のように輝いて咲き誇った。
『あっ、そんな方法もあったんだ』
ミューの全てが喜んだ。
『しましょ、しましょ。それ、しましょ』
うれしくてたまらないミュー。
余りにうれしそうな自分に気づいて
ミューが思いっきり照れた。
僕がミューに乗って行った時
ミューはうれしくてたまらない表情で
僕に笑いかけ、僕が微笑み返すと
こんな健全な微笑みは
今のこの時に似合わないと
慌てて、照れて、目を瞑った。
ミューは感じてたまらなくなってるミューを
僕に見せてくれた。
僕はミューの体が壊れるくらいミューを抱きしめてた。
僕達は汗にまみれてた。
だからって?
終わった後のミューは、優しさの原液だった。
ミューの全ては僕にとろけて
ミューは白い毛のふさふさした
大きなむく犬のようだった。
だからって?
・・・・・・・・ふう。
朝の光の中を歩いて
琴美の落書きたちを通り過ぎて
僕は取引所の前。
取引所の入り口から
vipルームに向うエレベーターに着くまで
目に触れない検問所が幾つか。
会員達はもうその存在を忘れてる。
僕はエレベーターに乗り、上昇し、
到着地点でエレベーターは静かに停まり
僕はエレベーターを降りる。
ここにも
会員達がその存在を意識してない検問所が幾つか。
やがてなじみのフロア。
行きかう人々の活気。
僕は恐る恐る歩く。
昨日あんな事があったなんて、信じられない。
僕は恐る恐る首を伸ばして
カウンターの方を覗く。
そこに飛び切り幸せそうな女の子を一人見つけて
僕は驚く。
彼女は幸せのオーラに包まれてる。
彼女が動くと、
彼女を包んでる幸せのオーラも
彼女と一緒に、彼女の周りをひらひら動いてる。
こんな幸せそうな人間、僕は初めてみる。
余りの事に、
僕は見事に美しいミューを呆然と眺めてる。
このミューの原因が僕にあるなんて
僕にはとても、信じられない。
-47-
僕の気配にミューが顔を上げる。
目が合って、二人、微笑む。
何世紀も前から僕に約束されていたような微笑。
僕はカウンターの前の椅子に腰掛ける。
この椅子は本物のアンティーク。
普通なら博物館かなんかに飾ってあるもの。
何時かミューが言ってた。
『だって誰かが使って壊さないと
本物の職人達がする本物の仕事が
なくなっちゃうじゃない。
あっ、これ、爺さんの受け売り』
ミューが僕の前にコーヒーを置く。
ミューの伸ばした手の先から、
僕に幸せが漂ってくる。
僕達はちょっと目を合わせては微笑んで
又、下を向いてしまう。
今の僕達に会話は要らない。
二人とも素敵な気分で一杯。
でも、ちょっと、恥ずかしい気持ち。
僕は照れ隠しにコーヒーをすする。
あっ、本物のブルーマウンテン。
そりゃ分かる。
本物のブルーマウンテンの味くらい。
「ねっ、今夜・・・」
昨日、ミューは今夜僕の部屋に来ると約束してくれた。
「ええ、行くわよ。
早く抱かせてあげないと
貴方、心配で病気になっちゃいそう」
ミューは僕の心を正確に把握してる。
一ミリの誤差も無く。
先生に言わせるなら
一ミリのマイナス16乗の誤差も無く。
ミューはなんでもお見通し。
僕は照れ隠しにコーヒーの匂いを嗅ぐ。
「それ、なんだか分かる?」
僕は頷いて、答えを言おうとする。
「ブーッ。
飲ませるんじゃなかった。
それはこの世で一缶しか収穫できない豆なの。
太っちょサムだけが持ってる豆。
その一缶を貰っちゃったから、
太っちょサムは今年はそのコーヒーが飲めないの」
ああ、そんな凄いコーヒーなんだ?
なら、僕に飲ませたのは無駄だったかも。
僕は彼女に微笑みながら、軽く冗談を言ってみる。
「その缶を取り上げる代わりに
君を抱かせてあげたの?」
「うん」
僕はコーヒーを吹く。
「あんた、その癖やめなさいね」
「それ、何時の話?」
「出来れば今から」
「そうじゃなくて、太っちょサムの話」
「えーと」彼女は考えてる。
「三週間前の火曜日」
「三週間の前の火曜日・・・・?」
僕は彼女が抱かれた時の事を思い出そうとしてる。
彼女が男に抱かれると、僕はその瞬間分かる。
何かが僕に、はっきりと伝わってくる。
ああ、あれだ。
あのときの相手は太っちょサムか。
僕は腹を立てて彼女に言う。
「その日、僕は君に必死で粉をかけてた」
「あんたは何時だって私に粉をかけてる。
私を粉まみれにして、あんた、
クリーニング屋に親戚でも居るの?」
「そうじゃなくて、
僕がだめでどうして太っちょサムなんだ?
あの頃なら、君の心はもう、僕を知ってた」
「お馬鹿さん。
あんたのお気に入りのミンガスが
ステージの上で誰かと喧嘩して
斧振り回して大立ち回りやらかして
デュークのエリちゃんに袖にされた時
エリちゃんミンガスになって言った?
喧嘩の相方の方はコントロールできるけど
ミンガスはエリちゃんじゃコントロールできない。
だからミンガスはくびなんだって。
同じ事よ。
セックスする位で済むんなら
私、とっくの昔にあんたに、抱かせてたわ。
だって、私、
あんたに抱かれたくてたまんなかったんだもん。
それにセックスなんて、
あんたが考えてるような物じゃないわ」
「ようし、今夜、見てろよ」
「あっ、いやん。
あっ、私、生意気だったかも。
あっ、あっ、ねえ、あの・・・」
「だめ」
-48-
僕は半日、ミューの前に静かに座ってる。
目の前でふんわり動く
やわらかなミューの存在を楽しんでる。
目が合うと僕達の顔に自然と微笑が生まれる。
この所、値段の重さがさっぱりつかめない。
だから画面を眺めてても仕方ない。
この前、オーストラリア・ドルが
底を打って上がって行った時は
ブラッディ・マリーとアイスマンの
三味線の競演だって分かってた。
オーストラリア・ドル、下が強いはずなのに、
値段はバトルを繰り返しては上がってく。
上と下のあうんの呼吸。
この仕事は誰かに損させないと儲からない。
プロ対プロの勝負って、甘くない。
だから、プロ同士は出来ることなら戦いたくない。
アマチュアに餌を見せて、食いつかせる。
十分食いついた所で、一気にサルベージする。
サルベージするのが分かってても
何時始めるのかが分からないと、
手を出しかねる。
それまでは上がるんだから。
ブラッディ・マリーとアイスマンが
素人に見抜かれるような仕事はしない。
長年これで食べてる人間達は
ブラッディ・マリーやアイスマンの嫌らしさが
骨身に染みてる。
一筋縄じゃいかない。
だから彼らの名前は伝説になってる。
そんなブラッディ・マリーやアイスマンたちが
恐れてるのが我が愛しのミュー。
ミューはどちらか片方に圧倒的な勝利は与えない。
理不尽でえげつない勝負もさせない。
ゴドが見て美しいと感じる勝負をさせる事も
取引所のモスコミュールの役割の一つ。
美しさを忘れて利益を得ることのみに走ったら
結局は何も残らない。
見てきたでしょ?そんな物を一杯。
利益なんて貯金通帳の丸の数に過ぎない。
何で爺さんはこの仕事に
ブラッディ・マリーじゃなくミューを選んだのかって?
ブラッディ・マリーはクール。
とても理知的で容赦ない。
理不尽なものを目にしたら
徹底的に叩き潰してしまう。
所がミューは博愛主義者。優しく甘い。
烈火の如く怒っても結局は許す。
ミューのやり方に歯がゆさを感じてる人間も
いなくはないけど、ミューがそんな人間だから
ミューが怒り始めると、皆、矛を収める。
『ミューが怒ってるなら、仕方ない。
まっ、ここの所は、顔を立てとこ』
誰にも、これ以上やられたら潰されるって時に
ミューに助けて貰った経験はある。
あるいは、ミューが彼等を助けてる様子を
画面で見てる。
怒涛の如く下がりに下がって、
奇跡でも起こらない限り上がるはずのない値段が
一瞬で二円近く跳ね上がって
又じわじわと元の所まで下がってく。
そんなシーンを見かける事が有ったら
この世の物とも思えない美しい女の子が
値段をグイと押し上げて、
下敷きになってる人たちを逃がしてる所を
想像して見て欲しい。
又、値動きを無視して
いきなり吊り上げられた値段に君が参ってる時
何処からとも無く入ってきて、
ぐいぐい値段を押し下げていく圧力を見たとき
この世のものとも思えない一人の美しい女の子が
唇を固く結んで画面を凝視してる姿を
想像してみて欲しい。
それが取引所のモスコミュール。
「ねえ、貴方がそこに居ると
姐さんがすっかり馬鹿になっちゃって
使い物にならないから
暫く何処かに行っちゃっててって。
中の人達が」
恭子が僕の横に来てそう言う。
僕はミューの顔を見て、行ってもいいか目で尋ねる。
ミューが優しく頷く。
席を立つ僕。
ミューの声が追って来る。
「隣のカウンター位に居てね」
「うん、分かった」
隣のカウンター?
僕はそんな場所に座った事ない。
僕がフロアを歩いていると、
偶然に太っちょサムと出くわす。
僕は反射的に会釈してる。
太っちょサムの怪訝そうな顔。
まずかった?
そして、何か気づいて、
彼の顔にヤバイかもと言う表情が浮かんでる。
僕はずっと太っちょサムの事を
札束で女の頬を張るような輩だと思ってた。
如何にもそんなキャラ。
でも、本当の彼はそんな人間じゃないって
今の僕は知ってる。
じゃ、なきゃ、ミューが彼に抱かれたりしない。
自分を悪く見せて生きてる人間達って居る。
善人ぶった偽善者が居るように。
太っちょサムは直感で僕の会釈の意味を理解する。
ミューが間に入らなければ
彼はプロ中のプロで、僕はひょっこ。
彼の顔に人のいいカウボーイのような笑顔が浮かぶ。
彼は僕に大きく頷く。
サムは何か言おうとして、
それは止めて、僕の肩をポンと叩いて、僕から去る。
多分、彼は『若いの、何かあったら俺の所へ来な』
と言うような事を言おうとして、
ミューが後ろに付いてるのに
何かありようもないと思い直したんだろう。
-49-
フロアは広い。
僕は何時も幾つかの目印を頼りに
フロアの中を移動してるんだけど
太っちょサムのお陰で、今、それを見失ってる。
参ったね。
何処かに売店があって
そこで攻略本でも売ってるといいんだけど。
僕は自慢の高性能レーダーを失ったバイキングのよう。
フロアの海をさ迷ってる。
パン屑を撒くって手も知らないわけじゃないけど
迷ってしまってからでは役に立たない。
あっ、兎。
僕は一匹のシックな兎を見つける。
長い耳と丸い尻尾。
ついでに網タイツ。
やはり衣装は値段だよね。
下界の兎とはまるで違ってる。
あの兎に僕の行くべき場所を尋ねよう。
と、思ったら、
兎ちゃん、腕のvoxの時計を一目見るなり駆け出した。
ダックスフンドでもない僕が
駆ける兎を追いかけるなんて。
ジャーンとコードが一つ鳴って
兎ちゃん、速い、速い。
あちらこちらをひょいひょい曲がる。
僕は兎ちゃんの後ろを走る、走る。
と、突然、僕は
何処かのカウンターの前にたどり着いてる。
立ち止まった僕。
しばし、兎ちゃんの後姿を残念そうに見送ってる。
「覚えときな、僕の名前はシンドウ・ヒカル。
違う、違う。
覚えときな、この次は逃がさないぜ」
僕の前世はダックスフンドだったかも。
大きなカウンター。
でも、妙な形をしてる。
この形、パラゴンに似てる。
そう言えば若くて粋なバーテンダーの後ろに
空間が見える。
多分、あれはホーンの口。
きっと、あそこから重低音が吐き出される。
僕が座ると、僕の前に
コースターと水が出てくる。
コースターの絵柄と文字が僕の興味を引く。
このコースターはシービスケットが
サンタアニタを勝った記念のコースター。
この世に何枚も残って無いはず。
「何をお召し上がりになります?」
綺麗な目と知的な喋り方。
鼻の下に小さな髭を蓄えてる。
それが、とても良く似合ってる。
僕は聞いてみる。
「君は詩を書く?」
「はい、少々、たしなみます」
「君はここの素敵なご婦人方の相手をする?」
「はい。ご要望があれば」
だと、思った。
彼は吸い込まれそうな目で僕を見ながら
僕のオーダーを待ってる。
僕は男だから大丈夫だけど
女の子だったら吸い込まれてる。危ない、危ない。
てな事を、僕の頭脳が勝手に思考してる。
マティーニって言うべきだ。
絶対に。
彼の期待してる言葉はそれだ。
「ミルク」
彼は微笑む。
「どのようなミルクを御所望で」
悪くないよ。
取引所のシステム、全然、悪くない。
前に居た教室と同じ位悪くない。
でも、オーダーが一発で通らないのだけは
勘弁して欲しい。
ここで変な事を言うと益々先が長くなる。
だから僕は決まってこう言う事にしてる。
「アン嬢やが大好きで、
ドロシーなら二番目に気に入りそうな奴」
「ウイ、ムシュ」
僕の前に美しいグラスに注がれた美しいミルク。
僕は一口、口に含む。
「ああ、ミルクだ。
これこそ、ミルクだ。
ポニーテールが放課後の階段でダンスを踊ってる」
「お気に召されて、光栄です」
気づけば小さな音で
セントルイス・ブルースが流れてる。
気づけば小さな声で
僕はその歌を歌ってる。
♪セントルイスの女は
♪ダイヤモンドの指輪。
♪彼女は男を引きずりまわす。
♪彼女のエプロンの紐で。
僕の頭の中に、思わず、ミューのエプロン姿
うわーっ。
かなりやばい。
僕は一人でうろたえる。
「ねえ、フェラーリ要らない?」
僕の肩に親しげに手が置かれる。
ブラッディ・マリー?
なら、面倒な事になる。
今日は絶対、ミューと喧嘩したくない。
恐る恐る僕は振り向く。
親しげな笑い。
でも、ブラッディ・マリーじゃない。
似てるけど、違う。
彼女は僕の横に乱暴に座る。
ステージ衣装のようなイヴニングドレス。
「車が欲しいって言ったのさ。
別に新車じゃなくてかまわないからって。
ちょっと足として使えれば
大助かりだからって。
そしてら、なんと、
玄関先にフエラーリが停まってた。
フエンダー・イエローのフェラーリ。
どうすんの?
こんな物、貰っちゃって。
だからあんたが貰ってくれれば
大助かりなんだけど」
僕は首を振る。
「そんな物貰っても置くとこないし」
「でしょ?
全く、嫌になる」
「バザーかなんかに寄付したら」
「そんな手間隙かけるなら
中古屋で役に立つのと、とっかえて来るよ」
息を吸い込むような話し方。
彼女はポシェットからタバコを取り出し
乱暴に火をつける。
「どう?仕事の具合は?」
「全然」
「何が悪いの?」
「リズムに乗れないんだ」
「そうよね。
すっかり飼いならされちゃって。
心に迫るものなんて、ありゃしない」
心にと言った所で、彼女は拳で胸を押す。
とても形のいい乳房。
彼女は僕の視線に気づいてにこっとする。
「フエラーリ貰ってくれたらいいよ」
「いや、刺される。
多分・・・・」
多分・・・・。
と言うより、確実にかも・・・。
彼女は爽快そう。
「女だね」
彼女は全ての女は、
そうじゃなくちゃいけないって感じ。
なら、世間の寝室は血まみれ。
「私、生まれはテキサス。
ポート・アーサー。
あんたは?」
「僕の生まれた国は借金まみれで
教育制度も医療制度も年金制度も
福祉制度も全て破綻してる。
その癖、国としての政策も
展望も、なーーんも、持ち合わせてない。
そんな訳で国の名前は、
ちょっとここでは言いたくないんだ。
僕の知ってるポート・アーサー生まれの子は
貴方に似てない。
もっと顔が四角で、そばかすが良く似合う」
「その子も歌手?」
「うん」
「私、これからステージなんだけど
一緒に来ない?
あんたとはマブダチになれそうな気がするのさ」
「時々、初めて会った女の子に言われる。
この世の仲間だって。
僕にはそんな風な何かがあるのかも知れない」
「で、来るの?」
「ここに居ないと怒られるんだ」
彼女は愉快そうに笑う。
「あんた、歌がだめになったら
ヒモにおなりよ。
才能ありそう。
あんたみたいな男は夢と女を食って
生きていくのさ。
多分ね」
おい、おい、おい、おい。
-50-
自分が間違えた場所に居るのは分かってる。
でも、どうしょうもない。
兎ちゃんの可愛い尻尾に反応して、
迷路のようなフロアを闇雲に走ちまった。
ここから正しい場所に戻ろうとしたら
とんでもない労力が必要。
今は、ちょっと、そんな努力をする気になれない。
何とかするつもりなら
税金も上げなければならないし、
それについて、
国民に説明なんかも、しなければならない。
かと言って、
説得力を持った国の展望なんて、考えられる頭はない。
なら、ここに居よう。
とりあえず『構造改革』とか言って置けばいい。
どうせ分かりゃしない。
ばれたら、ばれただよ、って、
まあ、ばれないけどね。
この程度の国民に、この程度の政治家。
事、国に関してなら、それでいい。
でも、相手が恋人となると、そうも言ってられない。
恋人にそんな不誠実な事、出来ない。
トライしてみよう。
しんどいけど。
何時もより、ちょびっと、自分を鼓舞してみよう。
と、ここまで書いたならお約束で、
♪トラアアィ・トラアァァイ
♪ジャスタアリルビッ・ハーダー
んな、訳で
僕がそのバーから、
ミューのカウンターに戻るまでにした努力は
軽く小説一冊分にもなる。
それに関しては、
『不思議の国のミッドナイト・ドリーム』
を読んで欲しい。
(あっ、読んだら、バナーをポチしてね)
題だけ見せられるととても凄そうなんだけど
何、ルイ・スカ・ロルの二番煎じで
独創性なんて一欠けらもない。
ロックン・ロールではあるけれど。
「今まで何処に行ってたの?」
案の定。ミューは相当、頭にきてる。
「それに関しては
『不思議の国のミッドナイト・ドリーム』
を読んで欲しい」
「誤魔化さないで。
今の内からそんなんじゃ、
私、考え直さないとならないかもね」
「考え直さない方がいいと思うよ。
この話はここまでにして
何時もの可愛い君に戻る事を僕は提案したい」
「却下します。
これからの事もあるし、
この際、徹底的にやりましょう」
僕は鼻の下を人差し指で撫でる。
「ここの髭がとてもセクシーなんだ。
何より綺麗な目をしてる。
吸い込まれそう。
スレンダーでお尻の形がとてもキュート。
声もね・・・」
ミューの目がまん丸になってる。
慌ててミューが手を上げて叫ぶ。
「貴方の提案、受け入れます」
僕はコーヒーを飲んでる。
僕の前で、ミューは借りてきた猫よう。
とても恥ずかしそうに仕事をしてる。
「何でなの?」
「何が?」
「どうして許せるの?」
「僕が駄目だと言ったら、何とかなる?」
ミューは困った顔で、唇を噛んでる。
「それに、僕が女の子で、君ほどもてたら
多分、同じことをしてる。
どっちにしろ、君が僕に会う前の話」
ミューが頷く。
「それに僕は君を許すなんて言ってない。
二人の間に馴れ合いが生まれて
少し、刺激的でなくなった頃、
君を、たっぷり、お仕置きしてあげる」
「ああああ・・・・」
ミューが真っ赤になって、もじもじしてる。
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