羂索

羂索

インターホン決定稿


雅之(28)
まゆみ(25)

○雅之宅・キッチン
焦げたハンバーグがフライパンにのっている。
ぼーぜんとハンバーグを眺めるまゆみ。
インターホンが鳴る。
相手は雅之。
雅之 「(いそいでる)ただいま。開けてくれ!」
まゆみ「何あわててるの?」
雅之 「早く!」
まゆみ「何なのよ!トイレ?」
雅之 「違うよ。試合だよ、試合」
まゆみ「あー試合か。どっかよそで見てきたら」
雅之 「何?」
まゆみ「今日家には、いれないから」
雅之 「入れないってどういうことだよ」
まゆみ「だから、入れないのよ」
雅之 「知ってるだろ、今日勝てば阪神が優勝するって」
まゆみ「知ってるよ、わたしだってタイガース好きだもん」
雅之 「じゃあ一緒に見ようよ」
まゆみ「嫌なの、一緒にいるのが、切るね」
インターホンを切る。
ピンポーン、ピンポーン、ひつこくインターホンを鳴らす雅之
まゆみ「ひつこいなあ」
雅之 「何かしたか俺?」
まゆみ「気がつかないの?」
雅之 「わかんねー、全然わかんねー」
まゆみ「切るね」
雅之 「(あわてて)あー、まって、まって。考えるから」
まゆみ「……」
雅之 「わかった。競馬で二万負けたことだ」
まゆみ「(ビックリして)二万も負けたの?!」
雅之 「(雅之もビックリ)知らなかったの?!」
まゆみ「信じられない。何でそういう無駄なことするの!」
雅之 「無駄って、絶対勝てると思ったから」
まゆみ「勝ったためしないじゃない。勝てないんだから競馬はやめてって前にいったでしょ」
雅之 「……そうだっけ」
まゆみ「二人できめた約束なんだから。破らないでよ!」
雅之 「お前が一方的に決めたんじゃあ……」
まゆみ「文句あるの?」
雅之 「いえ、別に」
まゆみ「……」
雅之 「ああ、あれだ!おまえが大事にしてた黒いパンティー勝手にはいたことだ」
まゆみ「(大声で)はいた?!」
雅之 「これも違うの?」
まゆみ「何やってんの?」
雅之 「いやぁ……」
まゆみ「そうよ、このあいだはこうと思ったら、延びてた。洗濯の仕方が悪かったと思ってんだけど、雅之だったのね……」
雅之 「……」
まゆみ「何なの?そういう趣味でもあんの?」
雅之 「違うよ」
まゆみ「何が違うのよ」
雅之 「黒い女物のパンティーはくと運が上昇するんだって。本で書いてた」
まゆみ「くだらない」
雅之 「くだらないって、それから阪神が良く勝つようになったんだから」
まゆみ「それがくだらない。そんなのは運がよくなったって言わないの。運が良くなったんだったら、競馬当てなさいよ!」
雅之 「競馬こそ運じゃないよ、緻密な推理力と経験だよ」
まゆみ「ばかみたい。当てもしないのにそんなことだけ頭使って」
雅之 「阪神の歴代監督の名前もいえるぞ」
まゆみ「それがばかなのよ」
雅之 「もう……いいかげん中にいれてくれよ」
まゆみ「ダメ!……(冷静に)浮気したでしょ」
雅之 「浮気?してないよ」
まゆみ「嘘つかないで」
雅之 「ついてない!本当だって」
まゆみ「女の人から、電話があったの」
雅之 「何?」
まゆみ「結婚するんでだって。別れてっていってもわかれてくれないんで、奥さんから言ってくださいだって」
雅之 「……」
まゆみ「知らないって言って切ったけど」
雅之 「俺も知らない……」
まゆみ「(取り乱す)とぼけないでよ!なんで、私が別れ話をつたえなくちゃいけないの!」
雅之 「まあ、落ち着けよ」
まゆみ「落ち着いていられるわけないじゃない。雅之にわかる?あの女は、もういらないから私に返しますよってかんじで、優越感たっぷりといったのよ。腹が立つ!」
雅之 「……とりあえず、家の中で話し合おう。試合みながら。そうすればおまえもちょっとは落ち着くだろ」
まゆみ「やっぱり、試合なの?私との問題よりタイガースなの?」
雅之 「(適当に)そりゃ、お前だよ」
まゆみ「なんか、全然心が感じない。そんなのだから、いつまでたっても出世もしないし。競馬も負けるのよ」
雅之 「(むかっ!ときて)いいすぎじゃねえのそれ!」
まゆみ「本当のことじゃない。浮気だっていいように遊ばれただけでしょ」
雅之 「遊んでやったんだよ!」
まゆみ「遊んでやった?浮気見とめるんだ!」
雅之 「あ、違う、違う」
まゆみ「……」
雅之 「きたねー。誘導尋問じゃねえか」
まゆみ「なんで浮気なんてすんのよ。くだらない。何が不満なの?不満があるならいいなさいよ!」
雅之 「……」
まゆみ「不満なんてあるわけないよね。私ちゃんときっちりやってるもん。ご飯だっておいしいでしょ。家だっていつもきれい。隣の奥さんみたいに太ってなんかいないし。浮気されることなんてない。感謝してくれてもいいぐらいなのよ」
雅之 「わかってるよ……」
まゆみ「じゃあなんでするの?雅之は好き勝手して、家帰ってきたら、タイガース、タイガースでなにもしないし、約束破って競馬はするし……」
雅之 「二つとも好きだからしょうがない」
まゆみ「何で好きなの?わからない。そんな無駄なものばっかり真剣にやって…」
雅之 「無駄?」
まゆみ「……実は私タイガース好きじゃないの」
雅之 「えっ?」
まゆみ「本当はジャイアンツの方が好き」
雅之 「……俺と付き合って変わったじゃないの」
まゆみ「そういってただけ。本当は心の中でジャイアンツ応援してた」
雅之 「なんだよ、それ。すごいショック……」
まゆみ「どうして、そんなにタイガースが好きなの?弱いだけじゃない。歯がゆくならないの?」
雅之 「何回も歯がゆくなるよ」
まゆみ「雅之見てると、たまに連勝してもいつ反動で連敗するんじゃないかって喜びながらも心で不安をかかえてる。優勝するぞといいながらも裏切られないようにどこかで喜びを抑えてる。なにが楽しいの?タイガース応援してて」
雅之 「……まゆみには言ってもわからねえよ。阪神応援する気持ちは」
まゆみ「なんでよ」
雅之 「競馬だって負けるからやるなっていうけど、負けるかもしれないからやるんだよ」
まゆみ「わからない。負けるのよ」
雅之 「常に勝つということが魅力じゃないだろ。勝ったり負けたり、いや、負けたり負けたり、ん、負けたり負けたり負けたりするけど、たまに勝つ。たまーに優勝する。そのたまーにが今日くるんだけど、そういう時ってすごくうれしいし、優勝なんかしたら、涙が止まらないよ」
まゆみ「……だから?どこが好きなの?」
雅之 「えっ?」
まゆみ「たまに勝つこと?それなら弱いままの方がいいんでしょ」
雅之 「いや、強いに越したことはないけど」
まゆみ「えらそうにいって、雅之わかってないじゃない。タイガースの好きなところ」
雅之 「……」
まゆみ「勝てばいいのよ。勝てば」
雅之 「……むかつくな。おまえの態度。巨人ファン特有の高圧的な優越感」
まゆみ「(とぼけた感じで)そう?」
雅之 「それがむかつく。……おまえがメシをうまくつくったり、掃除をきちっとしてたりするのは、俺に対して高圧的な態度を取りたいためだけじゃないのか?」
まゆみ「考えすぎよ」
雅之 「いいや、そうだ。結婚してからおまえの失敗したとこなんかみたことない。隙一つ見せたことがない。失敗して、隙みせてんのいつも俺だ。夫婦なんだから、素直にすべて見せてくれてもいいんじゃないのか?」
まゆみ「それじゃあ言うけど、雅之は見せてくれなくてもいい、弱い部分ばかりなぜ見せるのよ。そんなのだから、私はいつも気をはってなきゃいけないのよ」
雅之 「夫婦だろ。弱いところみせて何が悪い。結婚する前はそういう、ダメなとこがかわいいっていってた」
まゆみ「長い間一緒にいれば、ただの頼りない男に見えて腹がたってくる」
雅之 「俺だって、おまえが隙を見せて、か弱い女なら、しっかりしたところを見せた」
まゆみ「できないくせに」
雅之 「それだ。そういう一言がやる気をなくさせるんだ」
まゆみ「勝手に私のせいにしないで」
雅之 「いちいち突っ掛かるなよ。そういうのに疲れたんだよ」
まゆみ「それで浮気したんだ」
雅之 「淋しかったんだ」
まゆみ「……」
雅之 「……」
まゆみ「……あっ!」
雅之 「(話がそらされてムカッと)何だ!」
まゆみ「今岡がホームラン打った!」
雅之 「えっ!本当か!」
まゆみ「うん」
雅之 「おーっし!いいぞー」
まゆみ「今岡らしく、難しいインコース高めを肘をうまくたたんで打ったよ」
雅之 「(うれしそうに)出たな今岡の悪球打ち!。……詳しくなったな阪神のこと」
まゆみ「そりゃ、雅之と一緒にいつも見てたんだから……」
雅之 「今岡だな、これからの阪神を担うやつは」
まゆみ「……」
雅之 「……」
まゆみ「うれしそうね」
雅之 「ああ、俺にとって阪神は、夢であり、希望であり、うーんすべてなんだから」
まゆみ「今日に優勝決まるよ、この調子なら」
雅之 「みんな、よくがんばってきたよ。今岡、井川、檜山、矢野。ほんといい選手たちばっかりだよ」
まゆみ「ほんと好きね」
雅之 「ああ、なにが好きかわかんねーけど、
阪神ファンで良かったと心から思うよ」
まゆみ「本当に好きなのね……私はタイガースのこと好きになれなかったけど、雅之の喜ぶ顔を見るのが好きだった。でもタイガースが強くなるにつれて雅之はタイガースばっかりで私の相手してくれない。私だって淋しかった。だから強がっていたのよ。浮気相手よりタイガースに嫉妬してたみたい」
雅之 「ごめん。なんも、わかってなかったんだな、俺。自分勝手にやってたんだ」
まゆみ「……」
雅之 「今日、家には入らないわ。たぶん罰だな。自分勝手にやってきた。阪神の優勝のことより、まゆみのこと考えないといけないよな」
まゆみ「……」
雅之 「……」
まゆみ「本当にいいの?優勝するの見れなくて」
雅之 「いいよ。今はまゆみとの事のほうが大事だ」
まゆみ「そう言って欲しかった。……ハンバーグ食べる?こげてるけど……」
雅之 「食べる?入っていいの?」
まゆみ「食べるの?食べないの?」
雅之 「食べるよ。めずらしいな、まゆみが失敗なんかするなんて?」
まゆみ「いままで隠してただけよ」
雅之 「じゃあ入るぞ?」
まゆみ「試合見るんでしょ」
雅之 「ああ、優勝するんだから」

終わり


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