「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家
小津監督≪東京暮色≫≪戸田家の兄弟≫
1.≪東京暮色≫
2.≪戸田家の兄弟≫
ーーーーーーーーーーー
1.≪東京暮色≫
穏やかさが定番となっている小津映画の中にも
異色作がある。
親娘の思いの食い違いや、恋愛の断層を描いて話題をよんだ
≪東京暮色≫。
小津ファミリーの 原節子、有馬稲子に加え山田五十鈴の共演。
これにいつもの脇役、杉村春子が加わる。
男を作って娘達を置いて逃げた母に、山田五十鈴、
逃げられた夫に、笠 智衆。
長女に原、次女明子に有馬。
その家庭の設定、生活レベルはいつもの様子と変わりは無い。
が、場、つまり舞台設定がいつものようにハイカラな
キレイな場ではなく、
場末の麻雀や、安アパートと...らしくない設定である。
そもそも男を作って逃げた母の行きつく先は、麻雀やであった。
明子は母の顔を知らない。
麻雀やの近所の安アパートに住むけんちゃんという青年の
子を身ごもっている明子は毎日毎日、姿を消してしまった
そのけんちゃんを捜し歩いているのだが。。。
そこで母は明子の姿を見て堪らなくなって近づいてくるのである。
姉は堅実だが嫁いだ夫が物書きだかで二人は倦怠期を
迎えていて、実家に戻ってきている。
若い明子だが随分退廃的な性格である。
物事を達観したようで小津映画に登場する育ちのよい女性を
超えて、世の中をわかったような生活態度である。
母がどういう理由でうちを出たかを知らされていなかった明子は
母と会っているうちに父が自分の本当の父なのかという疑問を
抱き始める。
いつもの穏やかな父の面影を残しながらも、
娘の態度に苦悩する父を笠さんはいつものように
淡々と演じている。
原さんもゆったりとはしているがいつもの明るさと気品だけの
役どころではなく、いつもにない表情が見られる。
暗くて陰鬱で小津作品としては異色である。
木下映画に仮にこのような状況の女性が登場すると
もっとしたたかで(よい意味で)強くたくましい女性として
存在するなり、成長するなりして描かれるのだが。
小津さん映画ではここが限界のところであろう。
弱くて涙を流す女性となってしまうのも頷ける。
もともとがちゃんとした家庭の娘であるから、
そういう事情にも免疫がない。が父や姉に相談するとか
女友達に相談することも無い。
木下映画もある種の映画では、もう暗くて暗くて陰鬱で
やりきれない部類の映画も沢山ある。
がしかし、そこに登場する女性は必ずと言っていいほど
女性がたくましい。
もともとが控えめである小津の女性は強がっても
自分で解決するほど強くないのである。
だから、その暗さが暗さを呼んでしまった。
今で言う不良少女でもない。
親に反発してぐれているわけでもない。
親に反発してわめけば見ているほうもスカッとするのであろうが
それが無いからじめじめする。
若い娘はふしだらだった母親の血が自分に流れている
そのことが堪らないのだ。。。
そういう環境の若い娘が通る道だ。
自分の生い立ちをハッキリさせたい。
ハッキリさせることなどはなから何も有りはしないのに。
女性が夜一人で喫茶店でコーヒーを飲むだけで
警察に連れて行かれる時代だ。
母を知らずに育ったから淋しくて、無口で暗い娘になったと、
姉は言うが、
父は明子を充分に可愛がって育てたと言う。
多感な娘は親が思う以上に余計なことを考えてしまうものだ。
親と子の生きていくうえでの大事なものが違うとでも言うのか?
その親と娘の断絶のようなものを描きたかったのか。
しかし行き違いはあってもそこにはあの小津さん独特の
常識があって、ケジメの有る世界の縦糸はしっかりとある。
中流家庭のどこにでもある問題を小津さんのカラーで描くと
こうなるのだ。
しかし、そんな中でも会話にくすっと笑わせるセリフが
うんと登場する。
そこで見ているほうはホットするのだ。
それが無ければただ暗いやるせない重いだけの映画に
なってしまっただろう・
だが最後はやはりつらいものが待っている。
明子は電車に跳ねられて亡くなる。
母親に会いさえしなければこんなことにはならなかったと
姉は言う。
やはり明子は弱い弱い女性であった。自分を責めて責めて
死んでしまった。
ああーやるせない、やるせない。
小津さんの映画で涙が出たのはこれだけだ。
原さんの優しさと強さの混じった号泣が印象的だ。
東京にいるのが堪らなくなって、北海道へ移り住むと言う母。
姉も強くても人の子。いくら歳はとってもは母恋しかった筈だ。
だが母を見送りには行かなかった。
父の為に....
そして、おっとの元に帰る決心をする。
子には両親がそろってこそ幸せだとわかったと。
この締めくくりで、やはり小津の映画だと
感ぜずにはいられないラストです。
最初と最後できちんと小津映画になっているのです。
後年名カメラマンとなった川又 昴が撮影助手をしているのも
興味深い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2.≪戸田家の兄弟≫
2『戸田家の兄弟』
戦後の小津作品についていくつか書きました.
(一部間違って削除してしまいましたが)
その作品のなかに登場する家庭は立派な暮しをしている
だれもがうらやむようなものでした。
そして戦後すぐにはみんながこのような映画の中の
家庭に憧れをもち、
爽やかな気持ちになったと、凡そそのようなことを
書きました。
また、戦後の小津映画を見て、独特のカメラワークだとか
そういう視点ばかりに目が行っていたような気がする。
むろん、それは間違いではない。
だが戦前の、彼の作品を観ると、もともとは暗い都会の
生活苦がモチーフであったようだ.
苦しい生活苦にあえぐ小市民の生き方にテーマを据え、
焦点を当ててきた。
その彼が急に喜劇調のものに狙いを変えてきたのは、
時代の変化,力に押されたものと考える。
昭和16年といえば、満州事変勃発の年である。
国策としての節約、それは貧乏だけではなく、贅沢は敵だという
思想のもと
前途にはなんの光もない世相である.
そんな市民を描く作品に国が承知する筈がない。
先に紹介した『お茶漬けの味』はこの戦中に
製作されるはずであった。
しかし、出生する兵士が赤飯を食べずして
お茶漬けを食べるという設定に
不謹慎というレッテルが張られ、
この作品は延期ということになり、
戦後あのようなストーリーへと変わってお目見えした。
あのお茶漬けは
小津の戦争、または当局への
ささやかな抵抗であったと思うのである。
そして、この『戸田家の兄弟』では、豊かな暮しをしている
一家族の心の底に冷たく、それぞれが勝手な、自己中心の
風が吹きまくる様子を描いた.
戦後の経済成長へと向かう時期に書かれた数々の作品群は
もう、ユーモアも解し、豊かな生活の中に精神も豊かになり、
ちょっとしたサザエサン的なホームドラマへとなって行った.
その過程で、
小津がどう変わっていったか、
戦後、東京物語で老いの哀切を描く前に、
家族の崩壊ーー今は当たり前になった世界を
このころに暗示したという小津の目は冷酷に
現実を見、人間のこころに潜んでいるエゴを
はっきりと暴いて見せた.
その勇気。
それは明らかに兄弟は他人の始まりの言葉通りであり、
金持ちになればなるほど、心に冷ややかなものが
棲むものだと教えている作品である。
そしてこういった作品もまた、小津の一面なのである。
ストーリー
名誉も地位も金も手に入れた一家の大黒柱、戸田新太郎が
亡くなった。
子供達はすでにそれぞれ家庭を持っていて、
外目には、堂々たる社会人たちであった。
父親の急死によって、後始末をしてみると、意外にも
この家にはさしたる財産は残されていなかった。
長男や長女は当てが外れて戸惑っていた.
その上、家を処分した為、行き先の無い
年老いた母と、末の妹を
引き取らねばならなくなった。
長男一家はたちまちにして冷たい拒否反応を現し、
姉の娘の嫁ぎ先へ行ってもそこも同じようなものだ。
母と末娘には信じられない肉親の冷たさで、じっと耐えるしかなく
母は怯えて何も言えなかった。
末娘節子は憤懣やる方無く、親友に相談して
働く婦人になろうとする.
がそれも家、、、いや姉達の虚栄心のために
許してもらえなかった.
母と節子は今は廃屋同然となっている別荘へ行き、ひっそりとした
二人だけの生活を始めて、やっと安らかになれた。
やがて父の一周忌がきて、みんなが集った。
天津へ行っていた次男が帰国してきて、母と妹の有様を
知り、憤慨して兄や姉達を罵倒し、
母と、妹を連れて天津へ連れていくことにした。
妹節子の親友が次男の花嫁となって....
この映画が出来て60年である。
こういうことはもはや当たり前の出来事となり、ことは
もっと深刻な状況でもある。
親も子の厄介にはなりたくないとこの頃では早くから、
自分の老後を設計もしている。
60年前では、老人の福祉施設政策
などまだまだ省みられる時代ではなかった。
親の面倒を見るのは当たり前とされていた。
そんななかで出来た作品である。
心の奥に潜む蛇や鬼を直視してはっきりと
見せつけたのである。
小津の映画があそこまでに到達するまでには
それなりのカラーがあり、主義主張も曲げずに来たことを
知って、観てみると
また面白いのではないでしょうか?
制作 松竹 昭和16年
監督 小津安二郎
出演 佐分利 信/高峰三枝子/桑野通子/三宅邦子
斎藤達雄
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