-小麦粉記-

-小麦粉記-

牢獄


 歪んだ教卓の上に座った彼女は、見上げる俺に向かってそう言い放つ。今日の授業中に、教師との口論の末言われた事で俺が落ち込んでいると思って、慰めてくれているらしい。
─貴様みたいなやつが世の中にでて何が出来るというんだ。好きな教科だけ成績がよくてもな、数学が出来なきゃ意味が無いんだよ。それを努力をしないお前は、役立たずだ!─
 売り言葉に買い言葉だったのだ。「数学が出来ないような奴は、人間的に劣っている」と言われた俺は、至近距離で思いっきりガンを飛ばし「じゃあ今この状況で人間的に勝っているのはどっちでしょうね先生。今俺が本気出せば、先生なんてすぐにブチのしてあげますよ。」と。事態は悪化。で、さっきの言葉だ
「役立たずだ!」
 その言葉が頭の中を反芻する。確かに、そうかもしれない。数学以外の教科は割と好きで勉強している部分が多く、好きでないにしろ物理や化学はパズル感覚でやっている。だが、数学はどうしても嫌いだった。体が拒否反応を起こすほどに。だけど、嫌いだからと言ってそれを避けてばかりいるような奴は、役立たずだ。ここ一番、踏ん張らなければいけないときに、逃げてしまうのだから。そんな風にして、目の前でいつもの詭弁を振りかざして俺を慰めてくれる彼女に、自分の思いを伝える事を後回しにして、既に半年経っているのだから、情けない。
 「確かに、俺は役立たずだし、情けないな。。」と、少し自嘲的に呟いた俺に、彼女は静かに反論した。
 「そんなことはないよ。覚えてる?あたしが先生の大事な時計を、壊したときのこと。ぶちギレてあたしを叩こうとした先生の手を掴んでさ、「確かにコイツも悪いですが、大事なものを簡単に落ちるような所に置いた先生にも、責任はあります。」ってさ。」と言って教卓から飛び降りた彼女は、いきなり首に手を回して俺にぶら下がる。
 「こんな詭弁ばっかりのあたしに付き合ってくれる人は、あなただけよ。親だってうんざりしてるのに、あなたは嫌な顔しないで付き合ってくれたし。役立たずなんかじゃないって。最低でも、あたしの役には立ってる。あなたがいなきゃ、学校なんていう牢獄に来ないわよ。」彼女が一つ単語を言うたびに、甘い息が顔にかかる。すらりと白い腕が俺の首から伸びていて、整った生意気そうな顔が、目の前にある。
 「それは、どういう、意味だよ。」
 「ここまで意っても駄目?だから、あたしは・・・!」
 そこまで言わせて口を塞ぐ。そこから先は、俺が言わなきゃならない。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: