高校に入学した年の学校祭で、私は中條のことを初めて知った。 それまでは廊下ですれ違うことがあっても、別段目を合わせるわけもなく、特に話しかけることも無かった。別のクラスの、少し強面な同学年の生徒であって、それ以上でもそれ以下でもない。 ──許してくれ! 許してくれ! 許してくれ許してくれ許してくれ俺が犯した数々の説明のつかないあなたへの! ささげるものなんて、何一つ無い、永遠なんて、ずっとなんて、そんなセリフは欠片ほどもない、贖罪と嘆願に満ちた、こんな感情を。だがあなたは言う。I love you but I don’t need you. 必要にされなくてもいい、ただあなただけには、見てもらいたかった── ギターも、ドラムも、ピアノもベースも、そして何よりヴォーカルが、見事にばらばらだった。ロックをやっているのにブルースのクラプトンを感じさせる、同じクラスだった橘というギター、そこへ超ヘヴィ・メタルな乱打を続ける成績優良者リストの常連に顔を連ねていたはずのドラム、なぜかキーボードを放り出してステージの横においてあるグランドピアノにコーラスのマイクを設置し狂ったように鍵盤を叩き壊すがごとく弾く痩せた体躯のピアノ、唯一行動は普通レベルのベースも、半音下げのディストーションかけまくり、身体をくの字に折りマイクを両手で握り締め明らかにシャウトしている姿勢であるにもかかわらず澄んだよく伸びる声で滅茶苦茶な歌詞を歌い上げるヴォーカル。 全員がばらばらだって言うのに、恐いくらいに調和するサウンド。 体育館の入り口で渡された冊子に、『月見やぐら』と書かれた一ページを見つける。 作詞・Vo中條 作曲・Gt橘&Kye/Piano小倉 ──ただ、あなただけには、見てもらいたかった。許せ、許して、許してください。だがあなたは嘆願には答えずに言う。I love you but I don’t need you.それでもいい。ただ一瞬でも、あなたが俺を見てくれたのなら、みてくれたのなら。ぁあ! 許してくれ!── わたしはそこに、父の姿を見た。