「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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-小麦粉記-
図書室とギター~橘~
その日、いつものように学校の帰りに制服のまま築港のコンクリートの上で足をぶらぶらさせていた。竿はなく、手にテグスを持ってドンコを待ちながら、限りなく田舎の中学生ってやつ。ようするに、学ランはだらしなく羽織り、Yシャツは基本しまわない。中のTシャツは黒で、バックルのやたら大きなベルト、ごついチェーンのネックレス。見かけは不良、中身の知能は小学生、進学するのは寝てても受かる地元のバカ高。親のタバコをパクっては吸い、男の教師にはたてつき、若い女の教師にアホな言葉を浴びせまくる、クラスの勉強ができる奴をサンドバックにして「コミュニケーション」をはかり、隣の中学の生徒から金を巻き上げる……。
だんだんと日が暮れて、背中の山へと太陽が身を沈めていくのを首筋の熱さで感じながら、俺と小倉は何も言わずに釣り糸を垂れていた。小倉のテグスには何度かあたりがきていたのに、奴は引き上げることもせず、黙って海のほうを眺めている。
「………」
「………」
─ブッツン・ピィンポォンパァンポィン
……ザ・ザ・ザ・しょうちゅうがくせいのみなさん、ろくじになりました。そとであそんでいるひと、よそのうちへあそびにいっているひと、そろそろ、いえへ、かえりましょう……ザ・ザ
─ピィンポォンパァンポォン・ブッツン
防災無線のアナウンスが終わると同時に、小倉は近くにあったヒトデの日干しを手にとってブーメランのように海に投げた。星の形をした生き物の死骸は、くるくると気持ちのよい回転と放物線を描いてぱしゃんと水面に落ちる。
ヒトデはウニを食べるので、見つけたら浜か築港にブン投げて日干しにして殺しましょう。
「橘、俺はなぁ、このままここで腐っていくつもりはねぇんだ」
「え」
「今までみたいにテキトウに過ごしていくのは、確かにラクで、楽しい。だけどょっ」っと、小倉は立ち上がる。
「ここにいる限り俺はこれ以上を望めねぇような気がしてならねぇ。俺がピアノをやってることはみんな知ってる。だけどよ、家族も誰も、俺が本気でピアノをやりたいと思ってるとは知らないし、第一俺もそんなそぶりを見せてねぇ。本気でピアノをやりたかったら、ケツに血が滲むまで練習してるはずだからな」
小倉がピアノを弾くのが上手なのは、割と有名だった。田舎のバカやってる連中の中でそういった文化的なことをしていれば、それだけで目立つ。けど、
「勝人。お前マジでピアノやりたいって思ってたりするのか。止めとけよ、そりゃムリだって。坂田んトコのアニキのこと、しらねぇわけじゃえぇだろ? 確かにてめぇのピアノは上手い。だがなぁ、それはあくまで、俺たちの基準でだぜ? このクソ田舎での、上手い、だ。坂田のアニキみたいに、ヴァイオリン持って東京行ってノイローゼになって帰ってくるのは嫌だぜ俺は」
「ま、お前もそういうよなぁ、橘。別に俺はピアノで飯を食っていくとはいってねぇよ。とりあえず、今俺が持っているモノの中で本気になれそうなものにいっちょかけてみようかって言う気分ってだけだ。そう深刻に考えんな。とりあえずなんかやってみてぇんだよ、俺は。だから、高校は橘と一緒のところへはいけねぇ。そうだな、例えば中部なんて行こうかと思ってる。あそこは俺らが通える距離の高校の中じゃ、一番世界が広いだろ? 西校は馬鹿だし、東校はいけすかねぇ。私立は金がかかるからだめだ」
「ばーか。なんも勉強してねーお前に、中部なんていけるわきゃねーべ。やめておけっての」
今思えば、いつも小倉の言うことにだいたいは賛同していた俺が珍しく否定的なことを言ったのは、単に小倉に置いていかれたくなかっただけだった。
「お前もそういうよなぁ、橘」が、ボディブローみたいに効いていた。
小倉はしばらく黙ったあと、
「じゃあ橘、お前もなんかやってみろよ。学校の音楽室に村上のギターがあったはずだから、あれをかっぱらって演習すりゃ、手先が器用なんだからコードくらいはすぐに弾けるようになるんじゃねぇの?」
そんなことを言った。
俺がギターを弾き始めたきっかけは、そういう感じのかなり受け身なものだった。
俺が中学のときに音楽教師からかっぱらったギターはギブソンで、しかも中学生どころか高校生にだって手が出ないようなえらく立派なギターだったというのを知ったのは、かなり後になってからだ。レスポールが何なのかもよくわかっていなかったのだから仕方がないだろ。小倉と二人で音楽準備室の鍵をぶち壊して家に持って帰った当時のピカピカのボディは、かなりぞんざいな扱いと長時間の練習で見るも無残にボロボロの傷だらけになっている。すまん、ギブソン。
それはもう、ずっと昔の話のように思える。
初めてギターを手に取ってから、もう4年くらい経った今現在。
まだ2月の真ん中だから、気温はぐっと低いままだ。
高校から歩いてスタジオに行っても、指がかじかんでしまってうまく動かない。4月から正社員とはいえまだバイトの身だと賃金的にも結構きつい。スタジオの代金っていうのは結構馬鹿にならないんだ。ようやく指が滑らかになった頃には、予約した時間をあらかた使ってしまっているというような状態だった。
その問題は小倉が自動車の免許を取ったことでかなり解消されたけれど、今度はガソリンの問題も浮上してくる。お金って、嫌だね、ほんと。
「ところでさ小倉」と、車のトランクにキーボードをしまっている小倉の背中に呼びかけた。
「あぁ?」
「ギターとキーボードのセッションを続けるのも、実際どうなんだよ。確かに俺が作曲で、お前が編曲してるから曲のストックは溜まるけどさ」
小倉が俺のギターを奪って、後部座席に放り込む。俺のギブソンがパフンとバウンドした。
「てめ、乱暴にいれんじゃねーよ! ギブソンだぞギブソン!」
「そのギブソンを枕代わりにして寝た奴がいまさらぐーたら言ってんじゃねぇ! ったく……」
何事かをぶつぶつ呟きながら小倉が運転席に乗り、エンジンをかけた。「あーさみーさみー」と俺も助手席に乗り込み、暖房の温度と風量を最高にする。
「あ、コラ、つまみをいじんな! 暖房のガソリン代も馬鹿に何ねーんだぞてめぇ!」
「るせぇ! ギタリストは指が命なの! しもやけになったらどーしてくれんだ」
「じゃ手袋とカイロくらいもってこいや! 俺だって鍵盤叩いてんだ、それくらいはジョーシキ的にしっとるわ。それでも文句があるならガソリン代耳をそろえてもってこいってのこのタコ! 車から下ろすぞてめぇ!」
ふーっ! と3秒にらみ合ってから、俺は黙って風量と温度のつまみを元に戻した。
いま車から下ろされて置き去りにされたら、凍えてしまう。
ふん、と鼻から一息ついて、ちょうど去年の今頃に借りたアパートに向かって小倉は車を発進させた。この男、口が悪い割りにやたらと丁寧な運転をする。自動車学校の教官が、かなりのスパルタだったらしい。
普通なら無視するタイミングの黄色信号で止まり、ギアを1速にしたところで小倉が口を開いた。
「橘、お前は曲を作って、俺が編曲をする。別に今までとかわんねぇ。俺たちは、今までと変わらないことをしてるだけだ」
「そうは言ったって、ベースは行方不明だし、ドラムは受験中だ。しかも奴の受けた大学、聞いたか? 天下の東大だぜ? たぶん奴さん、受かるだろうし。なにより、ヴォーカル兼作詞の中條がいないことにゃ、どーにも締まらないよなぁ」
信号が青になった。車体が、ゆっくりと発進する。安全&経済的にも合理的、ってか?
「締まる、締まらねぇ、の問題じゃないぜ、橘。女のアソコじゃねぇんだ。『月見やぐら』を組む前から、橘が曲を作って、俺が形を整えてた。そこに中條が詩をつけて、斉藤が好き勝手にドラムをたたいて、オマケで林がベースをやってただけのことさ。昔に戻っただだけ」
信号が、青になる。小倉がアクセルを踏んで、ギアを2速、3速、そして4速へとスムーズにシフトさせる。
「でもまぁ、確かにお前のいうことにも一理ある。第一、もう俺たちは築港でドンコ釣りをしていた中学生じゃない。『月見やぐら』っていうバンドで味をしめちまってる。それはもう、どうしようもないくらいにな。実際、俺が『音楽』って奴を考えるときには、もうメロディーだけじゃなくなってる。橘の曲とギター、中條の詩と声、斉藤の乱打するドラムスに、へなちょこな林のベース、おれ自身のピアノの音、それに観客のギャーギャーうるせぇ感じと、スタジオのくせぇ空気、ライブハウスのタバコくささと、暑さと、照明が一緒くたになって、それが俺の『音楽』になってる」
小倉と一緒にギターをかっぱらってから三ヶ月で、相性がよかったのか実は俺に才能があったのかはよくわからないけど、俺はそこそこギターを弾けるようになっていた。親父の部屋からレコード・CD・カセットテープを取り出して『キング・クリムゾン』だとか『ピンク・フロイド』『ヴァン・ヘイレン』『イーグルス』『ユーライアヒープ』『キス』『クイーン』『レッド・ツェッペリン』『チープ・トリック』、そんなところを聴きあさった。『ジミー・ヘンドリックス』とか『ジミー・ペイジ』『エリック・クラプトン』なんかも、死ぬほど聴いたはずだ。
そして、『ディープ・パープル』
親父はパープルのファンだったらしくかなりの数の音源を持っていたが、中でも俺は『メイド・イン・ジャパン』が好きだったりする。「Child in time」は名曲だ。ただしギターのリッチー・ブラックモアがやってた『レインボウ』は嫌いだったらしく、俺も「オール・ナイト・ロング」くらいしかしらない
盗んだその日に部屋のステレオにシールドをつなぎ(太いジャックを細いジャックにする奴が入っていたのが幸いして、アンプはなかったけれどステレオのインプットで音が出せた)、小倉に教えてもらった『スモーク・オン・ザ・ウォーター』のイントロが弾けたときの感動といったら、衝撃モノだった。いままでただ聴いているだけだった音楽を、今度は自分で弾くことができる。その逆転は、なんとなくだらだらと毎日を過ごしていた俺にとって狂いそうなほど刺激的で、その晩、阿呆のようにG─B♭─C G─B♭─D♭─Cと狂ったように弾いて、一人よがっていたことは誰にも知られたくない秘密だ。……誰だってギターを持った人なら弾きたくなるだろ? このフレーズはさ……!
今となっては単に恥ずかしいフレーズだけど、俺にとっての音楽とやらは、まずここから始まる。殴り殴られ金を奪って先公とケンカしているルーチンワークをぶち壊したフレーズが、スモーク・オン・ザ・ウォーターのフレーズだった。小倉の気持ちが、半分くらいわかったような気にもなった。たった15秒程度のイントロを弾いただけで日常が壊れるような衝動が湧き上がるのに、ずっとピアノをやっていた小倉は、どれだけの日常を壊してきたんだろう。
音楽=破壊衝動だと思う。なんかやりてぇ、そう思ったら、ギターを持ってジャーンとやってみればいい。エレキがなければアコギでも十分だけど、とにかく何かを始めれば良い。お手軽だ。ギター一本手にしただけで、世界の壁はぶっ壊れていく。
いつも俺を見ては怒鳴り散らすか殴るかだった親父が、「ハイウェイ・スター」のソロを必死に連しているときに何かを投げつけてきたことがある。
かなり良い感じに集中していたときだったので、大した痛くはなかったのについ怒鳴ってしまった。
「んだコラ! 邪魔すんじゃねぇよ!」と叫んでから投げられたモノをみたら、紙袋いっぱいに入った、弦とピックと、透明のマニキュアだった。
翌日、通販のロゴが入った宅急便が届き、アンプから出る音を俺は知った。
大きな通りに出て三つ目の交差点で、いつもは右折するところをなぜか小倉は左にウィンカーを上げていた。
「小倉、おまえどこ行く気だよ。そっちは帰り道じゃねーだろうが」
「学校。一応俺だってあのアンプのことはちょっと気になってるんだぜ。中條に押し付けてきたけど、その後無視ってわけにもいかねぇだろ」
「あぁ、そういうこと」
すこし間を空けて、小倉は
「俺はなぁ、橘。中條はなんだかんだ言って戻ってくると思ってる。やつも、味をしめちまってんだよ。こういうのは、もう一種病気に近いんだ。そのうち、我慢できなくなってやってくるぜ。絶対」と、諦めたように呟いた。
学校の近くの駐車場が見え始めたとき、真っ赤な何かが駐車場から飛び出してきたのが見えたと思った瞬間、悲鳴のような音を立てながら猛スピードでこっちに突っ込んでくるモノが赤い車、スポーツカーだとわかり、しかも運転しているのはどこかで見たことのあるような女で、助手席にもつい最近見たような女が身を縮こまらせているのが見えた。なにも身を縮ませているのは助手席の女だけではない。住宅街だって言うのにあまりに非常識というか無謀極まりない傍若無人な運転で突っ込んでくる車体に俺も小倉も思わず息をのみ、小倉の足が反射的にブレーキをベタ踏み。がくんと前のめりになる体。トランクでキーボードとギブソンがいやな音を立てた。
小倉が親戚からもらった中古の(しかも型の古い)スバル・インプレッサのすぐスレスレを、マツダのロードスターがエンジンの音を立てて通り過ぎてゆく。かねてから中條との関係を噂されていた青柳三鈴と一瞬、目が合った。普段廊下ですれ違うときの冷めた目つきはなりを潜めて、もっと残酷な、暴力的な、蜘蛛の足を一本一本もぎ取って遊んでいるような、新しく手に入れた着せ替え人形の衣装を剥ぎ取って「牝豚」「一回100円」「精○便所」「FA○K ME PLEASE」「営業中」等々の言葉をカッターで刻みつけた上で油性ペンの黒い液を滲ませるようなそんな目に、だいぶ俺はぞっとした。
「なぁ、橘」とエンストしたままエンジンもかけずに、小倉が口を開く。
「あぁ」
「いま、あのロードスター運転してたの、青柳だよな」
「そう、だったな」
「で、隣でびびってたのは、神崎だったと思うか?」
「十中八九、神崎だろ」
なぜか神妙な顔つきでうんと一度うなづいた後、小倉は黙って駐車場に車を止めた。カブが一台、鍵もかけずに駐車していた。
玄関のガラスドアを開け、今日はそのまま土足で校舎に入る。だだっ広い玄関ホール。静かな空気、クソぬるい、高校の甘ったれた空気にいまさらながら吐き気を覚える。
「こんなところで、みんなで仲良く机を並べてお勉強した3年間は、大部分が無駄に過ぎない……」なぁんてことを隣で小倉が呟いている。
「勉強なんて無駄だ! だなんてそんなことはもう定説中の定説で、それに反論するセリフももう固定化してきている。高校程度の学問なんてもう論じつくされるほど論じられているし、結論として長い人生においてその勉強が役に立つのはほんの一瞬程度だって言うことも、わかりきっている。
けれど、それでも高校というものは必要だ。
なぜか。
それは、高校という時代が人生においてもっともぬるく、甘く、自由だからだ」
きっと小倉も、とくに考えながら話しているわけじゃないだろう。いつもの演説癖だけど、切れがない。
さっきの青柳のインパクトが強すぎて、俺もなんだかタマがふわふわしてしまってる。
「高校をやっている間は、人生上で一番自由度が高い。やろうと思えばなんだって出来るバイタリティが備わり、しかも限定的な世界に守られつつ、さまざまな種類の人間と交わる機会をもっている。人格が決定されるのも、高校時代だ。やろうと思えば、何だってできる。けどさ、その『何か』がバンドだっていうのは、実際どうなんだろって俺は思うこともあるぜ橘」
じゃテメェはプロのピアニストを目指しゃーいじゃねぇかよと思わなくもないけれど、黙った。小倉をバンドに引きずり込んだのは、小倉においていかれたくなくてギターを始め、死に物狂いで勉強してこの高校にケツの成績で滑り込んだ俺なのだから。
「なぁ、小倉」
「あ?」
「高校で勉強してきたことなんて無駄だって言うけどさ、や、まぁ、確かにそうだぜ? もう俺は4月から働くし、その前からずーっと同じ職場でバイトしてるけどさ、ガッコの勉強なんてクソにも役にたたねぇ。使えるのは小学校のたすひくかけるわるの計算までだ。ところでさ、俺たちがバンドをやってきたことに、意味があると思うか? 俺と、小倉と、中條と斉藤と林でバンドをやったことに意味はあんのかな、なんて。別にそんなこと、どうだってい言っちゃどうだっていいんだけどさ……」
小倉はちょっとだまって、ほこりっぽい階段を登っている。図書室までは、あとこの階段を登りきって、突き当りまで廊下を進むだけだ。
「橘、無駄と無意味じゃ、かなり大きな隔たりがあるっていうのがわかるか?」
「無駄と無意味のちがい? 2文字か3文字かの違いだろ」
「あほかっ! いや、またしかにそうだけど……チッ。『無駄』って言うのは、ほんとにまるっきり『無駄』で、『価値』がない。ただし『無意味』にゃ『価値』がある。ま、それが逆でもいいんだけどさ。深く考えるのは、『無駄』だぜ橘。たしけりゃ、それでよかったんだぜ、きっと。高校ってのは、それが許される時間なんだから」
廊下の窓から、まだ冬の尾を引きずっているしみったれた日光が入ってきている。んー、なんなんだろうねぇ、一体。この時期の、卒業って奴を控えたそわそわ感と、微妙なだるさ。だりぃ、というより、たりぃ。まじ、たりぃ。
さっきの青柳の車が、ふっと頭の中を猛スピードで駆け抜けて行った。
「なぁ小倉。おまえさ、あの青柳と話したことあったっけ?」
「……あぁ、さっきの奴か? 話をしたことなんて一度もねぇよ。噂くらいは聞いてるけどな。公衆面前で剣道部の誰かさんをふったとかふらないとか。中條とアヤシイ関係だとか。俺はそれよりもなんで青柳の車に神崎が乗っているのかが気になる」
「あいつ、あれだろ。中條とあーいうことになってから奴が図書室にこもり始めて、それから青柳も図書室に行くようになったって。何なんだろうな。人の話じゃ、お互い一言も口をきかないらしい」
「…………」
だめだ。まるで話が通じやしねぇ。なんだって小倉は神崎のことになると執着するんだろう。好きなのか? いや、普段の様子じゃ好きというよりは……出会った瞬間にお互い武器を構えて飛びかかろうとするような気配がする。いまだに小倉と神崎の関係も接点もわからない。生まれてこの方18年。家も近所で生まれた日も3日違い。親以上に一緒にいるし、奴の性格も誰よりも把握しているはずだ。ただその一点、神崎との関係だけがやたらと気になる。
ふとそのとき、廊下の突き当りから「う、うわぁぁー」という感じの女の泣き声が耳に飛び込んできた。ばっ、と小倉と顔を見合わせる。
ぱたぱたと小走りになって廊下の突き当たり=図書室のほうへ急いでみると、
元咲と抱き合った中條が、間抜けな顔をして俺たちのほうを見つめていた。
まったく、青柳といい中條といい、なんだってまぁ、わけのわからない状況で出会うんだろうね。
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