-小麦粉記-

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第一楽章 



ハイスクール・エントランス

ザワザワと聞き苦しい喧騒に包まれた体育館に、受験番号順に詰め込まれた生徒たちに猪瀬と名乗った超体育会系のでかい先公が
「おいお前らぁ、入学して嬉しい気持ちもわからんでもないが、ちょっとは静かにせんかぁ。」
ガヤガヤ、クスクス。
「こらぁ!静かにせぇと言ってるだろぉがぁ!聞こえんのかぁ!あ、校長、お願いします。おらぁ、しずかにぃ!」
と、怒鳴ってる。
どこの学校にもいるもんだな。こういう先公。中学校のときは全校で50人切ってたから名前生徒全員の名前を知らない先公などおらず、名指しで注意された事を思い出すぜ。

帝都公立第壱高等学校の入学式。
さて、チビでデブな校長がステージに上がる。
「えー、新入生のみなさん、入学おめでとう!あー、みなさんは、厳しい入試を潜り抜け、合格したわけですが・・・・」
ったく、なんて普通な始まりなんだ。もう少し面白くしてくれよ。
「えー、さて。我が校は進学校ながら自由という、えー・・・・・」
やたらと「えー、」とか「あー」とか多い奴だな。
「あー、今回の入試の点数は平均点が史上最も高いものでぇ・・・。」
あぁ、だんだん眠気を誘う音波にしか聞こえなくなってきた・・・・。んー、ま、まずぃ、寝てしま・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・。
・・。

「えー、さて・・・・・・・あー、さて・・・・・・・・ということで挨拶とさせていただきます。」
あっ?終わったの?やべぇ寝てたぜ!おいおい、初日から居眠りかよ・・・。
「あふぇ?」
と、へんな声が隣から聞こえたので振り向いてみると、俺と同じく校長の催眠音波攻撃に屈してしまったらしい女子が挨拶が終わったことに気付いたようで、振り向いた俺と目が「カチリ」と音がなったと錯覚するぐらいかち合いしばらく見つめ合ってしまった。
「!……………。」
この三点リーダーは俺の分。
「……………!」
この三点リーダーは彼女の分。
・・・・・美人だった。
際限なく、美人だった。
長い黒髪はまさに鴉の濡羽色、抜けるような白い肌。そして黒目勝ちで奥二重の切れ長の目が寝ていたせいか少し涙目になりもう壮絶の美しさ。
顔だけでなく、出るところは出ていて、しかも椅子に座っているのでよくわからないが結構な身長だろう。
もう何を考えてるのかわからない。俺は彼女から目がはなせなかった。みるみる顔に血が上っていくのがわかる。
彼女も彼女で固まっている。
じいぃ------------・・・・。
あぁ、きっと耳まで真っ赤だ。どうすんだよ、これ。よく見れば彼女の頬も心なしか朱に染まっている。
「、では全員起立!」
って言う猪瀬の声と共に一気に引き戻された俺たちは、慌てて前を向き席を立つ。
左から退場しろ、との猪瀬の指示に従い、他の生徒ががやがやと音を立てて退場していく。
さっきの彼女もそんな人の流れに飲まれて見失い、俺も体育館を後にした。


「俺の教室は、えーっと、あぁ、γか。」
α組、β組を過ぎ、γ組のドアを開ける。
一瞬何人かの目が俺に向けられるがすぐに戻される。
「席は一番後ろか。」と黒板に張られた座席表で確認し、席に着く。
荷物を降ろして周りを見渡す。
「変なやつらが多いな・・・。」
ゴスロリファッションな女、頭つるつるで上からしたまで白い男、かとおもえばめっさアフロな奴もいる。
と、教室のドアがあいてなにやら見覚えのある女が入ってきた。
「あれ、あいつじゃん。・・・おんなじクラスだったのか。」どうしよう、ってなにを悩むんだ?おれ。
彼女は黒板に貼られた座席表を確認し、すっすっと歩いてくる。
まさか。
すっすっと歩いてくる。
まさか。
すっすっと歩いてきて、
まさか。

あろうことか、空いていた俺の隣の席に荷物を降ろした。
んで、俺の方を向いて、固まってる俺を見て、一瞬頬を引きつらせ、つん、とあっち向いてしまった。
え、俺嫌われてんの!?何で!?

そんな時またドアが開いて若い先公が入ってくる。自然と騒いでいた連中が席に着き教室が少し静かになる。
「よし、じゃあ自己紹介をしよう。えっと、僕はこれから君たちの担任を受け持った白岬です。今年で30になるな。趣味はギター。好きなアーティストは、あーみんな知ってるかな、イーグルスって言うんだけど、そうそう、田舎に泊まろうのオープニングでかかってるね。受け持ちの教科は現代社会。ということでみんなよろしく。」
と、少し短めの自己紹介をしたあと、今度は俺たちに、それじゃあ君たちの自己紹介をしよう、と、まぁ自然な流れで俺たちの自己紹介が始まった。

最初に気の弱そうな奴が壇上にあがる
「えっと仁成中からきました、赤井川一(あかいがわ はじめ)です。えっと、料理が得意です、あの、えっと、よろしくお願いします。」 気のない拍手。
ごく普通に展開される我がクラスの自己紹介。
何人か目にやけに大人っぽい女が出てくる。なんだかクラスの男全員に流し目をしているようだ。
一瞬俺と目が合って、彼女はにっ、と笑って俺から目を離して自己紹介を始めた。
「奈留西中からきました科川 紗紅弥(かがわ さくや)です。みんなよろしく。」 盛大な拍手だった。ま、確かに美人だけどさ。
そして
「侘須牙 燎(たすが りょう)です。祥香中から来ました。初めにいっておきますが、私はあなたたちと仲良くするつもりはありません。必要なことなら応じますが、下らないことなら話しかけないでください。」
・・・・・沈黙。
そんな中を颯爽と歩いて俺の隣の席に座る侘須牙 燎。さらに「次、あなたでしょ。」と言わんばかりに一瞥され、さて、どうしよう。
しーんと静まり返った教室の空気をどうにかしようと思ったのか白岬が
「あー、えーと、うん。なんだ。侘須牙さん、友達は大事だよ?」とかいって、
「じゃあ、次、月見君いこうか。」
と、なんとかその場をしのいだ気になっている。
でもまぁ、行かないわけにもいかない。重い足取りで教壇にむかう。
「あー、桐坂中からきました、月見 鈎夜(つきみ こうや)です。」
桐坂、の名前を聞いてただでさえ強張っていた教室の空気に緊張が走りほとんどの生徒が顔をしかめる。
人はいう
「あそこは、戦場だ。」
桐坂中。戦場とも形容されるアノ場所は、不良なぞ軽く凌駕する兵(つわもの)の集まりたまり場ともいえる無法地帯、じゃ無い、法的に集められた、もはや通常の行政機関では扱いきれなくなった13歳から15歳までの少年少女たちを無理やり詰め込んだ、少年院まがいの学校である。あそこは毎日のように・・・まぁいい。どうせそんなもんだろうと思ってたんだ。
「好きなことは、…夜の空を見ることぐらいですね。よろしく」と当たり障りの無い普通の挨拶。
その時一瞬侘須牙と目が合った。入学式のように固まることは無かったが、心なしか意外そうな顔をしていたのは何故だろう。
しかしながら、まぁ、拍手は、無い、ね。…かなしいなぁ。
席に着く。
次の奴は普通の挨拶にとどまり、その後もなんとなく空気が和らいできたところに、教壇に上がったのは、全身真っ白で着こなしていた、あのスキンヘッド男だった。
それは、いきなりだった。
「今日の我が日本国は!非常に憂うべき状態にあるっ!!」
奴はよく通る声で、叫んだ。
「年々中国は経済を発展させ、それと同時に軍事力も高めてきた!!奴らには過去、日本に虐げられた記憶があるっ!確実に日本はその矛先を向けられるだろう!!お隣朝鮮でも核ミサイルの先端は、百%この国にむけられているはずだっ!!!」
誰もが、身動きできないでいた。
しかし隣で侘須牙は受け流すように長い髪を整えていて、そういう俺も、実はこういったことには中学で慣れていて割りと普通なんだけどさ。
奴は続けた。
「自衛隊など生ぬるい!!今こそ!日本は、れっきとした軍事力を持つべきである!!」
大きく出たな。
「そこで、だ!まずはこの帝壱高校で、有志を募り、帝壱高校自衛軍を作りたいとおもうっ!!!」
あー、それは予想外だ。勿論他の連中は硬直。侘須牙はというと、さすがに呆れた顔をしている。いや、いいね。改めて見るとやっぱり美人だ。呆れた顔なんて可愛いじゃないか。
「無論指揮は自分が採る。名前は歴土 伊勢(れきど いせ)だ。」
あの醒めた目がいいんだよ。
「そして、あの桐坂出身ということを見込んで、月見鈎夜くんっ!君は私の右腕になってもらう。拒否権は無い。」
この侘須牙の笑顔はどれだけの破壊力なんだろうか?見てみたいぜ。でも俺のこと見て嫌な顔したよなぁ、嫌われてんだよなぁ。なんて侘須牙をみてると、微妙な表情で俺を見ていた。
と、気付けばクラスの半数がこれまた微妙な表情で俺を見ていた。あれ?
「おや、聞いていなかったのか。ではもう一度だけ言おう。桐坂出身ということを見込んで、月見鈎夜くんっ!君は私の右腕になってもらう。拒否権は無い。以上だ。」
スムーズな動きで教壇を降り、席に座った。席に座る前に俺を見て、「そんなに侘須牙君が気になるのかね!」とぬかした。その一言で、固まっていた空気が和らぎ、俺に対する奴のニヤニヤ笑いがクラスに伝染し、うつむき加減な顔が髪に隠され、表情がわからない隣からは静かに、静かに全身に染みわたる、絶対零度の殺気が感じられるのは気のせいだろうか。
何故?
さっきとは全く逆の立場で固まっている俺をよそに、当の本人は次の生徒に「君の番だぜ。」と肩をたたいている。
自己紹介が再開される。

――――――――――・・・よろしくお願いします。
―――・・・スケボーがとくい。。。
―――――――――・・・仲良く
--------------襟霜中から来ました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーそして明日は部活紹介だ。連絡事項はここまで。ということで、解散!気をつけて帰れよ!」

がらがらと椅子を戻す音が響き、教室から生徒が吐き出されていく。
侘須牙が「まったく恥かかせてくれたわね。」と言わんばかりの形相で俺を一瞥し、颯爽と髪をなびかせ教室をあとにした。
俺もさっさと帰ろう・・・とため息をしてカバンを肩に引っ掛けてドアを開けようとした瞬間、ものすごい力で後方に引っ張られる。
「おいおい、逃げてもらっては困るぜ?さぁ、きてもらおう月見君!」
そのまま引きずられ
「本部は確保しているんだ。」
と、白い軍人(?)が俺を引きずったまま階段へと向かう。
「、ちょっと待て!離せ!この馬鹿野郎!!」
ようやく手が離れる。
「貴様は俺をミンチにするつもりか!」
「本部は5階だぜ!ん、何だ?いまさら嫌だとはいわせんぞ?さぁ行こう!」
今度は俺の腕をむんずとつかみ、階段を上っていく。

がらがらっ!
っと歴土がどこだかわからない教室のドアを開ける。
中には二つの長机とパイプ椅子が三つ。木の椅子が三つあるうち一つは破壊されていて、後ろの隅にはよくわからないガラクタ類が積まれている。

「…なぁ、この教室、使っていいのか?」がちゃがちゃ。
「構わん。誰もつかっていないのだからな。」ガチャガチャ。

今俺たちはそのガラクタを漁っている最中。がちゃがちゃ。

教室に入って歴土はパイプ椅子にどっかと座り、妙になれなれしく「月見君、いや、月見でいいか。俺のことも歴土、もしくは伊勢でいい。ここを本部にしよう。」
とぬかした。
かくいう俺もこういった人間には馴れてるので、「いつ決めたんだよ?今日が入学式だったろうが。」と切り返すと、
「さっき。」
「…さっきって、おまえ、5階だ!なんて言ってたのはなんだよ?」
「あぁ、最上階がよかったんでな、もし空きが無かったら4階になってたかも知れん。」
とのこと。

がちゃがちゃ。
「お、こりゃいいもの見つけたぞ!手動発電付のマグライトだ。」
ガチャガチャ。
「あー、おい。これ、おいとこうぜ。救急セット。」
がちゃがちゃ。
「おいみろ!!双眼鏡じゃねえか。けっこう倍率高いな。って日本帝軍解散前の軍の放出品だぞこれ!?」
ガチャガチャ、がちゃがちゃ、かちゃん、がちゃがちゃ

入学式の日の放課後(?)、昼の陽射しがぽかぽかと暖かい教室で、ガラクタの山相手に格闘している大の男二人。
怪しすぎる気がする。
教師たちはまさかこんな事をしている新入生がいるとは思はないのだろうか、誰も見回りにこない。
「帝壱高校自衛軍最初の行動は、あのガラクタの片付けだ。」
などとぬかした歴土とがちゃがちゃやること2時間。
ようやく片付いたガラクタの大半はパーティー用三角帽子、いつのかわからない3月のカレンダー、使用済みコンドーム(!)など、本当にガラクタだったが、中には先ほどの双眼鏡、懐中電灯、その他電池を入れたらまだ使えるトランシーバー、小型カメラなど、なぜこんなものが学校にあるのか不明な物も含め、なかなか実用的な物があった。
ようやく整理された教室を見渡し(さっきのゴミが袋に詰められ、ころがっているが)、なんでこんなことをしていたのか思い出し、知らず知らず真面目にやっていた事実に、我ながら何してるんだ?と眉間にしわを寄せていると
「よし、今日はこんなところにしよう。月見は家どっちだ?」
と勝手に帰る用意をしてドアに手をかけている。つくづく勝手な奴だ。
「ちょっと待て、どうすんだよこのゴミ。まさか放置、じゃなかろうな。」
「見回りの先公が片付けるだろ」
「え、いや双眼鏡とかは…?」
「ここだ。ぬかりない。」といつの間にか手に持っていたボストンバックをぱたぱた叩いた。用意がいいな…。
「よし、行こうか」
ようやく俺は学校を出ることが出来た。

奇遇にも家(俺はアパートで一人暮らしだが)への道が同じだった。
「なぁ、桐坂って「凄い」らしいが、実際どうなんだよ?」
やっぱりきたか。
「あぁ、一言でいうと、修羅場、とか、戦場、だな。毎日が殺し合いだ。いかにむかつく奴を八つ裂きにするかだけを考えている連中が集まっているからな。」
「そりゃあまた…」
「俺も何度か死にかけた。それでも何故か死人も怪我人もでないんだ。まぁ、怪我するような奴がいたら死んでるからな。」
「なんでそんなところにお前がいるんだよ。そんな柄には見えないが。」
桐坂だからって俺を勝手につき合わせてるのはどこのどいつだ。
「姉貴が桐坂の教師でさ、親が考古学者で3年前から海外に行ってるから姉貴と教員住宅に住むしかなくてね、自動的に桐坂に。」
「なるほど。そこから帝壱高校ってのは…まあいい。今はどこに住んでるんだ?」
「いまはアパートで一人暮らし。」
なんて話をぐだらぐだらしていると豪邸が見えてきた。思わず見入ってしまう。
「あそこが、俺ん家だよ。」
「へぇ、ふうん。…って、えっ!?マジかよ!でかぁ。」
「よってくか?昼くらい出してやる。つき合わせたからな。」
願っても無い。と長い庭を抜けて玄関に至った。

とにかく豪勢な家で、しかもお手伝いさんが作った飯(これがうまかった!)を食わせてもらい、ま、そろそろ。ということで歴土と別れ、自宅にむかっていた。
いや全くよくよく考えてみると、実に、逸している?入学式だった。ようなきがする。
我がアパートが見えてくる。
さぁ、これから先、どう過ごしていくか、嗚呼、ハイスクール・エントランス。

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