-小麦粉記-

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第六楽章 乱闘祭編 下


ハイスクール・クレイジーファイティング 帝壱乱闘祭編後編
バスケットが終わったが、俺にはまだもう一つ飛び切りのイベントがまっている。
「障害&格闘死合。」
さっきのゲームでもういい加減殴り合いには疲れたんだけどそうはいかない。そういえばこの競技には俺と侘須牙の交際疑惑の払拭がかかっていたはず、なんだけど、どうも面白くない。というか個人的に言わせてもらうと、侘須牙とは付き合いたい。と、ここ最近の特訓で思い始めたというか、侘須牙となら正直一目ぼれにと近いものがあるから、ずっとまえからそうだ。
まぁみんなに持ち上げられたままでの、決定的な出来事のないまま・・・・というのはよくないだろうから、取り敢えずこの競技は優勝してすっきりさせておくべきだろう。
それでもって、その後は
「ちょっと、試合前なのにそんなにぼぅっとしてて大丈夫なの?後十分で始まるわ。そろそろ準備しておきましょう。」
とらぬ狸の皮算用ってやつだったな。
急いで新しい包帯を手に巻いてもらう。
巻いてもらってるときに、思い切って聞いてみようかともおもったけど、まさか「なぁ、優勝したい?」などと三段階くらい不可読みしないと意味が通じないような質問をしても分けわかんないだけなのでやめて、黙って彼女の白い手に任せていた。
くるり、くるり。しゅる、しゅる。
「ねぇ、なんていうかさ、取り敢えず優勝しましょうよ。」
「へ?」
「いや、だから、なんていうかいろいろあったけど、取り敢えず優勝が第一目標。あんなに練習したんだから。」
・・・俺は深読みしていいんだろうか。いいのか?それとも素直に受け取るべきか・・・・。
「まぁ、夜遅くまで練習したしな。取り敢えずα組には勝ちたいな。それに、一回しっかり優勝してすっきりしたい。」
「そうそう、それをいいたかったのよ。一回ちゃんと・・・・えーと、ねぇ。」
なんか気まずいような、そうでないような、奇妙な空気に満たされて今度こそ黙って包帯を巻いてもらう。

正直、この競技の発祥が知りたい。
学校の屋上のスタートラインに二人で立った瞬間、それを思った。
俺たち以外全ペアが、講習の面前でありながら、いちゃついている。おまけに実況が「各ペアが入念にお互いのモチベーションを高めております!」などとのたまうので、変な気持ちにならないほうがどうかしている。
入念にお互いのモチベーションを高めるって・・・どんな表現だよ。
さて、これから一回の体育館目指して壮大な二人三脚が繰り広げられる、のだ。
侘須牙と一回目を見やって、呼吸を整える。
「スタートダッシュが肝心よ。最初にリードしちゃえばだいたいこっちのもんだわ。」
「おう、一気に飛ばすから、ついて来いよ。」われながらキザったらしいせりふだぜ・・・。

「用意!ドン!」
せやっ!
よし、一歩抜き出た。侘須牙ともう一度アイコンタクトで更にスピードを上げる。最初の階段をトップで通過!
「ただ今トップは月見侘須牙ペア!γ組です!完全に息ぴったり!毎夜毎夜練習しているのを目撃されているというのは嘘ではなかったようですね!そのまま夜もベッドの上で息ピッタリだったりするのかな!えほん!すいません。実況放送で下ネタはいけませんね。」
実況が、うるさい。実はこの競技、体育館の大スクリーンに映し出されていて生徒が見られるようになっている。
わざわざ実況までついて(藤沢明日香という女子生徒がやっている。女のくせに親父臭い下ネタが大好きな奴だった。)さぞかし体育館は大騒ぎだろう。
いちに、いちに、と心の中でリズムを取りはしるはしる。そのうちに第一の障害が見えてきた。廊下に何やら仕掛けがある・・・
仕掛けというかついたてがあって急激に通れるところが狭くなっている。これは・・・・・
「さてトップの組が第一の障害にたどり着きました!名づけて「ハグしてゴー!」!幅が60センチの通路を二人で通るには・・・・・勿論ハグです!抱き合っちゃいます!じゃないと通れません!二人で一直線になって通った場合は即失格。ハグだかんね!」
まじかよ。
「男子は女の子の体の柔らかさを、胸の膨らみを、その甘い吐息を感じながら徐々に熱い血液が己が息子の海綿体に流れ込むのを必死で抑えつつも、あぁ、動くたびに刺激がぁ!っといった状況におちいり、女子は恥ずかしさに顔を赤らめ胸を離そうと体を開きますが後ろの壁に邪魔をされ、さきほどからの下腹部に当たっているこの感触はなんだろう・・・・あっ、もしかして・・・!といった状況に・・・・はいはいごめんなさいごめんなさいわかったから先生マイク取らないで!」
・・・こうなったら覚悟を決めるしかない。
「・・・・よし、行くしかない。」
「・・・・えぇ、そ、そうね。」
ぎこちなく彼女の体に手を回す・・・これは競技だからな。抑えろ、俺。頑張れ。
だがそんなことでは甘かった。思ったよりその幅はせまくて、今のままじゃ通れない。えぇい仕方ない!
ギュッと彼女を抱きよせて、あぁもうどうにかなりそうだ、その狭い通路に身を滑り込ませる。
一瞬びくっとしたが侘須牙は俺に合わせてするりするりと進んでいく。
むにゅ。
うわぁぁぁぁあ何でこんなに胸でかいんだよ侘須牙ぁ!
さわぁ。
くはぁ、よせやめろ。因数分解だ・・・と不肖の息子にあたる刺激を抑えながら数式を思い浮かべたが、分解していくのは俺の理性だった。
こうなったら一刻も早くこの通路をでなきゃならねぇ。
侘須牙の目も恥ずかしさのあまりか涙が浮かんでいた。・・・早く終わってくれ。

そろそろ己が息子が耐えられなくなってきたちょうどそのとき、ようやく狭い通路を抜けてはぁはぁと息をついた。すぐ近くの教室に「我慢できないペアはこちらで」と張り紙がしてあり、ご丁寧にも机の上にティッシュとコンドームの箱がおいてあった。どこから持ってきたのかかいてんベットが教室の真ん中に鎮座して出番をまっている。
・・・・この企画者・・・誰だよ。

兎にも角にも第一の障害は、クリアした・・・・。




 恥ずかしくて死にそうだった。
競技のため、優勝するため仕方がないとはいえ月見君・・・なんとなく今は鈎夜というより月見君といいたい・・・に抱きしめられてさ、あぁこの胸が・・・・当たって・・・・死にたい・・・。
すぐ近くの教室に「我慢できないペアはこちらで」と張り紙がしてあり、ご丁寧にも机の上にティッシュとコンドームの箱がおいてあった。なにやら変わった形のベッドが教室の真ん中に鎮座して出番を待っている。
・・・・この企画者・・・誰なのよ。

と、後ろからごそごそと後続のペアが追い上げてきたので、一応気を取り直して走り出す。
平常心、平常心。
「さて既に三ペアがクリアいたしましたが残念ながらせっかく用意した教室は使われじまいなのでしょうか・・・・?おっと、これはβ組の高梨・新垣ペア!顔が真っ赤です。見てるこっちが恥ずかしい!立ち止まった?え、入るの?マジ?・・・・・そうだよ行けよ高梨!あんた付き合って二ヶ月たってそろそろ限界だ、なんていってたじゃん!そう、強引にいっちゃえ!・・・・やったぜイェフー!早くも一ペア脱落ぅ!さぁ二人とも!回転ベッドに酔いしれな!コンドームを忘れずに!だめだってセンセ!邪魔しちゃ可愛そうだって!そこの柔道部!センセー押さえといて。」
ほんとに?いっちゃうの?学校だよ?隣の月見君もさすがにぎょっとして「まじかよ・・・、」と呟いている。
取り敢えず四階の階段を下りて三階へ駆ける。
実況によると今のところに意図の差は三秒。油断できない。障害は各階の廊下に仕掛けられていて内容は様々・・・ということらしい。
けど三回の仕掛けは廊下に机が一つあるだけだ。その机に紙が張ってある
「階段までお姫様抱っこ。ただし女子も男子の首に腕を廻すこと。」
そういう障害しかないらしい。でもさっきのに比べれば全然大丈夫だ。月見君の力なら私くらい抱えられるでしょう。多分。
急いで足を結んでいるバンドをはずした。
「じゃ、じゃあいくぞ。あんまり暴れんなよ。」
「誰が暴れますか。そ、それじゃあよろしく、きゃ」
私が言い終わる前にぐっと持ち上げられて思わず首にしがみつく。あ、でもこうしないといけないはずだ。
「いくぜぇ!落ちないようにしっかり捕まってろ!」
速っ!落ちる!いやでもきつく抱きついてしまう・・・別にいやじゃないけど?
落ちると思ったのは最初の数歩で、後はかなり安定した走り方で割りと安心して身を任せられた。こうやって抱かれているのは、結構なんというか、気持ちがいい。
あっという間に階段についてしまって下ろされる。もうちょっと廊下が長かったらなぁ・・・・って、何考えてるんだか。
ぱぱっと足のバンドを取り付けて二回へと駆け下る。

微妙な名残惜しさとともに、第二障害クリア。


 お姫様抱っこかよ。・・・やっぱり侘須牙ってやわらけぇよなぁ。しかも「きゃ」なんて侘須牙にしては珍しい声を聞けた。・・・・役得?
実況が耳にはいってくる
「史上まれにみるハイペースでとばしています!一位は変わらずγ組の月見・侘須牙ペア!ほんとにいきぴったり!速い速い!二位はα組の柚木・瀬戸内ペア!三位以下は混戦中!さぁ障害も三番目にさしかかろうとしています!」
今度は廊下に四つの机が並べてあり(脱落したペアの分は片付けたのだろう)、その上には昔懐かしい「赤ひげ危機一髪」がそれぞれ乗っている。
「今度の障害がこのレースで一番フツーの障害ね。ルールはシンプル。出来るだけ早く赤ひげを飛び出させるだけ。そしたら進んでよし。・・・フツーでつまんないわね。最初のはかなりインパクトあったのに。まぁ最期にデストロイインパクトなのがあるし、ここは我慢。」
侘須牙と二人で机に飛びつき、一心不乱に剣を刺して行く。ストン、ストンと何の手ごたえもなく、そんなこんなで後続のペアに追いつかれてしまった。
「なかなか当たらないわねこれ。」
「もうこんなに刺してるんだけど・・・・。」
カチッと手ごたえ。びょんと赤ひげが飛び出してきた。
「やった!急ごう!」
隣のα組ペアも早々とヒットさせて俺たちの跡に付いて来た。
一階に駆け下りる!


 だんだんと階を降りて行くに連れて体育館の歓声が聞こえてくる。
物凄い地響きのような歓声、もとい衝撃波のようなエネルギーが肌に伝わってきた。
そのエネルギーにむかってリズムを合わせてせっせと走る。
「さーてやってきたネェ体育館への最後の関門一階廊下!ここの障害は・・・・・え?何これ?変更?・・・・そうね。こっちのほうが面白いじゃない!説明するわ!」
そんな、急に変更だなんて滅茶苦茶・・・・。
「本当は体育館で格闘のほうをやるつもりだったんだけど、何かもう流れ的に格闘は女子がいないしむさ苦しいから廃止です!とのこと。代わりに廊下においてあるカード発行機から一枚受け取って体育館に入場!真ん中でその指示に従ってください!カードの指示内容はいろいろだけど全部十秒間のもの!早く来たペアが圧倒的に有利だけどさてそれはどうかな!?」
何か、いやな予感がする・・・・。
確かに体育館の前の廊下にデンと機械が置かれていてボタンとカードの発行口がある。
月見君がボタンを押して私がカードを受け取りそのまま体育館へ。
物凄い歓声・・・・地響きに近いきがする。
そのなかを突っ切って体育館の真ん中に立ってカードの内容を確かめ

「一番早かった君たちは十秒間ディープキス!はぁと」

たくなかった。

この字には見覚えがある・・・・紗紅弥の字だ。
さてはこの企画だいたいが彼女主導できまったのだろう。

「なになにいぃ!一番早いペアは・・・ディィィィィィィイイプキッス!!十秒間!二番目は十秒ハグ!三番目は頬すりすり!最後はおでこつけるだけ!さぁさぁどうするぅ?」



「マジか!?ディープキス!?俺が!侘須牙と!?」
信じられねぇ!誰だよ考えたの!こんな群衆の中でまだ付き合ってもいないのにディープキスかよ!?
侘須牙と向かい合う。カードを持つ手が震えていた。
「・・・・じてよ?」
何かいったが歓声で聞こえない。
「何!?」
「目ぇ閉じてよね!」
ドキッとする。全く俺は情けない。彼女はもう覚悟をきめていたのだ。だったら俺だって男を見せてやる!
「暴れるんじゃねぇぞ!」思いっきり抱き寄せて侘須牙の長い黒髪に手を差し込む。
「誰が暴れ、んむ!!」
そのまま反論しようとした侘須牙の唇を、強引に、でも極力優しく奪った。
歓声が大きくなった気がしたがもうそんなことは気にならない・・・気にする余裕がない!
っていうかヤベェ・・・・止まんねぇ・・・自制がきかネェ・・・・・



月見君がまた「暴れるなよ!」なんて失礼なことをいったのでさっきのように「誰が暴れますか!」と言い返そうとしたら一気に持っていかれた。
ギュッと目を瞑る。全身が硬直してしまった。
初めてのキスの感触は、ずいぶんと柔らかかった。はじめのうちは本当に柔らかくて、熱い唇が重なっていて、ただでさえもうなんだか考えられないような状況なのに・・・・舌が・・・!
ゆっくり、優しく鈎夜の舌が私の唇をなぞっていて、それだけで麻酔がかかったみたいに力が入らなくなった。されるがままに鈎夜の舌を受け入れて、私のしたと彼のが接触した。一瞬彼の動きが止まる、けどそれは一瞬で、また鈎夜は私の口の中を蹂躙し始めた。
せめてもの抵抗に自分の舌で彼のを触る。なのに逆に絡めてくるなんて、卑怯・・・・・。
体が熱病にかかったみたいにぼぉっと熱い。

何にも聞こえない。

ゆっくり目を開けたら鈎夜も目を開けていた。閉じていてって頼んだのに・・・。
急に彼が唇を離す
「っぷは、あ、はぁはぁ」

十秒が、経過していた。


その後のことは、なんだかよく覚えていない。
動けない私を鈎夜が抱えて優勝の旗をとった。耳が割れんばかりの怒号と歓声で振り返り、走りよってくるクラスの連中に握手をされもみくちゃにされて鈎夜と一緒に胴上げされていた。
悪い気分じゃ、なかったと思う。





乱闘祭が終わった後、優勝報酬の焼肉三時間無料券を科川が満面の笑みで受け取り、近くの浜辺で祝賀会をやることになった。
みんな家に帰らずそのまますずしろ浜に直行。酒屋の娘が家から大量のアルコールを持ち出し別の奴等はカラオケの機械をどっから持ってきたのか知らないが巨大なスピーカーとセットで持ってきた。電源はコンビニの外にあるプラグ・・・いわゆる盗電。
本来なら許されることではないのだが学校側も「酒くらいいまでなら」と許容しているとのこと。

「焼肉件使ってクイーンオブクイーンの人に野外用焼肉パーティーの準備してもらったから!三時間分の肉を用意してもらったしご飯も飽きるほど炊いたわ!食べるわよー!!!」
「「イェェェェイイイ!!!!」」

相変わらず科川の行動力というかある種の強引さには舌を巻く。やけに胸元が開いているということは店長を誘惑してきたのだろう。
隣には付き合わされてへとへとになっている赤井川がいた。

「でー!ちょっと食べる前に注目―!月見君と燎について!」
ズアッっとニヤついた視線が俺たちに突き刺さる。
「見事優勝したからぁい・ち・お・う交際疑惑は解消。まぁその辺すっきりさせておいたほうがいいでしょ?」
俺の考えていることをさらりといった。
「そこでさ、ちょっと君たち二人あっち行って二人っきりで話し合ってきなさいよ。あぁ、別にふざけてるわけじゃないわ。ただ君らの様子を見る限りじゃ、ちゃんと話したほうがいいんじゃないかなとおもってさ。」
こうゆうところに気を廻してくれる科川はやっぱり尊敬してしまう。
確かにオレたちはアノ後ろくに言葉を交わしていない。自制の歯止めがきかなかった俺が悪いんだけどさ。ずっとムスッとした侘須牙をこのままで済まして言い訳ではない
「わかった。じゃぁちょっと話してくる。・・・いこうか。」
無言で付いて来た。
ざざぁ ざざぁ
しばらく歩いてみんなの声が遠ざかったくらいで。俺は侘須牙に振り返って

土下座した。





 いきなり土下座されて、正直びっくりした。

「ほんっとごめんなさい!すいません!自制がきかなくて!ほんとに侘須牙の唇が良すぎて・・ってじゃネェよばかごめんなさい!」

・・・怒っているように感じたんだろうか。別に怒っているわけじゃないのに。
「・・・別に謝んなくてもいいわよ。そんなに嫌だったわけじゃないんだし。私だって正直ぼぉっとしちゃって・・・・。」
鈎夜が起き上がる。ほうけた表情だったがほっとしていた表情が一変する。
何かを、伝える、眼をしていた。

「侘須牙、一応俺とお前が付き合っているって事はなかったことになった。」
一旦彼が息をつく。
「はじめは付き合ってなどいないってことを証明するために練習を始めただろ?毎晩毎晩、こけたりなんだり。結局格闘のほうはなくなっちまったけど道場に行ったりさ。実際さ、結構楽しかったんだ。侘須牙は、どうだった?」
「それは・・・私だって正直楽しくなかったわけじゃないわ。」
嘘ではない。自分で言うのもなんだけど、人見知りの激しかった私が紗紅弥をはじめとして少しずつクラスになじみ始めているのは鈎夜のおかげが大きい。
それは、楽しいことだった。
「まぁ料理も教えたりしてるしな。でもさ、例えば今回のペアが侘須牙じゃなくて別の誰かだったら、最後のキス、あそこまで自制が外れることはなかったと思う。いや無理やりだったし悪いとは思ってるんだけど。」
「・・・・なにそれ、じゃあ私じゃなくて紗紅弥だったら?」
「・・・・舌は入れなかった。自制が外れることもなかった。」
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
いままで何日も練習したり料理教えてもらったりして、結構いろんなことはなしてきたけど、いつも彼は深く入ってくる話はふってこなかった。ちょうどいい距離をとって会話をしてくれていてお互いの考えの表面をなぞる、楽な会話で終わらせてくれた。私が人見知りなのを知ってかしらずか、私の最終警戒線を侵してくるように話を進めたことは、なかったのだ。
だけど、今のは、確実に私の心の境界線をこえようとする会話だ。
境界線。両親をおぼろげにしかしらず、おばさんの家でこもっていることが多かったせいか、いつの間にか人と話しをすることが怖くて、知らず知らずの内にその境界線を作っていた。
ここを越えた人には、それ以上入らせるな、と。
要するに人と何の詮索もなしに本音をさらけ出すことを知らずに育ってしまった人間の、己を知られまいとする防衛線。

「それは私を女の子としてみてなくて、やってもいいラインを決めなくてもいいそう言う存在としてみてるって事かしら。」
言ってから、しまった。と後悔した。いつもそうなのだ。
ある程度なかの良い友達はできても、その人が私に入ってきてしまったときに出る、思ってもいない言葉。
あぁ、また一人。また一人怒らせてしまう。よりにもよって柄にもなく「彼は私のことをどう思っているんだろう」なんて一瞬でも考えた相手なのに。
さらに悪いことに「ゴメン」といおうとした口からは、また思ってもいない言葉がでた。
「まぁ確かに楽しくないと言えば嘘よ?料理を教えてもらったりしたしなんだかんだバスケットで忙しいのに練習にも付き合ってくれてありがたいと思ってるけど。だからといって貴方、少し調子に乗りすぎてるんじゃない?キスだって競技だから仕方なくしただけ。今この瞬間されたら確実に投げるわ。」
さっきとは、正反対なことを言っている自分が、ほとほといやになった。
なのにさっきと変わらない、決意じみた表情を崩さないで黙ってからは聞いていた。
ここまで言われたんならさっさと怒るなり帰るなりしなさいよ。これ以上嫌なこと、本心とかけ離れたこと言わせないでよ。涙が出てくるじゃない。腹が立つ。
「優勝できて本当に嬉しいわ。人がちょっと甘く出るとすぐに自制がなくなるような何してもいいとかおもっちゃってる男性と付き合っているなんて事は最低中の最低よ。私は帰るわ。じゃ、さよなら。」
本当は「もう一回キスしてほしい」といいたい自分に気がついて、それでも鈎夜をなじる言葉しか出てこない自分がいやで、涙腺が限界だった。
貴方が動かないなら、私が帰るから。と、本格的に出始めそうな涙を見せまいと後ろにきびすをかえした瞬間。ぐいっと肩を掴まれる。あー、きれちゃったかな?なんて自嘲てきになってしまう。
月見君に殴られたらさぞ痛かろうと思って身をよじったら、そのまま向かい合わせにされて、乱暴に唇を奪われた。
一気に血液が顔に昇る。
何度も、何度も、力任せに、貪るように、苛立ちを隠さない、激しいキス。
なのに、なのに抵抗できない・・・・・。だってほんとはこうしてほしかったから。
息が続かなくなって、口を離す。
「ほら、何か言ってみろよ。今度は投げるんじゃねぇのかよ。ほんとはどうしてぇのか言ってみろよ!人なじりながら泣いてんじゃねぇよ!俺は何を言われたって全然構わないさ。特に侘須牙になら何言われても許容できる。だけど言ってる本人が辛いんだったら意味無いじゃないか。」
「だって、鈎夜が入ってくるんだもの・・・・!」ないてるせいでちゃんと喋れない。
「俺じゃ、だめだろうか。」
「ふぇ・・・?」
「いっつも思ってたんだ。お前は、必要以上に他人に入ってこられると、すぐに憎まれ口叩いてた。遠ざけた。それがお前にとってなんなのかはわかんないけど、俺はお前に入っていったら、だめかよ?もう俺はお前しかだめみたいなんだ。だからキスのとき、全然自制がきかなくて、侘須牙とキスしてるって感じたら、もう止まんなかった。侘須牙のことを何してもいい存在だなんておもってない。侘須牙だからこそたがが外れちまったんだ。」

なんでこの人はこうなのだろう。
こんなふうになるのがいやだったから入学式であんな挨拶をしたのに、何故か話しかけてきて。何回も何回も冷たくあしらってみたのにばつが悪そうに笑ってきたし、図書館からの帰り道送ってくれたのを見つかって恋人扱い。あつまさえ今なんて酷いことを言われたのにキスした上、なんだかよくわからないけど、告白じみたことをし始めたし、少しずつ私の精神をほぐしてきて、なんかたまぁに体張っていいとこ見せて庇ってくれたり、料理なんかも教えてくれるし、更にアパートんお部屋が隣同士と来た。
気にするなというほうが難しい。

「俺は侘須牙のことが好きだと思うんだ。」

そんな相手にこんなことを言われて、どうしろというのよ。

「侘須牙にとって俺は、ボーダーラインの外側に入る人間に過ぎないのか、それとも通行許可書を持たしてくれる人間か、どっち?」

なによその通行許可書って。

「・・・・スしなさい。」
「え?」
「キスしなさい。今度は優しく。」
「うえぇ?あっと、」
「ふん、微妙なところで意気地なしね貴方。さっきはあんなに乱暴にしてきたくせに。私にさせる気?」
「んぐ・・・!」

びっくりした顔だ。

「通行許可書、ほしいんだったら持ってきなさいよ。」

私の顔は、鈎夜に勝って真っ赤になっているだろう。


クラスの連中の歓声が聞こえる。

悪い気分じゃ、ないわ。

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