コミュニケーションファクトリー ~演出工房~

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夢をあきらめないで


サラリーマン時代に貯めたお金も底をつき、明日の食事にも困って、もう限界かと思っていた私を支えてくれたのは、ある年上の女性の存在でした。
自分より8歳年上、32歳の彼女は大手家電メーカーのOL、
居酒屋で知り合った彼女とは、成り行きで男と女の関係になったのです。
がむしゃらに目標に向かう僕を彼女はいつも優しく包んでくれました。
何時にマンションに訪れても食事は作ってくれ、どんなに早い仕事にも僕より先に起きて送り出してくれました。
そして辛くて眠れないときはいつも女として同じ時間を過ごしてもくれたのです。
女性関係の詮索はせず。月に一度は服を買ってくれました。
こんないたれりつくせりの環境の中、辛い修行生活をなんとか過ごす事が出来たのです。
その日、僕は荒れていました、先輩と大喧嘩をし、業界をやめるとわめきながら彼女のマンションに泥酔でたどり着いたのです。
いつものように優しく話を聞いてくれるはずが、そのときばかりは大きな声を出し
涙ながらに彼女は僕にこういったのです。
「辛いとは言っても、やめるなんて二度と言わないで・・・・・1人でも応援してくれる人がいる限り、その夢はもう自分だけのものじゃないの、甘えないで、私あなたをこんなに応援してるじゃない」
その言葉は一生忘れる事のない大切な言葉になりました。
人は夢を追いかけるとき、夢中で気付かないけど、自分のために世界が回っていると言うほどわがままになるものです。逆にそれくらいの気持ちじゃないと、競争の激しい業界では生き残れないものなのです。
しかし感謝の気持ちがなくては夢をかなえることよりもずっと大切なものを失ってしまう事になるのです。
彼女のあの時のあの言葉がなかったら、僕は感謝の気持ちも忘れたまま、中途半端にこの業界を甘えたまま去ってしまっていたのかも知れません。
夢の陰には必ずその夢を支えた人がいるものです。どの立場からどのようにバックアップするかは様々ですが、一人で一人前になる人なんて誰もいません。
その言葉を聞いてから、目標への意思はより強いものとなったのです。
3年の月日が流れ、彼女の支えのもと僕はディレクターとしてデビューすることになりました。
最後に流れるスーパーの僕の名前を二人で見ながらワインを飲みました。
その時はまだ、彼女の心の中にある決意など何も知らないまま・・・・・
その月の月末、いつものようにマンションを訪れると、カギは閉まり、表札もなくなっていました。電話をかけても「現在使われていません」の言葉が流れるだけ、
しばらく実家に帰るとは言っていたけれど、様子が変だということは鈍感な僕にもわかりました。
会社に電話をすると、そこには理解しがたい現実がありました。
「彼女は今月付けで東京支社に転勤になりましたけど・・・」
なぜさよならも言わずにさってしまったのか・・・・・
僕はただ途方にくれるばかりでした。

1年後・・・・・
手紙が届きました。
バツイチの男性と結婚して幸せにしているから心配しないでと言う知らせ、
手紙の最後はこう締めくくられていました。
あなたと夢を追いかけたことは私の一生の誇りです。
あの時の輝いた自分を忘れないで下さい・・・・

涙を拭きながら、手紙を握り締め、僕は電車に乗り込みました。
生まれて初めて、全国ネットの番組のVTRを作るための現場に向かうため・・・

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