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2 土門と麗子の出逢い

2 土門と麗子の出逢い
novel17

五年前の麗子は二十六歳。日本人の板前と結婚して東京の芝浦のアパートに住んでいたが、後に東京のベッドタウンとして発展著しい千葉県我孫子市に中古の一戸建て住宅を購入して暮らしていた。

近所の薬局に買い物に来ていた麗子は、商談中の土門の横顔をじっと見つめていた。土門が帰った後、麗子は女主人に尋ねた。

「奥さん、さっきの人は誰? 」

「製薬会社の営業マンの土門さんよ。歳は三十歳だって」

「おとなしいそうな人ね。何か私の好みにぴったり! 」

「何言ってるの。彼は妻子持ちのまじめ人間。手を出しちゃだめよ」

土門という一人の男を肴にたわいのない会話がしばらく続いた。

来日して六年、日本語もかなり流暢な麗子が中国生まれの外人とわかる人は少ない。人なつこくて物おじしない性格が奏効して、日本語の上達に拍車をかけた。天衣無縫な性格は中国人の国民性なのか、生まれ育った家庭環境のせいか定かではない。そのため無意識のうちに他人を傷付けてしまうことが多い。しかしそれは麗子の常識が一般人とは少々異なるだけで『常識知らず』と非難することは出来ない。

麗子の夫は風間輝男。浅草の日本料理店の板前で七、八人いる板前の長である。月収はゆうに六十万円を超えている。購入した住宅のローンを返済しても生活はかなり余裕があった。しかし経済的に恵まれた結婚生活であったが、中国と日本の生活習慣の違いは麗子には頭痛の種であった。

日本料理の板前は修業の過程が古典的な徒弟制度で上下関係の厳しい世界である。職人気質というか昔風の人間が出来上がってしまう。その気質が風間家に持ち込まれる。女房は一家の大黒柱が帰宅したら『三つ指』付いて迎えなければならない。また食卓に並べる食器の位置、料理の品数もうるさく指摘される。麗子には日本人でさえ忘れかけている旧日本的常識が理解出来なかった。

麗子の性格からすると五年もの間よく我慢出来たものだ。しかしこの堅苦しい日々の生活にいつしか忍耐の緒も切れ、『外に出たい』欲望が徐々に育まれて行った。ただきっかけがなかっただけである。

「パートでもいいから働きたい」

麗子は時々懇願したが、輝男は承知しなかった。

「生活に困るような給料は渡してない。女が外で働くなんて許さない。余計なことは考えるな」

いつも輝男に一蹴されてしまうが、反対されるたびに『外に出たい』欲望は募って行った。

「奥さん、あの人は今度いつ来るの? 」

「毎週木曜日が私とのデート日よ」

「何よそれ、冗談言わないで」

からかわれて少々腹を立てたが、何とも言えない嬉しさが込み上げて来た。この思いを誰にも悟られたくない。でも誰かにその一端を打ち明けたい。こんな相反する気持ちが交錯して胸の高鳴りを押さえ切れない麗子であった。

幼い頃から夢見た『幸福』をやっと探し当てた気がした。『あの人に私の人生を賭けよう』こんな大胆な気持ちになった自分を不思議に思った。

麗子には自分の立場は関係なかった。思いどおりの生き方をすれば、あの人が『幸福』の世界へ連れて行ってくれると確信した。

「奥さんありがとう。大好きよ」

女主人は麗子の歓喜あふれた言葉に少々驚いたが、その心情を汲み取るほどの興味も関心も示さなかった。

「どういたしまして。それにしても変な麗子ちゃんだこと」

思い立つとすぐ行動するのが麗子の長所であり短所である。周囲にどんな影響を及ぼすかは考えない。欲望を実現させるため貪欲に行動する。そのため自分自身はもちろん、周囲の人にも何らかの犠牲を強要することになる。麗子と利害関係のない人には迷惑千万である。

『あの人を探そう』麗子は決心した。

3 半年後の再会



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