「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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「無題」第27章~第31章
親王誕生とのことで、女御であった綾姫は東宮妃の宣旨を受け、東宮御所に若宮と共にお戻りになった。まず東宮御所にて挨拶を済ますと、東宮と共に帝の御前に若宮を連れて挨拶に行く。帝のほかに皇后も帝の父上の院と皇太后も同席している。東宮が挨拶を済ますと、帝が東宮や東宮妃に言う。
「喪中でありながら、孫見たさに急がせてしまったね。今日は院や皇太后もいらっしゃっている。雅孝を早くこちらへ。」
「まあ帝は・・・よっぽど楽しみでしたのね。」
と、皇后は扇で顔を隠しながらお笑いになる。東宮は東宮妃から若宮を受取ると、御簾の中に入り帝にお見せする。若宮は少し泣いたが、帝があやすと泣き止んで笑った。帝もたいそう喜んで、若宮をお抱きになる。一同は若宮のここが似ているあそこが似ているなどと盛り上がり、東宮妃は緊張がほぐれ、ほっとした様子で眺めている。東宮は若宮を抱いて御簾から出てくると、東宮妃に手渡す。
「帝も院も度々お連れせよと仰せだよ。当分の間、若宮は東宮御所で過ごしたらいい。皆様にも気に入っていただけたし・・・・。」
東宮は微笑んで東宮妃に言う。東宮妃も安心した表情で東宮と共に御前を下がっていった。
帝たちは別の話で、東宮のことを話している。
「東宮妃についてはこれでいいのだが、問題は女御のこと。ちょうど婚儀の日に常仁が崩御したからね。橘によるとあまり東宮は好意を持っていないという。それどころか、女御の女房達に少し問題があると報告を受けた。どうして入内をさせたいといったのか疑問だが・・・・。東宮妃と女御の間に問題が起きなければよいが・・・・。」
「そうですわね・・・。あの橘が思い余って報告するのですから・・・。東宮自身あまり悩み事を私達にいわない子で・・・・。最近元気がなく心配しておりました。早く元気になるようにと東宮妃と雅孝君を早く参内させたのにも理由がありましたものね・・・。心配ですわ・・・。」
「橘や摂津が側にいるから何とかしてくれるであろう・・・。そう願うしかない・・・。」
「そうですわね・・・。」
帝と皇后の心配をよそに、東宮と東宮妃は御所に戻ると、楽しそうに若宮の事や実家での出来事をお話になる。楽しそうな笑い声は、女御の部屋まで聞こえる。女御は気にしていないようなそぶりをするが、内心落ち着いてはいられなかった。そこへ橘がやってくる。
「女御様、東宮様と東宮妃様にご挨拶を・・・・。」
「行かなくてはいけないの?お邪魔じゃないかしら・・・。せっかく水入らずで・・・。」
「礼儀でございます。さ、早くご用意を。」
女御はしぶしぶ十二単に着替えると、女房を引き連れて東宮の部屋を向かう。途中には東宮妃の部屋があり、東宮妃付きの女房達の視線が大変気になった。しかし東宮妃の女房達はとても教育されているので、噂話ひとつ聞こえず、女御が通り過ぎるのをずっと頭を下げ待っている。女御の女房達はいろいろこそこそと話をしている。橘は女御に耳元で一言申し上げる。
「賢い女御様にはお分かりですか?東宮が言おうとされている事を・・・・。こういうことなのですよ・・・。」
女御はなんとなくわかった気がするが、やはり東宮妃への寵愛振りが気に入らないようだ。
「東宮妃の女房達は教育されておりますので、ちゃんといろいろなことをわきまえておりますのよ。東宮はとても真面目で堅物な方ですので、ちゃらちゃらした女房はお好きではありません。女御様がきちんと教育されないと一向に東宮は振り向かれませんよ。あなたばかり気に入られようとなされても無駄です・・・・。」
女御はムッとしている様子を見て、橘はさらに言う。
「申し訳ありません。私は東宮の乳母ですので、女御様のために少しおせっかいをしてしまったようですわね。東宮はそのような方です。あなたが思われているような方ではありませんよ。他の殿方のようなちゃらちゃらしたことがお嫌いなので・・・・。」
そういうと、橘は扇で顔を隠し、少し笑う。
女御が到着すると、東宮は若宮の乳母を呼んで部屋を下がらせる。
「綾姫、こちらが例の姫君だよ。先日話したね。」
「和子と申します。はじめまして・・・・。というよりも昨年歌の会でお会いいたしましたが・・・。」
「綾子です。これから仲良くしてくださいね。いろいろ東宮様よりお聞きしておりますわ。」
そういうと、扇で顔を隠して微笑まれる。和姫は綾姫の余裕の表情に少しムッとしたが、東宮の複雑な表情を見て、さっさと退出していった。東宮は綾姫に複雑な心境をお話になる。
「こうなることは覚悟しております。将来帝になられるお方です。側室の一人や二人・・・・。私には雅孝がおりますもの。大丈夫ですわ。本当に・・・常康様は相変わらず心配性ですわね。私の女房達は常康様のおかげでわきまえておりますので、きっと何かあっても相手にはしないでしょうし、すぐに対処できるように心得ておりますから。常康様も和姫様にきちんとした態度をおとりあそばせ。」
東宮は少し微笑んで、脇息にもたれ掛かると、ため息をつく。
「入内させない方がよかったのかな・・・・。婚儀の日に兄上がなくなってそのままだから・・・・。まだ・・・・ただ入内しただけで・・・・。喪中が明けるまで和姫の機嫌はなおらないよきっと・・・。許してくれるの?綾姫は・・・。」
綾姫は扇で顔を隠して少し照れながら、東宮に言う。
「女としてはちょっと悔しいですけど、きっと東宮様はこの綾にまたお子をくださいますわ。雅孝のようにかわいらしい内親王か親王を・・・・。お願いしますね。私だって形式どおりにお子が出来たのではないのですよ!世の中では私のことを子が出来てしまったから入内した姫だと言う者もおります。」
東宮は綾姫の言い方に大変お笑いになった。
「常康様!何がおかしいのです?」
「ホントに綾姫は強い方ですね。私はそのような綾姫が好きです。ものごとを包み隠さずこの私に言ってくれる・・・。安心してください、私のお子はあなたに産んでいただきたい。それだけは覚えておいてくださいね。」
そういうと綾姫を抱きしめる。
第28章 若宮が去る日
弥生に入り、東宮の喪が明けると、今まで滞っていた行事が一斉に行われた。いろいろ忙しい中、東宮は残り少ない若宮との日々を楽しんでいる。若宮は成長が早いようで、ちょこちょこと東宮のあとをはいはいで追いかけるので、東宮はたいそうかわいらしく思われ時間を見つけては若宮のお相手をされる。度々帝の御前にも連れて行かれ、微笑ましい光景が殿上人たちを和ませた。帝も若宮がこのまま御所に留まって欲しいなどとお思いになるが、母方の実家で育つのが慣例のためにお諦めになる。そして明日、右大臣とともに東三条邸に戻っていくのである。
今晩は、若宮のために帝主催の宴が清涼殿にて催される。殿上人はもちろん、宮家、後宮など高貴な方々がおいでになられた。帝の同じ御簾の中には皇后を始め後宮の女御の方々、東宮、東宮妃、若宮、若宮の乳母そして東宮女御が同席される。若宮はたくさんの方々に驚いて始めは泣いていたが、東宮が膝にのせてあやすと、機嫌がよくなった。周りの方々も、かわいらしい若宮の表情を見てお笑いになられる。東宮妃と桐壺の女御は久しぶりの対面に喜び、仲良く話される。
「若宮様はたいそう東宮がお好きなようですね、綾姫。うらやましいわ・・・私も姫でもいいから授かりたかったわ・・・。」
「おねえ様ったら・・・・。明日若宮とお別れなのです・・・。東宮様もホントはお寂しいのでしょう。今朝から若宮をお放しになられないのです・・・。若宮もお慣れになったようで・・・・。明日から私も東宮もいない右大臣家でお育ちになるなんて・・・・。」
「しょうがないわ、慣例なのですから・・・。そうやって東宮様もお育ちになったのですわ・・・。でもお父様が度々一緒に参内なさってくださるそうですし、またいろいろ行事がありますわ。その度にお会いになれますわ・・・。」
「そうですが・・・。」
そういうと若宮の方を悲しそうな眼で見られる。桐壺の女御は東宮妃を慰めながら、自分も御子が欲しいと思われる。
若宮が眠ってしまったので、若宮は乳母に連れられて、東宮妃と共に御所に戻っていった。それを見て東宮も下がろうとしたが、帝がまだいらっしゃるので、お開きになるまで残っていた。
次の朝、東宮は公務を休んで右大臣が迎えに来るまで若宮と一緒に過ごす。東宮妃も当分会えない悲しみを吹き飛ばすように精一杯愛情を与えた。
夕方になって右大臣が若宮を迎えに来る。
「右大臣殿、この若宮のこと頼みますよ。大事な親王です。何事も慎重に・・・よろしくお願いします。養育係として、但馬を就けることにいたしました。但馬がいればきっと何事にも即対処するでしょう。」
「お父様、雅孝のことよろしくお願いします。」
「わかりました。責任を持ってお預かりいたします。それでは失礼いたします。」
そういうと、乳母に合図をすると、若宮と共に東宮御所を出て行った。東宮妃は悲しみのあまり、泣き崩れた。その東宮妃を東宮は抱きしめる。すると東宮妃は悲しそうに部屋を後にする。御所は若宮がいなくなったことで、明かりが消えたように静かになった。
「橘、今晩は和姫ではなく、綾姫の側にいてやりたいのだが、だめかな・・・。」
「東宮様、和姫様との婚儀もお済ではなく、本日より三日を逃すと、次はいつになることか・・・・。東宮妃様には誠に申し訳ありませんが、仕方がないことでございます。」
「そうか・・・。綾姫の前を通るとお互い心苦しい・・・。どうにかならないものか・・・。」
「それでしたら、女御様をお召しになさいませ。それでしたらいかがなものかと・・・。」
「わかった。橘、頼むよ・・・。」
そういうと橘は数人の女房を引き連れて、女御の部屋に向かう。女御の部屋では、今晩のお迎えの準備に忙しそうにしているところに橘が現れ、東宮から女御の教育係として就けられた女御付の女房が対応をする。
「橘殿、何かございましたか?」
「本日はこちらには東宮は参られず、女御御召という形になりました。東宮妃の部屋の前を通るのが心苦しいとの仰せで。ですから決められた刻限に私がお迎えにあがりますので、それまでにお召しの準備をされますよう、女御様にお伝えください。」
そうして女房に耳打ちする。
「本日東宮様も東宮妃様も若宮のことでかなり消沈されておりますのであまり波風をお立てにならないよう、女御様、女房などにご指導ください、わかりましたね播磨殿。」
「心得ております。」
「よろしく頼みましたよ。」
そういうと橘は東宮の元に戻っていった。播磨は女御の御簾の前に座り、いろいろ注意点などを申し上げる。女御はうなずくと、身の回りの世話をする女房達に指示をする。
刻限が近づくと、橘がやってきて、女御のご機嫌伺いをする。準備が整ったとの播磨の報告で、女御は部屋を出て東宮の部屋に向かう。途中東宮妃の部屋の前を通ると、東宮妃であろうか、かすかに泣き声が聞こえる。橘は気になって、播磨に先導を変わると東宮妃の部屋に入って東宮妃をお慰めする。そして東宮から預かっていた文を渡し、東宮妃が読まれると少し落ち着いた様子で、橘に会釈をする。橘は安心して、女御御召の列に戻っていく。
東宮も意気消沈し、脇息にもたれ掛かって橘が用意したお酒を飲みながらいつも若宮が遊んでいた辺りを眺め、ため息をつく。眼を閉じると、若宮のかわいらしい声や姿がよみがえってくる。東宮は部屋の周りが騒がしくなっても気づかない様子で、お酒をあおっておられる。
「橘はいるか、酒がなくなった。持ってまいれ。」
周りの女房達は東宮の変わり様に驚きつつも、言われたとおりにお酒を運んでくる。ちょうどその頃、橘が部屋に入ってきて東宮に申し上げる。
「まあ!東宮様。飲まれすぎですわ。誰か、東宮様にお白湯をお持ちしなさい。東宮様、女御様の御召ですよ。」
東宮は橘の顔をにらみつけるという。
「和姫か・・・。まあいい。」
橘は他のものから白湯を受取ると、東宮に差し上げる。
「東宮様これを飲まれて正気になりあそばせ!お酒に溺れられてはいけません。さ、女御様が御召です。」
「そうだね・・・すまなかった橘。少し取り乱してしまったよ。和姫をこちらに・・・。」
橘は廊下で待っている女御を案内し、播磨と共に女御が入ってくる。そして東宮の前に座り頭を下げると、他のものは下がっていった。
「少し外で待たせてしまったようですね。見苦しいところを見せてしまった。若宮がいなくなった寂しさからかつい酒をあおってしまって・・・。昔から橘は躾に関しては相当厳しかった。大人になってもしかられるとは・・・。情けないな・・・。」
すこしはにかみながら微笑まれた東宮を見て、女御は微笑む。東宮はまだ酔いがさめていないようで、赤い顔をして脇息にもたれかかるとため息をつき、東宮は女御を見つめる。
「和姫、今まで辛くあたってきて悪かったね・・・。きちんと綾姫との身分差を和姫はじめ、和姫の女房達にもわかって欲しかったし・・・。わかっていただかないと争いごとが耐えないのも嫌なもので・・・。はは・・・。」
そういうと、立ち上がって女御の手を取ると、御簾の中に招き入れる。そして東宮は女御を抱きしめると女御の顔をじっと見つめ女御の頬に手をやり、キスをする。
「酒臭いでしょ・・・。和姫、私のこと嫌いになってしまわれたのかな・・・。」
女御は顔を赤くして照れながら、首を横に振る。東宮は十二単の帯を解き、酔った勢いで、女御との一夜を過ごした。
朝方東宮が眼を覚ますと、東宮の胸の中で女御は静かに眠っていた。少し経って、女御は東宮が起きているのに気がつくと、自分の乱れた小袖を調え、恥ずかしそうに下を向く。そういう姿を見て、東宮は東宮妃ほどではないがなんとも愛らしい女御だと思った。東宮は起き上がると、女御に単をかぶせ、自分も小袖の上に単を羽織り、脇息にもたれて女御の方を見つめる。女御は恥ずかしそうに、頭から単をかぶる。東宮は立ち上がって、御簾の外に出て、紙を取り出し、さらさらっと歌を書くと、御簾の中にいる女御にそっと渡した。
「和姫、こうして私達は夫婦になったわけだけれど、入内前に言った気持ちは変わっていないから、わかってくれないだろうか・・・。あくまでもあなたは形だけの側室・・・。これから悲しい思いを多々されると思いますが、我慢してください。あなたがそれでも言いとおっしゃったから・・・。さあ部屋にお戻りなさい。綾姫の部屋のものたちが気づかないうちに・・・。今晩と明日はそちらに参ります。」
東宮たちが起きたのがわかったのか、橘や播磨がそっと扉を開け、女御のもとに行くと、さっと唐衣を着付けたり髪を整えたりして、準備を整える。
「和姫、部屋に戻ったらゆっくり眠ったらいい。今日は誰も起こしに来ないようにしておくからね・・・。」
「東宮様・・・。」
「何?」
「東宮様って本当はお優しいのですね・・・。」
女御はそういうと、東宮の部屋を下がっていった。東宮は女御を見送ると、再び寝所に入り込んで横になる。
(昨晩のことはよく覚えてないのだけどな・・・それよりも頭が痛い・・・。)
起きた時の現状を見て昨晩の自分の行動は想像出来たが、まあしょうがないことと思って眠りについた。
第29章 節会
清清しい春が過ぎ、青々と茂る草花が眩しい頃、東宮は関白を呼んで話しをする。関白は春宮傅を兼任しており、いろいろ漢学やら政治に関しての指導の傍ら、相談にものっている。
「伯父上、お願いがあるのです。まもなく端午の節会があります。今年は若宮が初節句ですので、私も参加したく思いまして・・・・。」
「何をですか?もしや・・・。」
「競射馬術の催しです。久しぶりに出てみたいと思いまして・・・。」
「何と・・・・そのような・・・・いくら当代一の腕をお持ちとはいえ、東宮の身分で・・・。」
「わかっています。少将であった三年間は毎年帝にお褒めを頂きました。今年は若宮のお祝いも兼ねておりますので、ぜひ。もちろん驚かせたいので帝には内密に・・・。」
関白は少し考えて、答えを出す。
「わかりました。近衛府の大将殿や四衛府の督に根回ししておきましょう・・・ホントに私は東宮に弱いですな。」
そういうとどのように潜り込もうか、二人で話し込む。すると、関白は晃を呼んでさっと書いた文を渡すと耳打ちする。晃はどこかに出かけていき一時すると、政人と晃で馬を一頭連れてきた。
「この馬は・・・もしかして・・・。」
「そうです、東宮が少将の頃より可愛がられていた駿馬でございます。祭りの時も、節会の時も御使用になられました馬でございます。今まで関白家が譲り受け、大事に世話をしてまいりました。どうぞこちらをお使いください。」
以前は葦毛のせいか、黒がかった灰色をしていたが、今は色が変わり白に近い灰色になっていて姿かたちもよく、足は速く飛ぶように走り、大変利口な駿馬である。以前の祭りの際、この駿馬から落馬したきり、この駿馬には乗っていなかった。東宮は庭に下り、その駿馬の駆け寄ると、撫でて背に乗る。さすがに利口な馬なのか、東宮が乗っても無駄な動きはせずに、指示を待っている。指示を与えると今度はきちんと手綱の指示通りに動き出した。やはり乗っていても気持ちがいいようで、颯爽と庭を走り回られる。女房達は始め心配そうに眺めていたが、東宮の手綱捌きに皆感嘆する。関白もこれなら大丈夫だと確信し、東宮の希望をお受けすることにした。早速その日のうちに、大将や督に根回しをすると皆驚かれたが、当代一の腕を久しぶりに拝見したいと、了解された。もちろん当日までは帝などには内緒のことである。
当日帝を始めたくさんの殿上人や宮家の者達が武徳殿に端午の節会のために集まった。その中には若宮も初節句ということで、参加している。久しぶりに参内した若宮を帝はたいそう喜ばれた様子で、膝の上に座らせて、節会の催しが始まるのを待った。その隙に東宮は抜け出し、昔少将の頃に着ていた武官の束帯に着替えて、準備をする。そしてこっそり参加者に紛れようとしたが、東宮妃の兄上の左近中将やら、昔の同僚達に見つかってしまう。
「東宮様、なぜこのような格好で・・・。」
と左近中将たちが言う。すると東宮は微笑んでいう。
「別にいいではないか?若宮の初節句であるし、久しぶりに出たくなってしまったものだから。正々堂々とお願いしますよ。」
「東宮様の腕にはかないません。少将であられた時は毎年帝にお褒め頂くほどであられたのですから・・・私達と対等には・・・。」
東宮は微笑まれて、葦毛の騎馬に乗ると順番が来るのを待つ。
最後東宮の順番が回ってくると、帝に向かって会釈し、技を披露する。帝たちはたいそう驚かれて、
「あれは東宮ではないか・・・なぜあのような・・・・。」
といい、東宮の技をご覧になり腕がまったく落ちていないことに感嘆される。後宮の方々や東宮妃、女御も突然の東宮の参加に驚かれたが、昔と変わらない姿に東宮妃や女御は喜んだ。
「おお、今年は何とよい趣向か。皆の者も腕を上げられたが、東宮、そなたの腕にはやはり感動を覚える。今年の催しはとても満足に値する。褒美として皆の者に節会の宴を与える。ゆっくり楽しむがよい。」
そういうと、帝は催しを退出される。東宮も騎馬を降り晃に渡すと、若宮たちと共に、東宮御所に戻って行って今度は若宮のための私的な宴を御所で行った。
この宴は、東宮主催で、帝や後宮の方々、そして関白家、右大臣家、中務卿宮家など、親族の方々だけの身内の宴である。東宮は、催しの束帯のまま帰ってきたので、着替えようとしたが、帝や皇后、東宮妃が皆そのままのほうが面白くてよいと、着替えずに宴を始めることとなった。若宮はもう伝い歩きが出来るようで、乳母に両手を引かれて少しずつ歩いてこられる。ますます可愛くなられ、東宮も若宮を呼び寄せてみるが若宮は人見知りが始まったのか、乳母の後ろに隠れて出てこなかった。東宮妃は若宮を抱き上げて、東宮の前に連れて行き、東宮が手を差しのべおいでというと、少し考えながら東宮のもとに手を伸ばした。
「やっと父上様とわかられましたのね。本当にお久しぶりですもの・・・。」
と東宮妃がいうと、東宮は若宮の頭を撫でて頬と頬を合わせる。若宮はたいそう喜んで笑った。
「本当に久しぶりで父上の顔を忘れたか雅孝?」
そういうと、宴が行われる寝殿に連れて行く。
寝殿に着くと、もう招待を受けた方々がもう揃っていたので、着席後に東宮は皆に挨拶して、宴会が始まる。宴会が中盤になると、ほんのり酔われた帝が提案をする。
「常長、お前の得意な馬術をもう一度見せておくれ、今日の催しはとてもよかった。」
「まあ、帝、そのようなことを・・・少し酔われたようですわ・・・東宮も少しお酒が入られていますし・・・。ねえ東宮。」
「いえ、構いませんよ。そんなに酔っておりません。」
東宮は晃を呼んで先程の駿馬を連れてこさせると、寝殿前の広い庭に下りて駿馬に乗られる。そして先程の技を披露すると、招待されたものたちは大喝采で、帝もたいそうご機嫌がよく東宮をお褒めになった。東宮は若宮の乳母を呼び若宮を受取ると、自分の前に座らせ、馬に乗せる。
「雅孝、親王であろうと馬術は出来ないといけないよ。また大きくなったら教えてあげよう。」
そういうと馬を歩かせ庭を一周すると、若宮は大変喜んだ様子で、馬を降りようとしなかった。すると関白が東宮に申し上げる。
「その馬は関白家が譲り受けたものですが、それなら若宮様に初節句のお祝いとして献上いたしましょう。とてもおとなしく利口な駿馬ですのできっと成長された若宮様にぴったりだと思います。」
「ありがとうございます伯父上、きっと若宮ももう少し大きくなられた時に乗りこなすことでしょう。」
そういうと、東宮と若宮は馬を降り、席につく。若宮は少し疲れた様子で乳母に抱きつき、すぐに眠ってしまった。乳母は若宮を抱き退出していった。宴はたいそう盛り上がり、お開きになる。
東宮が部屋に戻る途中、東宮女御は東宮を呼び止めると、空いたお部屋に入っていただいて他のものを遠ざけて申し上げる。
「東宮様、お願いがあります。きっとわかってはいただけないと思って申し上げます。」
「何ですか?このようなところに呼んでまでの話でしょうから、きっと他の者に聞かれてはいけないこと?言ってごらんなさい、出来る限りのことは前向きに考えてあげるから。」
女御は顔を赤らめ一息ついて東宮に申し上げる。
「きっと東宮様は形だけ妻であるの私の願いなどは聞いていただけないと思っておりますが、どうしても欲しいものがございます。それは・・・。」
「どうしたのですか?言ってごらんなさい。寂しい思いをいつもさせていますから、何か犬か猫でも用意させましょうか?鳥でも何でもいいですよ。」
女御はよこに首を振って申し上げる。
「いつもかわいらしい若宮を見て、思いますの・・・その・・・私にも一人でよろしいから東宮様のお子を賜れないでしょうか?内親王でも構いません。願いいれては頂けない事と承知しておりますが・・・。」
東宮は少し驚いた様子で顔を赤くして少し考えていう。
「前向きには考えておきます。こういうことは・・・頃合を見て・・・。」
顔を赤くして、東宮と女御は部屋を出てきたので、女房達は少し変に思ったが、あとは何事もなかった様子で、東宮の部屋に入られていくのでなんでもなかったのだと思ってそのままにされる。東宮の部屋にはすでに東宮妃と若宮が待っており二人で遊ばれているのを見て、東宮は二人中にお入りになると、女御も呼んで若宮と一緒に遊ばせになった。東宮妃も今まであまり近くに呼んでも来なかった女御の若宮と遊ぶ姿を見て、驚いた反面自分のことを敵対されてないのだと思い安心される。
「綾子様、とても羨ましいですわ。私も若宮のようなかわいらしい御子がいればいいのですが・・・。」
「いずれよき日が来ればきっと和子様にも授かりますわ。」
「綾子様・・・。このような私にも御子が出来るでしょうか?」
東宮妃は女御に微笑まれて、縦にうなずき返事をする。和やかな二人を見て東宮は安心する。
第30章 帥の宮の帰郷と過去の罪
春の除目によって大宰府に赴任されていた帝の弟宮である帥の宮が大宰府より戻ってきた。あることが理由で十五年の長きにわたり、大宰府に赴任されていた。東宮兄宮の亡き院が病気になられた際も、この宮が東宮として内々で候補に上がられたのだが、あることが理由によって、候補からはずされ今の東宮に内定をした経緯がある。東宮は五歳の時に一度会った事がある。しかし覚えているわけがない。御年三十五歳。帝と五歳年下、同腹で姿かたちは帝や東宮に似ておられるが、やはり大宰府に長年赴任されていたためか、なんとなく鄙びた感じのある宮である。帥の宮の北の方は現関白の妹姫である。皇后とは同腹ではないが、皇后より三歳年下の姫である。お子様に恵まれていない。
帥の宮は戻られてすぐに、帝の御前に挨拶に伺った。帝の御前には東宮を始め関白も同席された。もともとこの除目は皇太后であられる帝と帥の宮の母宮の願いで決められてことであり、ちょうど弾正尹宮が昨年末亡くなってしまった事も重なったので、ちょうどよいとして帰郷を勧めた。
「この度は大宰府より都にお呼びいただきありがとうございます。兄いえ帝もご機嫌も麗しく、安堵しております。」
「うむ、良く無事で帰ってこられた。この度は母上の願いで決まったこと。ちょうど弾正台の督が空いたのでそれをあてただけ。決してあのことについては許したわけではない。わかっておるな。」
「はい心得ております。」
「しかしそなたの性格はよく知っている。信頼は出来ん。まあいい、がんばって精進しなさい。さて、もうご存知のように一昨年、私の二の宮が立太子した。覚えておられるか、常康を。いろいろあって現内大臣の子として育ったが、今は東宮として生活している。まだ親王としての生活が浅いので、何かあればよろしく頼んだよ。」
帥の宮は頭を下げ退出しようとすると、関白は帥の宮に伺った。
「私の妹由子姫は元気でおりますか?」
帥の宮は振り返って関白に言った。
「あれは昨年流行病で亡くなりました。子宝にも恵まれず、かわいそうなことをいたしました。では。」
関白は残念そうな顔をして、帥の宮の後姿を見つめた。
「そうか由子姫はお亡くなりになられたか、きっとあの帥の宮の件でいろいろあったからであろうな・・・。かわいそうなことを・・・。」
と帝は関白に言う。東宮はあのことが何かが知らないので、話の筋がわからなかった。
「父上、帥の宮のこととは何なのでしょうか?」
帝は扇を鳴らして、周りのものを遠ざけると、東宮に御簾の中に入るように促し、小さな声でお話になる。
十五年前、東宮が五歳の頃、ちょうど東宮御所が火災に遭い、当時東宮妃の実家が仮住まいとなっていた。もちろんここは亡き関白の邸宅であり、東宮妃のご家族も一緒にお住まいなので、警備やらなにやらごたごたしていたのは言うまでもない。一時、常康は仮の東宮御所にいたが、慌しさにしょうがなく大将邸(現内大臣)に戻っていた。当時お妃は一人であったので、もともと東宮妃のいた部屋に東宮はお住まいになった。そして隣の対の屋は東宮妃の妹姫の由子姫の部屋で姫のお相手である式部卿宮(帥の宮)はそちらに通っておられた。もちろん東宮妃は妹姫とも仲良くされていたので、何度も偶然式部卿宮は当代一の姫君言われる東宮妃の姿を見ることがあった。そして一方的な恋心を抱いた。ある日、東宮が急な参内で帰りが夜遅くなった時に事件が起きた。丁度東宮が部屋に近づいたこと、東宮妃の悲鳴が聞こえた。あわてて東宮が部屋に入ると、式部卿は寝所に寝ているはずの東宮妃を押し倒していた。驚いた東宮は、式部卿を引き離し式部卿を投げ飛ばされた。
「弟宮とはいえ、このような行為は許されるべきではない!このことは父上に報告する。いいな!」
式部今日は悪びれた素振りを見せず、部屋を出て行った。東宮妃は東宮の胸に飛び込んで、泣きながらたいそう震えた。
「何事もなかったか?怪我は?」
東宮妃は擦り傷と、押さえたれた時のできた両手首のあざがあったがそれ以外は何もない様子であった。それ以来、東宮妃は東宮から離れようとせず、東宮もそれ以来東宮妃をお放しにならないようになった。もともと式部卿は浮いた噂がたくさんあり、既婚女性との浮名も多々あることから、父宮である帝がたいそう立腹して大宰府に赴任させた経緯がある。もちろんこのような場所には御所が置けないということで、特別に内裏の部屋を賜って御所が完成するまでそちらでお過ごしになった。
そのような十五年前の事実を知って、東宮は驚いた。そして帝は続けて言われる。
「決して東宮御所に近づけるのではありません。性格というものはすぐに直るものではなく、東宮のもとには当代きっての麗しさの東宮妃と女御がいる。目に留まってしまえば、同じことが起こりえるかもしれない。私の後宮にも気をつけないといけない。本当に皇太后は経緯をよくご存知ではないから、息子可愛さに帰郷をせがまれたのだ。」
というとため息をつれて退出なされる。東宮は、関白と共に後宮にいる皇后のもとに伺う。するとそこには東宮妃と東宮女御がお邪魔していた。
「まあ東宮、いいところにいらっしゃったわ。ちょうどお二人と珍しい絵巻物を見ていたのよ。」
東宮は部屋に入ると、東宮妃と女御の間に座り。関白は少し離れたところに座る。
「まあお兄様、気になさらずにこちらへ・・・。」
「いえ、お邪魔のようですから手短に報告を・・・。」
そういうと、皇后の近くによって小さな言葉で話した。
「例の帥の宮本日帰郷になられました。そして由子のことなのですが・・・。」
「由子姫がどうしたの?」
「昨年亡くなったようです。きっと心労もかさなってのことでしょう。残念ですが・・・あの時大宰府行きを止めておけばよかったものを・・・。」
「そうですわね・・・帝は何と?」
「お気をつけくださいとのこと、では私はこれで・・・。」
「お兄様、ありがとうございます。」
関白はそういうと皇后の部屋を退出されていった。東宮は関白の声を気にしながら、東宮妃と女御のお相手をした。本当に妃のお二人は楽しそうに皇后の絵巻物を見てお話をした。皇后はお二人が仲良くされているのをうれしく思ったようで、微笑まれる。
「本当にかわいらしい姫君たちだこと。このような姫君たちでさぞかし東宮も毎日が楽しいでしょう。」
「母上、またそのような・・・。」
と東宮は照れながら申し上げる。
「それよりも帥の宮のことは知っていますね。お気をつけて・・・。このように麗しい姫君たちですもの・・・。まあ摂津も橘も播磨もお二人たちについていることですし・・・。」
東宮は苦笑しながら会釈をすると、お二人と一緒に絵巻物を眺めた。
第31章 女御の願い
五節のひとつである七夕の日、東宮御所でも七夕の祭りをすることになっており、御所内の女性達は一人一人短冊に願いを込めて書いている。裁縫、歌、書道上達を願うもの、恋愛を願うもの、そしてこの中にも必死で願い事を考えておられる方がいた。それは女御である。今日は東宮妃が女御を部屋に一緒にお菓子でもつまみながら書きましょうと呼んだので、女御は東宮妃の部屋で願い事を考えることになった。
「和子様は何をお願いになるの?」
女御は東宮妃の言葉に頬を赤らめて言う。
「もちろん・・・その・・・・。」
東宮妃は女御が言いたいことがわかったようで、微笑んでそれ以上は聞かなかった。
「私も和姫様と同じことを考えていますの。若宮にもそろそろご兄弟が必要ですわ。お互い叶うといいですね。」
と東宮妃が言うと、女御はうなずいて短冊に歌で願いを書き出した。それを見て東宮妃も歌を短冊にすらすらと書いた。そこへ公務を終えて戻ってきた東宮が、二人の様子を見て
「そういえば今日は七夕でしたね。清涼殿の女官達も皆そわそわしていたよ。綾姫に和姫は何を願ったのですか?」
東宮妃と女御は書いた短冊を隠してしまったので、東宮は苦笑した。
「あなた方は何をお隠しか?この私にお教えいただけないとは。ずるいですよ、お二人とも・・・。仲良く内緒にされるなど・・・。」
すると二人はむくれた様子で同時に短冊を東宮に見せた。東宮は同じような内容で驚き、扇で顔を隠して苦笑した。
「お二人共ですか?いろいろとがんばらないといけませんね・・・。」
というと、東宮妃はいった。
「和子様を先に叶えさせてあげたらどうかしら?私には雅孝がおります。私は構いませんわ。」
「綾子様・・・もう!東宮様がお困りに・・・・。」
「いいのですよ、これくらいいわないと常康様は動きませんから!」
東宮は笑いを堪え切れない様子で、扇を顔に当てて大笑いする。
「それなら今晩和姫を呼びましょうか?」
「綾は構いませんわ。今まで綾が常康様を独り占めにしていたのですから、和姫様にお貸しします!」
「私は物ではありませんよ、綾姫・・・・。貸すだの借りるだの・・・。」
女御は扇で顔を隠して微笑みながら黙っていた。
女御の御召は月に数回程度であったが、この月に至っては三日に一回という御召があった。東宮はお二人が喧嘩をなさらないようにと、東宮妃もほぼ毎日の御召を三日に一回の御召にした。その甲斐あってか、お二人ともほぼ同時に御懐妊されたのです。
第32章 月見の宴で
葉月十五日中秋の観月会が清涼殿にて帝主催で行われる。月見の宴が催され、殿上人に無礼講として酒などが振舞われる。そして後宮でも、皇后主催の宴が催されている。ちょうど、東宮のお二人の妃がご懐妊の兆候がありというので、一人一人順番にお祝いの言葉をおかけになる。もちろん先の帥の宮こと弾正尹宮も出席している。弾正尹宮ただひとり離れたところで、照れながら殿上人たちからの挨拶に対応している東宮を見つめて苦笑される。そして近くにいるある侍従に近寄り、何か話している。
「東宮妃と東宮女御様ですか?それは大変麗しい姫君と聞いております。東宮妃綾子様は摂関家の流れをくむ右大臣様の三の姫様。そして東宮女御和子様は帝の覚えのよろしい中務卿宮の一の姫様であられます。東宮妃様は東宮の若宮様の御生母であられますので、何度か帝の御前にいらっしゃった折にお見かけはいたしておりますが、噂どおりの麗しい姫君でしたよ。それが何か?」
「いや、最近こちらに戻ってきたのでよくわからないもので・・・ありがとう。」
もちろんこの侍従はこの宮がいろいろ噂されていた人物とは知らない上に帝の弟宮ということで、聞かれるまま返事をした。
(そうか麗しい姫君たちと・・・一度この目で見てみたい)
弾正尹宮そう思うと、立ち上がって宴の会場を離れる。それに気がついた東宮は、側に控えていた晃と政人を呼び、そっと弾正尹宮をつけさせる。そして東宮は先程の侍従を呼ぶ。
「さっき、弾正尹宮と何か話していたようだけど、何を話していたのですか?」
「それが・・・東宮妃と女御様のことをお聞きになられました。どのような姫君かと・・・。」
「わかった。今から皇后のもとにご機嫌伺いに行こうと思う。このような宴会中に申し訳ないが、左近中将をこちらへ・・・。」
侍従は東宮の命を受けると、左近中将が急いで東宮のもとにやってきたと同時に政人が東宮に報告する。
「弾正尹宮さま後宮の方に向かわれました。今晃がつけております・・・。」
東宮はうなずくと、左近中将と共に後宮の皇后の所へ向かう。帝も東宮の異様な慌しさに気づいたようで、少しの共の者を連れ清涼殿を出て後宮に向かい、東宮と合流した。
「何かあったのか、東宮。」
「弾正尹宮が動きました。今日は宴のために各所警備が疎かになりがちなので、晃と政人を控えさせていたのが正解でした。何事も起こらなければいいのですが・・・・。」
「うむ、適切な行動をされた、さすが東宮・・・。左近中将殿は東宮妃の兄であるから丁度よい。何かあったときに役に立つ。左近殿、何か言うまで影で控えて欲しい。」
左近中将は会釈をすると、皇后の部屋の近くに控えて帝の指示を待つ。東宮は近くの茂みに人影を感じると、そっと庭に降りてその人影に近づいた。そこには晃がいたのだが、晃がある方向に指をさすと、そちらにはやはり弾正台尹宮が立っており、皇后の部屋の様子を伺っていた。皇后の部屋はいろいろな几帳で皇后を始め、後宮の女御様方、東宮妃、東宮女御様たちが見えないようにしてあったが時折強い風が入ると几帳がめくれ、一番下にいる東宮女御の姿が少し見える。そしていつも側に一緒にいる東宮妃も・・・。お二人とも気づかれていない様子で、歓談している。弾正尹宮が一歩踏み出そうとすると、宮の後ろから声が聞こえる。
「叔父上、ここで何をされているのでしょう。ここはあなたのような方はいてはならないところですが・・・・。」
弾正尹宮は振り返って苦笑する。
「今晩は季節柄珍しいとても麗しい華を二つも拝見させていただきました・・・。本当に東宮は羨ましい・・・あのような華をお持ちとは・・・。」
「私の華に手を出されては困ります。もちろん帝の華にも・・・。わかっておられますね・・・次はあられないとお心得ください。私は以前三年程近衛少将をしておりましたので、腕には自信があります。近くには左近中将殿も控えております・・・。」
「今日のところはこれで引き下がっておくよ・・・。」
そういうと、弾正尹宮は後宮をあとにする。東宮は立ち去ったのを確認するため、晃に後をつかせ、待っていた帝と合流し、左近中将を月見の宴に帰した。東宮の不安そうな表情を悟ったのか、帝は複雑な様子で皇后たちのいる部屋に入っていく。突然お二人が入ってきたので皇后を始め一同は驚いた様子で、会釈される。
「月見の宴を邪魔して悪かったね。こちらの宴はどのようなものかと気になって供もつけずに来てしまいました。気にせずどうぞお続けなさい。」
そういうと、部屋の隅のほうで東宮とともになにやら真剣な表情で話をしだした。その様子を見て皇后は何かあったからこちらにお二人が来たのだと悟られた。すると東宮は立ち上がって、庭の方に出ると戻ってきた晃となにやら話して戻ってくるとまた帝と話し出した。帝は少し表情を緩めると、皇后の側にお座りになった。そして皇后の耳元で何かをお話になる。皇后は驚いた様子で、東宮と東宮妃、女御達の方を見つめていう。
「綾子様、和子様、もうお疲れでしょうからお開きにいたしましょう。大事なお体に触りますわ。東宮、さあお二人と一緒にお帰りなさい。」
東宮は会釈をすると、二人の女房達に指示をして準備をさせる。東宮のお二方は皇后にお礼の挨拶をすると、東宮とともに東宮御所に戻っていった。
東宮御所に着くと、東宮はお二人を横に座らせて改めて中秋の名月を見る。
「宴ではこのように綺麗な月は見ることが出来なかったよ。やはりお二人が側にいてくれるからかな・・・。始めから三人で宴にも出ずに眺めておけばよかったよ・・・。」
というと東宮はお二人の肩を寄せてゆっくりと月見をしていると、慌てて橘がやってくる。
「まあ!東宮様このようなところではお二方のお体が冷えてしまいますわ!摂津殿、播磨殿!早くお二人をお部屋にお連れして。」
摂津は東宮妃を、播磨は女御を連れて部屋に戻っていく。
「東宮様、お二人のお体には東宮様のお子たちがおいでですよ!何かあったらどうなさるおつもり?それでなくても懐妊の兆候が出たばかりで不安定な時期ですのに・・・。御召もお控えに・・・。」
「ごめん、橘。今日いろいろあってね・・・つい綾姫と和姫を放したくなくなってしまった。」
「まああれほど和姫様のことお飾りだと言われておられたのに?」
「そういえばそうだね・・・。情が出てきたのかな・・・。綾姫に怒られそうだよ。でも綾姫も和姫も喧嘩ひとつせずにまるで姉妹や友達のように仲良くされているし・・・。それとなんだけど、橘は知っているのだよね、父上の弟宮のこと・・・。」
「はい・・・存じ上げております。何か?」
「今日、母上主催の宴でね、弾正尹宮が綾姫と和姫の姿を見てしまったのだ。いろいろあるお方だし、綾姫と和姫に興味を持たれた感じがする。あのお方のことだからどのような手を使って忍び込まれるかもしれないから、摂津や播磨に徹底させるように頼んだよ。特に内通者などはもってのほか。帝の使いだと来られてもこの私を通して欲しい。一応晃や政人には気をつけるように言っているが、晃にはここのところ休みをやってないからなあ・・・。私には公務があるから一緒には居てやれないし・・・。綾姫の女房達は心得たものばかりだから言いのだけれど、問題は和姫の女房達。とりあえず頼んだよ。」
「はい心得ました。」
(父上も警備を増やすとの仰せだから・・・でも・・・)
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