16.優しい言葉



「ティティ!恐い!」


ルカが腕にしがみついてきた

その手を同じくらい力いっぱい握り返した



「何があったのかしら?!」



王子は側近と走って行った



「ルカ、ここにいて」

「え?!ちょ、ティティ?!」



ガサガサと茂みをかき分け、騒がしい方へと小走りに進む



騒がしいのは宮殿の方角のようだ



女たちが悲鳴をあげながら王宮から出て来る



「何があったの?!」



その中の一人を捕まえて聞いてみる



「あ、暗殺者たちがファ、ファラオを・・!!」

「暗殺者たちの人数は?!」

「そ、そこまでは知らない!でも、一人や二人ではないことは確かよ!お願い離して!アナタも逃げないと危険よ!!」



ティティの手を振り解いて、転がるように逃げていく



「暗殺者・・」



セナトス将軍も応戦しているのだろうか?

先に行ったハルノートン王子はあんな濡れた衣服で戦えるのか?



急に胸がざわざわと騒ぎ出す・・・

恐怖と愛する人を案ずる気持ちが入り乱れる



将軍にまさかのことがあったら・・・

その前に暗殺者と鉢合わせしちゃったら?!



おそるおそる宮殿へと足を踏み入れた



柱の影からそっと覘いてみると・・



「ヒィッ!」



そこには暗殺者らしき男たちが数人床に倒れていた

し・・死んでる?!



し、死体なんて初めて見た・・・

脚が震えだし、歯がカチカチと音を立てる





「ファラオの傷の手当てを急げ!医師は呼んだのか?!この者たちがどこの国の者が早急に調べよ!」

「ハッ!」



テキパキと指示を出すセナトスの姿がそこにあった





「王子、後は我々が処理いたしますのでお召し変えを・・」

「うむ・・」



側近に促され、自分の宮殿へと向かうハルノートン



その様子を横目で追うセナトス



「王子、そのままのお姿で水浴びですか??おかしな趣味ですね」

「・・・・・」

「これは失礼。風邪をひかれる前にどうぞお召し変えを」



笑いを堪えているのがありありとわかる



「セナトス、そなたに・・・」

「はい?」

「いや・・よい。言葉遣いに気をつけるがいい」

「ハッ!申し訳ございません」



目は笑っている・・・



いつも通りの生意気な将軍の口ぶりに、急に安心したのか

ティティはその場にへたりこんだ



「ハ・・ハ・・クション!!」



「誰だ!!」



セナトスがすばやく走りより、ティティに剣を突きつける



「おまえ・・・」

「す、すみません・・・」

「何をしている??しかもその姿・・・」



カチンと剣を戻す



「すみません」

「王子も同じような姿だったが・・・」

「それは・・・」



将軍は何て思うだろう??

どう考えても普通じゃないよね、怪し過ぎる!!

なんて説明しよう?

宮殿を脱走しようとして溺れて、王子に助けてもらいましたって?!





しかし、セナトスはそれ以上なにも聞かなかった



「風邪ひくぞ」



おもむろに自分のマントを肩から外すとティティにかけようとした



しかし、ふと手を止め

「チッ!暗殺者どもの返り血がついてやがる・・・ダメだな」



無造作に髪をクシャクシャにしながら何か代わりの物がないか

辺りをキョロキョロ見渡している

その姿がなんとも可愛らしく、少年のようだ



「ププッ!」

「!な、何を笑ってる?!」

「も、申し訳ありません!」

「お前の方が笑える格好だろう?!」

「その通りでございます!」

「外に行け!自然と乾く!!早く行け!」

「はい!失礼致します」



外に向かって歩き出すと



背後から

「・・・何か・・あったのか?おまえ・・大丈夫か?」



ぶっきらぼうだが、明らかに心配している声だ

乱暴な口調の中に優しさを感じ、ティティの瞳から涙がブワッと溢れ出た



こ、こんな顔見られたくない・・



「お、おまえは笑ってる方がいいぞ・・!!じゃあな!風邪ひくなよっ!」





バサッとマントを翻す音がして、足音が遠ざかっていった





「フゥ・・ッ!」



大きく息をついて気持ちを落ち着かせる



「とりあえず!服を乾かすかっ!」



セナトスの優しい言葉はティティをいっきに元気づけた







もう少し理由を聞いてみるべきだったか?



セナトスは王子とティティが二人揃ってずぶ濡れだったことが

気になっていた



あの二人、何かあったのか?



血のついたマントをバサッと侍女へ渡す



「あの、将軍・・・」



まさか本当に水浴びでもしたのか?!



「あの・・将軍・・?」



「なんだっ!!!先ほどからっ!」

「も、申し訳ございません!ですが・・ハルノートン様が・・」

「王子がなんだ?」

「お呼びでございます」

「・・・わかった。すぐに行く」




























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