ねねみにみず

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『からくりからくさ』『りかさん』梨木香歩


からくりからくさ ( 著者: 梨木香歩 | 出版社: 新潮社 )
りかさん ( 著者: 梨木香歩 | 出版社: 新潮社 )
 えー、昨日に引き続き、女性作家の小説を選ばせていただきます。かなり何度も読み込んでいる作品ですので、今回は流し読みで、あっというまに終わりました。『落下する夕方』に負けないくらい(初めて読んだときは)動揺していました。この前「本を読んで動揺することはあまりありません」みたいなこといいましたが、嘘かも・・・・・。
 『からくりからくさ』は、4人の個性的な女性と一体の魂を持っ(てい)た人形の、奇妙な同居生活の話です。そのうちの一人、蓉子が主人公のていをしています。どの女性に肩入れするかは、読者によって違うでしょうし、何度か読むと、その時の読み手のコンディションでかわることもあると思います。

 蓉子は自然体で、思いやりがあり、周囲のものすべて(人でも植物でも)を優しく癒していく包容力の持ち主で、女性なら誰でもこういう風にありたいと思うのではないでしょうか。幼少の彼女と人形の「りかさん」との出会いを描いた話が続編の『りかさん』です。
 与希子、マーガレットはそれぞれマイペースに自分のアイデンティティをさぐっていて、そのマイペース加減がときにかたくなな印象を与えます。
 以上の三人の話もそれぞれいろいろあるのですが、今回私が特にとりあげたいのは、紀久の話です。
 紀久は普段物静かで聡明な4人のまとめ役です。しかしうちに秘めている情熱は最も激しいものを感じさせます。『からくりからくさ』は読みようによって紀久の嫉妬の話であるようにも見えます。文庫版『りかさん』の中に収録されている『ミケルの庭』と合わせて読むと、ますますその感が強くなります。『ミケルの庭』を読んだ友人の感想、「紀久は私だったよ」という言葉、それはまさに私が思っていたことそのままだったのでびっくりしてしまいました。
 紀久の恋人であるとも知らず、マーガレットは神崎の子を身ごもってしまう。それをほかの二人から知らされた後の紀久の苦しみは、どこまでも静かで、深い。からくさ模様は、偶然集まった四人の、先祖たちのからまりあった因縁を象徴もしていますが、蛇から竜、竜女(嫉妬に狂って鬼になった般若の更に先の形)へとイメージが発展し、紀久をからめとる嫉妬のモチーフにもなっています。
 この苦しみを、紀久は一人で乗り越えます。私はそれを好ましく思いました。蓉子のように、鬼になる心と縁遠く生きられる人もいるだろう。しかし、紀久のように鬼になる心と一人で真正面から向き合って、決着をつけていく生き方も、同じくらい強く輝いている。
 『ミケルの庭』で、紀久は忘れていた嫉妬の亡霊との対峙を余儀なくされます。今度は、紀久は蓉子に助けられます。たった一言で。誰でもそうでしょうが、蓉子のような存在が欲しい、と思わずにはいられない瞬間です。そして、自分は誰かにとって、蓉子のような存在になれるのだろうか、と。
 思いやりってなんだっけ?・・・・と思ったら(笑)。おすすめの二冊です。(2004/11/06) 

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