Nonsense Fiction

Nonsense Fiction

2007/05/11
XML
テーマ: 短編を作る(405)
カテゴリ: 連作短編

( ) っていた。女心と秋の天とはよく云ったもので、朝は雲ひとつなかった天から、雨粒が勢いよく地面を叩きつけている。
 会場の外に飾られていた鉢植えを非難させていた係員が、タクシーを呼びましょうかと声を掛けてきた。車で来ているからと断ろうとして、駐車場までの道のりを考え、しばし逡巡する。自分が濡れるのは構わないが、商売道具が濡れるのは避けたかった。一応、防水のカバーを掛けてあるが、それだけでは間に合わないのではないかと思う程の零りなのだ。
「よりによって、傘を車に置いて来るとは」
 自分の莫迦さ加減に情けなくなる。里帰り中の我が奥方に云われて持って来た傘は、車の後部座席に放置したままになっていた。今朝、実家から、わざわざ僕に忠告しに電話を ( ) れたというのに。
「そんなことだろうと思ったよ。はい」
 会場の庇の下で肩を落としていると、見慣れた傘を差しかけてくる者がある。
「あれ? 来てたの」
「久しぶりだね。義兄さん」
 傘を拡げて人懐っこい笑みを浮かべていたのは、我が奥方の弟であった。


 義弟に会うのは、まだ片手の指で足るくらいの回数でしかない。成長期の彼は、会う度に大きくなる。最初に会った頃は姉と変わらないくらいだったのに、今では僕をも追い越しそうな勢いだ。窮屈そうに、大きな ( からだ ) を決して小さくはない傘の下におさめている。
「大きくなったなぁ。もうちょっとで抜かれちゃうね。来年成人式だっけ?」
「そう。ついでに云うと、来月で二十歳」
「じゃあ、誕生日にはお酒を贈るよ。日本酒はいけるクチ?」
「そう云えば、義兄さんの親戚に造り酒屋があるんだったよね。でもそれ、未成年に訊くことじゃないだろ」
「あはは。でも、呑んでるんでしょ」
「呑んでるけど」
 皮肉なことに、駐車場に着くと雨は小零りになった。義弟を助手席に乗せ、この後は直帰できるので、何処か行きたい処があるかと問うと、菊の花が見たいと云う。それならば会場に引き返そうと提案したのだが、彼はもっと他の菊が見たいと主張した。
「他って云ってもなぁ」
 たしかに今は菊の盛りだ。だが、現在、このあたりで一番菊が集まっている ( ところ ) は、今出てきた会場に違いない。それに、二十歳そこそこの若者に菊を見せてもつまらないだろうという疑念もあった。折角来たのだから、どうせならもっと喜びそうなところに連れて行ってやりたい。しかし彼は、他の遊興施設には興味がないようだった。菊がいいと云ってきかない。
「義兄さんのお母さんが、畑で育ててるんだろ? 姉ちゃんに聞いたことある。それでいいよ」
「育ててるって云っても、墓に供える程度しかないよ」
「それで十分」
「変わってるなぁ」
「義兄さんに云われたくないね」
 そこで僕は、母が市から借りている山の一角へと車を走らせることになった。


つづく








去年の9月か10月にやろうかと思いつつ、ボツってたネタ。
(彼岸花、コスモス、菊で迷って、一番に切り捨てた)
その時は奥さん視点で、出てくるのは小さな男の子の予定でした。


ということで、過去の話と思ってください。
もちろん、独立形式なので、今までのと切り離して考えていただいても構いません。


最終的に書いたのは今年の4月。
急に思い立って数時間で。
でも、載せるのは『珠縁』の後にしようと思い、あっちができていなかったので保留にしていました。


そうこうしているうちに、もう一つ番外編を書くことになったので、それが出来てからら載せようと思っていたのですが・・・・・・。



うーん、どうしたもんか。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007/06/14 11:08:32 PM
コメントを書く
[連作短編] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Calendar

Favorite Blog

Hummingbird (とおこ)さん
俳ジャッ句      耀梨(ようり)さん
しかたのない蜜 ユミティさん

Comments

雪村ふう @ ぼっつぇ流星号αさんへ 旦那からすると、(若かりし日の)姑の方…
雪村ふう @ 架月真名さんへ いつも読んで感想くださってありがとうご…
ぼっつぇ流星号α @ なるほどねぇー なんかタイムパラドックス的な感じ(?)…
架月真名 @ リクエストに応えてくださってありがとうございました!! 子供が生まれるまでの姑さんの生き地獄の…
雪村ふう @ 架月真名さんへ 赤ちゃんの描写を褒めていただけて嬉しい…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: