Nonsense Fiction

Nonsense Fiction

2007/05/14
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テーマ: 短編を作る(405)
カテゴリ: 連作短編




 その夜、一人でそうめんを啜っていると、我が奥方から電話があった。義弟の意識が戻ったのだと、泪声で語る。普段は喧嘩ばかりしているように云っていたが、やはり心配だったのだろう。彼女の声は、安堵と歓喜に溢れていた。
「良かったね」
 僕は彼女ではなく、義弟に向けて呟いた。ほら、きみの存在は彼女の中でもこんなに大きい。
「あんまり驚かないのね」
 彼女は僕の反応が不満だったらしい。つまらなさそうに云う。
「ああ、電話が鳴った時、なんとなくそんな気がしたから」
「わたしはまた、弟があなたの処にでも現れたのかと思った」
「っ、まさか」
 僕はむせそうになったが、辛うじて誤魔化した。彼女は非現実的なことは受け入れない性質だったのだが、僕といる所為か、最近、こういうことに順応しつつあるようだ。
「あ、でも、きみの弟と同じくらいの齢の子に会ったよ」
 僕は、義弟だということは伏せて、彼のことを話した。云わないという約束ではあるが、少しでも、彼の気持ちを彼女に届けてやりたくなったのである。
 しかし、僕が話し終えると、彼女は全く見当違いのことを口にした。
「その子、あなたのことが好きだったのね」
「なんでそうなるの。だいたい男の子だったんだよ」
「それも有りなんじゃない? 今日は重陽の節句だし、その子、あなたに菊の花が見たいと云ったんでしょう?」
「それとこれとの関係性が分からないんだけど」
「そりゃ分かってたら、そんなに暢気ではいられなかったでしょうね」


 数日後に見舞いに訪れた時、義弟は生霊になって僕の前に現れたことなど、何も憶えてはいなかった。何かを吹っ切ったような清清しい表情からは、彼が誰を好きだったのかを窺い知ることも、僕には出来なかった。しかし、或いは、彼女は何かを知っていたのかもしれない。視えなくとも、たしかに繋がる絆があるように。
 悪態を吐き合いながらも、かいがいしく世話をする彼女と、それを煩そうに受け止めている義弟を微笑ましく眺めながら、僕は、二人の間に入っていけないのは、自分の方だと感じていた。














読んでくださってありがとうございました。


わざと、分かる人にしか分からないようにしていたのですが、『月白く』を先に載せたから、あっちを読んでる方にはバレバレですよね(汗)
あの話は、これを書いていて思いつきました。
この設定を利用すれば、かねてからやってみたかった性別でのどんでん返し(?)ができるかもしれないと。
今までBL的なものを書いてないから、なんとかいけるだろうと思ったんです。


ちなみに、これを書いた時点では、私は『雨月物語』の『菊花の約』は知りませんでした。
なんか似たようなところがあるみたい(読んでないから詳細は知らない)ですが、ただの偶然です。念の為。


どうでもいいけど、後で考えたら(←考えるな)、この話、なんかえろいっすね。
(奥さんの指摘を見て気が付いた/汗)







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Last updated  2007/06/17 04:50:01 PM
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