クレドのにっき

クレドのにっき

零~天倉 澪 陸~

 古めかしいそれは、今で云うところのカメラであるようだった。
それは、ファインダーを覗けば有り得ないものを映す、そう、私の、(おねえちゃんの、)見ている世界が見える。この世を歩く、死者の姿を映すのだ。
それはどうも「射影機」というらしかった。
そんなことは関係無い。
初めて射影機の力で女性の霊を封印した後、私は幻影を見ていた。
長い長いユメ、双子、ミコ、アカニエ、…解らない、何を云ってるのよ?!
そして、おねえちゃんはふらふらと紅い蝶に連れられて…
「そうよ、おねえちゃん!」
私は飛び起きて、周囲を見渡す。夢の通りに、姉は居なかった。射影機を小さく折り畳んで、ポケットにいれると、扉へ走る。
「おねえちゃんっ」

「――紗重!」


今、将に彼女は戸を開けてこの家を出る所だった。彼女は私の声に振りかえり――
「ごめんね。あたし、いかなきゃいけないの」
そう、無造作に言い放った後、戸を開けた。私は呆然と金縛りにかかったように、動けず、彼女を追いかけるべく階段を駆け下りる。
しかし、何秒と経っていない筈なのに、戸を開けて道を見まわした時には、既に姉の姿を見つける事は出来なかった。
「どういうことっ…?!」
これは、この村の呪いなのか。何故、私達が…選ばれる?
頭の中で、「フタゴ・ミコ・アカニエ」という言葉がよみがえる。
――厭な予感がする。私達が、「双子だから」選ばれたのだ。だとすれば…行き着く先は。
私は駆け出す。逢坂家を出て、村の奥へと。
だけどすぐに何処にいっていいのか、わからなくなった。
「おねえちゃん…どこにいっちゃったのよ」
試しに射影機を覗いてみたりもしたけれど、何も映らない。こんなに、死者の気配でいっぱいだというのに。
「う~ん…」
この村は何なのか。姉は何に憑かれたのか。私は何処へ行けばいいのか…何にしたって、手がかりがなさ過ぎるのだ。私はファインダーを覗いたままゆっくりと周囲を見渡した。と、目の前に少年が映って、ぎょっとして飛びのく。
『ぃよっ♪』
などと軽く手を上げて少年は挨拶…
いやぁあああああああああ?!新手の怨霊ォーッ!
…したけれど、私は頭がパニックして、またファインダーを構えた。
…ん?待てよ?
ファインダーから目を離す。
少年は見えている。
ファインダーに目を戻す。
少年は見えている。
「……あなた、誰?」
『立花睦月でーす。花の16歳、今は死者やってまーす☆』
何やら明るい。どうにかしてほしい。あんたなにもんよ。私は頭の中で云いたいことが空回りして、
『いやーっソレかわいいねぇ~。今の時代、ミニスカは基本だよな、基本。うんうん。』
る間に、彼(?)は私のスカートを覗き込み、ちらりとめくってみたりしている。
何すんのよ――ッ!!!
思わず思いきり平手で打ってしまった。
『おぅわッ?!?』
などと彼は仰け反って、打たれた顎をさすった。
『いやー悪い悪い。ついつい。覗いてみたくなるのが乙女心ってヤツだろ?』
「だから、ほんとに何なのよあんたは!」
喧嘩腰で澪が迫ると、彼は長い黒髪を揺らして、自分を指差した。
『俺、どう見える?』
「は?」
云われて見れば、どうも向こう側にある廃屋のぶっ壊れた扉が見えるような…?
…向こう側が見える=生きてる者は向こう側は透けない=死んでる。
「…あなた、死者?」
『同時にファインダー構えないでくれ。俺、成仏できねーんだから』
からからと笑い、陽気な霊はこちらへ話しかけてくる。
『なぁ、あんた紗重を迎えに来たのか?』
「…は?サエ?誰ですかソレ?」
睦月は自分の長い髪を指に巻きながら、
『まぁなんでもいい。…村人達が息巻いて探してるぜ?「双子巫女様が帰ってきた」ってな』
「ふ…双子巫女ォ?!帰ってきた?!誰がっ?!」
睦月はゆっくりと村の外れを指差した。
『何はともあれ…早くみつけねぇと大変なことになるぞ。俺みたいないいひとならともかく、あいつらには話し通じんからな。村の外れに蔵がある。そんなかに俺の兄貴がいる。この村のカラクリにゃ詳しい筈だ。行って訊いてみな。あんたの妹の行方、わかる筈だぜ』
「違うわよ、私が妹。」
睦月は、ん?と首をかしげてから、『ああ、そうか、風習が違うのな。ともかく――早くするこった』
「あなたは?お兄さん…なんでしょ。あわないの?」
睦月はまた笑った。だけど、今度は少し悲しげだった。
『俺の声は、とどかねぇの。兄貴は、澱んでしまっているから』

「ええと…この蔵かしら」
壊れた井戸を覗くと、中には白い骨が見えた。吐き気を抑えて、蔵の正面へ回る。
厳重に鍵がかけてある。八角菱の紋がついている。
これじゃあ、はいれないじゃないの…どうやってきけってのよ。
 澪はため息をついて、つと見ると紅い蝶がひらひらと舞っていく。
「このっ…蝶ー!待てこのッ!」
追いかけていくと。蔵の後ろに出た。
『八重…?なんでまだいるんだ?!』
「私は澪よ!八重じゃないってば!」
即座に叫び返すと――蔵の窓から、一人の白髪の少年が覗いていた。先刻あった睦月、の兄とはこのひとのことだろうか。
眼の下には隈が出来、やつれている。白い着物を着て、まるで死人。
否、死人…か。
「私は天倉 澪。あなたは?」
少年は、ため息をついた。
『偽名も仕方ないか…それにしても、その格好…その、』
全然こっちの云うことを理解してくれない。マイペースだ。うん。少年はこちらを見て、顔を赤くして目を伏せた。
『め、目のやりどころに困るんだけど…流行り?』
「もーいいわ。なんでも…。あ!そうだ!あたしの姉の行方、知らない?!睦月って、あなたの弟さんから聞いたんだけど」
『睦月から?いつのまに。…まぁいいか。村は今、黄泉の門が開きかけてて切羽詰ってる。最後の双子であるきみと紗重の儀式が失敗するくらいなら、紗重だけでも儀式を執り行うつもりだ。』
あせっているのか、早口で説明する。
「それって…どういうことなの?!」
『…』
急に少年は黙った。目を伏せて。
『…殺される。』

蔵を出ると、私は村の奥へと向かう。早くおねえちゃんを見つけなくては…!
大きな門の前で、つと後ろから声をかけられた。
「?」
『よッ☆』
明るい霊、睦月だ。彼は下から覗き…
「またしても なにやってんだこんチクショーッ!!
今度は容赦無い蹴りをお見舞いした。
少年は軽く二メートルほど吹っ飛ばされて、のびた。
「私はあなたの冗談に付き合ってらん無いの!おねえちゃんが殺されちゃったらどうすんのよ!」
『ああ、それ、樹月から訊いた?兄貴、樹月っつーんだけど。』
私は門を開けながら、睦月の言葉を聞いていた。
「そーよ!だからこうして、急いでるんじゃないの!邪魔しないで!」 邪魔すると撮るわよ!
『兄貴の感覚ではそれだろうねー。でも、一応時の経つ俺からあどばいす。』
門がぎぎぎ、と重い音を立てて、開いていく。木で出来た橋が見え――月の光をはじく湖面が見えてきた。
『『殺される』んじゃない。『呪われる』んだよ』
橋の先に、大きな何処か懐かしい、門が見えた。

TO BE CONTINUED→零~天倉 繭 漆~


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