PR
Calendar
Freepage List
Comments
「おい、お前、こいつの親父だろっ!なんてこと言うんだ。」
「いくらなんでも・・・。体が無くなったらリザもできないのに。」
「・・・やめて、比翼。連理。」
頭が混乱してきた。
パパ、どうしてそんなことを言うの?
「あなた、ちゃんと説明しないと・・・。」
「ああ。済まなかった。」
パパは立ち上がってコップに水を汲んできて、それを一気にあおった。
「これから話すことを最後まで聞きなさい。マスタークエスト終了後に話される大事な話だ。勝手に村を出る事を禁じられているのは、この事をきちんと説明しなければいけないからだ。」
こっくりと頷いて、パパの方を見た。
「数百年前、ある優秀なビーストテイマーがいた。その男はすべての精霊や生き物と言葉を交わすことができ、さまざまなモンスターと親交をもっていた。それは闇の世界に属するものも例外ではなかった。」
「男?でも男の人はビーストテイマーになれないはず・・・。」
「昔は男女の区別はなかったの。彼の事件以来、男はサマナーにしかなれず、しかもこの村を守る最低限の役割のみでその力を使うという制限が加わったのよ。」
「事件?」
一呼吸置いて、パパは言葉を続けた。
「ある日、彼は胸を患ってしまった。その病は治すことができない種類のもので、彼は徐々に衰弱して死を待つほかはなかった。そのため絶望した彼は禁じられた闇の魔法を使ってしまったのだ。」
「どんな魔法なの?」
「ネクロマンサーを見たことがあるか?彼らは死霊使い、つまり死体を操る事ができる種族だ。また死霊術で手なづけたアンデッド系列のモンスターに乗り移り、意のままに動かす事が出来る。
彼はネクロマンサーに頼み、禁断の魔法『マリオネット』を身につけた。そして薬で自分の体を仮死状態した。家族に手紙で事のあらましを説明し、『必ず生き返るから、しばらくこのままにしておいてくれ』と頼んだ後でね。・・・彼はその言葉通り、3日後に甦った。」
「どうして仮死なの?死んだ後はだめなの?」
「アンデッドというのはもともと死を知らない生き物だ。その点でリビングデッド(生ける死体)とアンデッド(不死)は根本的に違う。脳の細胞が死んでしまうと、知能も生きていたときの記憶も何も無くなってしまうからね。彼は体を仮死状態にすることで病気の進行と老いを止めた。つまりアンデッドと同じ不老不死の体を手に入れたんだよ。」
不老不死の体って、古代ヴァンパイアみたいな?人間がそんなものを手に入れることができるなんて・・・。
「最初はただ死にたくないという一心からだったのだろう。しかし闇に生を受けた時点で彼は魔物となり、正常な精神を失ってしまったのだよ。正気でなくなった彼はこの村に仇なすものとなった。」
そのまま生き返れるわけじゃないんだ!でも闇の魔法にはリスクがつきもの。それは当然のことなのかもしれない。
「村の者をその強大な力で次々に殺めていった。そのとき、村の中央に美しい金色の炎が立ち上った。神々しい光が彼の身を焼き、追い払ったという。」
「それが聖なる炎・・・。」
「そうだ。それ以来、この村では甦る事が出来ないように遺骸を2日以内に聖なる炎で焼くことになった。天国云々は子供に説明しやすいように後から作ったものだ。」
「男がビーストテイマーになれないのは、この種の過ちを犯すものが出ないための予防策なの。ネクロマンサーは女性で、彼に篭絡されてその魔法を教えたと言われているから・・・。サマナーはモンスターと接触を持つ必要がないから、能力のある一部の男性はその仕事に就けるようになったけれど。」
それでこの村から出る冒険者は女性だけなんだ。昔からそれを当たり前に思っていたから、今まではまったく疑問に思わなかった。
「また私たちはモンスターと親和性を持ちやすい、つまり死したのちその体を操りやすい一族らしい。その場合、アンデッドではなくリビングデッドとして他者に操られ、頭か心臓を潰されるまで永遠にこの世を彷徨わなければならない。
だから旅に出る者はすべて、この瓶を肌身離さず持たねばならない。」
金色の炎が生き物のように動き、熱と光を放っている。
「この瓶は、持ち主が死んで2時間以内に生き返らないとき、ひとりでに口を開けてその場に火を放つようになっている。もちろん連理・比翼、君たちがそうしてやることも出来る。その場合は瓶を強く地面に叩きつけて割るといい。死した後、その体は闇に属するものとなる。少々離れていてもこの炎はその闇を焼き尽くすことが出来るから。」
「死ぬと悪魔と同じ、闇の住人になるの?」
「そうだ。闇といってもそれがイコール悪というわけではない。昼が光、夜が闇というのと同じことだ。生きているときは光を受けて活動し、死んだ後は闇の中で安らぐ、ただそれだけだ。」
なるほど闇はただ恐ろしいだけではなく、影ができない分、光よりも平等に優しくしてくれる存在なのかもしれない。
「そうならないために、ビショップと行動を共にするか復活の巻物を常に携帯するようにしなさい。いいわね。」
「ビーストテイマーは自分の使うモンスターの力を自分の力だと過信しやすい。それがために無謀な狩場へ向かうものも少なくない。お前は決してそういうことはするな。」
話がすべて終わったとき、日付はもう次の日になっていた。
部屋に引き上げる前に、久しぶりにパパとママにおやすみなさいのキスをした。
連理と比翼に簡単な寝床を用意し、私は自分のベッドにもぐりこんだ。
「今日の話どう思う?」
連理が訊ねてきた。
「分からない。最初はショックだったけど、要は死ななきゃいいんだよね。あとちゃんと準備をして出かければ問題ないし。」
「いや、そういうことじゃなくてさ。」
話が上手く伝わらなくて連理がいらいらして言った。
「人間が不老不死を得たって話。プッチニアはどう思う?」
「どうって・・・。ん、なんだか怖いって感じかな。よく分からないけど。」
「俺はさ、おぞましいって気がしたよ。」
比翼が布団から顔を覗かせた。
「俺たちエルフは人間よりずっと長く生きるし、強いからなかなか戦いで死ぬことも無い。そういうの、人間は羨ましいんだろ?権力、金すべてを持った人間ってたいてい次は不老不死の薬を探してるもんな。昔は俺たちの血が薬になるって、多くの仲間が狩られたって聞くぜ。他の生き物を犠牲にしてでもっていう、過剰な生への執着って気持ちわりぃよ。」
「そうだね。でも私は分からなくもないかな。」
人間は弱い。どんな幸福を手に入れても、突然の死がそれをすべて奪うこともあるのだから。
「弱いから強くなりたいって思うし、命が儚いものだから永遠を願うんだよ、きっと。でも、本当にそれが手に入ったらさびしいだろうね。」
「さびしい?」
「たとえばさ、学校行っているときって休日がすごく楽しみだったの。でも村を出てからはそういうのがなくなっちゃった。毎日が休日だと、普通の日になっちゃうんだよね。
もし永遠の命があったら、楽しいことがあっても『ああ、これからまたこういうことが何回もあるだろうな』って思って、あんまり嬉しくなくなるんじゃないかな。」
「たくさん生きたとしても喜びの総量は普通の人間と同じってことか・・・。」
「うん。そんな感じ。だからもし誰かに『これが不老不死の薬ですよ』ってもらっても、きっと使わないと思う。」
でももし、明日をも知れない命だと分かったらどうするだろう。それを使わずにいられるだろうか?
自然界の摂理に逆らっている。それは分かる。でも『生きたい』という欲望もまた本能であり、生物の根源だと思う。私が永遠を望まないのは単に今が幸せなだけで、それは強者の論理なのかもしれない。
生きること、それはカッコいい事でもなんでもない。ときに泥臭く、卑怯で、それでいて強かなものだ。
神様はどこまで私たちの本能を許してくれるのかな。
⇒
つづき
ここまで辛抱強く付き合ってくださった皆様、ありがとうございます!
この回で私が言いたかったことは最後のフレーズです。
リアルの方では医療が日進月歩。遺伝子療法、生体肝移植、死んだ人からの角膜や心臓の移植などなど、きっと中世の人が聞いたら『それは神の領域だ』って言うほどの所にまで足を踏み入れていますよね。クローン技術なんか吐き気を催すほどかも・・・。
でも実際に自分がそれがないと生きられないと分かったら、その答えは変わるのかもしれません。
神様、私たち、どこまでなら足掻いていいですか?
ネタがないから小説第七弾~翼の行方編そ… August 21, 2009
ネタがないから小説第七弾~翼の行方編そ… August 21, 2009
ネタがないから小説第七弾~翼の行方編そ… August 21, 2009