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「んで、こういうのは想定内?」
「・・・想定外・・・かな。」
地下の薄暗い隠し部屋、うず高く積まれた本の前で二匹のエルフが肩をがっくりと落としていた。フィロウィの蔵書や実験データは今まで見たことがない不可思議な言語で書かれていたのだ。
現在フランデル大陸では共通の言語が使用されているが、地方や民族ごとに独自の言語を持っている。文法や発音、綴りに差異はあるものの、使う文字はほぼ同じ。しかしここにある書物及びノートに連ねられている文字は全く異なるものだった。
「暗号かよ。ちっ、凝った真似しやがって。」
「いや・・・これは暗号ではないと思う。」
「どういうことだ?」
「フランデル大陸共用語は26文字から成り立っている。それ以外の言語で使われている文字をあわせても40文字に満たない。しかしここにある本には50種類の文字が使われている。つまり単純な文字の置き換えではないということだ。もし暗号だとするならこれだけ複雑なものにはキーとなるメモなり本なりがあるはずだがここには見当たらない。しかもこれほどの量の本を暗号化するのにはとんでもない手間を要する。隠し部屋に置いてあるものにそこまでする必要があるだろうか?」
「そりゃ・・・でもこうやって俺らが見つけることが出来たわけだし、万一のことを考えてたとか?」
「隠したのは自分の研究の成果を守るためであって、その秘密を守るためではないよ。見てごらん、言語は違うようだが数字は全く同じものを使っている。もし研究を自分だけのものにするということなら、一番大事なその部分を暗号にしないと意味がないと思わないか?」
「わかんね・・・暗号じゃなきゃこの変な文字はなんだっていうんだ?」
「僕たちが知らない言語、ということになる。恐らくホムンクルスの作り方を書いた青い本の時代、失われた古代文明で使われていた言語だ。」
「・・・。」
エルフたちは再び黙り込んだ。
村を出てから3日過ぎた。村長クーンに約束した2週間まであと10日あまり。それを過ぎればプッチニアは殺されてしまう。不浄のものを忌み嫌う聖地の村で、神の名の下に。
プッチニアを仮死状態から救うためにやっと見つけた手がかり。それが役に立たないなんて・・・。
「待てよ・・・諦めんのはまだ早いぜ。」
比翼は立ち上がって言った。
「これがちゃんとした言語だったら俺らが見たことがないだけで、読める奴はいるはずだ。言語学者とかさ。」
「それはそうだけど・・・比翼、もしこれが何千年も前の文明で使われていた言葉だとしたら、世界中でいったい何種類あるか知っているかい?・・・6000語以上だ。だから古代の言語を研究している学者でも知っているのはほんの一部。あとたった10日でそれを探し当てて、ここにある本を全部解読するなんてとてもじゃないが・・・。」
「たったのじゃねぇ、まだ10日も、だ。全部の町と遺跡でうろついてる学者に片っ端から聞きゃいいんだろ?」
「簡単に言うけどそんなこと・・・。」
「そんな風にごちゃごちゃ言ってる間になんか出来るだろ!」
頭のいい連理は理論で固めてからしか動けない。その頭脳がこの場所を見つけるのに役に立ったのは認めるが、とにかく動かなきゃ何も始まらないじゃねぇか。
「好きにしろ。俺は行くからな。」
と腹立ちまじりの声で言い放ち、比翼はきびすを返して隠し部屋の外へ出て行った。
その姿を見送ることもなく連理は暗闇の中うつむき、膝をかかえた。
比翼は地上へ繋がる梯子を上り、再び薄暗く埃っぽい廃屋へ戻ってきた。地下からは何も聞こえず、静まり返っている。少し待ってみたが連理が追ってくる様子はない。
『仕方がない。俺一人で行くとするか。』
比翼は廃屋を出て、テレポーターの所まで走りだした。
何かあてがあるわけじゃない。
けれど万に一つでも可能性があるなら、俺は前に進み続ける。
花と緑に溢れた温暖なビガプールから砂漠の町アリアンへ。
ここは街の地下と近くのデフヒルズに遺跡があるため古代の歴史や言語を研究する学者が多く集まっているし、何より冒険者が多いから情報収集には適している。まずは手始めに街の地下遺跡へ足を向けることにした。
「なんだい、こりゃ・・・。見たこと無いなぁ。」
「ほお、ずいぶんと変わった文字だね。一体どこで見つけたんだい?」
隠し部屋から持ってきた3冊の本を学者たちに手当たりしだいに見せて回ったが、結局収穫はなかった。
遺跡を出るとアリアンには夜の帳がおりようとしていた。日が落ちると砂漠の町は嘘のように灼熱の風から解き放たれる。しかし狩りから戻った冒険者たちで賑わう夜の方が街の熱気は増しているようだった。
ふいに湧き上がる記憶に眩暈がした。前は・・・そう、炎のモンスター襲撃事件のことを調べていたときに来たんだ。荒廃都市ダメルの調査を終えた後、モルビリにタウンポータルを開いてもらってここに着いたのがちょうど今ぐらいの時間だった。荷物を旅館に下ろしてから連理とプッチニアと三人で露天めぐりしたっけ。あのときからなんか嫌な予感がしていたんだ。理由が分からなかったからそれに蓋をして、まんまとフィロウィの策に嵌り、プッチニアをあんな目にあわせてしまった。時が戻るなら、あの時のこの場所からやり直すのに・・・。
「ごめん・・・な、プッチニア・・・。」
これからデフヒルズに行ったところで誰もいないだろう。今日はこのくらいにして休みたいところだが、こんなクサクサした気分のままじゃとても眠れやしない。一杯ひっかけてから寝ようと旅館近くにある砂風酒場へ入ると、入り口近くの席にもこもこした白い髭の老人が一人、アリアン名物の羊肉の煮込み料理を肴に葡萄酒に舌鼓をうっていた。
『なんかどっかで見たことがあるな・・・誰だっけ・・・?』
気になってじっと見ているとふと顔をあげた老人と目が合った。
「おっほぉ、こりゃ珍しい、エルフじゃないか。お前さんどこの出身かね?」
「あ、えと・・・テレットトンネルです。」
「なんと、ますます珍しい!アリアンにテレットエルフを連れとるビーストテイマーがいるとはのぉ。嬉しいじゃないか、まあここに座りなさい。」
どうやらすっかり出来上がっているらしき様子で、アルコールで赤らんだ人の良さそうな顔をほころばせて手招きをした。
『馴れ馴れしいおっさんだな。ま、悪いやつじゃなさそうだし、仕方ねえ、ちょっと付き合ってやるか。』
比翼は老人の向かいに座ると、店員に葡萄酒とつまみにチーズの盛り合わせを注文した。
「まったく最近のテイマーはなっとらんよ。なんの愛着も持たずに次々とペットを乗り換えおる。健気に主人に尽くすモンスターをなんだと思っとるのか・・・。」
老人はぶつぶつとこぼしながら比翼のグラスになみなみと赤紫の液体を注いだ。乾燥した場所で取れる葡萄は味が濃く、果実酒にするのに向いている。渋みの深さと芳醇な香りを味わいながら、比翼は久しぶりのアルコールをゆっくりと飲み下した。
『モンスター?あ・・・このおっさん・・・マイトだ・・・!』
比翼は目の前の老人のことを思い出した。モンスター鑑別士の称号取得のときに会った生物学者だ。コボルトや大型骸骨、ロックゴーレムの標本を彼に渡した。
「あの・・・これ、ちょっと見てもらえませんか?この本に書かれている言語について知りたいんですが・・・。」
考古学者でもない人間に聞いても仕方がないとは思うが、ダメモトだ。比翼は老人に本を見せた。
「う~ん・・・こういう文字は見たことがないのぉ。古代文明の文字かね?」
「はい、おそらく。しかしアリアン遺跡で調査していた学者は知らないと言っていました。」
「古代文明の調査をしている学者は自分の調査している地域で話されていた言葉しか勉強しておらんからなぁ。このあたりの言葉ならそらで覚えているが、違う場所のものだと何も分からんだろう。どこの言語かだけ知りたいというなら、昔の冒険者に聞いたほうが早いと思うが。」
「昔の冒険者?どういうことです?」
「最近の冒険者はモンスターを倒してアイテムを奪うことしか考えていないようだが、そもそも冒険者とは遺跡の奥などを探検して神話や古代文明の謎を解き明かす者のことを指す。学者のように深い知識はないが、世界中の古代言語に触れる機会があるから幅広い知識を身につけているものが多いんだ。隠し扉や通路を探したりするには、遺跡の壁画や古文書に記された文字を読まねばならないからね。」
「・・・!昔の冒険者ってどこに行けば会えますか?」
「そうだなぁ。すでに廃業しているものばかりだから、どこにいるのかは分からないが・・・。ああ、そういえば隣の村リンケンに一人、昔冒険者をしていたという者がいたな。確かアリスとかなんとかいう・・・。」
マップ製作者の称号取得で会ったアサス!
連理、ひょっとしたらなんとかなるかもだぜ。
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つづき
ネタがないから小説第七弾~翼の行方編そ… August 21, 2009
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