長崎の思い出
所用で長崎に行った時の事だ。
2泊3日の旅である。
近郊の名所やハウステンボスを巡って帰る時のことである。
ハウステンボスから大村湾をジェトフェリーで飛ばし空港に着いた。
しかし、出発ロビーに待たされたまま、帰りの飛行機が到着していない。
「40分の遅れが出ています。」
と、アナウンスが流れた。
「冗談じゃない!東京駅からの新幹線に間に合わない!」
いや、新幹線には間に合うのだが、1本遅れてしまうので連絡電車に間に合わない。
すぐに、カウンターに行き事情を説明した。
事情を聞いた女子職員は、すぐに駆け回った。
長崎空港の近くに、 「大村駅」
と言うJRの駅があるらしい。
私のチケットを持つやいなや、空港を飛び出していった。
大村駅で、東京駅から新幹線の時間変更。
連絡電車の確保。
無我夢中で駆け回っていたのであろう。
しかし、到着した羽田行きの飛行機は飛び立つ用意をしている。
「○○時○○分発、羽田行きのご搭乗のご案内を・・・」
流れるアナウンスに肝を冷やした。
長崎で、もう1泊を余儀なくされていた。
出発ギリギリになって、女子職員が戻ってきた。
「申し訳ありませんでした。これで今日中にご帰宅が出来ます。」
と渡されたチケットは、紛れもなく電車の連絡時間に間に合わされていた。
お礼を言おうと彼女を探したが、忙しいのであろう、カウンターから姿を消していた。
出発時間の関係もあり、私は名刺の裏に、
「君の様なお客様第一の人が空の安全を守る。これで明日の予定を変えなくて済む。ありがとう!」
と走り書きをした。
別の職員に「これを彼女に!」と渡し、飛び立つ寸前の飛行機に向かった。
ドラマは次の瞬間に起きた。
名刺を受け取った彼女は、私を追いかけて来たのである。
「NIJIさま~ ありがとうございま~す!」
と千切れる程に右手を振っているではないか。
胸に当てた彼女の左手には、走り書きをした私の名刺がしっかりと握られていた。
目の悪い私には、はっきりとは見えなかったが、その表情は涙が浮かんでいる様にさえ感じられた。
私は 「○○さ~ん、ありがとう~!」
と手を振り返した。
やがて彼女は、深々と頭を下げた。
出来れば、抱き締めてやりたいような衝動にさえ駆られた。
お客を思う彼女の真剣な心に比べたら、ハウステンボスは小さく見えた。
旅の思い出。
人は一瞬の出逢いが、生涯忘れられなくなる事がある。
仕事とはいえ、一人の人のために時間ギリギリまで走り回った彼女。
汚い走り書きの文字を喜びと涙に変えた彼女。
私は、今もってあの出来事を忘れない。
否、生涯、瞼に焼き付いて離れないであろう。
こんな素敵な出逢いがある。
思い出がある。
旅は止められない。
次の素晴らしき出逢いを求めて!!!
そして、人生もまた しかり
である。
続いて、 ≪京都の思い出≫
に進みます。