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取手での呑みの三軒目。今回取手にやって来た一番の目的はこの三軒目だったわけですが、すでに書いたようにサービス精神旺盛な取手のつまみのボリュームにすっかり腹は膨れてさすがにもうそうは呑み食いできそうもありません。それでもこちらにだけは何とかしてお邪魔しておきたかったのです。その理由は非常に単純でありまして、たまたま(でもないけれど)ストリートビューで取手を眺めていたら、その物件に遭遇してしまったのですが、その店舗造作の素敵なことにすっかり魅せられてしまったのです。これはもう是が非でも訪れねば将来にわたって禍根を残すことになりかねないのです。ってかそんなことをいちいち言っていたらぼくの人生は禍根ばかりで出来上がってるってことになってしまいますけど。 さて、5時を過ぎて「越後屋」に行った際にはまだ営業は開始されていませんでした。人気のほとんど感じられない団地の死角にひっそりと店を構えているから何度か通り過ぎていましたが、まさかこんなところにと思った場所に唐突に姿を見せたのです。裏道を通るとすでに通った道に出ました。前回書いた「酒楽」とこちらは思った以上に近かったのです。といった訳で「酒楽」を出るとこの裏道を通り抜けて店の前に出たのですが、先ほどは灯っていなかった明かりが見え隠れしていたのです。これはきっと営業しているだろうと正面に回るとなんと暖簾が仕舞われていたのです。これは一体どうしたことか。開店してそう時間も経っていないというのにすでに閉店時間を迎えたというのだろうか。店の前で男性がスマホをいじっているので、店の方と思い営業確認をすると大丈夫じゃないかとお答えになるのでありますが、そもそもどこから入るのが正解なのだろう。ガラス戸から出入りするのが正しいのか。本能に任せてドアから入ったのでありますが、それでよかったようです。奥の卓席にお邪魔させてもらいます。今しも店仕舞いしそうなムードなので慌てて酎ハイを頼んだけれど、2組のお客さんの様子を見るとまだそんなに慌てなくても大丈夫だったみたいです。どちらも親密な感じで楽しそうに呑まれています。厨房に50歳代くらいとお見受けするご主人と若い女性従業員で回しているようです。もう満腹だからそうは食べられませんが、餃子とハムカツを注文します。これはお手頃だし、ごくごく普通に美味しい。でも何よりこちらの店の雰囲気が抜群にいいのです。どんよりと暗すぎもせず、かといって騒がしくもなく、なるほどこんな取手駅からのそれなりに距離のある場所で呑みに通われるお客さんがあるのも納得できるというものです。ホント落ち着けるんですね。さて、満腹だし他の客も帰られたからわれわれもそろそろ腰を上げるべきと、お勘定をお願いします。見るとレジのある壁には何枚かの色紙が飾られています。どうやらモヤさまもこちらで取材したようです。番組ではきっと偶然ここを通ったかのような演出がなされていたと思いますが、ここはたまたま通り掛かるような場所ではないのでくれぐれも騙されないように地図を確認した上で訪れることをお勧めします。
2022/10/12
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先日、とある酒場でとある退職者の言葉を耳にしました。その発言が余りにも自信に満ち溢れていたものだから、つい聞き耳を立てるともなしに立てていたようです。その発言の内容は、オレは若い頃にやりたい事はやり尽したし、欲しいものはどうにかして手に入れてきた、行きたいところへはどこにだって足を延ばしたし、あらゆる見たいものは目にしてきた。だから隠居した今では貯金などないけれど幸いにも年金があるからその受給範囲内でやってくよ。思い残すことなど何もないから年金だけで十分さ。なんてことを語っていたのだが、非常にムカつくのだ。ムカつきの理由は敢えて語らぬことにするけれど、この話は本当に本音を語っているのだろうか。とてもそは思えないのだけどなあ。端的にはあらゆる欲望をすべて満たすことなどできるとはとても思えないのだ。というか欲望というものは満足という器に水が溜まって溢れるようなあり方では存在せず、むしろ自動車のメーターのようにパッと振り切れてリセットされてしまうような存在の仕方をするのが自然に思えるのです。だから相当な高齢であってもエンジンが機能するうちは何かを欲望し続けるものだろうし、エンジンが破損してやっと収まる類のものなんじゃないかと思うのです。少なくとも己の人生観をもっともらしく語ってみせるような人というのは他人に対して教育したいという欲望を何とかして満たそうとしているように見えるのだ。とまあ、先般やはり取手の場末めいた団地裏の酒場で高齢になってなお恋愛に悩む女性を目にしたのでちょっと思案を巡らせてしまったのです。 その女たちのたまり場となっていたのは、「酒楽」という酒場でした。とある事情で時間を調整するために周辺を彷徨っていたわれわれは開店したかどうかというギリギリのタイミングに入店させてもらいました。店内は居酒屋とスナックの中間といった、こうした駅からも遠く住宅街ではあるけれど町としての体裁を辛うじて保っているようなかなり際どい場所にあるのにかなり相応しい様子でありました。独りでここを訪れていたら席を立つのに難儀しそうなそんな終焉を待つような風情の酒場でした。ママさんは泣き崩れながら老境に踏み入ったといって失礼には当たらぬ程度の年齢の女性の恋バナを語るのに聞き入ってはアドバイスしていたのです。泣きながらもその女性は盛りだくさんの定食を食べているのだから何とも人間の欲望というのは凄まじいものがあります。タイミングを計りつつチューハイを頼んだわれわれの前にはたちまち4種の小鉢、いや中鉢ほどの各種総菜が届けられ、しかもスーパーの1パックもあろうかというお新香まで並ぶのでありました。スナック式のお通しの大量投下にすでに大量のナスと鰹で腹を膨れさしていたわれわれは思わず怯むのであります。しかし怯んだところで事態が何か好転するはずもないから景気よく呑み食いすることで自身の欲望をワンランク上昇させようとするのです。しかしですねえ。やはり隣でメソメソされている中を陽気にはしゃぐってこともしにくい訳で、つい声を潜めがちに話題も彼女のことになってしまうんですね。でもこういうちょっと薄暗い店でジメジメした話を聞くともなしに聞いていると何だか妙に懐かしい気分に陥ってきてそれはそれでわざわざ取手に呑みに来た甲斐があったものだと感じるのは不思議なものです。やがて泣く女は席を立ち、もうここには来ません、ゴメンなさいなんてことを呟きながら去っていったのでありますが、きっと明日もまたここで愚痴を語ることになるのだろうなあ。われわれも引き上げ時です。余分な情報かもしれませんが、お勘定は驚愕の安さでありました。取手やはりすごし。
2022/09/19
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コロナ禍になって遠出をするのが億劫になりました。いやまあそればかりが理由というわけではないのですが、今のところは遠出を自粛しています。ぼくの場合、何度も書きましたが本質的にはインドア派なもので、その気になれば1か月だろうが、可能なら1年だって引き籠り生活を送ることにさほど苦に感じることはないと思うのです。実際には買い物などネットだけでは済ましたくないこともあって(それも仮に許されなかったり欲しいものが間違いなく自宅にいたままで入手できるなら出歩きたくもないのです)、止む無く外出することはありますが、代理人を立てられさえすれば任せたい位なのです。まあそれは叶わぬ希望な訳で、今日もいやいや職場を往復せざるを得なかったのであります。でも出歩きたくはないけれど呑み歩きはしたいというあからさまに矛盾した希望だけはありまして、それも出来る事ならちょっと辺鄙な位な場所に行きたいのです。それはそうした場所の方が、都心にあるような酒場とはちょっと趣きが異なっていたりして面白いことが多いからで、そうなると必然的にそれなりの時間を列車で移動することになります。ここまでの文章を読むとそれは大変に辛い行為であるのではないかとご心配になられるかもしれませんが、それには及びません。空いている列車の車中であればぼくには自宅の延長線上に感じられるのです。だから今回は常磐線快速で取手に向かいましたが、それがいわきだろうか原ノ町だろうがさほど変わらないのです。だって空いてる車内は動く書斎みたいなものでゆっくり読書したり飽きたら車窓を眺めればいいのだから。嫌なのは自宅から駅までと乗り換えの往路であって、人気もない町を歩くのは暑いことを除くと楽しいものであります。といった訳で久し振りに取手にやって来ましたが、北野武の映画の舞台ともなった呑み屋街以外は歩いていてもちっとも楽しくないので、さっさと営業を始めていた居酒屋に飛び込んだのでした。「居酒屋 寺田屋」はまあごくありふれた居酒屋です。ここまでは駅から1km程度の距離をひたすら単調な通りを歩かされるのでありまして、それは仕方ないとしてもアップダウンの多いのが前途に多難な予感を抱かせられるのです。幸いにも思ったほどの上り下りがなかったから良かったようなものの、町の構造上、基本的には来た道を引き返すことになるからなるべく平坦であることが望ましいのでした。さて、店内は古い茶店風というか土産物店風の座敷がメインで、カウンターは5席程度となっておりどうやらそこは地元の方の指定席と化しているようで、われわれ(S氏と一緒)は座敷に通されることになります。座敷は風情はあるけれど、ぼくらの世代には長時間はキツいのです。茨城の人たちは座敷がお好きなんだろうか。瓶ビールで喉を潤しているとお通しがやって来ました。嬉しいことに揚げたナスとしし唐の煮浸しでありました。これがナスが丸々3本という大盤振る舞いで、先のある身としては嬉しくもある一方でこれだけでもう腹が一杯になりそうです。さすがに肴を何も頼まぬわけにはいかぬので今年は豊漁と効いていた割には一度も口にしていない鰹の刺身があったので注文します。これがまたとんでもない盛りの良さです。もしかしたらこれが取手スタイルなんだろうか。だとするとこの後訪れる予定の本命で呑み食いするなど望むべきもないことになってしまいます。都心ではボチボチ呑み屋にも仕事上がりのお客さんが押しかけ始めているでしょうが、郊外のここではまだまだこれからといった感じで、われわれより先に独りカウンターでテレビを眺めるオヤジさん以外はおらぬのだけれど、すっかり腹の溜まったわれわれは席を立つことにしたのでした。
2022/09/09
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いわき駅での束の間の散策を終え、本当ならいわきで一杯やりたいところだけれど、まだまだやってる店も殆ど見当たらぬし、何よりも都内まではまだまだ遠いのです。というか直接仙台から常磐線で向かったとして、まだ全行程の中間地点といった辺りではなかろうか。という事でとにかく水戸までは到達しておきたい。水戸に着く頃にはぼちぼち居酒屋も暖簾を下げる頃だと思うのです。水戸は、呑み屋街が複数に分散していて、しかし駅前にも小規模ながらあるから便利がとても良いのです。まあそれも暮れの目前にやっているかどうかという懸念は払拭出来ぬけれど、とにかく信じて進むしかありません。ずっとほぼ満席の状態で移動を続けてきた今回の旅でしたが、いわきからの車中はようやく歳末らしい閑散したものだったので手脚を伸ばして寛ぐうちに気持ちよくなってうつらうつらする内に水戸に辿り着いたのです。 ロータリーよ先に数軒の居酒屋が寄り集まっていて、何れもチェーン店ではないからどこだって構わぬという気分です。いつもはぼくが選り好みして店を選ぶ事が多いから、こういう状況では選択権を譲るという程度の嗜みは持ち合わせているのです。S氏が選んだのは「ろばた焼 やきとり 満月城」でした。ぼくも普段ならここわ第一候補とする所だけれど、混雑しているんじゃないかとの懸念がありました。もう混雑は敵わないなあなんて思いもありましたが、選択を委ねてしまった以上、従わぬのは男らしくない。男らしいとかいうと偏見めいた発言でありますが、ともあれ店内へと入ります。うわっ、すげえ混み合ってるじゃないか。カウンター席はびっしりと埋まっていてこれはちょいと無理かなあ、なんて思ったけれど、お二階へどうぞと促されます。ああ、二階もあるのかと思ったらそこもびっしりとお客がいます。これはやはりダメじゃないかと思ったらさらに上階がありました。意外やかなりのオオバコだったみたいです。ろばた焼というからカウンター席がいいかななんて思ったけれど、上階のフロアーもゆとりがあっていいのです。ろばた焼の店というのはどうしても民芸調のわざとらしい内装になりがちで、こちらもその傾向を多分に孕んでいるのですが、そこに嫌味な感じは少しもなくてかなり様になっていて悪くないのです。そうこうするうちに地元で仕事納めをしたグループや帰省のグループなんかも集いだしました。水戸の納豆などの名物を使った料理などちょっと贅沢してつまもうと思ったけれど、共同料理というよりは魚介がどうやらウリのようで、結局いつもの肴になってしまいましたが、それもまた良し。飛び込みで入ったのにいい酒場に出会えました。
2020/02/19
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今回の旅の目的はすでに述べたとおりに、震災後、一部が普通となっていた常磐線の北部を目に焼き付けておこうというものでありました。そう遠くない将来、常磐線は全線復旧するということで、現地の作業員などの関係各者には感謝と賛辞の念をこの場を借りて述べさせていただきたいのです。全線が開通する以前、代行バスによる振替輸送がまだ一部残るこの時期にあえて訪れたのは、未だに交通網ばかりでなく風評被害等の様々な苦難に対してどう立ち向かわれているのかを見てみたかったという事もあります。そして、浪江駅と富岡駅間が列車によって再び結ばれた後の様子を見るためにまた乗車することにしたいと決意を固くしたところです。さて、そういうぼくにとっては幾分か神妙に過ぎる目的がある一方で、極めて俗で軟派な目的もあるのでした。 数年前にも訪れている常陸多賀駅から約10分程も歩くでしょうか、あれは水戸街道なのだろうか、広いバイパス道の両側には大型のショッピングモールやファミレスなんかが所狭しと乱立しているのであるけれど、そのすぐ裏手には青いプレハブ住宅が寄り添ったかなり大きなバラックが取り残されていて、そこは塙山キャバレーなゆて呼ばれているようです。このバラックの成り立ちはネット上にも多くの情報が流布されているし、映画やテレビドラマのロケ地としてもよく知られているようで有名芸能人も少なからず訪れているようです―実際、この後、多くのスナップ写真を見ることになります―。バラックの酒場は今でも少なからず現存していて現役である場合もあります。ここの異色なのは、設置された当時の造りをそのままにしてほぼ―もしかすると全て―の小屋が利用されている事です。まさに設置された当時そのままなので、ここで酔った老人が若かりし頃に戻った気になっていい気分でバラック群を眺めた後にバイパスの巨大建築群を目にしたとしたらポックリ逝ってしまう程の衝撃に見舞われるかもしれない。なんか上手く書けぬけれど、ここ程、往時の景色をそのままにしてなお現役であるというのはお目に掛かった事がありません。ここはとにかく見ておきたかった、時間も酒場が開くには少しばかり早いし、大体大晦日にもなって呑みに来る客などそうはいないだろうという思いでした。 しかし、ちゃんと営業している店があったばかりでなく、店内にはそこそこにお客さんがおりました。お邪魔したのは「いづみ」です。焼鳥店などもありますが、大体はスナック風なお店だと思っていたので、そこが普通の居酒屋風だったので安心しました。まあ、肴を次々と突き出すスタイルはスナック風であるし、カラオケもあったかな。そんなことはさしたる問題ではありません。そこで経験したすべてがぼくが思い描く酒場体験というものを丸ごと含んでいたのでありました。女将さん―というよりママと呼ぶのが似つかわしいかも―や常連たちとの濃密で親しい会話、手作りで特別ではないけどそこはかとなくおいしい肴、そして呑み残しの焼酎を大量に入れてくれたチューハイ、ぼくの望むすべてがそこにありました。年の暮れになってこれ程に楽しい時間を過ごせるなんて思ってもみなかったことです。席を立つときにお喋りに付き合って下さった個性的なおぢさんたちが口々に「きっとまた来なよ」と言ってくれたのには、おざなりではない真の真心が感じられて感動的なのでした。そして驚くべきことに、薄暗くなった店を出てみるとほとんどすべての店舗の照明が灯っていたのでした。明るいうちの眺めもその全容が見渡せて壮観でありましたが、暗くなってからの情緒にはさらに惹かれるものがあります。これは間違いなくまた来年も訪れることになりそうです。 まだ年越しまでは時間があります。なのでなかなか来る機会のない勝田駅で下車しました。ちょっと良さそうなもつ焼屋もありますが、営業開始にはまだ時間が掛かりそうです。酔っ払っていたためか、まあなんとかなるだろうと町を彷徨うのですが、こんな大晦日の地方都市で当たり前に居酒屋がやっているわけもないのだから、やはりかなりいい気分だったのでしょう。しかし、あるところにはあるもんですね。「海鮮居酒屋 たから」という立派ですが、しっかりと年季を積んだ良さそうなお店と遭遇しました。調べると昔は「宝寿司」という寿司屋をやっていたそうです。そうはいっても店内は寿司屋の趣きはあまり感じられず、むしろ大衆和食処といった雰囲気でなかなかに素晴らしい。東北の町の呑み屋街にありそうなしっとりと落ち着いたムードのお店です。さすがに他にはお客さんもおらず、従業員の方も少数精鋭という感じで、できないものもあるようです。そんなことは少しも構うまい。なかなかに旨いもつ煮込みがあるからそれで十分なのです。さっきは大いに盛り上げてもらえたのですが、逆にこちらでは一年の終わりに相応しく静寂に包まれてしみじみと呑むことができます。賑やかに年を越すのを好むのは若い頃だけでもう沢山です。やはり締め括りには孤独を噛みしめつつ、一年を振り返るというのもやはり必要なものです。最後まで独りきりとなった店を出ると駅までは急ぎ足になります。早く常磐線の列車に乗り込まないと本当に年を越してしまうことになります。年越しは自宅で過ごせるかなあなどとうつらうつらと夢見心地で都内へ向かうのでした。
2018/03/22
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水戸の町は、繁華街が分散しているようです。喫茶巡りであれば、有料ではあるけれどレンタサイクルもあって都合が良いのでありますが、酒場巡りにレンタサイクルは違法行為であります。第一、ぼくの記憶が正しければ水戸のレンタサイクルは返却時間がえらく早かったような気がします。観光地なのだからもう少し遅くまで貸し出してくれても良さそうでありますが、然るべき計算に基づいてのシステムであろうから、一度借りたことがあるだけで知ったような顔をして意見するのは、愚劣と謗られても返す言葉などありはしません。しかし、駅から歩けばゆうに20分は要するであろう渋い食堂に入ってしまったとする。つい、その雰囲気を満喫しようと瓶ビールなど頼んでしまうとレンタサイクルは途端に無用の長物になるばかりでなく、恐ろしく邪魔な存在となるのであります。まさにそのままの事態に直面したぼくは、喫茶巡りも放棄し、レンタサイクル、それも電動アシスト自転車という抜群の機動力も投げ打ってその理想的な食堂に駆け込んだことは言うまでもないのであります。 偕楽園に通じる愛想の欠片すらない大通り沿いに「お食事の店 いづみや」があるのは救い以外のなにまのでもありません。いや、救いなんて言い方は逆にこの店の真価を貶める事になりかねない。この大衆食堂が仮に浅草にあるとすれば、ぼくは浅草に数ある他店より絶対的にかちらを支持するだろうけれど、それを語れば語るだけむしろ礼を失することになりかねぬとようやくにして思い至るのであります。でもこれだけは言わせてもらいたいのが、水戸の方はもっとこのお店を贔屓にして頂きたい、そして次にぼくが水戸を訪れたときにも変わらず続けているよう支持して欲しいのです。たまたま行き着いただけのぼくなどがこんなお願いをするのは、誠に厚かましいことは承知しています。 とここまでが旅の前に書かれた文章なのであります。旅の最中にいかに拙劣とはいえ何某かを語るのはぼくには無理な行為なのです。椎名誠という人はキャンプ中にもテントの中で執筆するらしいとの事ですが、ぼくにはそこまでの意志はない。手塚治虫は語るまでもないけれど、彼の場合は呼吸するのと同じレベルで物語が紡ぎ出されたのだろう。 それはともかくとして、珍しくも酔っ払って東海道線に一人揺られていて突如何事かを綴りたくなる心象はいかなるものか?そんな事実に鈍い不気味さを感じつつも明日以降の書き溜めが無いことに不安を感じるなんたのは、まあとてもプロとしてやっていけそうもない。いやいや、こんな話はどうでもいいのだった。カレーとラーメン、これだけあれば生きていける。そこには無彩色の暗い未来しかないけれど、ぼくには存分で、望外の人生なのです。って、たまたま椎名林檎のとある曲を思い浮かべただけなんですけど。
2017/08/25
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いわき駅を出て、常磐線に乗りこんでこれでお終いとなるかというとそうはならぬのであります。いわき駅と水戸駅間にも途中下車しておきたい気持ちはあったのですが、さすがに運行数も少ないからそう無理はできぬのであります。なので次に下車するのは水戸駅なのでした。水戸駅まで来ると都内も大分近づいた気がしてちょっと安心できます。東北本線なら宇都宮、上越本線なら前橋、東海道本線は熱海、中央本線の甲府が似たような印象の町です。そんな一安心できる町だからしょっちゅう立ち寄っています。だこらどの町も正直飽き飽きしているのです。しかし、いつもついでという気持ちの消極性が災いしてしまうのか、どうも思ったようにスケジュールをこなせていない。さほど気乗りしていないのが店の営業に営業するなんて馬鹿な話があるはずもないけれど、どうしてもそう思わずには納得できないことが続いているのです。だから好きか嫌いかなど構っておられず、またも水戸の駅に降り立つのでした。実は気持ちをさらに重くするのが、これらの町の繁華街がいずれも大体が駅からちょっとばかり外れているのです。とりわけ水戸は駅から繁華街までは結構な距離があります。なので今回は贅沢してレンタサイクルを借りることにしました。最近お気に入りの電動アシスト自転車なのは、ありがたいけれど利用料金が高すぎる。近頃は無料の貸出が多いのにこれはちょっといただけない。などと愚痴を言ってる時間がもったいないのでとっとと繁華街に向けて漕ぎ出すのでした。 一番の目当ては、水戸の喫茶では逃すことのできぬ一軒としてずっと憧れていた「Coffee Room フィンガル」であります。憧れというのはちょっと言いすぎでありますが、モダンでスタイリッシュな空間はありそうで案外ないのです。そして、今時のスタイリッシュというのはスカしているのは良く分かるけれど、何かが物足りないのだ。単にセンスの問題で片付けられるかといえばそんな単純な話じゃなさそうだ。案外格好を付けた店がそのままにカッコいいと思えるにはまた別種のスパイスのようなものが必要なようであります。見た目はカレーっぽくてもスパイスのまるで効いてないのはうまくもなんともないからなあ。これはちょっと嘘だなあ、黄色いだけで苦味が微かにあるだけのカレーって妙に郷愁を感じるのです。だからといって時折出会う黄色いカレーを子供の頃に食った記憶などついぞなかったはずであります。おっと、またいつものように肝心の店から離れて無駄な思念を書き連ねてしまいました。正直言ってここの良さは半分はわかるけれど腑に落ちぬ部分も多いのでした。賢くも店の奥に進んで格好の眺めを獲得したはいいけれど、奥のギャラリー空間には手前の炸裂するセンスは片鱗も見られぬのでありますそれも致し方あるまいか、だって奥の席の主役はあくまでも飾られた絵画なのだろうから。だからギャラリー系のお店は今ひとつ乗り切れぬのだよなあ。 次は「アロマ」です。こういう店が日本の喫茶店のプロトタイプであったならそれはそれで良かったのかもしれません。こんな店にならいつまでだっていたくなる。むろんこれは戯言でしかないけれど、間違いなく好みのお店です。衒いは何もなくあくまでオーソドックスであることに徹したのはとても素敵な選択です。本来、喫茶店はこれで充分なのです。必要以上に店主の異様な情熱に塗り込められた店などなければ良かったのに。そうしたらぼくもこんな喫茶店巡りなどという何のためにしているのか時折不安になるような趣味にかかずらわずとも済んだはずです。将来のために貯金だって出来たはずだし、もっとうまいものだって食えたはずです。こんないい店に寛ぎながらムズムズと次なる店を求めるなんて卑しい根性も芽生えなかったはずなのになあ。 なにの次に訪れたのも「アルルカン」というまあいくつかの定型化した喫茶店のあり方のフォーマットを器用にハイブリッドした感じのお店ですが、ぼくにはこういうお店ってなんだか疲れるのです。スイスの湖畔の別荘のような外観の建物というのは当たっていないかもしれませんが、店内は観葉植物なんかで程よく遮蔽的な目隠しをしていてそれがまあ他人の視線を気にせず済む配慮なんでしょうが却ってせせこましい窮屈さを強化する効果となっているようです。それを気に入ってか、長居する方もおられます。どうも客の好みを周到に考慮したうえで造られたお店というのは愛着が湧きにくいのです。店主の情熱が不気味な程に迸って食あたりしそうなくらいの店こそがぼくの好みなのだと再認識します。程よく調和の取れた心地よい店など求めちゃいない。凄いけど長居をしてしまってはどうにかなってしまいそうな狂気を孕む店こそがぼくの好みであると改めて思うと次なる店がまたもや気になっていても立ってもいられなくなるのです。 しかし水戸で想定していたお店ははじめの二軒だけでした。レンタサイクルの利用は、機動力をもたらした反面で、利用時間という制限で跳ね返ってきました。まあそれはそれで良かったのかもしれません。ついで目にした「アラスカ」、「トロピカル」、「れんが家」、「coffee PALETTE」もほとんどやっておらず、うち一軒ももう閉店が間もないようでした。次に水戸に来るのはいつの事になるのだろう。今はまだ常磐線に乗ってどこまでも行ってみたいという気持ちは希薄ですが、とにかく都内を起点に旅を続けるようなら否応もなく訪れることになるのだろうな。
2017/06/18
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久し振りに石岡までやって来ました。前回来たのはこの町の素晴らしい喫茶店を訪ねてのことであり、その前はその喫茶店に振られるために来ていたのでした。だから駅前に良さそうな食堂が2軒、隣り合うようにあるのは知っていたけれど、本命を仕留めぬうちは、次に進めぬという不自由な一面がぼくにはあるのです。いつもは町は一度歩いた切りては分からぬなどと悟ったように語っていますが、ひとえにこの不自由な意固地さがさせるものなのだと分かっているのです。しかもかなり打算的な性格なので、欲張りすぎて失敗することもしばしなのです。人の身体はそれほど思い通りに働いてはくれないものです。また脱線しました。この日も欲張った一日を過ごして、その帰り道に石岡に寄ろうということなので、過去の過ちに少しも懲りていないのです。 でもここに寄るだけの気力は残っていました。「福々食堂」は、石岡駅前の大衆食堂。まさに絵に描いたような模範的な駅前食堂の風貌は、古い喫茶店や酒場に劣らず好物のぼくの視界にずっと収まっていました。ここがやってなくてももう一軒はやってると思っていたから気持ちは軽い。でもそんな杞憂などどこ吹く風、当たり前のように開いていました。大衆食堂の暖かさは、酒場の赤を貴重とした照明より疲労した身体や心を慰めてくれるようです。ぼくにとって喫茶店はやはり日中に行く場所で夜の喫茶店はどこか冷ややかで安らぎには結び付かないようです。ホッパーの『ナイトホークス』のような孤独が身に沁みるのです。無論、ホッパーの絵の中に見を置きたいような感情に晒されることも少なくないのですが、旅に疲れた身には食堂のぶっきらぼうなのっぺりした照明が心地よいのです。ところがこちらのお店、思ったよりずっと喫茶店よりの内装だったのです。可愛い細部と食堂の簡素が不思議な加減で交わっていて、何とも言えぬ感情を喚起するのです。嬉しくもどことなく落ち着けない所在のなさで、しかし寒さから清酒をお関してもらいます。他には誰一人いない店内でぼんやりと疲労した体に染み渡る酒を感じながら、ぼくはこの上なく幸福でした。冷えた焼豚さえ暖かく感じられるー旨いー。このまま呑み明かしたい気持ちになりますがそれは許されぬのだろうなあ。 次の上り電車までまだしばしの時間があるようです。ここでもう一軒の食堂に行っておけばいいのにそうせぬのがぼくの偏屈なところです。駅のほぼ真正面に焼鳥屋らしき店があります。前来たときはなかったかもなあ。店名の「鳥ひつじ」が気になりますが、凡そ察しがつくというものです。そしてその推測は間違っていませんでした。店のお兄さんに聴いておきながらその答えを遮るように、自慢げに答える己の態度が見苦しい。やはりジンギスカンのお店をやっていたようです。これを読んでいただいている殆どの方が容易に推測されたのではないでしょうか。実直そうな青年に次の列車の発車時刻まで呑ませて欲しいと告げると、嫌そうな顔もせずに応じてくれたのははずはありがたい。時間もないのに一応焼鳥を頼んじゃう辺りが、我ながら鷹揚なことです。それでもしっかりと火を通して出してくれるのはありがたい。時折、慌ててる素振りなどすしてみせると、火も通っていない品を出すような店があって、それは職業倫理にもとる行為であるのですが往々として経験することなので注意が必要です。他にお客さんがいれば手身近に引き上げるのもさして気まずくもありませんが、独りだと事前に己の状況や行動計画を嫌味にならぬよう、さり気なく伝えておくのが互いのためです。でもこんな店に入っちゃったから久し振りにジンギスカンが食べたくなったなあ。近頃都内でも食べられる店が増えてきたけど、まだまだ少数だからなあ。と書いてるうちにも行きたくなってくるのでした。今晩行こうかな。
2017/01/26
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そう、今回のお出掛けの目的が竜ヶ崎線と書きましたが、一駅上野寄りの藤代駅前の喫茶店にもぜひ行きたいと思っていたのでした。それが空振りに終わったことはすでに報告を終えています。今回の遠征は、愚痴が多くて読んでいただいている皆様には申し訳ないのですが、実は案外楽しんでいるのです。都内の思いがけぬ場所に見知らぬ喫茶店やら酒場やら食堂なんかがあったと、限られた情報源から入手したとてなかなか触手が伸びぬのであります。慣れきった町で呑むのは平日の夜で十分です。ウィークデイはなるたけ縁の薄い店に行きたいのであります。そして何もなかったとしてもそんな町を歩くのが楽しくて仕方がない。だから藤代駅なんてとっくに来ておいてよかったんだよな。なのに来なかったのは怠慢というより交通費をケチる己の問題なのか、いや、日本は交通費が高すぎるとよその国の物価もよく知りもせず断言してみせたりする。 駅前にちょっと良さそうな店がありますが、そこに立ち寄るとそこで腰を据えておしまいということになりそうなので、もう少し散策した後に店は決めたいところ。駅前の古い何某かの店舗跡を使い回しした駐輪場は郊外の駅でしばしば目にしますが痛々しい印象がなんともいえぬ虚しさを晒していて、今や地方には町や商店街などは無用、駅前商店街など無用の長物と成り果てているようで物悲しい。ぼく自身そんな物悲しさを好んで求めているのだから否定はできぬものの、なんとかこうした町に活気を取り戻すことはできぬものか。近頃流行しているーしていた?ーポケモンGo!なんていうアプリは少しも興味がないし、無論試しもしなかったのですが、ああいう現実と仮想空間がリンクさせるというアイデアは期待できそうです。考えてみればGoogleのストリートビューなんてのもファンタジーの世界みたいで、世代が進んで世界が重層化して、これまた流行りのVRの技術と組み合わせることができたなら自宅の中で散歩を楽しめるなんてことになるんだろうなあ。 なんて脱線はこれ位にしておくことにします。駐輪場を抜けて突き当りに「居酒屋 ふくだ」という入口までのアプローチに怪しげな風情のあるお店です。酒場における扉に伸びるアプローチというのはたまらないものがあって、都内の下町酒場には望むべくもないものです。その到達点は仙台の「源氏」ということになろうかと思われます。こういう仕掛けは北国にこそ相応しい。都心では雑居ビルの特に地下がそれにいくぶん近い情緒をもたらすのですが、やはり甘美に秘密めいた場所というよりは、いかがわしくもヤバいという側面がありありとしています。ここ「ふくだ」のアプローチにそこまでの興奮を求めるのは酷ですが、それでもこのお店が相当な歴史を乗り越えてきていることは外観からも見て取れます。恐らくはかつて料亭のような使われ方をしたのではないか。人の姿は見えねど二階の宴会場ではかなりの人数が寄り合っているようです。一階の奥も座敷になっており世代、性別を超えた会合がまさに始まらんとしています。表からは寂れたお店にしか見えませんが、店内はきれいに改装されており、地元の方の大事な寄り合い所となっているようです。実際カウンター席もテーブル席もあるのですが、こちらには一人の客も入っていない。帰り際におひとり様が来られただけでした。マンボウの唐揚げなんてのがあって頼んでみると、噂に聞くアンモニア臭など少しもなくさっぱり美味しい白身でした。卵焼きは、そうそうこれこれ、器用にだし巻き風の本格的なものじゃなくて全然いいのであって、卵を溶いたところに砂糖をぶっこみ、ちゃちゃと混ぜてフライパンに流し込みペロンペロンと返す。そこに好みで醤油などまぶせば立派なご馳走になります。うん、悪くない。酒の値段にやや難有りですが、それもグラスワイン290円を見つけました。量もたっぷりでガブ飲みも惜しくないです。 さて、駅前の「鈴木屋料理店」に引き返してきました。外観は地方のファミレス風の和食料理店で、ここも「ふくだ」と似たようなタイプのお店かと思いきや、それなりのオオバコではありますが、想像よりずっと落ち着いた雰囲気の老舗蕎麦屋とかにも通じる雰囲気のあるお店です。こちらの店内と向こうの店内が入れ替わっているほうが外観とのギャップを感じずに済みそうですが、そのギャップがまた面白いのです。そんな店なのでお客さんも3、4名程度の小グループが数組と独り客となっていて、ぼくのような宴会とあまり縁のない者にはこちらの方がしっくり来ます。ここでは正直何を食べて呑んだのかあまり覚えていません。でもそんなことはさほど問題ではないのです。こういう枯れた町の渋い酒場で呑んでいるとまさかここが上野から40分程度で来れる土地などということは忘れて、遠くの町に来た気分になれるのだからありがたいことてす。旅は終わりよければすべてが良しとなるものです。
2016/11/15
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滅多に来る機会のない竜ヶ崎なので、もう1、2軒は呑んでおきたいところ。ですけど味のある店がほとんどないんですね。チェーン店もないけれど、それは少しも慰めにはならない。何軒かのこざっぱりした気取ったお店はあるけれどそんなのはちっともお呼びではないのです。目抜き通りに一軒ちょっとばかしいい感じの「鳥益」というお店がありますが、開店まではまだしばらく時間があるようですー書いてあるのに未練たらしく主らしき方に確認したりしてー。待つのもかったるい。店内を見ちゃった時点で興味の半分近くは削がれているのです。喫茶店なんかで時として待てど暮せど店の人が出てこないときがある。いやそれがたまにではなく案外頻繁にあったりするものだから、今ではこれはまあもういいかなんてことならそろりそろりと後退りしてそっと戸をすり抜けて退散なんてこともあるのでした。居酒屋でこれはそうはないのですが、あまりにも想定と違っていたら店を間違えたフリなんてしたりすることも無くはないのですが、これってよほど慣れていないと結構なストレスになるもので、慣れてもそれはそれでいつまで経っても店を決めかねることになり、基本的にはカップルしかいないとか分不相応とひと目見ただけで判然としている場合に限られます。 面倒なので駅から至近の「橋本屋」というお店に入ることにしました。これまた看板がなければ単なる民家でしかないような、さほど気乗りしない店ではありますが、いつまてまもグズグズするのは時間の浪費であります。見ようによっては古くからやっている駅前酒場が改装したように見えなくもない。でも店内に入ると、う~ん、やはりこれは間違いだったか。確かに畳敷きの広間はあまり見ない造りですが、上がり込んでまで呑みたいという雰囲気ではない。でもテーブル席は事務椅子なんだよな、場末の角打ちなんかでたまにこの事務椅子を見ることはあるけれど、普通の居酒屋でこれはいくら何でもなしだよな。まあ不満は置いておくとして、取り急ぎサワーを注文。実はトイレが我慢できなかったのです。戻ってくるとお通しの枝豆とサワーが用意されていました。カレーのルーとかちょっと良さそうな肴もありますがちょっとお高め、軟骨揚げにしておきます。ここでホワイトボードの品書きから手元のメニューに目を移すとなんとこのサワーが500円とは。壁にはコロッケが地図上に載っていてどうやら竜ヶ崎ではコロッケを名物にして町興ししようと画策しているようであるがコロッケじゃあいかにも寂しいね。おや、こちらのお店も載ってるじゃないか、「世界の橋本屋」だって。 さて、これからが今回のささやか過ぎて実りも少なかったと言わざるを得ないのですが、竜ヶ崎線に乗れたのは嬉しいな。でも車窓が真っ暗でほとんど表に何があるのか見えないのです。見えないのだから日中歩いたのと似たような風景があるのでしょう。案の定と言うべきか、乗りこんだ列車は竜ヶ崎コロッケトレインなる触れ込みでありますが、吊革部分のコロッケというよりはお稲荷さんのような飾りが痛々しい。これじゃ衰退の一途だねなんて失礼なことを考えますが、人口はわずかながらも増加してるのですよね。でもこの列車の一日乗車券が販売されているらしくいくらコロッケの割引券が付いていたとしても500円は高すぎるのではないか。 さて、佐貫駅に到着しました。呆気なく取り立てて面白みのないのはそれはそれでローカル線らしい悲哀で悪くない。昼間に歩いた東側はもういい、ということでとりあえず西口を歩いてみることにします。少し歩くと呑み屋街というにはちょっともの足りぬ通りがあって、このまま素通りするのももったいないーまた来る機会はそうはなさそうに思えたーので、なんとか寄り道しようと思い物色するのですがどこもいかにも残念過ぎて結局横目で眺めるだけに終わったのでした。
2016/11/14
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酒場篇の1回目で中華料理店に立ち寄って素通りしたかに書かれている佐貫駅周辺ですが、一軒の喫茶店がありました。「喫茶 多意夢」です。家庭的な雰囲気のお店で、どこかの自宅のリビングみたいな雰囲気です。テーブルゲームとはまた違ったゲームが置かれていたはずです。純喫茶とは言えぬまでも、まあこの辺では貴重な喫茶スペースということのようです。 JRの沿線については、18きっぷの助けを借りさえすれば容易に出向くことができますが、私鉄や第3セクターなどの公営の鉄道路線の場合はなかなかそうもいかない。関東鉄道竜ヶ崎線も都内からは手軽に乗りに行けるとは言っても、実際行くとなればそれなりに出費もかさむみます。なので歩くことにしたことは酒場篇に記載したとおり。だから竜ヶ崎の喫茶店については、綿密なる調査の上で出向きたかったのですがなにしろ発作的に出掛けることにしたので、「喫茶 ドリーム(COFFEE HOUSE DREAM)」位しか調べが付きませんでした。 だから竜ヶ崎に着くと早速、そこに向かうことにしました。外観はなかなかのルックスです。ドア脇のギラギラしたポール状の飾りがちょっとユニークです。ウッディな雰囲気にモダンな意匠を加味するセンスに店内への期待が高まります。ところが店内は、手前が籐張りの木製のチェアで、奥がベロアのスナック風とあまり面白味はありません。ドライフラワーが所狭しと飾られており、それが若干劣化しているのが痛々しい。客たちは御隠居さんがほとんどで昼間から酒を呑んでいて、テレビ画面には競馬中継とうらびれた雰囲気です。こういうムードは地方の喫茶店では頻繁に目にするものですが、あまり気持ちの良いものでないのが正直なところです。 店を出るとすぐに「パーラー・和洋菓子 ゲンナイ」があります。パーラーとあるのでもしやと思ったら、商品ケースが賑やかなだけで、からんとしたホールのような空間にポツンとテーブルが2つ置かれています。いや,別にそれはそれでいいのですが、これだけ見てしまうともう十分という気分になるものだから何もいただかずに済ましてしまったのでした。 そのお隣にも喫茶店があります。「ティールーム ぶりっじ」というお店。残念ながら閉まっています。なかなかの面構えで、歯噛みして悔しがりました。ところが店内を覗き込むと明かりが付いていたので、もしかしたら夜になると店を開けるのかもしれません。でもその時にばっちり中の様子が見えてしまい、それを見る限りでは特別にユニークだとは思えませんでした。 最後に悲願のお店に向かいます。藤代駅前の「純喫茶 道」です。前々から常磐線の車窓から見掛けていましたが、その佇まいの渋さにずっと憧れを抱いていました。何年か前に福島のいわきに行った際にこの店のことを書いたことがあったと思います。ようやく念願かなって訪れた訳ですが、無念、店舗は真っ暗です。1階には真新しい呑み屋さんが営業していますが、お客さんは入っていません。帰宅後ネットで調べてみると「純喫茶 道」は純喫茶からスナックに切り替えて、さらにはその営業すらやめてしまったのかもしれません。残念ですが、浮世の常とあきらめざるを得ません。しかしそれにしてもかっこいい店名です。たまたま最近宇多田ヒカルの同名の曲を気に入っていて、どうしても重なってしまい、口づさんでしまいそうになるのでした。
2016/11/13
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このところ曇天の続いた関東近郊でしたが、退屈な土曜の午後に外を見ると気持ちのいい快晴だったので、家でごろごろしているのも勿体ない。かと言ってこれといった行きたい町も思い付かぬ。遅くまで呑み歩くには、ちょっとばかし差し障りがあったりもするのです。だからここはいっそのこと喫茶店と酒場のことは忘れたことにして、これまで乗る機会のなかった関東鉄道の竜ヶ崎線にでも乗りに行くことにしたのです。 突如思い立っての小さな旅なので、スマホの時刻案内と地図を頼りに目的もなくぶらりと旅するつもりです。声をかけるとA氏も行けるとのことなので、柏駅で合流することにしました。JR常磐線には頻繁に乗車しているので、柏駅位までならもう外を眺めるまでもない。結局、柏駅では合流できずに天王台駅にて合流しました。ここら辺から先は、まあ乗り慣れてはいるけれど多少なりとも旅情を感じます。最初の目的地は佐貫駅です。関東鉄道の竜ヶ崎線の起点となる駅です。ホームから見渡すと西口には呑み屋さんらしきものが多少なりとも見えるので、こちらは夜のお愉しみにとっておくこととして、改札を抜けて東側に出ます。竜ヶ崎線のホームはこちら側にありますね。でも行きは終点の竜ヶ崎駅まで歩くことにします。なんといっても空は晴れ上がり、空気は昼下がりのうららかな日差しもあって、ちょっと暑い位に心地よいのです。でもちょっと腹が減ったなあ。と歩いていくと枯れた中華料理店がありました。 「新京」です。外観こそ町外れのどこにでもありそうなお店ですが、店内は実用一辺倒の素っ気ないほどの飾り気のなさ。喫茶店でこれだとどうかと思うのに、酒場とか食堂なんかが殺伐とした内装だと途端にかっこいいと思えてしまうのはどうしたものでしょう。お一人おられる先客は、ビールにタンメンと餃子という贅沢なランチで過ごされています。土曜の昼下がりに漫画雑誌などを眺めつつ、ビール片手にのんびり昼食を摂るとはなんともはや贅沢な時間の送り方です。それにしてもすでに退職して久しいご様子なのに、健啖なことと羨ましくなります。われわれなどザーサイ、餃子、中華丼を分け合っただけで満腹だというのに、団塊の世代の人たちの元気さと旺盛な食欲にはいつも驚かされます。店こそ空いていますが、出前の電話がたびたび鳴って中休みの断りの対応をなさっているので、ここら辺の人は店には来ず、出前で済ませてしまわれるようです。 さて、腹ごしらえも済んだので、竜ヶ崎駅まで歩いて向かうことにします。ほぼ線路に並行に味気のない侘しい街道の一本道を歩き続けます。途中何軒かの飲食店を見掛けましたが、現役なのは食堂と中華屋さんがそれぞれ1軒ある程度です。歩けど辿り着かぬので正直うんざりしてきます。住宅も少なくなり、やがて田んぼが見え始めた頃に、「岡野食堂(おかの)」というお店がありました。ここは気になるなあ。暖簾も出ているので恐らく現役の店ですが、夜の営業まではまだ当分時間があります。さらに進むとようやく町らしい商店も姿を見せ始めたと思うと、路線バスの基地が見えてきました。案の定その先には駅舎があります。愛嬌など少しも感じさせぬ実用一辺倒な造りが、さびれた町の風景に嵌って切なささえ感じるほどです。ところが、A氏の入手した情報によると、終焉間近に思われた竜ヶ崎の町ですが、人口はわずかながらに増加しているとのこと。見た目だけでは分からぬものです, 駅は後でじっくり鑑賞することにして、まずは駅前商店街を歩いてみることにします。駅前旅館が残る辺り、田舎町の風情です。そうそう実は竜ヶ崎には昔いとこが住んでいて1週間ほど滞在して遊んだことがあるのです。だから間違いなく竜ヶ崎線には乗っているはずですが、悲しいかな少しも記憶がありません。人通りもなく、シャッターの閉ざされっぱなしになっているらしい商店街が続きます。喫茶店もあり、立ち寄ってもみましたが、今回は酒場篇なので、それは明日の報告とします。 商店街を逸れて裏道を歩いていると、中華、洋食、お好み焼、パーラーとなんでもござれの「いしかわ」というお店があります。洋風な造りの入口がある側は固く閉ざされていますが、もう一方の戸は開きそうです。でも壁には11時から3時までの営業と書かれており、これは入れぬかとダメもとでトライすることにします。自動ドアとあるので、ドアの前に佇んでみますが、開く気配はありません。もしやと手で開けるとなんなんだ、ちゃんと開くではないか。店内にはオヤジさんが独り、こちらの様子を見守っていました。極まりが悪く勤めて陽気にやってますかと尋ねると、大丈夫ですということなので遠慮なくお邪魔させていただきます。酒の品書きはありませんが、生ビールの水着ポスターが貼ってありましたので、尋ねてみるとビールと清酒はあるそうです。暗くなって冷えてきたので、お燗してもらうことにしました。とにかく静かな店内はかつては賑わったのでしょうか。パーラーやお好み焼きは若い人たちにも好評だったのだろうな。メニューにお子様ランチ500円もあって、すごく気になりましたが、あまり面倒な品を注文をするのが憚られたので、定食メニューのホイコーローを単品でもらいました。味付けは市販のなんとかの素みたいな味わいでしたが肉もたっぷりでお手頃です。ぬるめに出される清酒がおいしい季節になったなどと思っているとついつい杯も進んでしまいます。でもここで呑み過ぎると先が続かぬので、結局一人のお客も来ない寂しい店内に主人を独り残して店を後にしたのでした。
2016/11/12
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またもや取手にやって来ました。起点となるのが自宅にせよ職場にせよ同じ時間を要する町に向かう場合であっても都心部に向かうのは気乗りしないのに対して、郊外に向かう場合は足取りが軽くなります。町の雰囲気が好みかどうかということよりも町が人でごった返している状態が不快だというのが最たる理由になります。だから常磐線沿線の町というのは人出もそう多くなく、北千住や柏でさえも地方の町のような趣きに感じられるから、必然気軽に行ってみようと思い立つことが多くなります。でもさすがに取手となるとちょいと足を伸ばそうかなと思い立っても少しく時間が掛かりすぎるし、運賃も馬鹿にならぬのです。でも先般取手に来たばかりなのにどうしてまたもや訪れることにしたのか。うわ、何だか文章が堂々巡りしています。取手に行きたい食堂と酒場があるとだけ書いておけば良い事でした。しかも運賃以外にぼくの意欲を削ぐことなど一つとしてないのだからそれはもう行くしかないでしょう。 目指すべき一軒目、こちらは食堂というよりかは端的に焼そば屋なのです。一軒目に選んだ理由はハッキリしていて酒を置かないというのが答えです。だからということではないのですが、これまでネットで見かけたその佇まいに憧れつつも訪れる機会を逸していたのでした。酒場ではないので本来はお蔵入りするところですがあまりにも理想的なお店なので記録しておくほうが良いと考えたのでした―なんて言いながらこれまで何度も例外的な店を俎上に上げているではないか―。日光街道までの道程は何軒かのほぼ廃墟になり果てた建物に興味は惹かれつつも営業する店は少なく物悲しいこと甚だしいのであります。日光街道に出るとどうしたものか、開発半ばで放置されたかのようなクレーター化した土地が放置されていて独特の景観となっています。やがて、日光街道に面しているからかつてはここが取手の中心地だったのか、いやそれにしては寂れすぎている商店街が不意に姿を現します。小学校や立派な神社に混じって書店や文房具店などの商店街がちらほらあり、そこに「山口屋食堂」はあります。神社の境内脇にひっそりと立つその簡易な建物は簡素ながらも長年の風雪に耐えてきたのか、風景の中にしっくりと収まっています。10名も入れば目一杯の飾り気のない店内にかつては子供たちが集ったのでしょうが今ではそれも学校から禁止されているのでしょうか、土曜の夕暮れ前というのに子供の姿をさっぱり見ません。おばちゃんに百円玉を二枚渡して小盛りの焼そばを注文。具も少なく自分ちで作るのとそう変わらないはずなのに、なぜだかおいしく感じられるのはノスタルジックな気分の作用でしょうか。 関東電鉄と共用の面倒な駅舎なので駅の向こうには地下道を通り抜けます。こんもりした神社のある小山を取り囲むように呑み屋が張り付いていることは、前回も書きましたが、その中の一軒がとりわけ古びていてすごく気になるのです。店名はよくよく店に近づかねば見つけられぬでしょう。「一平」というのがそのお店です。ここには2度程フラレているのでこうして入ることができたのはまさに感無量です。店内は典型的な場末酒場のそれで、相当に枯れきった雰囲気です。汚くないとはとても言えぬ状態なのですが、それがけかて不快でないのは常連たちがあたかも我が家にいるかのように振る舞っているからで、慣れてしまいさえすれば、多少の汚さなど何程でもない。元気一杯の女将さんによると50年はやっているらしい、丸煮や柳川、から揚げもあるどじょう屋のはずだけど、ここしばらくはドジョウを入荷していないのはいささか残念ではあるけれど致し方あるまい。席に着くと適当に夜用意してくれるスタイルです。この夜の二人目までは餃子だけれどほくには卵焼き。ちょいと安っぽいがこれがなんだか滋味に溢れてる。なだかぜボトルキープをやたらと勧めてくれて、その割にボトル代を取るわけでもなくあんたのために残しておくよとキープしてくれたりしたらまた来ぬわけにはいかぬではないか。でも女将さん、間近に大きな手術が控えているらしく、この後の営業ははっきりしないとカラリとした声で語ってくれるのですが、まだ営業してるのだろうか、遠くはないのにいざとなると取手はやはり遠い町に感じられるのでした。
2016/10/19
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久し振りに取手にやって来ました。数年前に年の暮れも迫った頃、旅行帰りにチラリと途中下車してハシゴ酒をしたことは、記憶に鮮明です。その際神社を祀る小山を取り囲むように呑み屋街が形成されているのが、面白くて興味を惹かれたものですが、実際にはそれほど規模の大きなものではなく、店舗数も少ないのでわずかの時間で眺め切れてしまいます。でもそのわずかな店舗の中に、記憶に刻んでおきたい素晴らしい一軒があったのです。 でも早めに到着したのでひとまずは駅前通りの雑居ビルの2階にある「アポ」に立ち寄ってみました。自家焙煎を売り物とした喫茶は、コーヒーの味と香りにかまけてしまうためか、店そのもののの魅力に対して無頓着なことが多くて、それは喫茶空間にけして馴染むとは思われぬ無骨な焙煎機の存在をあえて前面に晒すことで、あんた達の飲んでいるそのコーヒーはここで毎日焙煎したものだから香りがすごいでしょと訴えているようです。実際はこの機械に染み付いた香りが強烈すぎて、本来のコーヒーが霞んでしまうことも多いんですね。このお店も焙煎機が店の片隅に置かれてはいますが、しかし、その存在は極めて控えめで、店自体はごく穏便な内装に留まるものの窓から眺める人気のない町並みをそれでもボンヤリと見つめていると時間を忘れそうになります。 でも「さつま 2号店」の開店時間である4時を迎えるとさっと勘定を済ませて店に向かうのでした。前回は本店にお邪魔しましたが、今回はもう一軒に立ち寄ることにしました。以前来たときには本店もほぼ満席でしたが、こちらはさらに混み合って賑わっているような気配を感じたのでした。気になる酒場を無視して、間違いのない定番店を訪れるという判断はぼくにはないのでした。現実的な問題として本店の開店は5時ということでそれまで待っているなんてとてもできそうにないのです。そんなことで2号店の戸を開けるのですが、ちょっとフライング気味だったみたいです。でもお店の方がどうぞと招き入れてくれるので有難く入らせてもらいました。本店の大衆酒場そのものの風情に比べるとやや生硬な印象を受けますが、これはこれで居酒屋の典型であります。まっすぐ伸びる長いカウンター席と並行してテーブル席が置かれ、奥が座敷となっています。店全体が眺められるカウンター席の奥がぼくにとっては特等席です。それにしても店内所狭しと貼り巡らされた短冊の品書きには圧倒されます。そしてそのお値段も100円のらっきょうーだったかな?ーからどれもこれも手頃なのが本当に嬉しい。そして何よりも気が利いていると思うのが、それらの肴が独り酒するには丁度よい塩梅の盛り付けで、若い頃は大盛りだとそれだけで喜んだものですが、よる年波がかほどてきめんに影響するとは思っていませんでした。世の多くの居酒屋はここの商売を見習うべきです。
2016/09/27
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もう遥か前のことのように感じられるGWですが、まだひと月しか経っていないのですね。歳を重ねるごとに時間が自らの生活次第でいかようにも伸縮することを如実に感じます。それが酒場や喫茶店という身近にありながもひと時時を止めてみたり加速してみたりする魅惑的であると同時に日常からは乖離した場所に頻繁に出入りしていることもその感覚を加速させる要因ともなっているのかと考えると、近頃日中にあってもその浮世離れしたような夢想に耽ってしまうこともさもありなんと得心しつつも、一抹の不安も感じるのでした。さて、今回でこの東北本線の旅も最後となりますが、果たして素敵な喫茶店に出会うことはできるのでしょうか。 すでに終了した酒場篇では素通りとなった氏家駅にも喫茶店探訪の目的地となっていました。初めて下車した氏家駅はけして広くはなく、寂れてはいるものの町というものが辛うじて息づいていることが実感できる好ましい町でした。町を歩いていると目当ての「珈琲専科 木曜館」がありますが、こちらは残念ながらお休み、というかもうやっていないのかも。店内には自転車が仕舞われていますが、これが店の存否の手掛かりとはなりません。駅前のロータリーというより町の中庭のような駅の正面に「フェニックス」がありました。特別目立った装飾はありませんが、くだけた雰囲気の地元の方の社交場という喫茶店本来の味わいが漂う好ましいお店でした。 続いて下車したのは小金井駅です。不思議と見晴らしがよく、日本の町らしいデタラメに配置されたおもちゃ箱の中のような風情は微塵もなく寒々しい風景が全く感情を揺らぶることはないうそ寒い虚しさが去来するばかりの町ですが、「樹亭」という立派な一軒家の喫茶店は砂漠のオアシスという使い古された形容が相応しい安心感に満ちています。上品な女主人の淹れてくれるコーヒーは気分が落ち着いたせいもあってとんがったところのない優しく香り高い味わいでした。他にお客さんはおらず、つい小金井の住民はちゃんと通ってお店を守ってあげないとオアシスを失うことになるよ、失われたオアシスは二度と取り戻せないよなどと柄にも無く感情的で説教臭いことを思ってみたりするのでした。 間々田駅では喫茶店に入ることはできませんでした。駅前の「喫茶 めめ」が閉まっていたのです。店名は駅名の「まま」に語呂合わせしたのでしょうか。扉のガラス越しに見える店内はなかなかにシックで古臭くて入れなかったのが誠に残念なのでした。 野木駅の多分東口には「どんぐり」という喫茶店があります。しかし酒場篇で触れたとおりすでに店仕舞いしています。この日はお子さんが里帰りしていたようで―全く根拠なし、親密なムードからそう思い込んだだけです―、ドアを開け放って談笑なさっていました。そこから覗かれる店内は純喫茶らしい、しかもかなり凝った意匠を纏っているようです。店の方にお願いして店内を拝見させていただきたいという誘惑に駆られますが家族団欒をぶち壊してはなるまいと諦めることにしたのでした。 これでようやく今回の旅も本当に終了です。最終日はあれこれありましたがなんとか数軒だけでも喫茶店に立ち寄れ少しだけGWの憂鬱から解放された気分です。
2015/06/06
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先に立ち寄った居酒屋に懲りて、土浦はもういいかという気分になり、この旅最後の町に向かうことにしました。取手にもまた親戚がいたことがあって何度かやって来ているもののほとんど記憶に残っていませんし、実際降り立ってみるとその再開発され尽くした愛想の欠片もない町並みを見ても、かつての風景と結びつけるのは困難であったに違いありません。このような有様の町を歩いてみたところで某かの発見やら出会いがあるとも思えませんでしたが、取手から先には馴染みのある駅ばかりですし、引き返すだけの気力ももはや湧いてきません。なんだかやけに駅の東西だか南北だかの往来が面倒な駅構内をげんなりした気分で上り下りを繰り返して通り抜けるとー住民の方はこの不便さにきっと大いに不満の声を上げているんだろうなあー、その反対側も似たりよったりのビルばかりの光景が広がっています。やむを得ず町に歩み出ると、何軒かのまあいざとなったらここでよかろうと妥協できる程度の居酒屋がありましたが、そこを抜けるとふいに弧を描いた不可思議な呑み屋街がありました。大抵はスナックやキャバクラを中心とした風俗店のようで、呼び込みたちを掻き分けながら散策してみますが、気持ちはとうに決まっていました。 「大衆酒場 さつま」は、現代チックな無機質な店ばかりがはびこる取手にあって、数少ないーもしかすると駅前では唯一かもしれないー暖かみのあるこれぞ酒場というお店でした。外観だけで判断するのは早計とも取られ兼ねませんが、これほどまでに再開発の渦に飲み込まれた取手にあって、恐らくは開店当初からの店舗をそのままにやってこれただけで、まさに良店であることの証左となっているはずです。12月30日の9時近くなって2014年もあと一日ちょっととなっても、店は大いに繁盛していて活気に満ち溢れていました。特に奥の小上がり席の面々は、まだまだ呑み足りぬといった風に奇炎を吐いています。われわれはカウンターに座して、普段ならやかましいとも感じたであろう酔客たちの嬌声をBGMとして心地よく聞き流すのでした。それもこれも外観のみならず店内もまさに酒場そのものでしかなかったからであり、端正さでは土浦の「横丁」に歩があるものの、こちらは混沌とした出鱈目さに見えて長年掛かって工夫されてきた混沌とした中に見え隠れする一本筋の通った店造りがされていることは一見でしかないぼくにさえ感じ取れるのでした。さらには値段の手軽さやら肴の圧倒的な豊富さという有意点を加味してみると、普段遣いということに限ってみればぼくは間違いなくこちらを支持します。こうした気分のいい酒場であるせいか、女性客もそれなりに入っていてカウンターのずっと先の席では、30歳前後の素敵な女性が帰省したのでしょうか、両親とともに杯を交わすのが眺められ、さらに気持ちをほっこりとさせてくれるのでした。ところで近くには支店らしき店舗もあり、人気のほどが窺えますが恐らくはそちらはグループ客向けのテーブル席が主体となっていると思われ、そちらにもハシゴしたくなるのでしたが、それはあまりにも嗜みがなっていないように思われ、次回のお楽しみに取っておくことにしたのでした。 あと一軒ちょっと渋い小料理のお店がありましたが、行き違いで店を閉めてしまったようです。それではとお邪魔したのが「清富」というお店。縁起の良さそうな店名に惹かれて入店としたのですが、古い酒場に無理くり今時の店のテイストを混ぜ込んでみましたというなんだかうそ寒い店造りでした。スタッフは女性ばかりで、もしかすると外国の方だったかもしれません。大して旨くもなく、あまり安くもないこの店で彼女たちはどこまで健闘できるのか、老婆心ながら心配になります。もしかすると遅くまで営業していて、他店のスタッフたちが店仕舞いした後に訪れるようなタイプのお店だったのかもしれません。それならそれで店の存在価値はありそうですが、日中の仕事をしているわれわれにはあまり縁のなさそうなお店に感じられました。 といったことで2014年最後の旅も終わりです。酒場巡りもこれがこの年最後になるはず。また来年も当たりと外れを繰り返すことになるのだなあと、間もなくS氏と別れることになる日暮里駅までの残り僅かの列車の旅を惜しんだのでした。
2015/02/04
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またもや常磐線に乗車して次なる町を目指すことにしました。次に下車することにしたのは、土浦です。土浦には親戚が住んでいて幼い頃に何度か遊びに来ていますがそれ以来は通過することはあっても下車することはなく長くご無沙汰している町です。職場の同僚が若い頃に遊び場にしていた町らしく、いろいろと情報を得ようと思いますが、何せ彼女ーこの同僚は女性なのですーにとっても遊び回っていたのが10年以上ということもあり、聞き込んだ情報はほとんどが役に立たぬ。喫茶店は何軒かリサーチしていたものの居酒屋はまるきりノーチェックです。果たして良い酒場に巡り会えるのやら。 ところが杞憂するまでもなく良さそうな酒場に行き着くことができました。木造のかなり古そうな一軒家からもうもうたる煙を吐き出す、見るからに酒場の理想形のような素晴らしいお店だったので、これは何としても入るわけには行きません。ざっと眺めてみますが、 看板がないばかりでなく、赤提灯やら暖簾にもそれらしき表記はありませんでした。オヤジさんに尋ねると、「横丁」とのことですがなんとなく適当にごまかされたような気がして、帰宅後ネットで調べるとごくごく限られた情報ながら一応店名と比較的参考になる情報が出ていました。それによると「焼きトン屋 横丁」が店名で間違いないようです。かつては「やきとり浜」と称していたとそのHPにはありました。店内にはHPにあるように短冊や品書きはなく、勝手の分からぬわれわれの様子を察したのか、基本的にこの店の流儀なのかお通しのキャベツ付を皮切りにー楊枝で召し上がってくださいとの言葉にたちまち平らげたS氏に追加していただいて結構ですよの言葉に素直に従うのをぼくは苦々しく眺めるばかりー、カシラ、ハツ、ナンコツ、レバ、シロ、ソーセージ(お子ちゃま)、ネギと怒涛の如く焼物が出されて、さすがにタジタジとした訳ですが、けして強引なサービスの仕方だったわけではなくオヤジさんとちょっと艶っぽくて、訳ありそうなお姉さんの連携プレーで実に良いタイミングで供されるものだからついついストップできませんでした。お子ちゃまがーこれは常連だけの隠語のようですー出された頃にやっとここまでを申告できたのでした。HPと年末だから切らしているという常連の注文を照らすと他にもガツ、タン、コブクロ、トマトがあるようですし、簡単な肴も何品かはあるようでした。装飾を極力排した質実剛健な店内には慎ましく昔の写真が飾られており、いろいろと昔話を伺いたかったのですが、当初はわれわれだけだった店内も30分ほどだった頃にはほほカウンターも塞がっておりー中には酒の呑めぬ父子連れなんかもいて微笑ましいー、開店当初こそは怒涛のお喋りを聞かせてくれたオヤジもそんな余裕はすっかりなくしていました。外には待つ客もあることなのでそろそろお勘定しましょうか。値段は思ったより高いのですが、まあこれだけの雰囲気を味わえれば文句はないです。 満たされた気分で店を出ると、再び土浦の町を彷徨います。時折味の有りそうな路地に出会いますが、そこにある店はいずれも新しい店ばかり。なんだかうんざりして駅に引き返そうとしたところ、風俗店を含む歓楽街がありました。とは言え時期が時期だけに閉まっている店も多く、候補は二店だけになりますが、その一軒は焼鳥店、さすがに焼き物にはうんざりしたのかS氏は乗り気ではありません。ぼくも焼き物はもういいという気分でしたが、焼鳥店に気持ちが向きますがいつもいつも自分の希望ばかり言っていては申し訳ない。それで結局入ったのは「いち川」というお店でした。カウンターに案外広い小上がりのある居酒屋らしい居酒屋でした。普段であれば暮れだからとさほど不審には思わなかったのでしょうが、この広さで先客一人はいかにも寂しすぎます。高齢の女将さんを含む夫婦でやっているのですが何とも言えぬ暗さが気持ちを重くします。どうしてこんなにも暗い雰囲気なのか、どうしてもわれわれも塞ぎがちになってしまい、これではイカンと日本酒に切り替えますが、それでも気分が盛り上がることはないままです。他のお客は、通い詰めているのかそれなりに盛り上がりますが、店の人が絡む様子もなく黙りこくっていて、それても身内だけで時折コソコソと言葉を交わすのが気になるところです。とまあ店の方たちの気がかりな行為以外は至って普通のお店なはずですが秘密めいた態度が一転して怪しげな店に変貌させていました。
2015/02/03
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いわき駅を後にしたわれわれは、泉駅に下車した後、常陸多賀駅を目指すことにしたのでした。ここには何軒か立ち寄りたい喫茶店もありますし、ちょうど昼時なので軽く食事を取りながら一杯ビールでも引っ掛けたいところです。駅前ロータリーの先にも味のある大衆食堂が見えていますが、まずは町を一巡りすることにしました。 歩いているうちに住宅街に踏み込んでしまいましたが、そのみ朽ち果ててしまいそうな一軒家の食堂がありました。「あかつき食堂」というお店でした。今でもこうした古ぼけたスタイルの食堂が現役であることが奇跡のようです。営業も昼間だけで、休みも多いようです。店内もテーブルが2卓に小上がりにも2卓あります。席に着くとお店の方がお茶と一緒にこれでもかとお菓子を運んでくれました。さて、一杯呑みたいところなので、ビールをくださいなとお願いしますが残念ながら取り扱いしていないそうです。酒の肴になりそうな品も多いのです。久しぶりに玉子丼を頂いてみることにします。絶品だとか大袈裟なことは言いませんが、細く切られたナルトの味がどこか懐かしくて、とても美味しく頂けました。それにしてもかなりのボリュームだったのでS氏と半分こして正解でした。食後には正直もういらなかったのですが、コーヒのサービスまであってその心遣いに感動しました。酒なしですが、素晴らしいお店だったので記録しておきます。 その後、喫茶店によった後、駅に近い「釜萬食堂」にもついでに立ち寄ることにしました。大変に立派な構えの食堂で外観もなかなかユニークです。店内に入ると広々とした空間が広がっており、かなりの収容力がありそうです。昼過ぎではありますが、この時間でこの入りの悪さはいかにも寂しい。ややお値段が高めなのが理由ではないでしょうけど、今ではこういう古いタイプの食堂が流行らないというのはなんとも残念です。先客の高齢者の3人組も訝しげな表情を隠しもせずにわれわれを見やって店を出ていくと二人きりになり、いよいよ寂しくなります。と思いきや店のご夫婦が人懐っこいというか、暮れも差し迫ったこの時期にブラブラしているおっさん二人に興味を持ったのか、はたまた不審に感じたのかは定かでないもののあれこれと話しかけて来てちっとも静かにはならなかったのでした。そうそう、一人旅だとこうして話し掛けられると、あれこれと店のことなどを伺ってみたりもするのですが、二人だとどうもその辺が億劫になってしまうという弊害もあります。ともあれこうした店を愛しく感じる方もまだ多くいますので、少しでも長く頑張っていただけることを祈念します。 さて、友部駅に移動しました。駅前には「飯店波良」と「黒沢食堂」があっていずれも渋い、さらに駅から5分ほど歩くと「大衆食堂 よね川」がありました。これが実にいい雰囲気で入ってみたいと心は訴えていますが、胃腸がまだ言うことを聞いてくれそうにありません。残念ですが、入店は見合わせることにしました。
2015/02/02
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何かと気忙しい年の暮れではありますが、この年末はどうしたものか、大掃除をいい加減に済ますなど何事につけ横着してしまった結果、一泊程度の旅行を目論める程度には時間が確保できました。一泊では行ける土地も限られー新幹線や飛行機の利用は予算的に問題外ー、福島県のいわきを訪ねることにしたのでした。常磐線は日頃も度々利用することもあってなかなか気乗りしないわけですがこんな暮の差し迫った時期にちょいと行くには適当な場所であります。交通手段はいつものことながら青春18きっぷ、旅の道連れは代わり映えせぬA氏と相成ったのでした。 日暮里駅にて合流、ここから改めて改札を入り直し18きっぷの旅のスタートです。最初に目指す駅は、石岡駅です。石岡には今年一度やってきていますが当初の目的であった純喫茶が何故かお休みで無念の思いをずっと引きずっていたため、満を持してのリベンジです。今回の旅の最大の目的と言っても大袈裟ではないでしょう。そんな訳で旅の予定を決めるのに本当に例外的なことですが、事前に電話までして当日営業することを確認してしまいました。本来は店との出会いは一期一会と言いたいところでがす、心中ではなりふり構っている場合ではないというのが本心です。9時30分頃には開店するということなのでそれに合わせて石岡駅に到着するよう調整しました。途中、列車が藤代駅のホームに滑り込む際、車窓から純喫茶の文字が飛び込んできました。老朽化したビルの2階に「純喫茶 道」とありましたが、果たして現役なのでしょうか。 駅前の目抜き通りを歩き、遠目に店が見えてきてもなお、休みであるかもしれぬという疑念が拭えません。正面に回り込んでようやく明かりが漏れ出ているのを見てひと安心します。「喫茶 マツ」は、半地下と中二階のある町の規模からすると破格に広いお店です。ツートンの合皮張りのソファが整然と配置され、割岩やレンガの壁面の意匠が贅沢なもうやはり来ておいてよかったとしか言いようのない大好きな喫茶店になりました。窓からの採光もあって、暗すぎないのも日常遣いの店としても魅力的でした。 さて、まだ水戸にさえ辿り着けていないので先を急ぐことにします。水戸駅では乗り継ぎもスムーズでしたが、乗り継いだ列車は高萩駅止まり。本当は、翌日訪れるつもりでしたが、乗り継ぎまでしばらくあるし車窓から喫茶の文字が見えたので当然ながら途中下車することにします。 駅前喫茶の「軽食 喫茶 プランタン」は、既に廃業して久しいようですが立地の利便性などを考慮すると往年は、たいそう繁盛したものと想像できます。駅を後ろに南へと進路を進めるとやがて衰退露わな呑み屋街が姿を見せます。居酒屋ともスナックともはたまたさらにいかがわしい店ともつかぬ店舗が何箇所かに散らばって軒を連ねているところを見るとかつては、それなりの悪所を含む盛り場であったのでしょう。「ムードサロン 浮世絵」なんていう何とも艶めかしい看板ご残されています。 呑み屋街の外れに「喫茶 スタッグ」を見掛けました。もちろん入ってみることにしますが、それにしてもなんともはや怪しげな佇まいであります。営業しているのが不思議と言っても過言でないほどの店構えです。飾り気のない外観からは店内を予想することはまず不可能に思われます。そこを無理矢理に想像を膨らますとすれば、恐らくはデコラ張りの安っぽいカウンターに小さなカウンター2卓、毛の削げたカーペットには所々破れのあるー同色のビニールテープで補修されているー合皮とひと目でわかるスツールにソファといったところでしょうか。一言で言えばあからさまに場末のスナックの典型的なお店であるということです。ところがそんな投げやりな想像などあっさり裏切るかのようにこれが結構ちゃんとした純喫茶の表情をたたえていたのでした。余計な装飾は排除した潔さが外観の淡白さとともにいっそ清々しい印象を与えてくれます。ところでこのお店の最大の見所は、昔懐かしいぼっとん便所であります。この地域は今でも汲み取り式なのでしょうか。なんとも情けないことにA氏は、和式が苦手なばかりでなく、ぼっとんは初体験とのこと。ということは、きっとチリ紙も初めてだったんだろうなあ。 せっかくなのでもう一軒、思い切りのいい黄のファサードがやけに目立っていて、純喫茶というムードがほとんど感じられないため一瞬の躊躇が脳裏を過ぎったことは否定できません。実際入ってみて想像とまるで異なるあまりにも正当な喫茶空間が広がっていることに驚かされます。茶を基調とした店内はいささか生硬にすぎる印象がありますが、主人の生真面目さの表れと受け止めることにします。コーヒーのしっかりした味わいもそれを反映するがごとくに丁寧にドリップされ美味しかったのでした。「珈琲 美留区」ですが、この裏側から眺めるとなんとも愉快な風貌を確認できますので、お出かけの際はお見逃しなく。主人の別な一面を見ることができると思います。
2015/01/11
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まるで期待していなかったのに、予想外に驚くほどにすばらしい喫茶店と居酒屋に出逢うことができた小山には、まだまだ未練がありますが近々、栃木に再訪する予定があって、その時に列車の乗り合わせのタイミングさえ合えばまた来れるかもしれぬと未練を断ち切り次なる町に向かうことにします、群馬県では唯一,東北本線が停車する駅の古河駅を目指します。小山駅からはこれまた10分程度で古河駅に到着しました。この古河駅で下車したことで,この日は東京都をスタートして埼玉県,栃木県,群馬県を巡ったことになります。いかにも欲張ったスケジュールでもう少し落ち着いたプランを立てるべきだったかと若干の反省もありますが、想像以上の喜びももたらしてくれたのでよしとすることにします。ここで最後となる古河駅周辺では魅力的な喫茶店や酒場と出会えるのでしょうか。 さて、駅に辿り着いてどちら側に向かうのがよいかハタと迷ってしまいます。以前訪れた際は確か西口を中心に歩いたことをうっすらと記憶しており、こちら側がかつての宿場町、加えて城下町の風情を残していたはずです。ただ商店はさほど多くない印象だったので、さほど再開発が進んでいるようでもなさそうなので思い切って東口側に出てみることにしました。 早速大きな一軒家のよさそうな喫茶店を見掛けました。「パルク」です。残り時間もあとわずかなので、迷わず入店です。洋風の立派な一軒家ですが、どこかしらポップな印象のユーモラスな建物です。フェイクで付けられた実際は存在しないであろう3階の窓がユーモアをもたらしています。店内は広々としていて緑も多くて、あまり純喫茶をアピールしすぎない一日の緊張を解きほぐしてくれるようなこれまたゆっくりと時間を過ごしたくなるムードです。可愛い制服姿の今どきにしてはおっとりしたやはり可愛いウェイトレスさんがトマトジュースのオーダーに応じてくれます。しばらくしてトマトジュースが品切れで、別のものにしてくださいとまさしくすまなさそうな表情を浮かべたので、気のいいおっさんを装って何やら別の品を注文。再びこの娘さんが現れ、トマトジュースが見つかったのですが、どちらがよろしいですかと再びやって来ました。トマトジュースはフレッシュ感が高く、市販のものに生のトマトを追加しているように思われました。しばらくくつろいでからお勘定に向かうとお釣りの小銭をそっと手を覆うように渡してくれるのですが、それに勘違いしてはいけません。きっと彼女の丁寧さの表れでしかないのでしょう。 しばらく歩き回っているとどうやら呑み屋は駅前に伸びる通りの北側にありそうだと暗い路地を出鱈目に歩いていると不思議な暖簾が掛けられた食堂がありました。その意味を探るためにその暖簾をくぐることにしたのでした。気分を変えるためにちょっとお得なグラスビールを注文します。さきほど小山でアジの刺身をいただいたばかりですが、こちらでは酢〆のアジがあったのでついつい似たものになってしまいますがもらうことにします。あっさりと〆られていて、食べ比べると同じアジでも印象がすっかり変わることに気づかされます、おいしい。お通しはちくわぶというのがちょっとユニーク。ところで不思議な暖簾の謎について、店は「あらが食堂」ですが、どうしてだか暖簾には「|め|め|め|め|」とあります。実は席に着いて落ち着いた瞬間にその謎は謎ではなくなっていました。案外めし屋の暖簾としてはごくごく定番なのかもしれません。カウンター5席ほどにテーブル席が3,4卓、奥には狭いながらも座敷があって、ほとんどの席が塞がるほどの人気店のようです。飲み会のグループに加えて、夕食のついでに軽く1杯というお客さんもいて重宝にされているお店のようです。家族経営のお店で、息子さんが奥さんになんだかちょっと偉そうな態度だったのはいやな感じがしましたが、そのご両親はにこにこ笑顔でとても気分良かったです。 東口側をぶらぶらと歩いて呑み屋を物色しますが、案外新し目の店が多くてどうにもここに決めようとさせてくれるほどの決定打がないので西口側に移動します。なんだかうら寂しい通りにやけに明るくて目立つ店がありました。「餃子の丸満 本店」というお店で、店構えはどうってこともなくて普段なら素通りしてしまうところなのでしょうが、ぼちぼち帰途に着かねばならぬので〆の食事として餃子を食べるものいいなというどこか投げやりな気分になります。店内に入ると家族連れ、サラリーマンなど入り混じってかなりの入りです。ラストオーダーであると断られた際にちょっと感じた店の人たちの応対の悪さはぼくだけのものではなくて、席に通された後にお客の何人かが口にしていたことなので、ここではサービスの良し悪しは目をつぶってまでも来たくなる店なのだなと思うことにします。随分待たされて出された餃子は見た目はまるでホワイト餃子です。大きく丸っこくて具材にあまり味が感じられない辺りも似ています。ここではその分タレに生ニンニクなどがトッピングできるようになっていて、取り皿も2つ用意してくれます。特にお勧めはマヨネーズソースで、食べているうちに単調になることを作り手も自覚しているのか、焼餃子1人前8個:441円を1個づつ味付けを変えて食べればまあ悪くないのでした。 すっかり人気の耐えた古河駅西口ですが、駅前から伸びる細い商店街は呑み屋は少ないものの古びたよい風情があってまたいつか昼間に来てみたいと思うのでした。自宅に向かう東北本線は空席が目立ちボックスシートに足を延ばし、徐々ににぎやかになっていく車窓をぼんやりと眺めます。
2013/12/25
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さて、「長兵衛」と「みとっぽ」で水戸の酒場にすっかり惚れ込んでしまい、まだまだいくらでもはしごしたい気分になりました。駅の周辺では東照宮のぐるりが怪しげな飲み屋通りやこじんまりとした酒場が並んでいて至極誘惑的なので、一巡りして気に入った酒場に入ってみようということになりました。怪しげな飲み屋通りは、宮下銀座飲食店街というらしく古い喫茶店と真新しい酒場が混在していて面白そうではありますが、これぞと思える酒場が見当たらなかったので、東照宮の北側に並ぶ酒場から一際活気のありそうな一軒を見つけたので覗いてみることにしました。 お邪魔したのは「やきとり 三平」です。うれしいことに味のあるコの字のカウンターが待ち受けていました。陽気でちゃきちゃきした女将さんが注文をとってくれます。品数も驚くほどに豊富でいろいろ目移りしますがさすがにお腹もくちくなっています。きょろきょろと店内を見回す間もほぼ満席状態になった客席からは追加のオーダーが次々入って、その盛況っぷりと肴のうまさが感じ取れるというものです。ひとつだけ難をいうと繁盛しすぎているのが玉にキズ。なんて空いていても混んでいても満足できないのだから身勝手なものです。客などというものは何かしら,なんとしてでも粗を見つけては文句のひとつでも付けないと落ち着かないのかもしれません。店の雰囲気も良くて,酒も肴もうまくて豊富なこの酒場はまさしく毎晩でも通いたい店なのでした。 東照宮を囲む酒場をはしごしたい気持ちもありますが,念のため駅の反対方面も偵察してみたくなりました。こちら側は,以前の旅行の際は名物の黄門ラーメンを食べに歩いたことはありましたが,すっかり開発が進み見違えるようです。といっても現代風のビルが立ち並ぶ風景はさっぱり興趣を呼び起こすこともなく,やむなく太田和彦の著作で知っていた酒場に伺うことにしたのでした。 駅から数分の同じようなビルが立ち並ぶ面白味のない通りのとある一軒のビルにひっそりと看板が出ています。「田吾作」です。細い階段を上,さらに単調な廊下を抜けるとようやく入口が見えてきます。狭い店かと思いきや案外に広いお店のようで,入口すぐのレジなどは和風のファミレスといった雰囲気で,この店のいったいどこが太田和彦のお眼鏡にかなったのだか,訝しくも思われようものです。実際,フロアー係の女性の応対もマニュアル通りという感じで味気ないし,魚介の肴にことのほかうるさい太田氏の推奨する居酒屋とは思えない程度のごくありふれた感じ。多分に店の平板さに引きずられた感想ですが,環境は味と直結するのだからしょうがありません。品書:酒1合:300~,あんこう鍋:2,150,田吾作納豆:850,刺身三点盛:1,260,地鶏コース:600,もつ煮込/肉じゃが:450 さすがに、そろそろ水戸駅を出発しないと今晩中に東京に帰り着くことができなくなります。後ろ髪を惹かれながら水戸駅を後にすることにしたのでした。列車ではA氏はぐったりとなってうつらうつらし始めるのですが、ぼくはすっかり暗くなってしまった明かりもまばらな車窓からの眺めを飽くことなく眺めていたのでした。
2013/09/12
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一日さんざん歩き回って,飲み歩いたのですっかりくたびれていますが,これからが本番です。普段であれば当然ハシゴは歩きが基本なのですが,「乃ぐち」で軽く呑んでいたこともあって,横着して路線バスで数停留所を駅方面に引き返します。駅周辺にはぱらぱらと飲み屋もありますが,大工町のような密集地帯とはなっておらず,暗い路地にポツリポツリと明かりが灯る程度です。 そんな一軒が「もつ焼 長兵衛」です。ここも「吉田類の酒場放浪記」に登場の昭和51年創業の老舗酒場です。昭和51年と書いてしまうとさほど年季がないような印象ですが,店の構えはなかなかの風格。見事なオンボロ振りですっかり見入ってしまいます。店内はさぞやわびしい雰囲気であるのだろうななどといそいそと入ってみれば思いがけずの盛況ぶり。かと言ってがっかりするといったことはまるでなくて、むしろその活況の有様がうれしく思えるのが大誤算と感じられるほどに気持ちのいい酒場です。その気持ちの良さの最たるものが店を取り仕切る女将さんと元気のいいおばちゃんたち。彼女たちの明るさが店の外の暗くて静まり返った雰囲気とまったくの対象となっていて、突如別世界に連れてこられたような気分にさせられるのです。このところマメに訪問している「酒場放浪記」の酒場の中でも指折りのいい店であるとすっかりこの酒場世界に浸りきってしまったのでした。品書:生中:550,酒大:550,モツ煮込:400,焼物:80 参考までに大工町の「長兵衛」です。 抜群に居心地の良い「長兵衛」を出るとまたもや静まり返った店舗まばらな通りを歩きだします。小高い丘の上を通る細い道を歩くと唐突にぽっかりと丘の下を見晴らす場所に出ます。そこに「みとっぽ」はありました。坂の上の酒場、これだけでもこの酒場がきっと自分にとって最高の酒場であることを予感します。大体において坂の上の家屋というものはフランソワ・トリュフォーの『恋のエチュード』を挙げるまでもなく視覚的にもっとも感動的な光景であるのです。やはりこの「みとっぽ」でも身震いするほどに興奮させられたのでした。水戸っぽっていうのは調べるまでもなく想像できたのですが、水戸で生まれ育った人々の気質を表現するよび方で、会津っぽなんかと同じ成りたちの単語なのでしょう。水戸らしさとは、怒りっぽい・理屈っぽい・骨っぽいの3つの気質のことを指しているようで、**っぽという呼ばれ方をする地方の人たちはどこかしら似たような気質のようです。店内にサインの飾られている深作欣二なんかもみとっぽの典型のようです。店内の大部分はカウンターで占められており、小上がりもあるもののほとんどのお客さんはカウンターを好まれるようです。さほどたくさんの品数があるわけではないのですが、酒場にあってほしいと思われる肴はきっちりと用意されていて、それが厚揚げを焼いただけみたいなどれほど素朴なものであっても、まったく過不足なく感じられるのでした。酒場の雰囲気は外観のまんま質実剛健といった趣で、喋り過ぎない、かと言って無愛想ではないご主人ともどもすばらしい酒場と感服したのでした。
2013/09/11
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ここで、時系列を前後入れ替えることにします。喫茶店の報告が連続してしまっては、喫茶店に興味のない方にはあいくつと考えたからです。酒場好きでご覧になってくださっている皆様には、旅の報告ではどうしても喫茶店が混じりがちになることをお詫びします。そしてできれば喫茶店にもほんの少しだけでも興味を持っていただけるようであればと思っています。 日立駅から水戸駅に向かう際、ふと気が向いて勝田駅にも下車してみることにしたのですが、喫茶店も数軒あるにはあったのですが財政状況もけしてよいわけではないので、見送ってただ駅前の飲み屋街は案外味があるなあなんてことを考えながら勝田駅を早々に立つことにしたのでした。 さて、久しぶりに降り立った水戸駅はかつて知る水戸とさほど違ったようには思えません。毎日毎日歩き回っていない限りはよほどの再開発にさらされた土地以外はそうしたものであるのかもしれません。かつて水戸を歩いた際には喫茶店にも酒場にもさほど強い興味を持っていたわけではないので、この何年か急速に高まった喫茶店や酒場への興味を含んだ視線をもってすればきっと以前視えなかった多くの風景が目撃できるはずです。 駅から偕楽園方面に大通りをひたすら歩くこと約2Km。その間2軒の喫茶店に寄ってはいるものの水戸の歓楽街は遠いなあと思わずにはおれないのでした。こんな遠隔地で呑んでJR利用の通勤客は大変だなあと思いはするものの大抵の人は路線バスを利用したり、タクシーに乗ってしまうのでしょう。お目当ての酒場に辿り着くもののまだ営業開始には早すぎたようで、せっかくなので開店前の大工町の歓楽街を散策します。かなりの数のスナックを中心としたお店があり、なかなかの風情ですが、酒場というよりは風俗系のお店が多く見受けられます。この後伺うつもりの「もつ焼 長兵衛」と同じ屋号の店舗もあって、ぼろっちくていい雰囲気ですがこちらも開店前。店をたたんでしまったかのような気配も感じられます。後ほど梅香の本店に行くことになったのですがそこの女将さんによると息子さんがやっているようで、こちらにもいつか訪れたいと思っています。 とまあ時間を持て余してやって来たのが懐かしささえ感じさせる今では見掛けることの少なくなった昔ながらの大衆食堂「お食事の店 いづみや」で時間を調整します。実は水戸という土地を歩きながら感じていたのですが、こうした懐かしい大衆食堂を5,6軒は見掛けていてそのいずれもに惹かれたのですが、夜のことを考えてぐっと我慢していたのです。こちらからさらに大工町寄りにも店名さえわからぬ食堂があってぼくはむしろそちらに行ってみたかったのですが。氷の文字に惹かれて「いずみや」に入ってしまいました。ビールもあるし、ちょっとした肴もできるみたいですが、らーめんやカレーライスが350円なのに目玉焼きで同じ値段を出すのはなんだか悔しいのでここでは酒はガマン。大人しくかき氷を食べることにします。氷イチゴがなんともうれしい150円。空調はいくらか効きが弱いけれどこんな子供時代に通ったような食堂でまったりと時を送れたのはとても運の良いことでした。品書:ビール中:450,目玉焼/玉子焼:350,ギョーザ:320,野菜炒:300,肉野菜炒:400,らーめん/カレーライス/やきそば:350 さて、またまた大工町交差点からすぐの「乃ぐち」を覗きに行ってみます。それにしても飲み屋街のなかにあるわけでもなくて、なんとも情緒のないことです。そうまでして固執することもないかなあなどと思いながらも水戸まではめったに来れるわけではないので思い切って引き戸を開けてみることにしました。ガラリと扉を開くとカウンターではご主人がのんびりと開店準備中。どうぞということなので店奥に通していただきました。入って右手が小上がり、左手がカウンターですが、手前にはおでん鍋があってひどく暑そうなので奥に入ることにしました。ここに来たのは「吉田類の酒場放浪記」で紹介されたこともありますが、昭和8年創業という歴史を感じてみたかったから。名物の先代女将の紹介記事の切り抜きなどが貼り出されています。名物のおでんを適当に見繕ってもらいます。まあ、これといってどうと言った味ではありませんが、優しそうなご主人とぽつりぽつりと言葉を交わしながら呑むとA氏がいることすら忘れてしまいそうなひと時でした。ちなみに2階は恐らく同じ経営のスナックで、こちらもどうぞという張り紙がありました。
2013/09/09
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日頃,JRの常磐線には乗り付けており,何度となく往復しているものの,せいぜい柏駅を北限に,それより先は数年来のご無沙汰をしています。たまたまA氏の手元に青春18きっぷが残されていたので,日帰りで普段なかなか行けない町に行ってみようということになったのでした。高崎やら青梅やらいくつか候補地を挙げてみたところA氏が選択したのは水戸でした。ぼくも水戸に行くのは10数年振りなので文句はありません。以前は日帰りの旅などで旅行気分を味わえるもんかとてんでバカにしていたのですが,体力の衰えを日々感じる今となっては宿泊の伴う旅行はかなりの疲労を伴うものとなっており,いつの間にやら日帰りの楽しみというのが分かる年頃になってしまっていたのでした。 というわけで早朝の日暮里駅で待合せて,常磐線快速電車に乗り込んだのでした。北千住駅,松戸駅,柏駅位まではうんざりするほど退屈な車窓が続いて,うとうとと電車の揺れに身を任せるばかりだったのですが,我孫子を過ぎた辺りから新鮮味のある風景が時折車窓を横切るようになりましたが,もとより常磐線からの眺めはけして面白いとは言えず,いつしかより深い眠気に襲われたのでした。 まっすぐに水戸に行ってしまっても時間を持て余すであろうことは容易に想像でき,わざわざ暑い中を偕楽園で過ごすことなど思いもよらず,それであれば疲れない範囲であちこち下車してみることにしたのでした。最初に下車することにしたのは,石岡駅です。古より常陸国の国府として政治の中心として発展し,市街地は多くの寺社や昭和の建築物が残され,散歩にはいい町であるとの情報を信じ,町に繰り出します。駅前の大通りは人の気配などほとんどなく,まあ市街地は大分先なのでしばらくしたら賑やかになるであろうと努めて楽観を装ってみたのですが,人の気配ばかりか石岡にやってきたもっとも大きな目的が脆くも瓦解してしまったのでした。その目的とは「喫茶 珈琲 マツ」に行くことだったのですが,店の扉には本日都合により休業しますとのお知らせが貼り出されています。 やむなく次なる目的地「喫茶 サニー」を目指します。おっ,どうやら営業しているようです。常連らしきご高齢の男性が店を出て店にはわれわれ2人とママさんだけになります。灼熱の太陽が照りつけるまぶしい屋外からぐっと控えめに照明が灯されるだけの薄暗い店内に入るとそのギャップにめまいすら感じます。黒光りする板張りの壁に漆喰の塗られたの窓枠風の飾りが暗さと対照的でちょうどよいアクセントになっています。喫茶店の面白さは,ここが茨城県の石岡にいるということを一瞬にして無縁などこでもない場所に運び去ってくれるところです。ちょうど村上春樹の小説のように無国籍な特性をもつ喫茶店の文化がどのようにして日本各地に根付いていったのか一考に値する問題です。ともあれ「サニー」もまたその特性の良さを十分に感じさせてくれたのでした。 石岡で見掛けた喫茶店。 石岡の寂れ方はなんとなく予感があったのですが、こうも人気がなくては歩いていても侘しくなります。こういうときはさっさと見切りを付けて早々に居場所を変えたほうがよいことを経験的に知ってきました。そういうわけでまたもや常磐線に乗り込み次に向かったのは、日立駅です。日立というところは通過するだけでちゃんと町を歩いた記憶がないのでちょっと愉しみです。到着した駅の東側は海でこじゃれたラウンジ風のレストランが伸びていますが、日中だといかにも暑そう。夕暮れ時などはちょっとだけ気の利いた空間として重宝されているかもしれません。 駅の西側を進むとお台場あたりのようなショッピングモールが立ち並びなんだか困ったことになったぞと居心地の悪さを感じますが、しばらく進むと昔ながらのぜんぜんおしゃれじゃない商店街が姿を現し、途端に日立もなかなかよい町ではないかと気を取り直します。悪くない商店街ですが、店の方たち以外にの姿を見ることはほとんどありません。歓楽街とまではいかないまでもぽつりぽつりと夜の帳が恋しくなるような店も見受けられるようになります。喫茶店も数軒見掛けますが、A氏もいるのであまり無理はしないことにします。 先般、東松山に行った際に空腹を引き摺らせたまま延々と歩かせてしまったこともあったので、今回はえり好みせずに早めに昼食休憩を取ることにしました。「太古一 支店」というなかなか渋井雰囲気のお店があったので入ることにします。まあ特筆するほどではない家族経営のこじんまりした町の中華料理店です。支店とあるので本店はどこにあるのだろうかと帰宅して調べてみましたが見つからないので支店のみが現役で営業しているのでしょうか。看板にもあるとおり和食や洋食に近いものもメニューにあって、かつおの刺身やポテトサラダ、海老入り焼そばなどをいただきつつ、ビールで喉を潤します。どれも飛びっきりってわけではないけれどちゃんとおいしくてちゃんと日頃やっているような食堂呑みの雰囲気を味わえたのでまずまず正解だったと言えましょう。 さて、日立の目的地は「純喫茶 ウィーン」です。この後向かう水戸の喫茶店も含めていずれも喫茶店好きにはよく知られたお店のようなので、まったく驚きの発見などを期待された方には申し訳ないことになります。で、日立は町の規模からするともうちょっと喫茶店があってもよさそうですが、日立の従業員や関連企業の方、その家族が主な利用者だとすると商談なんかで使われてもおかしくない気がするのですが。まあ休みの日なんかに同じ職場の家族同士がばったりなんてことは避けたいでしょうけど。ともあれ、「ウィーン」、もう外観の格調の高さだけですっかり気に入ってしまいました。上野の「高級喫茶 古城」のさらに上を行くゴージャスさ。エントランスを入ってすぐのゆったりらせんした階段、貴族風というよりはむしろ大企業の社長室に直結した応接室といった調度の数々に見とれてしまいます。パーテーションのレンガや夜を表現しているのか水色に光るR窓の張りぼて感もなんとも心踊らされます。エントランス前にマッチがたくさん置かれていたのでくださいなとお願いしたところ、年長マダムが言いました。いくらでもあげるからどんどん持ってって。そして、ぼくの手にあふれるほどのマッチ箱が盛り上がったのでした。 日立で見掛けた喫茶店。
2013/09/08
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