偽りの平和(1)


「グライト、あまりはしゃぎすぎてケガしないでね~」
 グライト…それが少年の名前だった。グライトは、いかにも少年らしい服装をしていた。ブルーのワイシャツと小さなジーンズを穿いている。顔立ちは、まだ幼いせいかとても可愛らしく、どこか愛嬌があった。
「分かったよママ~」
 グライトは元気に返事をした。その返事を聞くと母親は家の中に入った。なんともあどけない、ごく普通の光景なのだろう。
 だがその頃、グライトの住む国では戦争が起こっていた。戦況は、一方的。毎日、どこかで必ず大虐殺が繰り返されていた。それでも、グライトの住む土地は未だに手の届いていない数少ない場所であった。
 戦況が一方的なことを知り、家族のためにもとグライトの父親は自らすすんで軍隊へと入隊した。父が入ったのは陸軍。最前線にその足で進み敵地へと突入する一番危険な軍だった。
 父が戦場に駆り出され、早数ヶ月。まったく連絡の無いままだった。それでも母は諦めなかった、いや諦めきれずにいた。それを一番知っているグライト。彼は、母が父の帰りをまだかまだかと夜遅くまで待っていることも知っていた。その光景を見るたびにグライトは(ママを毎日困らせるパパなんて嫌いだ)なんてことを考えていた。
 ある日、ついに敵がグライト達の家から数キロ手前まで侵攻してきた。その連絡をラジオで聞いた。だが、母は動こうとしない。そしてグライトが
「ママ、逃げないの?逃げないと怖い人達がたくさん来るんだよ?」
 母は、途方に暮れた顔でこう言った。
「あなたはいい子ねグライト。でもね、ここからはあなた一人で逃げなさい。ママはここでパパを待たなきゃ…」
「ママ、何言ってるの!パパはもう戻ってこないよ!ずっと戻ってこないんだからここで待ってたって一緒じゃないか!」
「たとえ死んだとしても、ママはここを動きたくないわ。だって私たちのために死んだあの人がかわいそうじゃない」
「ママの馬鹿!毎日毎日そんなこと考えながら待ってたんでしょ!そんなの逆におかしいよ、だって僕達のために頑張ってパパは死んだんだ!だからこそその分僕達が生きようよ、その方がパパは喜ぶってば!」
 だが、その後母が動くことは無かった。グライトの言葉を聞き、ただただ泣き続けるだけだった。         大軍の到着まで後…10時間前の出来事であった

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