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サンガンピュールの物語(女科学者)9話

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 事件の現場となった警察署では、化学消防隊によって殺人ウィルスの残りが回収された。そして厳重に管理されながら東京の国立感染症研究所に送られた。しかし翌日になって、彼らは早くも声明を発表した。

 「殺人ウィルスとされた液体についてですが、有毒性は全くありません。みなさん、安心してください。検査の結果、人体に害をもたらす性質を持つとされた微生物は、ネズミには効果がありましたが、人間に対しては全く効果がありません。つまり、人体については大丈夫なのです」

 水戸市の総合病院の隔離病棟にいたサンガンピュールと刑事は、ほっとした。逆に今までの騒ぎは一体何だったのだろうと思うようになった。彼女は言った。
 「何よ、毒がないって。プロの科学者なら分かるはずなのに、あの女はわざとウソをついたってことになるのかな」
 これに対して刑事が言った。
 「どうだろう、サンガンピュール君。彼女自身から直接聞いてみないと分からないぞ」
 「でもあいつらの行方は分かってないんですよ!福島県に逃げたことまで情報が入ってますけど・・・」
 焦点は、彼女をどう逮捕するかに移った。
 「殺人未遂罪での立件はさすがに難しいが、殺人予備罪(刑法第201条)なら可能性がある。いずれにせよ、彼女らはこの国の秩序を蹂躙(じゅうりん)しようとしたのは間違いない」
 刑事は立件方法についての作戦を考え始めた。

 一方、Kは、殺人ウィルスに有毒性がなかったことが発表されるや否や、タクシーを拾って水戸市のサンガンピュールがいる病院に向かった。そして案内所を経由して彼女を呼び出した。
 「サンガンピュール!」
 「おじさん!ウィルスの件、もう大丈夫だってさ!」
 「それは良かったなあ・・・」
とKは感激だった。ここでサンガンピュールが、
 「あたしは女だよ!男を殺すためのウィルスだから、問題なのはおじさんと刑事さんの方だよ」
 と突っ込んだ。
 「そういやそうだった、どんな風に聞いてるの?」
 「特にこれといった症状もなく、大丈夫そうだよ」

 その日の夕方、福島県警察から連絡が入った。久米とその仲間たちが矢祭山から逃走したということを。それを聞いた土浦の本部では一瞬、どよめきが起きた。しかし福島からの連絡が続く。周辺の住民、目撃者に聞き込みを行ったところ、見慣れない土浦ナンバーの不審な車が猛スピードで塙村(はなわむら)方面に北に向かっていたという情報を得たという。目撃者は、車には大勢の人が乗っていたとも言っている。
 警察署長はその怪しい車を徹底追跡する方針を固め、2日後にもサンガンピュールを退院させ、現地に帯同させることにした。

 ( 第10話 に続く)

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