Nishikenのホームページ

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サンガンピュールの物語(コーチング)1話



 日の入りの時刻が徐々に早くなってきた10月中旬のある日、サンガンピュールは下校途中にたまたま近所の公園に寄り道していた。カアーカアーとカラスの鳴き声が聞こえ、黄昏の中で気持ちが沈むように感じていた彼女。その時、公園内でサッカーが上手そうな少年に出会った。今の自分にはサッカーボールが無いので貸してもらおうかとも思ったが、その時は塩崎ゆうこの姿だったので、正体であるサンガンピュールに戻ってから会うことにした。少し急ぎ足で帰宅し、着替えた後、またあの公園に戻った。サンガンピュールは言った。
  「ちょっといいかな、君」
  彼女の声を聞いた男の子は急にはしゃいだ。
  「あっ、サンガンピュールだ!後でサインちょうだい!」
  「サインちょうだいだなんて・・・。あたしは自分がそんなにすごいとは思ってないよ?」
  「すごすぎるって!僕から見たら!空も飛べちゃうし、ピストルや光る刀で敵をやっつけちゃうし!」
  彼女はちょっと困惑気味だが顔はニコニコしている。
  「まあ・・・、それはうれしいな。あの・・・、急に聞くけど、サッカーボール貸してくれない?」
  突然聞かれて戸惑ったのだろうか、男の子はこう答えた。
  「いいけど?何するの?」
  「何するのって・・・あたしのこと、バカにしてんの?野球のピッチャーみたいに投げることを期待してたの?思いっきり蹴るに決まってんじゃん!」
  「あっ、ごめん・・・」
  「いいよ、気にしてないから。・・・じゃあ、適当にあそこにトイレの壁があるから、そこにボールをぶつけてみよっか。自分は今、すんごくむかついていることがあるから、思いっきり蹴る!」
  「ああ~、ちょっと待ってってば、サンガンピュール!」
  サンガンピュールはガツンとボールを蹴った。キックはそれほど強くなかったが、ボールは遠くに飛んだ。そしてトイレの外壁にぶつかり、少し戻ってきた。急に自分のボールを思いっきり蹴られた少年は、サンガンピュールのせっかちさ、そしてそのパワーに少しびびっていた。
  「今度はあそこからドリブルしながら帰って来るよ」
  サンガンピュールは調子に乗ったのか、ドリブルすると言い出した。ドリブルなんて何年もやっていないので、自分の実力を試してみたいというのもあった。10平方メートル前後の面積しかない小さな公園だ。大した練習にはならないと彼女は考えたが、やるしかない。ボールを右足で持った。しばらくしてドリブルを始めた。小さなグラウンドを一周した後、今度はこう言ってきた。
  「ドリブルしながらそっちに行くから、さあボールを奪ってみな!」
  「うん、やってみる」
  ところが少年の動きはぎこちないもので、素人であるサンガンピュールが操るボールさえ奪うことができなかった。彼女の運動神経は実に良かった。
  「わあ、サンガンピュール、すごいね」
  「そうかな?それに、あたしはサッカーはそんなに詳しくないよ?でも1998年ワールドカップの時のフランス世界一メンバーをほぼ全員言えるんだから。ジダン、デサイー、ルブーフ、テュラム、プティ、カランブー、ジョルカエフ、デシャン、リザラズ、そして・・・バルテズ」
  という風にスラスラと言ってのけた。
  「なんだかよく分からないけど、すごいね!僕はジダンしか知らないよ」
  「そうか、ありがとう」
  「もっと教えてよ」
  「・・・ごめん、あたしはこれから大事な任務があるのさ」
  「ええー、もっとサンガンピュールの技を見たい!」
  「・・・じゃあ、あたしの友達になるけど、代わりの人にあんたのこと伝えておくから。それでいい?」
  「うん、いいよ」
  「ところで、名前はなんて言うんだい?」
  「坂口拓也っていうんだ」
  「分かったよ、拓也。約束だよ!」
  サンガンピュールは力強い言葉を残して帰宅していった。

 (第2話に続く)

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